Rinsho Shinkeigaku
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Committee Report
Questionnaire for Kinki area Japanese Society of Neurology board members regarding transitional medicine for neurological disease patients
Toshio SaitoToru KodaTatsusada OkunoAkio IkedaHideki MochizukiThe Special Committee for Measures Against Transition from Pediatric to Adult Health Care, Japanese Society of Neurology
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2023 Volume 63 Issue 9 Pages 559-565

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要旨

2020年7月,日本神経学会は小児期発症神経疾患患者の移行医療に取り組むため,小児-成人移行医療対策特別委員会を設置した.本委員会活動の一環として,近畿支部施設世話人129名に移行医療に関するアンケートを行った.46回答中42回答で,小児科からの紹介患者を,「概ね診る」,「症例により判断する」と回答し,対象疾患は「てんかん」,「神経筋疾患」で多かった.一方,小児科での患者・家族と医師の関係性に成人診療科が慣れていないこと,発達障害など診療対象疾患に対する知識が十分でないこと,移行医療に対する支援体制が十分でないこと,診療報酬加算がないことなど,スムーズな移行医療のために解決すべき課題は多い.

Abstract

In July 2020, The Special Committee for Measures Against Transition from Pediatric to Adult Health Care of the Japanese Society of Neurology was established to address transitional care for patients with childhood-onset neurological disorders. One of the measures used was a questionnaire regarding transitional medicine given to the 129 board members in the Kinki area. Of the 46 respondents, 42 answered that they would “generally examine such patients” or “judge on a case-by-case basis” for patients referred from a pediatric physician. Most of the responses noted “epilepsy” and “neuromuscular disease” as target conditions. Generally, doctors in an adult medical department do not form a relationship with the patient or their family members, different than pediatric department doctors. Furthermore, adult clinical departments typically do not have sufficient knowledge regarding treatment of diseases such as developmental disorders. The present support system for transitional medicine is not sufficient and there is no means for reimbursement. Several issues must be resolved to facilitate a smooth medical transition.

緒言

小児期発症慢性疾病に対する治療法の向上に伴い,小児期から成人期に至る生涯を支える医療体制が求められるようになっている.日本小児科学会や移行医療実績のある医療機関・学会では,移行医療の体制整備を目的に種々の活動・研究が行われてきた1)~4

これまで,神経疾患領域では,移行医療に関して学会レベルでの取り組みはなされていなかった.2020年7月に,日本神経学会では,日本小児神経学会と連携し,小児-成人移行医療対策特別委員会を設置した5

移行医療に関する取り組みは,成人診療科でどの程度関心を持たれているかわかっていない.本委員会の活動に当たっては,われわれの所属する日本神経学会地方会近畿支部施設が,移行医療に関してどのように対応しているか把握することが重要と考え,アンケート調査を行った.

目的

日本神経学会地方会近畿支部施設が,移行医療に関してどのように対応しているか把握する.

対象・方法

日本神経学会地方会近畿支部施設世話人129人を対象とした.近畿支部事務局からメールでアンケート調査の案内を送付し,Google formsで回答を集計・分析した.調査した項目は,Table 1に示す通りである.なお,同一施設内に複数の世話人がいる場合は,1施設につき1回答とするよう,調査依頼文に記載した.調査期間は2022年2月15日~3月31日とした.

