Rinsho Shinkeigaku
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Brief Clinical Notes
A case of total hip arthroplasty for femoral head necrosis while using satralizumab for neuromyelitis optica spectrum disorders
Manabu InoueShingo MaedaHirotsugu Ohashi
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2023 Volume 63 Issue 9 Pages 592-595

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要旨

47歳女性.視神経脊髄炎スペクトラム障害に対して長期ステロイド使用中に右大腿骨頭壊死症を発症した.サトラリズマブ投与後も右股関節痛が続くため,人工股関節全置換術を行った.術後感染なく経過した.タクロリムス3 mg/日とプレドニゾロン11 mg/日,アセトアミノフェン2,275 mg/日内服下の術後体温は38°C未満で,術後2日間程度の短期間で正常化し,採血データで炎症所見の悪化は認めなかった.サトラリズマブ投与中は炎症所見が出なくても感染は否定できないが,37°C台の微熱が続く場合や白血球の軽度高値が続く場合は特に感染の兆候がないか注意し画像検査などで積極的に感染の有無を精査することが必要と思われる.

Abstract

A 47-year-old woman developed right femoral head necrosis during long-term steroid use for neuromyelitis optica spectrum disorder. She underwent a total hip arthroplasty because her right hip pain persisted after satralizumab treatment. There were no postoperative infections. Under oral administration of tacrolimus 3 mg, prednisolone 11 mg, and acetaminophen 2,275 mg, her postoperative body temperature was less than 38°C and normalized in about 2 days after the operation. No parameters indicating worsening of inflammation were observed in the blood test. In satralizumab-treated patients, infection cannot be ruled out even without inflammatory findings. In particular, if a slight fever of the 37°C-range or a mildly high white blood cell count persists, paying attention to signs of infection and actively investigating the presence or absence of infection using medical image diagnostic devices are necessary.

はじめに

近年,視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorders,以下NMOSDと略記)症例に対して生物学的製剤が用いられるようになったが,これらの薬剤を使用している患者への外科治療の指針はまだ十分に確立されておらず,検索した範囲ではサトラリズマブ投与患者において術後感染の徴候をとらえる基準を考える上で重要な詳細な手術経過報告はない.今回,大腿骨頭壊死症の悪化で人工股関節全置換術を行ったサトラリズマブ投与中のNMOSD症例を経験したので,術後感染症の発現に注目した術後経過を報告す‍る.

症例

患者:47歳 女性

主訴:右股関節痛

既往歴:NMOSD,片頭痛,薬剤性肝障害(アザチオプリン(AZT)),帯状疱疹.

生活:飲酒,喫煙なし.

アレルギー歴:ペニシリン.

家族歴:父が直腸癌.

内服薬:プレドニゾロン(PSL)11 mg/日,タクロリムス(TCL)3 mg/日,メコバラミン1,500 μg/日,ボノプラザンフマル酸塩10 mg/日,ST合剤(スルファメトキサゾール800 mg,トリメトプリム160 mg)週1回,ミノドロン酸水和物50 mg 4週に1回

現病歴:36歳時に左下視野欠損出現し2カ月後から吃逆,その後右手足の異常感覚を認めたため他院を受診した.頭部MRIで延髄最後野近傍,視床下部第3脳室周辺にFLAIR高信号の病変を認め,血液検査にて抗アクアポリン4抗体陽性からNMOSDと診断され,ステロイド治療と計3回の血漿吸着療法を受けた.退院後は外来でPSL 15 mg/日とAZT 75 mg/‍日で治療を受けていたが,38歳時より右股関節痛が出現した.整形外科で右優位の両側大腿骨頭壊死を指摘された.主治医の異動に伴い,同年当院へ転院となった.39歳時に肝酵素の上昇からAZTによる薬剤性肝障害指摘され,(ガイドラインと当院での適応外医薬品の使用ルールに基づいて)免疫抑制剤をTCL 3 mg/日へ変更された.その後,PSL減量中に少なくとも左視床,左下部頸髄疑いの2回の再発を認めた.最後の再発は43歳時PSL 12 mg/日内服中であった.退院時に25 mg/日の処方を受け,以降,徐々に減量していた.

PSLの減量困難と股関節痛のため,47歳時にサトラリズマブを導入した.導入後,PSLの減量を続けていたが股関節痛で生活に支障がでるため,47歳時に右人工股関節全置換術目的に整形外科へ入院した(サトラリズマブ最終投与4週後).入院時,TCL 3 mg/日,PSLは11 mg/日まで減量していた.

入院時現症:身長158.8 cm,体重48.6 kg,体温36.4°C,血圧122/85 mmHg,脈拍数98回/分 整.満月様顔貌あり.

入院時神経学的所見:意識清明,発語は明瞭,脳神経系に特記すべき所見なし.運動系では左手骨間筋の軽度萎縮と筋線維束性収縮あり,握力21 kg/19.5 kg.感覚系では左C8レベルにしびれ感あり.排尿障害なし.機能別障害尺度FS(錐体路機能2,感覚機能2),EDSS 2.5(ただし,股関節痛のため杖歩行).

