Rinsho Shinkeigaku
Online ISSN : 1882-0654
Print ISSN : 0009-918X
ISSN-L : 0009-918X
Prospect of novel therapies in immune-mediated neuropathies
Motoi Kuwahara
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 64 Issue 1 Pages 1-7

Details
要旨

免疫介在性ニューロパチーでは副腎皮質ステロイド,血漿浄化療法,経静脈的免疫グロブリン療法が長らく治療の中心となっている.しかしながら,これらの治療においても治療抵抗例が一定数存在し,さらにmyelin associated glycoprotein(MAG)抗体関連ニューロパチーは未だ有効な治療が確立していない.近年,病態機序に直接関わる分子を標的とした新規治療の開発がすすんでいる.免疫性神経疾患において新規治療薬の臨床での使用が可能となりつつあり,免疫性介在性ニューロパチーでもこれらの分子標的薬を用いた複数の臨床試験が進行中である.本総説では,免疫介在性ニューロパチーにおける治療の現状と新規治療の今後の展望について概説する.

Abstract

The efficacy of immunotherapies such as steroids, plasmapheresis, and intravenous immunoglobulin have been proven in various immune-mediated neuropathies. However, these treatments sometimes lack the efficacy in a part of patients with the immune-mediated neuropathies. In addition, anti-myelin associated glycoprotein (MAG) neuropathy is usually refractory to the treatments. Recently, novel therapies targeting a molecule which are associated with pathogenesis of immune-mediated diseases, have been developed. These molecularly targeted therapies are notable in immune-mediated neuropathies as novel drug candidates. In the present article, current treatments and future prospect of novel therapies in immune-mediated neuropathies will be reviewed.

はじめに

発症に自己免疫機序が関わるニューロパチー(免疫介在性ニューロパチー)として,ギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome,以下GBSと略記),慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculo­neuropathy,以下CIDPと略記),多巣性運動ニューロパチー(multifocal motor neuropathy,以下MMNと略記),myelin associated glycoprotein(MAG)抗体関連ニューロパチーが挙げられる.これらの免疫介在性ニューロパチーの治療として,古くから副腎皮質ステロイド,血漿浄化療法(plasmapheresis,以下PPと略記),経静脈的免疫グロブリン療法(intravenous immunoglobulin,以下IVIgと略記)などの免疫療法の有効性がランダム化比較試験(randomized controlled trial,以下RCTと略記)によって検証されてきた.各疾患によって免疫療法の有効性は異なっているが,現在もこれらが免疫介在性ニューロパチーの治療の中心となる.

一方,近年では免疫性神経疾患の領域において発症機序に関わる分子を直接標的とした治療薬の開発がすすんでいる.中枢性疾患である多発性硬化症や視神経脊髄炎や,神経筋接合部疾患の重症筋無力症では分子標的薬が本邦で既に使用可能となっており,現状ではこれらの疾患と比べて免疫介在性ニューロパチーは治療開発に遅れをとっている.しかしながら,免疫介在性ニューロパチーにおいても新たな治療薬の登場が期待されており,現在は複数のRCTが進行している.本稿では,免疫介在性ニューロパチーにおける新規治療開発の現状と展望について概説をする.

ギラン・バレー症候群

GBSは急速進行性の四肢麻痺を主徴とする代表的な免疫介在性ニューロパチーであり,その発症機序としては先行感染によって産生されたガングリオシド抗体が末梢神経に局在するガングリオシドに結合することでニューロパチーが惹起される1.GBSの治療は1980年代にPPの有効性が示され,その後1990年代にはPPとの比較によってIVIgの有効性が確認されている23.一方で,単独の副腎皮質ステロイドによる治療は無効である.GBSの経過は単相性であるため発症後4週間以内に症状は極期となって以降は自然に回復していく.PPおよびIVIgによって大部分のGBS患者は改善を得られるが,診断後1年以内の死亡率は4.4%であり,発症後1年以降も16%の患者は独力歩行ができず,GBSに罹患することによって38%の患者は職業の変更を必要とする4.世界的な多施設前向きコホート研究(International GBS outcome study: IGOS)では,独歩不能のGBS患者(GBS disability score 3以上)に対していずれかの免疫療法による初回治療を行なった場合,4週時点でGBS disability scoreの改善がみられたのは68%であった5.初回治療として簡便性の点からIVIgが選択されることが多いが,効果が乏しい場合に追加治療をどうするかが問題となる.