Table 1  アンケート調査した項目.
設問 回答
1.アンケート結果を,学会や医学雑誌の報告に用いること. 同意する,同意しない
A.所属施設 2.主たる所属施設を選択. 大学医学部脳神経内科講座 
国立病院機構病院(急性期医療主体) 
国立病院機構病院(慢性期医療主体) 
国立病院機構以外の公立病院・私立総合病院(急性期医療主体) 
国立病院機構以外の公立病院・私立総合病院(慢性期医療主体) 
その他
B.医学部医学教育 (大学医学部脳神経内科教室所属のみ回答) 3.医学部医学教育カリキュラムに移行医療に関する講義があるか. ある,ない
C.病院における移行医療支援体制 4.移行医療に関連するセクションがあるか.(例:移行期医療支援センター) ある,ない
5.移行医療に関連するセクションがある場合,構成組織に成人診療科が含まれているか. はい,いいえ
6.行政と病院との間で,移行医療に関連する議論を行う機会があるか. ある,ない
D.小児科との連携 7.所属施設に小児科はあるか. ある,ない
8.小児科がある場合,小児科と移行医療に関して議論することがあるか. ある,ない
E.脳神経内科での状況 9.小児神経を学ぶ機会があるか. ある,ない
10.小児科からの紹介を受けた,成人期に達した小児期発症疾患罹患患者を診療するか. 概ね診る,概ね診ない,症例により判断する
11.前問で「概ね診る」「症例により判断する」と回答した場合,診療対象はどの疾患か.(複数回答可) てんかん,神経筋疾患,代謝性疾患,脳性麻痺,発達障害,その他(具体的な疾患等を記入)
12.小児科から紹介を受けた,成人期に達した小児期発症疾患罹患患者を診察する上で問題と思うことは何か.(複数回答可) 病状がわからない 
患者・家族とのコミュニケーションが大変である 
医療的ケアに対応できない 
発達障害関連がわからない 
診療サポート体制がない 
救急対応が出来ない 
移行医療に関する診療加算がない 
小児科からの紹介が一方的である 
その他(具体的回答を記入)
F.移行医療に関する小児科への希望 13.移行医療に関して,小児科に希望することは何か. (具体的に記載)
G.移行医療に関する大学,病院,行政への希望 14.移行医療に関して,大学,病院,行政に希望することは何か. (具体的に記載)
H.専門医制度について 15.神経内科卒後研修到達目標の「8.関連臨床各科」には「2.小児神経」が定められており,一定期間のローテートが可能であれば望ましいと記載されているが,現実的には困難であることが多いと思われる.可能とするためには,どのような取り組みが必要か. (具体的に記載)

設問1~12は,回答を集計し,内訳を検討した.設問13~15の回答は,自由記述内容をカテゴリーに分類し,カテゴリー別の回答数を集計した.

本調査に当たっては,国立病院機構大阪刀根山医療センター臨床研究審査委員会での承認を得た(臨床研究審査番号TNH-R-2021037,承認日2022年1月24日).

結果

日本神経学会第121回近畿地方会が行われた3月3日時点での回答数が19回答であったので,地方会世話人会でアンケート回答を促す説明を行い,調査期間を4月30日まで延長した.

1.回答数は46回答で,全回答は報告に同意した.

A.所属施設

2.主たる所属施設はTable 2の通りで,半数以上は国立病院機構以外の公立病院・私立総合病院(急性期医療主体)であった.

Table 2  アンケート回答の主たる所属施設.
回答数
大学医学部脳神経内科講座 13
国立病院機構病院(急性期医療主体) 1
国立病院機構病院(慢性期医療主体) 3
国立病院機構以外の公立病院・私立総合病院
(急性期医療主体)
24
国立病院機構以外の公立病院・私立総合病院
(慢性期主体)
3
その他 大学病院救命救急センター 1
その他 ナショナルセンター 1

B.医学部医学教育

3.大学病院からの13回答で,医学部医学教育カリキュラムに移行医療に関する講義があると回答した回答はなかった.

C.病院における移行医療支援体制

4.施設に移行医療に関するセクションがあるとの回答はなかった.6.行政と病院とのあいだで,移行医療に関連する議論を行う機会があると回答したのは,46回答中4回答(8.7%)であった.

D.小児科との連携

7.所属施設に小児科があると回答したのは46回答中38回答であった.8.小児科と移行医療に関して議論することがあると回答したのは,28回答(73.7%)であった.

E.脳神経内科での状況

9.小児神経を学ぶ機会があると回答した回答は,46回答中11回答(23.9%)であった.

10.小児科から紹介を受けた,成人期に達した小児期発症疾患罹患患者を診察するかの問いは,20回答(43.5%)が「概ね診る」と回答し,22回答(47.8%)が「症例により判断する」と回答した.一方,「概ね診ない」と回答したのは4回答(8.7%)であった.

11.「概ね診る」,「症例により判断する」と回答した42回答の対象とする疾患を,Fig. 1に示す.「てんかん」は41回答,「神経筋疾患」は30回答中と回答数の半数以上であった.自由記述には,「脳卒中」,「心奇形」,「ダウン症候群」,「頭痛性疾患」が1回答ずつあった.

Fig. 1 診療対象の疾患と回答数.

「てんかん」,「神経筋疾患」は回答数の半数以上であった.

