Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of anti-myelin oligodendrocyte glycoprotein antibody-positive multiphasic disseminated encephalomyelitis showing significant recovery after immunoadsorption plasmapheresis
Shoji OgawaKensuke KakiuchiTakafumi HosokawaMaki KagitaniShimon IshidaShigeki Arawaka
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2023 Volume 63 Issue 8 Pages 518-522

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要旨

症例は18歳女性.6歳時と7歳時に急性散在性脳脊髄炎の既往がある.意識障害,四肢不全麻痺,異常感覚のため当科に入院した.頭部MRIでは大脳半球・小脳・脳幹などに多発するDWI/FLAIR高信号域を認めた.後日血清抗MOG抗体陽性が判明し,抗MOG抗体陽性多相性散在性脳脊髄炎(multiphasic disseminated encephalomyelitis,以下MDEMと略記)と診断した.ステロイドパルス療法を2コース施行したが症状は増悪し,単純血漿交換療法を追加したが合併症のため中止とした.その後,免疫吸着療法で治療を継続し著明な改善を得た.抗MOG抗体関連疾患,特にMDEMに対し免疫吸着療法を行った報告は乏しく,貴重な症例と考えられた.

Abstract

The patient is an 18-year-old female. She had a history of acute disseminated encephalomyelitis at the age of 6 and 7. She visited our hospital due to acute disturbance of consciousness, quadriplegia, and numbness of left upper and lower extremities. Brain MRI showed multiple DWI/FLAIR high-signal lesions in the bilateral cerebral hemispheres, cerebellum, and brainstem. Qualitative test indicated that serum anti-MOG antibodies was positive, and she was diagnosed with anti-MOG antibody-positive polyphasic disseminated encephalomyelitis. Intravenous mPSL pulse therapy was performed twice, but the symptoms worsened. As a second line treatment, plasma exchange was started. However, she developed transfusion related acute lung injury. Alternatively, she was treated with immunoadsorption plasmapheresis. Her symptoms were significantly improved. This case seems to be valuable because there are few reports showing effectiveness of immunoadsorption therapy on anti-MOG antibody-related diseases, especially for polyphasic disseminated encephalomyelitis.

はじめに

急性散在性脳脊椎炎(acute disseminated encephalomyelitis,以下ADEMと略記)は通常単相性の経過であるが,時に再発し多相性散在性脳脊髄炎(multiphasic disseminated encephalo­myelitis,以下MDEMと略記)と呼ばれている.MDEMの患者では抗MOG抗体陽性例が多いことが知られている1.抗MOG抗体関連疾患はステロイドへの反応性が良好とされるが2,しばしばステロイド投与のみでは病勢のコントロールを得られない症例に遭遇する.ステロイド不応性の症例に対してはアフェレシス療法を追加することが多いが34,単純血漿交換療法(plasma exchange,以下PEと略記)を用いたものが主で,その他のモダリティでの報告は乏しい.今回我々は,ステロイド不応性の抗MOG抗体陽性MDEMに対し免疫吸着療法(immunoadsorption plasmapheresis,以下IAPPと略記)を行い奏功した症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

症例

症例:18歳,女性

主訴:意識障害,四肢不全麻痺,左上肢の異常感覚

既往歴:特記すべきことなし.

家族歴:特記すべき事項なし.

現病歴:6歳時に特に誘因なく発熱,不機嫌,歩行障害が出現し近医小児科を受診した.ADEMの診断でメチルプレドニゾロン(methylprednisolone,以下mPSLと略記)パルス療法を2コース行い寛解した.7歳時にも再度発熱,歩行障害,構音障害が出現し,同診断でmPSLパルス療法を2コース施行した.特にめだった後遺症はなく退院し,しばらく外来通院したのち終診となった.再発予防薬は服用せず,10年以上再発なく経過した.今回,来院1週間前より左前腕に “ジンジン” とした異常感覚が出現した.来院2日前より左上下肢の脱力が出現し,歩行もままならなくなった.来院当日,自室で倒れているところを家人に発見され,当科に搬送された.

入院時現症:GCS E4V4M6,血圧106/72 mmHg,心拍数82回/分,体温36.6°C.左眼球外転制限(−2),左眼輪筋筋力低下,左口角下垂,軽度の構音障害を認めた.左優位に中等度の上下肢筋力低下を認め,深部腱反射は正常で異常反射は認めなかった.立位は不能で,坐位保持もできなかった.感覚系では左上下肢全体・体幹に “ジンジン” とした異常感覚を認め,温痛覚・振動覚・位置覚の異常は明らかではなかった.