オランダの59施設においてIVIgの反復投与の有効性を検証したRCT(second intravenous immunoglobulin dose trial: SID-GBS)の結果が報告されている6.全例に対してIVIgによる治療を開始した後,1週間の時点で予後予測スコアのmodified Erasmus GBS Outcome Scale(0~12)で6点以上の予後不良が見込まれる患者を1:1に割り付けして2回目のIVIg(SID)またはプラセボの投与が行われた.49例のSID群と44例のプラセボ群において主要評価項目の4週時点のGBS disability scoreはSID群4(4~5),プラセボ群4(4~5)と差はみられなかった(調整オッズ比1.4).一方で,最初の30日間における重篤な有害事象はSID群で多く(SID群35%,プラセボ群16%),その内訳として血栓・塞栓症が多くみられていた.本試験はmEGOSで6点以上の患者(患者の60%以上が半年後に独歩不能と予測される)のみを対象とした試験とはなるが,4週時点および副次評価項目の半年時点においてもSIDの有効性が否定された結果となった.また,SID群における有害事象の血栓・塞栓症については2回目のIVIg投与が1週間後とやや早いタイミングであった点が関係している可能性がある.

一方,GBSでは剖検例の検討や動物モデルの解析によって活性化補体が神経障害機序に関わっていることが示されており7)~9,GBSの新規治療薬候補として補体を標的とした分子標的薬が注目されている.GQ1b抗体の腹腔内投与による呼吸筋麻痺のマウス動物モデルでは,補体C5モノクローナル抗体のeculizumabの投与によって神経終末における膜侵襲複合体の沈着と障害を防ぎ,呼吸筋麻痺を抑制することが報告されている10.2015年から本邦の13施設で行われたeculizumabの第II相試験(JET-GBS study)では,IVIgにeculizumabまたはプラセボを併用するもので,主要評価項目として4週時点におけるGBS disability score 2以下(独歩可能)の患者の割合が設定された.4週時点におけるGBS disability score 2以下(独歩可能)の患者の割合はeculizumab群で61%,プラセボ群で45%とeculizumab群で高かったが有効性を検出できなかった.しかしながら,副次評価項目である24週時点でGBS disability score 1以下(走行可能)の患者の割合においてeculizumab群で74%であったのに対してプラセボ群では18%とeculizumab群で有‍意に高い結果であった11.この試験の結果をもって,2021年2月から本邦においてeculizumabの第III相試験が実施された.本試験では主要評価項目として24週の間で最初にGBS disability scoreが1以下(走行可能)に到達するまでの期間となっている.本試験は2022年に既に完遂しており,2023年の日本神経学会学術大会において有効性が示されなかったことが発表されている12.また,C5リサイクリング抗体であるcrovalimabによる試験も計画されていたが開始前に中止となっている.一方,補体C1qに対するモノクローナル抗体はGQ1b抗体を用いた呼吸筋麻痺のマウス動物モデルなどにおいてeculizumabと同様の有効性が確認されており13,2020年からバングラディッシュとフィリピンにおいてC1qに対するモノクローナル抗体(ANX005)による第III相のプラセボ対照のRCTが開始となっている.

その他の新規治療薬候補として,A群溶血性レンサ球菌が産生する酵素のIgG-degrading enzyme of Streptococcus pyogenes(IdeS)がある.IdeSは免疫グロブリンをFabとFc部分とに切断するため,Fc部分に結合する補体の活性化を抑制する効果が期待できる.ELISAによるin vitroの実験系では,あらかじめガングリオシド抗体が陽性の患者血清にIdeSを混合してガングリオシドを固相化したELISAプレートに添加すると補体の沈着が抑制されている14.また,軸索障害型GBSの動物モデルを用いたin vivoの研究においても,IdeSを投与するとランビエ絞輪部のNav channelの破壊や補体の沈着を抑制して軸索変性が軽減している15.これらの結果から,オランダ,フランス,英国を中心に2019年から第II相試験が実施されており現在は既に新‍規の登録が終了している.また,現在米国において胎児性Fc受容体(FcRn)を阻害するefgartigimodの医師主導の第II相試験が計画されている.EfgartigimodはFcRnを阻害することによってIgGのリサイクルを抑制する作用があるため,ガングリ‍オシド抗体が病因となるGBSへの有効性が期待される(Table ‍1).

Table 1 Recent and future clinical trials in Guillain–Barré syndrome.