12.小児科から紹介を受けた,成人期に達した小児期発症疾患罹患患者を診察する上で問題と思うことに対する回答を,Fig. 2に示す.半数以上が「患者,家族とのコミュニケーションが大変である」(33回答),「発達障害関連がわからない」(33回答),「診療サポート体制がない」(28回答)を選択し,「病状が分からない」(22回答),「移行医療に関する診療加算がない」(20回答),「医療的ケアに対応できない」(16回答),「小児科からの紹介が一方的である」(16回答)が続いた.

Fig. 2 成人期に達した小児期発症疾患罹患患者を診察する上で問題と思うことに対する回答と回答数.

半数以上が「患者,家族とのコミュニケーションが大変である」,「発達障害関連がわからない」,「診療サポート体制がない」を選択した.

自由回答の意見として,Table 3のような内容が上がった.

Table 3  小児科から紹介を受けた,成人期に達した小児期発症疾患罹患患者を診察する上で問題と思うことに対する回答の自由回答.
自由回答意見
社会的支援体制に詳しくない
信頼関係の構築
急性期病院で診療を要する病態でない患者を紹介される
長期入院になりやすい
診療内容に患者の親の納得が得られにくい
神経内科は内科一般診療を得意としない点
移行患者の対応で通常の外来診療が破綻

F.移行医療に関する小児科への希望

13.移行医療に関して,小児科に希望することに対する自由回答のカテゴリー分類集計,回答文抜粋をTable 4に示す.「小児科からの情報提供」が10回答,「かかりつけ医・地域医療」が7回答,「患者・家族への情報提供」,「成人科とのカンファレンス」が5回答と続いた.

Table 4  移行医療に関して,小児科に希望することに対する自由回答のカテゴリー分類集計,回答文抜粋.
カテゴリー 回答数 回答(抜粋・一部改変)
小児科からの情報提供 10 「成人になったので脳神経内科で加療継続お願いします」という一方的な紹介状はやめてほしい.まずは詳細な病歴をいただいてから,受け入れ可能か判断したい.病歴と画像所見,検査結果など詳細に教えて欲しい.
かかりつけ医・地域医療 7 患者の病状によって適切な医療機関を選択することが望ましい.在宅医や内科のかかりつけ医による平時の診察,処置等バックアップがあれば,引き受けやすい.
患者・家族への情報提供 5 総合病院にはかかりつけ医機能はないことを理解し説明し,采配してほしい.家族への成人科に対する教育を早めにお願いしたい.現実的な今後の予後,展望を成人科と協議の上あらかじめ患者さんのご家族に説明しご理解いただいてほしい.
成人科とのカンファレンス 5 現時点での生命予後など深刻な話も成人科と相談の上あらかじめ患者さんやご家族に説明しておいていただきたい.ケースによっては患者家族を含めた合同カンファを事前に行うこと.
併診 5 疾患によっては併科で疾患特異的な面を担当してほしい.患者・患者家族との当科主治医との間のラポール形成までの小児科での並行診療.
特にない 3 小児科自体に要望はありません.
連携 3 症状によっては成人診療科では小児科単独のように単科での診療は困難で,他の成人診療科との連携も重要.密な連携.
サポート体制 2 問題が起きた時のサポート.病状のこれまでの推移と今後の予想,治療,社会的サポート体制についての情報をいただきたい.
エビデンスレベル 1 エビデンスレベルも教えて欲しい.
小児科で診療してほしい 1 乳児,幼児期発症のものは小児科でみてほしい.
考慮 1 急性期病院で診るべき患者さんなのかどうかを考慮してほしい.
受け入れる 1 小児科からの依頼は基本的に受け入れるようにしています.
単なる紹介は避けて 1 単なるキャリーオーバーでの紹介は避けて頂きたい.
わからない 1 経験がないので分かりません.

G.移行医療に関する大学,病院,行政への希望

14.移行医療に関して,大学,病院,行政に希望することに対する自由回答のカテゴリー分類集計,回答文抜粋をTable 5に示す.「地域医療連携」が9回答,「診療サポート体制」,「診療報酬」が8回答と続いた.これら13,14には,小児科で診療継続をしてほしいとの意見もあった.

