Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of recurrent stroke with carotid-web despite dabigatran treatment successfully treated by carotid endarterectomy
Takuya OkataTsutomu YoshiokaYoshinobu WakisakaTetsuro AgoToshiyasu OgataJiro Kitayama
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2023 Volume 63 Issue 9 Pages 577-581

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要旨

症例は41歳女性.40歳時に右中大脳動脈領域の塞栓源不明脳塞栓症の既往があり,植込み型心電図記録計の留置とダビガトラン内服が開始となった.41歳時に再び構音障害と左片麻痺が出現した.頭部MRI拡散強調画像で右放線冠の急性期脳梗塞とMRAで右中大脳動脈M2分枝閉塞を認めた.頸動脈エコーでは右頸動脈球部に可動性プラーク様構造物を認め,頸動脈3次元CT angiographyでは同部後面から突出する構造物を呈し,carotid webと診断した.待機的に頸動脈内膜剝離術を施行し,病理学的に線維筋性異形成による血管形態異常であることを確認した.

Abstract

We present a case of a 41-year-old female presenting with recurrence of ischemic stroke on subtherapeutic doses of dabigatran. She had a history of embolic stroke of undetermined sources at the age of 40, and underwent implantable cardiac monitor implantation and had started dabigatran. One year after the first ischemic stroke, she presented with sudden dysarthria and left hemiparesis and was admitted to our hospital. An MRI of the head revealed acute cerebral infarction in the right corona radiata, and an MR angiography revealed right M2 occlusion. Cervical 3D-CTA revealed a protruding structure on the posterior wall of the carotid artery bulb, which was diagnosed as carotid web. She underwent carotid endarterectomy, and the specimen was pathologically confirmed to be vascular malformation due to fibromuscular dysplasia.

はじめに

Carotid web(CaW)は,非動脈硬化性・非炎症性に頸動脈球部に形成される棚状構造物で,病態生理学的には線維筋性異形成の内膜亜型との説が広く受け入れられている1.線維筋性異形成の原因は不明であるが,40~60歳前後の女性に多‍く同定されることが知られている.CaWの診断には,画像検査による特徴的形態の確認が必要である.頸部頸動脈3次元CT angiography(CTA)は非侵襲的で診断に有用とされ,典型的には矢状断における頸動脈球部後面から頭側方向に突出する薄い線状の造影欠損像と軸位断での隔壁様の構造がみられる2.近年,塞栓源不明脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source,以下ESUSと略記)の原因としてCaWが注目され,疾患概念として浸透しつつあるが,見逃しや誤診は依然稀ではない3.また,CaWを伴う脳梗塞は,最良の内科治療下でも再発率が高いとされ4,標準治療は定まっていない.今回,抗凝固療法抵抗性に脳梗塞を発症し,CaWが塞栓源と考えられた41歳女性の1例を経験したので文献的考察を踏まえ報告する.

症例

症例:41歳,女性,右利き

主訴:左手足の動かしづらさ

既往歴:40歳時に脳梗塞.生活習慣病歴なし.

生活歴:喫煙歴,飲酒歴なし.

家族歴:家系内類症なし.

現病歴:40歳時構音障害・左片麻痺が出現し,他院に救急搬送され,右中大脳動脈M1部(M1)閉塞を伴う急性期脳梗塞の診断で入院となった.血栓回収療法により完全再開通が得られ,ごく軽度の左片麻痺のみ残存した.ESUSの最終診断となり,植え込み型心電図記録計(implantable cardiac monitor,以下ICMと略記,Reveal LINQTM)の植え込みとダビガトラン220 mg/日が開始されていた.13か月後再び左手足の動かしづらさが出現した.症状は数分で軽減したが,症状が残存したため翌日当科を受診した.この間ICMで心房細動の検出は認めなかった.

入院時現症:身長155 cm,体重46 kg,血圧108/63 mmHg,脈拍103/分・整,体温36.8°C.一般身体所見では左前胸部にICMが留置されていた.その他異常はなかった.