Treatments Targets ClinicalTrials.gov Identifier Recruitment Status
Second IVIg N.A N.A Completed
Eculizumab (JET-GBS) C5 NCT02493725 Completed
Eculizumab C5 NCT04752566 Completed
Crovalimab C5 NCT05494619 Withdrawn
ANX005 C1q NCT04701164 Recruiting
Imlifidase (IdeS) IgG NCT03943589 Active, not recruiting
Efgartigimod FcRn NCT05701189 Not yet recruiting

IVIg = intravenous immunoglobulin, IdeS = gG-degrading enzyme of Streptococcus pyogenes, FcRn = neonatal Fc receptor, N.A = not available.

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー

CIDPは2ヶ月以上の慢性進行性の脱髄性ニューロパチーであり四肢の運動感覚障害をきたす.左右対称性で近位筋と遠位筋の両方が障害されるtypical CIDPが半数以上を占めているがいくつかの亜型が存在する.2021年のEuropean Academy of Neurology(EAN)とPeripheral Nerve Society(PNS)によるCIDP診療ガイドラインの改訂において,CIDPはtypical CIDPとCIDP variantに大別されており,CIDP variantにはdistal CIDP,multifocal/focal CIDP,motor CIDP,sensory CIDPが含まれている16.CIDPの標準的治療として副腎皮質ステロイド,IVIg,PPのいずれの有効性も確立しているが,臨床病型によって各治療の反応性が異なることが知られており,CIDPはheterogeneousな病態を包括した疾患概念と考えられる1718.CIDPでは前述の寛解導入療法以外に再発・進行を抑制する維‍持‍療法があり,維持療法としては3週間隔の免疫グロブリンの静脈投与(IVIg)または週1回の皮下投与(subcutaneous immunoglobulin,以下SCIgと略記)の有効性が証明されている1920.また,IVIgは副腎皮質ステロイドより認容性が優れているが,治療の終了から再発までの期間はステロイドパルス療法よりIVIgの方が短いことが報告されている2122.そこで,それらの利点を組み合わせた治療としてIVIgとステロイドパルス療法を併用するRCT(OPTIC study)が行われている23

一方でCIDPにおいて多発性硬化症の治療薬についても検討されたが,fingolimodのRCTでは有効性がみられず24,リンパ球に発現するCD52に対するモノクローナル抗体であるalemtuzumabの試験も中止となっている.

CIDPにおける新たな治療として,自家造血幹細胞移植(autologous hematopoietic stem cell transplantation,以下HSCTと略記)が試みられている.副腎皮質ステロイド,IVIgもしくはPPのうち少なくとも二つの治療に抵抗性または依存性の66例のCIDP患者にHSCTが行われ,平均4.5年間(2~5年間)のフォローアップがされた.その期間において約80%の患者が免疫治療なしで過ごすことができており,独歩可能な患者の割合は33%から80%以上に増加した.また,握力の増加と神経伝導検査(nerve conduction study,以下NCSと略記)における伝導速度と複合筋活動電位の改善もみられており,完治を目指すことが可能な治療となる可能性がある25

CIDPの病態には液性免疫と細胞性免疫の両方が関わっていると考えられているが,大部分の症例において自己抗体は未だ同定されていない.FcRnを標的としたIgG4型モノクローナル抗体のrozanolixizumabの第II相試験がCIDPで行われ,さらにヒトIgG1型のFcフラグメント製剤であるefgartigimodの第III相試験が進行中である.FcRn阻害薬はIgG型自己抗体が関わっている病態に有効である可能性があり,本邦では全身型重症筋無力症において既に承認されている.FcRn阻害薬の有効性が示された場合,CIDPの病態には未知のIgG型自己抗体が関わっていることを示唆することになるため,これらの試験の結果はCIDPの病態解明という点においても非常に興味深く今後の報告が期待される.

また,CIDPにおける脱髄はマクロファージによる貪食が中心であるが,末梢神経病理では髄鞘に補体の沈着がみられることがあり,終末補体の活性化がCIDP患者でみられることが報告されている2627.そのため,CIDPにおける補体を標的とした新規治療開発として,補体C1sに対するモノクローナル抗体であるSAR445088のオープンラベル第II相試験が欧米を中心に現在実施されている28Table 2).

Table 2 Recent and future clinical trials in chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy.