Table 5  移行医療に関して,大学,病院,行政に希望することに対する自由回答のカテゴリー分類集計,回答文抜粋.
カテゴリー 回答数 回答(抜粋・一部改変)
地域医療連携 9 行政にはかかりつけ医とのネットワーク支援をしてほしい.高齢者の介護保険のようなレスパイト入院先の確保,脳卒中の地域連携パスのような移行医療の地域連携(医療機関のmappingも),てんかん専門医,難病指定との連携.院内の小児科との連携だけで無く,在宅支援や看護との連携体制を整備していただきたい.
診療サポート体制 8 スムーズに移行できるような体制が望ましいと思います.行政には,地域に根付いた社会的サポート体制についての情報提供を希望したい.大学病院脳神経内科の限られた外来枠では,多数の成人移行医療の受け入れを継続していくことは難しく,地域医療機関による診療サポート体制の充実が必要不可欠である.
診療報酬 8 移行医療の窓口,加算制度を作ってもらいたい.移行期の予算をつけて欲しい.
特になし 5 特にないです.
セミナー,勉強会 3 情報提供,Webや勉強会等の機会を作っていただきたい.勉強会は移行医療をメインにしたものばかりでなく,一般的な研究会のひとつのセッションとして組み込んでいただくものもあると.自然と聴講の機会がふえると思います.
移行期医療支援センター・支援窓口 3 移行期医療支援センターのバックアップ.
公的支援 2 成人と小児では年齢により受けられる公的支援がことなり,わからないことが多いので,そのことについてサポートしてほしい.
システム構築 2 小児科と成人診療科を繋ぐ部署や関わってくれる人やシステムが必要.
医療スタッフのマンパワー 2 同医療に携わる医療スタッフのマンパワーの充実.
教育 2 教育,研修機会の構築.
指針の策定,ガイドライン 2 移行医療に関するガイドラインの策定.
遺伝の専門家 1 希少疾患が多いため大学専門医療機関の遺伝子カウンセラーや専門家が必要である.
患者家族への情報提供 1 患者家族への情報提供,サポート体制の情報共有.
協力体制の確立 1 病院には移行医療への全病院的(看護部門や患者支援部門も含めた)な理解と協力体制の確立を検討してほしい.
情報共有 1 情報の共有化.
成人診療科の委員 1 行政には小児科が主導となっているように見える移行期医療推進会議に受け手となる成人診療科の委員を増やし,成人科の関係学会の移行期医療の委員なども入れて,現状把握とその実際的な解決法を検討してほしい.
積極的関与 1 高度な医療を希望される場合は積極的に関与していただきたい.
小児神経科との連携 1 小児神経科との連携が将来的には必要.
小児科での診療継続 1 小児科医の先生は成人を診てはいけないわけではないと思います.そのまま継続していただくのでは,なぜいけないのでしょうか?

H.専門医制度について

15.小児神経を神経内科卒後研修到達目標として可能とすることに対する自由回答のカテゴリー分類集計,回答文抜粋をTable 6に示す.「小児神経施設との連携」が8回答,「ローテート」が7回答,「勉強会・講演会」が6回答と続いた.

Table 6  小児神経を神経内科卒後研修到達目標として可能とすることに対する自由回答のカテゴリー分類集計,回答文抜粋.
カテゴリー 回答数 回答(抜粋・一部改変)
小児神経施設との連携 8 小児神経診療施設との連携.小児科においても小児神経専門の先生が少なく,小児神経専門の他施設で研修を受けてくれるところがあれば助かる.
ローテート 7 人的交流を活発にして一定期間ローテートを義務付けるのも良いと思う.可能なら小児科ローテートをする.人員的にローテート困難な場合は,ローテートせずに小児科の小児神経症例を受け持たせてもらう.
勉強会・講演会 6 小児神経を実際に研修する機会がほとんどないため,まずは小児神経疾患や成人移行期医療に関して教育講演などで知識を得る機会を増やしていく.学術集会の中でてんかんや筋疾患などのテーマで講義を組み込む.
小児神経の研修 4 小児神経診療を行っている病院に短期研修システムを設けてもらう.小児神経学を研修できる体制.
研修体制を学会が仲介 3 学会などが広域で仲介するようなシステムが必要と思われる.神経学会だけでなく,てんかん学会やMDSJなど両分野が関係するような学会にもお願いして成人移行医療に関して啓蒙する.
日本神経学会の基本領域化 3 日本神経学会の基本領域化を推進すること.
合同カンファレンス 3 現状では,院内の小児神経グループとの定期的なカンファレンスが精いっぱいと思う.小児科との合同カンファレンス,症例検討会,特にてんかん,難病,神経筋疾患について.
実習見学 2 神経内科後期研修で他院でもいいので小児神経のある施設に実習見学に1~2週間行く.
小児科との連携 2 小児神経医の増員,小児科との連携強化
小児神経専門家の育成 1 小児神経の専門家の育成.
神経内科を魅力的な科にする 1 脳神経内科を魅力的な科にする努力が必要です.医師の数を増やす努力をお願いします.
時間がない 1 神経専門医取得のためにはまず内科専門医が必要である.小児神経をしている時間がない.
受け入れ側メリット 1 受け入れる側へのメリット.
小児科学会との連携 1 小児科学会との連携.
小児神経科の活動拡大 1 小児神経科の活動拡大.
専門医試験のサマリー提出 1 専門医試験のサマリー提出症例に必須症例として組み込む.
専門医試験受験資格に移行期医療の経験を義務付け 1 専門医試験受験資格に移行期医療の経験を義務付けるとよいと思う.
対象疾患を診療すれば「小児神経」 1 単なる「小児科」であっても,対象疾患を診療すれば「小児神経」と認定する.
難しい 1 現状の研修システム(後期研修)では難しい.
なし 1 なし.