神経学的所見:意識清明,高次脳機能障害なし.構音障害と顔面を含む軽度の左片麻痺を認めた.左上下肢の腱反射亢進を認め,Babinski反射は左側で陽性であった.来院時のNational Institutes of Health Stroke scaleは4点であった.

検査所見:白血球は8,300/μlと軽度上昇,血液の生化学・内分泌・免疫学的検査に異常はなく,凝固系はPT-INR 1.02,aPTT 30秒,D-dimer 0.5 μg/mlと正常で,血栓性素因は認めなかった.頭部単純MRIでは拡散強調画像で右放線冠に急性期脳梗塞を認め,また,右前頭葉皮質,右半卵円中心,右尾状核頭部に陳旧性脳梗塞を認めた.MR angiography(MRA)で右中大脳動脈M2分枝(M2)が閉塞していた(Fig. 1A, B).

Fig. 1 Brain MRI on admission.

A) Axial DWI image and FLAIR showed increased signal intensity in the right corona radiata (arrows). B) C) MR angiography shows occlusion of the M2 division of the right middle cerebral artery (arrows) and recanalization of the occluded vessel later.

臨床経過:抗凝固療法下に短期間で再発したこと,経過中に心房細動を認めなかったこと,凝固線溶系指標の変動を認めなかったこと,などから動脈原性脳塞栓症の可能性を推定した.初回脳梗塞の詳細情報が得られなかったため,入院時はダビガトランは中止し,出血事象の合併に注意し厳格な降圧治療を行いながらアルガトロバン・プラスグレル・オザグレルナトリウム・エダラボンを開始した.第2病日頸動脈エコーで右頸動脈球部にエコー輝度不均一な可動性プラーク様構造物を認めた(Fig. 2).頸部頸動脈3次元CTA矢状断像で右頸動脈球部後面から突出する構造物(長さ3.2 mm,断面積5.7 mm2)を確認し,CaWと診断した(Fig. 3).また脳血管造影では軽度ながらもweb pocket内に造影剤の滞留像を認めた.第5病日頸動脈エコーの再検ではプラーク様構造物の可動性は消失していた.第6病日頭部MRAで右M2閉塞は完全再開通していた(Fig. 1C).CaW以外に塞栓源となり得る異常はなく,CaWを脳梗塞の原因疾患と最終診断し,第23病日に頸動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy,以下CEAと略記)を施行した.剝離組織は病理学的に,平滑筋細胞や膠原線維・弾性線維の増生がめだち,動脈硬化性変化を伴わない線維筋性異形成に合致する所見であった(Fig. 4).本例ではICM植え込みから少なくとも27か月間心房細動は検出されておらず,脳梗塞病態としてCaWに起因する動脈原性塞栓症の可能性が高いと考えられたが,潜在性心房細動の併存を完全には否定できず,循環器内科と協議の上適応外ながらダビガトラン継続下にICM植え込みを36ケ月継続する方針とした.

Fig. 2 Ultrasound evaluation of the right carotid artery (long-axis view).

Ultrasound evaluation of the right carotid artery (long-axis view) shows a mobile structure on the posterior wall of the right carotid bulb (arrows).

Fig. 3 3D-CT angiography.

A) Sagittal image shows a thin intraluminal filling defect along the posterior wall of the right carotid artery (arrow). B) Axial image also shows intraluminal filling defect projecting obliquely from the medial posterior wall of the same artery (arrow).

Fig. 4 Carotid web pathologic examination.

(A) Hematoxylin & eosin stain shows smooth muscle cell–rich intima with myxoid degeneration. (B) Masson’s trichrome stain shows a significant increase in collagen fibers. (C) Elastica van Gieson stain shows hyperplasia of elastic tissue. These pathologic features lack typical atherosclerotic changes and were diagnostic of an atypical form of fibromuscular dysplasia, with abnormal fibrosis and smooth muscle cell hyperplasia in the tunica intima consistent with a carotid web.

