Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Changes in vessel wall magnetic resonance contrast-enhancement in a patient with multiple cerebral infarction due to meningovascular neurosyphilis
Hitoshi MiyatakeTakuya OguriKeita SakuraiYoshikazu MutohHideki KatoHiroyuki Yuasa
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2023 Volume 63 Issue 9 Pages 588-591

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要旨

46歳男性.歩行時のふらつきを主訴に来院し,頭部MRIで多発脳梗塞を認め入院した.42歳頃に梅毒感染リスクを伴う行動歴があり,一過性に皮疹が出現するも医療機関未受診であった.入院時の血清,脳脊髄液の梅毒反応陽性より髄膜血管型神経梅毒と診断した.ペニシリンG大量療法後は再発なく症状も改善した.診断時のMRアンギオグラフィーでは責任血管の1本である右上小脳動脈の近位部に描出低下があり,造影MRIにて同部位の血管壁に造影増強効果を認めたが,治療後にはこの効果は消失した.血管炎が疑われる脳梗塞では神経梅毒を鑑別にあげる必要がある.また血管壁の造影増強効果の変化は血管炎の経過を反映している可能性がある.

Abstract

A 46-year-old man with a history of generalized skin rash following physical contact with possible syphilis infection developed right upper and lower extremity ataxia and right lower extremity paresis. Brain magnetic resonance (MR) imaging revealed multiple areas of acute cerebral infarction mainly within the territories of the right superior cerebellar artery (SCA) and left anterior cerebral artery. The patient was diagnosed with meningovascular neurosyphilis based on positive results on syphilis testing of the serum and cerebrospinal fluid. MR angiography revealed decreased signal intensity in the proximal segment of the right SCA, and gadolinium-enhanced three-dimensional T1-weighted MR images showed an enhancement of the vessel wall in this segment of the artery. Signal intensity in the right SCA showed partial improvement following the completion of intravenous penicillin treatment, and contrast enhancement of the vessel wall disappeared simultaneously with clinical improvement. Alterations in cerebral vessel walls on contrast-enhanced MR imaging in cases of meningovascular neurosyphilis may reflect vascular inflammatory activity.

はじめに

神経梅毒は晩期のみならず早期から多彩な神経症状を呈し,特に髄膜血管型では血管炎により脳梗塞が生じることが知られている.髄膜血管型神経梅毒において造影MRIで血管壁の造影増強効果を認めた報告はあるが,急性期にその改善までとらえた報告はない.我々は多発脳梗塞を発症し,造影MRIにて責任血管の血管壁に造影増強効果を認め,さらに2週間のペニシリン投与後に造影増強効果が消失した髄膜血管型神経梅毒の症例を経験したので報告する.

症例

症例:46歳,男性

主訴:頭痛,歩行時のふらつき

併存症:過去に糖尿病の指摘があるが未治療.

生活歴:喫煙,40本/日.

現病歴:起床時から右後頭部に限局した持続痛を自覚したほか,歩行時にふらついて真っ直ぐ歩くのが困難になった.翌日にはこの疼痛は改善したが,ふらつきは持続していたため当院を受診した.なお4年前に性風俗店の利用があり,同時期に一過性に全身に皮疹が出現したが,医療機関は未受診であったことが入院後の病歴聴取で明らかとなってい‍る.

入院時現症:体温37.3°C,血圧104/69 mmHg,脈拍109回/分,整.皮疹や表在リンパ節腫脹,髄膜刺激徴候は認めなかった.意識は清明で明らかな高次脳機能障害は認めなかった.瞳孔は両側3 mm大で,対光反射は直接/間接反応とも正常に認めた.眼球運動は滑動性で運動域制限なく,輻輳に付随し縮瞳反応がみられた.四肢骨格筋の筋緊張は正常で,四肢筋力は徒手筋力テストにて両上肢と左下肢は全て5相当に対し,右下肢は遠位,近位ともに5相当であった.四肢の腱反射は正常で,Babinski徴候は両側とも陰性であった.右上下肢に運動分解と測定異常を認めたが,体幹失調は認めず,Romberg徴候は陰性であった.つぎ足歩行では右側への動揺を認めた.表在感覚,および深部感覚の異常や膀胱直腸障害は認めなかった.