Treatments Targets ClinicalTrials.gov Identifier Recruitment Status
NPB-01 (IVIg) N.A NCT01824251 Completed
Fingolimod N.A NCT01625182 Completed
Hizentra (SCIg) N.A NCT01545076 Completed
HSCT N.A NCT00278629 Completed
IVIg + methylprednisolone N.A N.A Recruiting
Alemtuzumab CD52 NCT01757574 Withdrawn
Rituximab CD20 NCT03864185 Completed
Rituximab CD20 NCT04480450 Not yet recruiting
Rozanolixizumab FcRn NCT03861481 Completed
Efgartigimod FcRn NCT04280718 Recruiting
TAK-771 (SCIg) N.A NCT05084053 Recruiting
SAR445088 C1s NCT 04658472 Recruiting

IVIg = intravenous immunoglobulin, SCIg = subcutaneous immunoglobulin, HSCT = hematopoietic stem cell transplantation, FcRn = neonatal Fc receptor, N.A = not available.

自己免疫性ノドパチー

自己免疫性ノドパチー(autoimmune nodopathies,以下ANと略記)は2021年のEAN/PNSのCIDP診療ガイドライン改訂においてCIDPから独立した比較的新しい疾患概念であり,主に末梢神経の傍絞輪部に局在する蛋白に対するIgG4抗体が陽性となる疾患群を指す16.標的蛋白として,髄鞘形成細胞側から発現するneurofascin 155(NF155),軸索側から発現するcontactin 1(CNTN1)とcontactin-associated protein 1(CASPR1)などが知られている.ANはこれまではCIDPに包括されていたため,CIDPの標準的治療であるIVIg,PP,副腎皮質ステロイドによる治療が行われてきたが,IVIgに抵抗性である症例が多いことが各抗体陽性例に共通する特徴の一つと言える29

ANは治療抵抗例が多いが,これまでにCD20のモノクローナル抗体であるrituximabによる治療によって難治性の振戦を含めた臨床症状の改善と抗体価の低下が得えられた症例が海外を中心に多数報告されている30.ANの有病率はCIDPの約10%程度と推定されるため,ANのみを対象とした大規模な臨床試験を行うことは難しいと考えられる.しかしながら,名古屋大学を中心とした本邦4施設においてANを含めた難治性CIDPに対するrituximabの第II相試験(RECIPE)が実施された.RECIPE試験ではANは15例の登録を目標としており,2:1に割り付けしてrituximabまたはプラセボが投与される31.現時点で本試験はAN(IgG4自己抗体陽性CIDP)を対象とした唯一の臨床試験である.既に試験は完遂してその結果が期待されているが,2022年のPNS annual meetingにおいて,治療開始26,38,52週後のいずれかの時点で調整Inflammatory Neuropathy Cause and Treatment(INCAT)disability scoreが1以上改善した患者の割合がrituximab群で66.7%,プラセボ群で20%であったことが発表されている32

多巣性運動ニューロパチー

MMNは緩徐進行性の非対称性の上肢優位の運動障害を呈し,NCSでの伝導ブロックを特徴とする33.MMNの治療は複数のRCTにおいて唯一IVIgの有効性が証明されているが34,副腎皮質ステロイドは増悪する症例が報告されているため通常使用しない35.またPPに関しても有効性は示されていない.MMNではIVIgで改善が得られた後に再増悪や緩徐進行をみとめることがあるが,MMNの進行抑制に3週間隔のIVIgが有効であることが示されており本邦で使用可能となっている36.一方,同様の慢性免疫介在性ニューロパチーであるCIDPでは在宅治療が可能となるSCIgが維持療法として本邦で承認されているがMMNでは承認されておらず使用することができない.海外からはMMNにおいてもSCIgが有効であるとの報告が散見されており37)~39,現在MMNにおけるSCIgの第III相試験が本邦で実施されている.

MMNにおける自己抗体として約半数の患者でガングリオシドGM1に対するIgM抗体が検出されるが,その病的意義はまだ十分に解明されていない.しかしながら,これまでにIgM GM1抗体が補体を活性化させることが示唆されており4041,さらに補体の活性化が重症度と相関するとの報告がある42.また,iPS細胞から分化させた運動ニューロンを用いた実験系において,IgM抗体が運動ニューロンのGM1に結合して補体を活性化することが示されている43.このiPS細胞由来の運動ニューロンを用いた解析において,運動ニューロンには補体受容体と補体調節因子であるCD59が発現していることが示されており,さらに補体C2抗体のARGX-117によって補体活性化が抑制されることが報告されている44.この結果によって,現在MMNではARGX-117の第II相試験が欧米で進行中である(Table 3).

Table 3 Recent clinical trials in multifocal motor neuropathy.