検査所見:血液検査ではWBC 13,510/μlと上昇を認める以外に異常は認めなかった.頭部単純・造影MRIでは両側大脳半球・小脳・脳幹に散在するDWI/FLAIR高信号域を認め,一部病変に造影効果を認めた(Fig. 1).脳脊髄液検査では蛋白64 mg/dl,細胞数5/μl,オリゴクローナルバンド陽性,ミエリン塩基性蛋白 >2,000 pg/mlと高値を認めた.入院16日目,血清抗MOG抗体(cell based assay法)の陽性が判明した.抗AQP4抗体(ELISA法)は陰性であった.

Fig. 1 Brain MRI findings on admission (A, B, C, D) and days 59 after admission (E, F).

(A, B) Diffusion-weighted imaging (1.5 T; TR 5,200 ms, TE 100 ms) shows high signal intensities in white matter and subcortical area of bilateral cerebral hemispheres, right cerebellar hemisphere, and pons. (C) The lesions also show high signal intensities on FLAIR image (1.5 T; TR 11,000 ms, TE 120 ms). (D) A part of cerebral lesions is faintly enhanced by Gd-DTPA (1.5 T; TR 6 ms, TE 3 ms). On days 59 after admission, the abnormal signals are reduced on diffusion-weighted imaging (E) and FLAIR image (F).

経過:病歴,臨床症状,画像所見よりMEDMと診断し,入院時よりmPSL 1 g/日3日間のパルス療法を行ったが,意識状態はGCS10に増悪した.入院13日目に頭部MRIを撮影したところ,既存病変の拡大と両側大脳半球を中心に新規病変の出現を認めた.病勢コントロール不良と判断し,入院14日目より再度mPSLパルス療法2コース目を行った.しかし,症状の改善は得られなかった.入院16日目に血清抗MOG抗体の陽性が判明し,抗MOG抗体陽性MDEMと診断した.2回のmPSLパルス療法に対する反応性からステロイド不応性と判断し,入院23日目よりPEを開始した.1回目のPE終了時点でGCS 6から8点に意識状態の改善を認めたが,2回目のPE施行中に輸血関連急性肺障害(transfusion related acute lung injury: TRALI)を発症し,PEの継続は困難となった.入院34日目より経口PSL 30 mg/日を開始し,入院40日目よりIAPP(TR-350,血漿処理量1,500 ml/回)を開始したところ,症状は著明に改善した.入院59日目の頭部MRIにおいてDWI/FLAIR高信号域の改善傾向が認められ(Fig. 1),5回目のIAPP終了時点で十分な病勢コントロールおよび症状改善が得られたため,以後の施行は中止した.経口PSL単剤による治療を継続し,症状を見ながらPSL投与量を漸減した(Fig. 2).PSL 4.5 mg/日まで減量したが,再燃なく経過した.

Fig. 2 Clinical course of the patient.

She was treated with intravenous mPSL pulse therapy (methylprednisolone at 1,000 mg/day for three or five days) twice, but the neurological symptoms, including disturbance of consciousness, dysarthria, facial paralysis, numbness of left upper and lower extremities, and quadriplegia, worsened. She was then treated with plasma exchange. However, this treatment was unable to continue because of transfusion related acute lung injury. Alternatively, she was treated with immunoadsorption plasmapheresis. The symptoms were significantly improved.

考察

抗MOG抗体は,中枢神経の髄鞘の最外層に存在するミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質に対する自己抗体である.ADEMや抗AQP4抗体陰性の視神経脊髄炎関連疾患などで陽性となることが報告されており56,病理学的にもMOG優位の脱ミエリン化を呈することが特徴とされる7.多発性硬化症や抗AQP4抗体陽性の視神経脊髄炎関連疾患などといった他の中枢神経炎症性脱髄疾患とは異なる臨床像を呈することから,近年では抗MOG抗体関連疾患として独立した疾患スペクトラムと考えられている.

本症例は繰り返し脳脊髄炎を発症し,血清抗MOG抗体が陽性となったため,抗MOG抗体陽性MDEMと診断した1例である.過去に2回のADEMの既往があるが,ADEMは小児期に好発し,典型的には単相性の経過を辿る中枢性炎症性脱髄疾患である.既報によると,小児期発症のADEMの約半数の症例で血清抗MOG抗体が陽性となり,その場合は抗MOG抗体関連疾患の1病型と考えられている.抗MOG抗体陽性ADEMの大多数の患者では抗MOG抗体の陽性は一過性に留まるが58,再発症例やMEDMを呈する症例では持続的に抗MOG抗体を検出することが多い59)~11.本症例は今回はじめて血清抗MOG抗体陽性が判明したが,過去2回のADEMにおいても同抗体の関与が推察された.