検査所見:頭部MRI拡散強調画像,FLAIR画像にて,左前大脳動脈(anterior cerebral artery,以下ACAと略記),右上小脳動脈(superior cerebellar artery,以下SCAと略記),橋穿通動脈の各支配領域に散在する高信号域を認めた(Fig. 1A~F).MRアンギオグラフィー(MR Angiography,以下MRAと略記)では右SCA近位部に描出低下を認めた(Fig. 1G, H).経胸壁心臓超音波,頸動脈超音波,Holter心電図検査では塞栓性機序を示唆する異常は認めなかった.血液検査では白血球10.8×103l,CRP 0.27 mg/dl,D-dimer <0.50 pg/mlで,随時血糖341 mg/dl,HbA1c 12.1%と重度の糖尿病による変化もみられた.脳梗塞に関連する自己抗体は検索した限りすべて陰性で,血漿プロテインC活性とS活性も正常であった.血清感染症マーカーでは抗HIV抗体は陰性であったが,TPHAが27.5 S/CO,RPRが72.7 R.U.とともに陽性であった.脳脊髄液検査では外観が無色透明で,初圧140 mmH2O,細胞数86/μl(単核球100%),蛋白132 mg/dl,糖126 mg/dl(同時血糖249 mg/dl)と炎症性変化を認めたほか,RPRとFTA-ABSが陽性であった.

Fig. 1 Brain MRI findings before treatment.

(A–C) Diffusion-weighted images obtained on day 4 of onset showing multiple hyperintense lesions mainly distributed across the territories of the right SCA and left anterior cerebral artery (arrow) (axial, 3.0 T; TR, 8,000 ms; TE, 71 ms; b-value, 1,000 s/mm2; slice thickness, 2.5 mm). (D–F) FLAIR images obtained on day 4 of onset showing multiple hyperintense lesions at different time phases (axial, 3.0 T; TR, 11,000 ms; TE, 140 ms; TI, 2,380 ms; slice thickness, 5.0 mm). (G, H) TOF-MRA scans showing decreased signal intensity in the proximal segment of the right SCA (arrowhead) (3.0 T; TR, 28 ms; TE, 4 ms). Except for the right SCA, no abnormalities are observed in the intra- and extracranial major arteries. The decreased signal intensity of the left middle cerebral artery and right posterior inferior cerebellar artery is due to a TOF-MR artifact. SCA: superior cerebellar artery, MRA: magnetic resonance angiography, TOF: time-of-flight.

入院後経過:当初は塞栓性機序の脳梗塞を想定し,ヘパリン持続静注にて治療開始した.その後病歴や血清梅毒反応から梅毒感染が明らかとなり,さらに脳脊髄液所見から髄膜血管型神経梅毒と診断した.発症4日目よりベンジルペニシリン2,400万単位/日の経静脈投与を開始し,計14日間行った.また抗血栓剤をアスピリン内服に変更した.ステロイドの併用は血糖コントロールの悪化を懸念して行わなかった.治療開始後は新たな神経徴候の出現はなく,右下肢の運動麻痺と右上下肢の失調は徐々に改善した.また以降の拡散強調画像でも脳梗塞病変の拡大や増加はみられなかった.発症10日目のMRIでは,MRAにて右SCAの描出が低下していたほか,造影three-dimensional(3D)T1強調画像にて同血管近位部の血管壁に造影増強効果を認めた.(Fig. 2A, B).しかし発症17日目に同条件で再撮像すると,MRAでは右SCAの描出は部分的に改善しており,また同血管近位部の造影増強効果は消失していた(Fig. 2C, D).本患者はその後さらなる機能回復のためリハビリテーション病院に転院した.