考察

本例は,右M1閉塞を伴う脳梗塞を発症し,ダビガトラン内服下で約1年後に右M2閉塞を伴う脳梗塞を再発した若年女性の1例である.頸部頸動脈3次元CTAにて右内頸動脈起始部にてCaWを認め,支配血管域に脳梗塞を繰り返し他に塞栓源を認めなかったことから,CaWを塞栓源と判断した.また,CEA後の病理標本から,血管形態異常は線維筋性異形成によるものであると判断した.

CaWは,近年の疾患認識の向上から診断件数は増加傾向にあるが,見逃しや誤診は稀ではない3.血管造影検査や頸動脈3次元CTA検査により,CaWの診断は比較的容易である.一方,頸動脈エコーは比較的安価で頸動脈球部の安全な観察に向いているため,頸動脈病変の標準検査として本邦では頻用されているが,CaWの診断では動脈硬化性プラークとの鑑別が難しい場合がある5.本例でも,CaW部は初回の頸動脈エコーで可動性プラーク様構造物と捉えられ,3次元CTAによる追加精査を行う契機となった.また,CaWの確定診断後の頸動脈エコー再検でも,同部は動脈硬化性プラーク様に描出された.頸動脈エコーのピットフォールとして,①本例のようにCaWのエコー輝度が不均一な場合は,Bモードで全体像の描出が困難であること,②カラードップラー法ではCaW内の遅い血流部位の描出が難しいため,CaWの特徴的な形態の描出が難しいこと,などが挙げられる.より遅い血流信号が検出可能なmicroflow imagingをBモードに併用するとCaWの検出精度が上がるとの報告がある6

本例はダビガトラン内服下で脳梗塞を約1年後で再発した.CaWに対する標準治療指針は確立されていない.症候性CaW 282例に対する内科治療(抗血小板療法または抗凝固療法)と外科治療(CEAまたは頸動脈ステント留置術)の治療成績を比較したsystematic reviewでは,観察期間中央値23か月間での脳梗塞再発率は,外科治療群で有意に低く(内科治療群:26.8%,外科治療群:0%),また外科治療群で重大な合併症(術中・術後死亡,虚血性あるいは出血性脳卒中,短期・中期でのステント内血栓や再狭窄)の発症がないことが報告されている4.このように外科治療はバイアスへの留意は必要ながらも内科治療よりもCaWを伴う脳梗塞再発予防に対して有望と考えられる.本例では右内頸動脈は高位分岐ではなく,また根治性が高く術後の抗血栓療法が不要なCEAを選択した.なお,CaWを伴う脳梗塞に対するダビガトランの有効性についての知見は,同報告を含めて渉猟し得た限りではなかった.また,再発にはCaWの形態的特徴も関連している可能性がある.CaWの3次元的な形態的特徴を症候性と無症候性とで比較した検討では,症候性は無症候性と比べ,より長く(平均3.2 mm vs 2.5 mm,P < 0.02),断面積(平均5.8 mm2 vs 5.0 mm2P = 0.035)や体積(平均15.0 mm3 vs 10.6 mm3P < 0.04)が大きく,厚さが薄い(0.67 mm vs 0.88 mm,P = 0.01)と報告しており7,本例でのCaWが症候性であった理由の一つとして,CaWサイズが大きいことが挙げられる.また本例ではweb pocket内に軽度ながらも造影剤の滞留像を伴っていたが,CaWの形態に加えて造影剤の滞留の程度が症候化の予測や治療方針決定に有用な所見であるかは今後のさらなる検討が必要と思われる.

結語

低用量ダビガトラン内服下に短期間で再発したCaWに伴う若年女性脳梗塞の症例を経験した.CEAを施行し,術後15か月間脳梗塞の再発はなく経過は良好である.CaWは頸動脈エコーでは診断が困難なことがあり,動脈原性塞栓の可能性があるESUS患者では頸部頸動脈3次元CTAあるいは頸部MRAなどによる積極的な “web-browsing” の実施が望ましい.

Acknowledgments

謝辞:本症例の病理学的診断にご協力いただきました,当院病理診断科 中島豊先生に深謝いたします.

Notes

本報告の要旨は,第238回日本神経学会九州地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Neurology

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