本症例を抗MOG抗体関連疾患とするか,抗MOG抗体陽性MDEMとするかは非常に悩ましい点であるが,近頃International MOGAD Panelが発表した抗MOG抗体関連疾患の診断基準では,a)視神経炎や脊髄炎,ADEMなどで発症し,b)血清抗MOG抗体が陽性,かつ頭部MRIで特徴的な画像所見を呈し,c)多発性硬化症などのその他疾患を除外することが診断に必要としている12.本症例では血清抗MOG抗体が陽性で特徴的なMRI所見も有しているが,診断基準に含まれていないMDEMの経過を呈していたこと,過去のADEM発症時における血清抗MOG抗体の有無を示すことができないことから抗MOG抗体陽性MDEMと診断した.ただし過去2回のADEMについても同抗体が関与していた場合,抗MOG抗体関連疾患の診断を満たすということにも留意する必要がある.

抗MOG抗体関連疾患は急性期治療として主にmPSLパルス療法が用いられ,ステロイド反応性は良好とされる2.一方で約半数の症例で再発を認めたと報告されており,再発する頻度は比較的高い13)~15.また再発を重ねるごとにmPSLパルス療法による治療効果は減弱するとの報告もある3.Jariusらは急性期治療としてmPSLパルス療法を行った症例のうち完全回復が得られた症例の割合は,初発例では62.2%,再発症例では40.6%,5回目の再発症例では26.4%であったと報告している3.本症例では計3回の脳脊髄炎エピソードに抗MOG抗体が関与したと仮定すると,既報のようにmPSLパルス療法への反応性が低下した可能性が考えられる.治療反応性が低下する理由については不明だが,再発を繰り返す症例ではmPSLパルス療法以外の治療についても検討する必要がある.

二次治療としては一般的にPEが用いられ,mPSLパルス療法に全く反応しない症例でも改善を認めることがある.mPSLパルス療法で十分な効果が得られなかった症例に対しPEを追加した結果,96%で何らかの改善を認め,40%で完全な回復が認めたことが報告されている3.本症例では合併症などの理由により2次治療としてIAPPを施行した.IAPPは血漿分離器で濾過した血漿を吸着カラムに通過させ,病因物質を選択的に除去する治療法である.アフェレシスに含まれるその他モダリティと比較した際の利点としては,吸着前後で血液・血漿量がほとんど変化しないため血液製剤などの置換液を必要としない点,中心静脈カテーテルの留置を行わずに施行可能な点,比較的安全性が高い点などが挙げられる.ただしIgGサブクラスによって吸着率に差があり,吸着対象である抗体のIgGサブクラスによって期待される治療効果が異なることに注意が必要である.本症例ではトリプトファン・カラムであるTR-350を使用したが,同カラムはIgGサブクラス1およびIgGサブクラス3をより強く吸着する16.抗MOG抗体はIgGサブクラス1が主体とされるため1417,TR-350への親和性は高いと考えられる.

また抗MOG抗体関連疾患は再発予防も重要である.本邦では経口PSLによる維持療法が一般的であるが,投与量や投与期間などについては未だ定まっていない.既報では発症から3ヶ月以内のPSL中止は再発頻度が高く,6ヶ月以上内服している症例では再発頻度が低くなると報告している13.また急速な減量やPSL 10 mg/日以下での再発が多いとされ18,慎重な減量が求められる.ただし長期的なPSL投与による再発予防効果は認めなかったとする報告もあり19,いつまで投与を継続するかについては症例ごとの検討が必要である.本症例ではPSL 30 mg/日(0.5 mg/kg/day)で投与を開始し,PSL 20 mg/日(0.33 mg/kg/day)で長期間維持をした.発症5ヶ月目より,本人と相談のうえ,最終的には漸減中止を目標に減量を開始した.現時点で発症18ヶ月以上経過し,PSL 4.5 mg/日まで減量しているが再発は認めていない.

ステロイド不応性の抗MOG抗体関連疾患に対しIAPPを施行した症例の報告は視神経炎例で散見されるが,非常に少数である.王子らは20,抗MOG抗体陽性脊髄炎合併両側視神経炎に対しIAPPを施行した症例を報告しているが,脊髄炎の改善は認めなかったとしている.本症例はADEM,特に抗MOG抗体陽性MDEMに対しIAPPを行った点,入院当初よりステロイド不応性を呈してIAPPにより著明な改善を得た点において特色がある.また発症から1ヶ月以上経過していてもIAPPが効果的であった点も重要である.IAPPはステロイド治療反応性の低下した抗MOG抗体陽性脳脊髄炎に対する効果が期待でき,二次治療として有効な治療選択肢の一つと考えられる.

Notes

本報告の要旨は,第120回日本神経学会近畿地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Neurology

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