本アンケートは,新型コロナ感染症拡大により日常診療に影響が出る可能性がある時期に行ったが,自由記述には新型コロナ感染症に関連した記載はなかった.

考察

アンケート回答期間中に回答を促す説明を行ったにもかかわらず,回答数は依頼数の半数に達せず,成人診療科では移行医療に関する意識が決して高いわけではないことが推測された.また,医学部教育では,まだ移行医療に関する取り組みはなく,病院での移行医療支援体制もなかった.

一方,回答者が移行医療に関して小児科と議論するとした回答数は多く,小児科から紹介を受けた患者を「概ね診る」,「症例により判断する」と診察する回答も多かった.しかしながら,小児神経を学ぶ機会は少なく,診療対象とする疾患も偏りがみられた.

アンケート回答者は移行医療に関心がある医師であると思われるが,一部の自由記述には否定的な意見もあった.回答12から14の自由記述からは,診療を行うに当たっては,小児科での患者・家族と医師の関係性に成人診療科が慣れていないこと,発達障害など成人診療科では関わることがあまりない診療対象疾患に対する知識が十分でないこと,移行医療に対する支援体制が十分でないこと,診療報酬加算がないことなど,成人診療科が積極的に関わることが出来る体制ができていないことが窺われた.

このように,移行にかかる体制が十分出来ていない状況は以前から指摘されていたことである6.現状では,成人診療科で,移行医療に関心がある医師は少ないと思われ,アンケート回答数が伸びないのも理解できる.

では,成人診療科医師が移行医療への関心を持つにはどうしたらよいか.疾患に対する興味,診療支援体制,診療報酬加算,小児科医師との顔の見える関係など,いろいろな方面からのアプローチが必要であると思われる.

回答15には,小児神経施設との連携や,勉強会・講習会などがあげられた.こうした神経内科卒後研修到達目標を視野に入れた取り組みは,疾患に対する興味をもつきっかけとり得る.移行医療センターの設置は全国的に進められているが5,もちろん十分ではなく,診療支援体制確立のためには,継続的に行う必要がある.移行医療にかかる診療報酬加算については,現在取り組みが進められているところである.さらには,医学生時期から移行医療のことを知るために,医学教育での取り扱いなども必要であろう.

日本小児科学会は「成人移行支援」という言葉を追加し,2023年に新たに提言を作成した7.いろいろな体制を整備しつつ,一方向でない,小児科と成人科の関係構築,ひいてはスムーズな移行支援の構築が望まれる.

Acknowledgments

謝辞:本アンケート作成,施行にご尽力いただいた,日本神経学会地方会近畿支部事務局 今井久美子様に深謝いたします.

Notes

本稿の要旨は,第122回日本神経学会近畿地方会(2022年7月30日開催),第10回日本難病医療ネットワーク学会学術集会(2022年11月18日開催),第5回小児科から成人診療科への移行を語る会(2023年1月25日開催)にて報告した.

○開示すべきCOI状態がある者

池田昭夫:企業などが提供する寄付講座:2018年6月1日から現在まで.産学共同講座として京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学講座(エーザイ株式会社は共同研究.大塚製薬株式会社,日本光電工業株式会社,ユーシービージャパン株式会社は寄付支‍援).

○開示すべきCOI状態がない者

齊藤利雄,甲田 亨,奥野龍禎,望月秀樹

本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Neurology

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