検査所見:入院時(手術前日)血液検査では,末梢血で白血球7,200/μl,CRP 0.03 mg/dl.尿中白血球,潜血は(−)であった.股関節画像では,右優位に両側大腿骨頭壊死を認めた(Fig. 1A, B).

Fig. 1 X-ray (A) and CT (B) of the hip joint.

The right femoral head was sclerotic and deformed. The joint space was narrowed (A). The right femoral head was crushed (B).

入院後経過(Fig. 2):入院翌日に右大腿骨頭壊死症に対して全身麻酔と腸骨筋管ブロック下で右人工股関節全置換術が行われた.手術時間は1時間44分で問題なく終了した.ペニシリンアレルギーを認めるため,周術期抗生剤にはクリンダマイシン(CLDM)600 mg/4 ml/Aを術直前に1 A点滴投与,術後は術日に13時・19時・翌2時に1 Aずつの計3回.術後1,2日目に10時・22時1 Aずつ点滴投与し術後3日目からは4日間,CLDM 150 mgを3錠分3で投与した.創部にメッシュ状のオプサイトを使用し感染を早期に把握できるように心がけた.また,日に数回の患者のもとに伺い疼痛などの症状がないか確認した.術直後の体温は術前と変化なし.1時間30分後に37.3°Cに上昇,その後37°C台が続いた.翌日は37°Cから37.5°Cで推移し,その後,徐々に低下した.また,術部の疼痛に対して術後1日目からアセトアミノフェン(AcA)2,275 mg分3/‍日とトラマドール塩酸塩112.5 mg分3/‍日が開始された.術後2日目から疼痛は軽減し,術後7日目には内服継続下で痛みはほぼ消失した.血液検査では,手術前当日朝のWBCは9,700/μlを示したが,その後は正常範囲で推移した.CRPは経過を通して正常範囲を保っていた.炎症所見の再燃はなく,術後2週間で退院した.入院中TCL 3 m/日とPSL 11 mg/日は継続していた.

Fig. 2 Clinical course of the patient.

The postoperative body temperature was less than 38 degrees and normalized in about 2 days after the operation, and no exacerbation of inflammatory findings was observed in the blood data.

考察

本例は,高用量のステロイドを長期間内服中に発症した大腿骨頭壊死症に対して人工股関節全置換術が行われたNMOSD症例である.本例では術前にサトラリズマブが導入されている点が問題であった.サトラリズマブはNMOSDの再発予防薬であるが,IL-6は疼痛との関連が指摘されており同抗体に疼痛抑制効果が期待される.本例でも,痛み軽減効果も期待し導入することとした12

多発性硬化症症例を対象としたステロイドと骨折のリスクを検討した報告では,ステロイド治療で骨粗鬆症性骨折リスクが上昇することが指摘されており,股関節骨折のリスクが4倍になるという報告もある34.近年,生物学的製剤の登場でNMOSDの治療は変わり,同薬剤認可後の発症例では高用量ステロイドの継続は不要になるかもしれない.しかし,認可前の発症例においては,本例のような長期間のステロイド使用による骨疾患の合併が少なからず存在すると考えられる.このような症例へサトラリズマブを導入した後に外科的治療を行う必要となった場合に,①手術までの休薬期間,②再開時期,③術後の注意点,の問題がでてくる.

問題①に関して,日本リウマチ学会ガイドラインでは先に認可された抗IL-6レセプターモノクローナル抗体薬剤であるトシリズマブにおいて休薬期間は未確定である5.皮下注で2~3週間,静脈注射で4~5週間の休薬期間を推奨する報告はある6)~9.トシリズマブの半減期が5.5から10日とされているのに対してサトラリズマブの半減期は22.3日から37.4日程度と半減期は異なる.サトラリズマブの休薬期間は未確定で今後の症例の蓄積が待たれる.②に関しては術後2週間(創部治癒後)に投与が可能と考えられている89

問題③に関して,サトラリズマブがCRPなどの炎症マーカーを抑えるため,術後感染の発症の有無は臨床症状やWBCの変化が重要になると思われる.しかし,検索した限りではサトラリズマブ投与後の術後経過の詳細を記した報告はな‍かった.術後感染などの問題が起こらなかった本例から得られた経験としては,TCL 3 mg/日,PSL 11 mg/日,AcA 2,275 mg/‍日内服下ではあるものの,術後の体温上昇は38°C未満で術後2日間程度の短期間で正常化し,採血データで炎症所見の悪化は認めなかったことが挙げられる.サトラリズマブ投与中は異常値が出なくても感染は否定できないが,37°C台の微熱が続く場合や白血球の軽度高値が続く場合は感染の兆候がないか特に注意し画像検査などで積極的に感染の有無を精査することが必要と思われる.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Neurology

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