Fig. 2 Brain MRI findings during and after treatment.

Findings of MRA scans obtained on day 10 of onset. (A) TOF-MRA scan showing decreased signal intensity in the proximal segment of the right SCA (arrow) (TR, 28 ms; TE, 4 ms). (B) The vessel wall in this segment shows partial enhancement on gadolinium-enhanced 3D T1-weighted images (arrow) (3.0 T; TR, 650 ms; TE, 30 ms; slice thickness, 1.0 mm). Findings on day 17 of onset (after completion of intravenous penicillin treatment). (C) TOF-MRA scan showing partially improved signal intensity in the right SCA (arrowhead). (D) Gadolinium-enhanced 3D T1-weighted images showing no contrast enhancement in the proximal segment (arrowhead). 3D: three-dimensional, MRA: magnetic resonance angiography, SCA: superior cerebellar artery, TOF: time-of-flight.

考察

若年性の脳梗塞の原因として脳動脈解離,もやもや病,抗リン脂質抗体症候群,奇異性脳塞栓症,血管炎などが鑑別に挙がる1.本例では頭部MRIで主に右SCAや左ACAの各支配領域に多発脳梗塞を認め,当初は塞栓性機序を疑ったが,生理学的検査では塞栓源となりうる所見はなかった.入院後の病歴聴取から過去の梅毒感染リスクを伴う行動歴と皮疹出‍現歴が判明し,血清,脳脊髄液梅毒反応が陽性であった.以上より梅毒初感染から4年後に髄膜血管型神経梅毒として脳動脈に血管炎をきたし,多発脳梗塞が生じたものと考えられた.

神経梅毒はTreponema pallidumによる中枢神経系合併症であり,髄膜型,髄膜血管型,実質型に分類される.髄膜血管型の好発時期は初感染後4~7年目とされており2,本例の経過も一致している.梅毒による血管障害は大血管,小型血管のいずれにも生じるが,髄膜血管型では主に中・小型血管にリンパ球など炎症細胞浸潤が生じる血管炎が脳梗塞の発症に関与するとされ34,頭蓋内血管近位部の分節的な狭窄,拡張をきたしうる5

髄膜血管型神経梅毒による脳梗塞の責任血管において,造影MRIで動脈壁に造影増強効果を呈した症例報告は,我々が‍調べた限り4例と限られている6)~9.そのうち造影MRI所見の治療後の変化が記載されているのは1例のみで,治療開始3か月後の時点で造影増強効果と狭窄が改善したとされている6.本例ではMRAにて右SCA近位部の描出低下と,造影3D-T1強調画像にて同部位の造影増強効果を認めたが,これらの所見は14日間のペニシリン投与終了後のMRIですでに改善しており,既報告よりも短期間での画像変化を確認しえた.

一般に血管炎における動脈壁のMRI造影増強効果は,血管内皮の透過性亢進による造影剤漏出が想定されている10.髄膜血管型神経梅毒で動脈壁のMRI造影増強効果を呈する機序については,病理組織所見と直接比較した報告はないものの,病理学的には動脈壁への炎症細胞浸潤がみられることから,他の血管炎同様に造影増強効果を呈しうるものと考えられた.また本例では有効性の報告があるステロイド併用は血糖管理の問題で実施しえなかったが9,結果的にペニシリンG大量投与のみで脳梗塞の進行を抑止できた.抗生剤投与のみで臨床的にもMRI所見上も改善を得たことから,本例で認めた動脈壁のMRI造影増強効果とその改善は,Treponema pallidumの動脈壁への浸潤により3,惹起された血管炎の経時的変化を反映したものと考えられた.

若年者における多発脳梗塞で血管炎が疑われる症例では,神経梅毒を鑑別に挙げる必要がある.また髄膜血管型神経梅毒における血管壁のMRI造影増強効果の変化は,血管炎の経過を反映している可能性がある.

Notes

本報告の要旨は,第164回日本神経学会東海・北陸地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Neurology

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