Treatments Targets ClinicalTrials.gov Identifier Recruitment Status
NPB-01 (IVIg) N.A NCT01827072 Completed
Hyqvia (IVIg) N.A NCT 02556437 Completed
TAK-771 (SCIg) N.A NCT05084053 Recruiting
ARGX-117 C2 NCT05225675 Recruiting

IVIg = intravenous immunoglobulin, SCIg = subcutaneous immunoglobulin, N.A = not available.

MAG抗体関連ニューロパチー

IgM M蛋白を伴うニューロパチーでは約半数でMAGに対するIgM抗体がみられ,本抗体陽性例はMAG抗体関連ニューロパチーと呼ばれる.MAG抗体関連ニューロパチーは緩徐進行性の深部感覚障害優位の感覚運動障害を呈する.CIDPの標準的治療に準じて副腎皮質ステロイド,IVIg,PPが施行されることがあるが,一般的に難治性であり確立した治療法はまだない45.海外を中心にCD20抗体のrituximabが有効であった症例が多数報告されており,これまでに二つのRCTが行われている4647.これらのRCTでは主要評価項目において有効性を示せなかったが,10 ‍m歩行時間では改善がみられており有効である可能性が残る.現在フランスにおいて,rituximabの反応性が良好と推定されるMAG抗体関連ニューロパチー患者(発症2年以内,MAG抗体力価が10,000 BTU以上)を対象としたrituximabの第III相試験(THERAMAG:NCT05136976)が計画されている.

原発性マクログロブリン血症やIgM型の意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症の患者においてMYD88L265Pの変異が高率にみられることが知られている48.一方,MAG抗体関連ニューロパチー患者においてもMYD88L265P変異が60%以上でみられており4950,ブルトン型チロシンリン酸化酵素(Bruton’‍s tyrosine kinase,以下BTKと略記)阻害薬などの新規の分子標的薬を投与したMYD88L265P変異のあったMAG抗体関連ニューロパチー患者11例中9例で神経症状の改善がみられている50MYD88L265P変異を伴うMAG抗体関連ニューロパチー患者ではrituximabに抵抗性であってもBTK阻害薬が治療選択肢の一つとなる可能性があり,今後の報告の蓄積が期待される.

また,病原に特異的に作用する新規治療としてMAGが有するHNK-1エピトープを模倣した合成糖鎖ポリマーであるPPSGGを投与することによってマウス動物モデルにおいてMAG抗体価の減少がみられている51.さらに,霊長類の坐骨神経においてもPPSGGが髄鞘へのMAG抗体の結合を阻害したことが示されている52.これらの結果により,欧州においてPPSGG(PN-1007)の第I相試験が行われていたが現在は中止となっている(Table 4).今後,様々な免疫性神経疾患においてこのように病原に特異的に作用して神経障害を抑制するような治療薬の開発がみられるようになる可能性がある.

Table 4 Recent and future clinical trials in anti-MAG neuropathy.

Treatments Targets ClinicalTrials.gov Identifier Recruitment Status
Rituximab CD20 NCT00259974 Completed
Rituximab or Acalabrutinib CD20 or BTK NCT05065554 Recruiting
Rituximab CD20 NCT05136976 Not yet recruiting
Lenalidomide Cereblon NCT03701711 Active, not recruiting
PPSGG MAG antibody NCT04568174 Terminated

MAG = myelin associated glycoprotein.

おわりに

免疫介在性ニューロパチーにおける治療として,長らく副腎皮質ステロイド,IVIg,PPが行われてきた.CIDPにおいてSCIgの承認によって患者が在宅で自己注射可能となった点については本邦における近年の治療の進展といえる.しかしながら,MMNにおいてSCIgはまだ未承認であり,GBS,CIDP,MMNでは現在承認されている治療を行なっても治療抵抗例が少なからず存在する.また,自己免疫性ノドパチーは治療抵抗例が多く,MAG抗体関連ニューロパチーは難治性で未だに確立した治療が無い.これらの問題を打開するべく様々な試験が進行中であるが,急性および慢性の免疫介在性ニューロパチーは希少疾患であるため患者数が少なく新規治療薬開発がスムーズにいかない点が課題と言える.今後,免疫介在性ニューロパチーの新規治療薬候補となるB細胞および補体を標的とした抗体製剤やFcRn阻害薬の有効性が示され(Fig. 1),本邦において難治例の診療のための治療選択肢が広がることを期待したい.

Fig. 1 Possible novel therapeutic targets and treatments in immune-mediated neuropathies.

(A) CD20 antibodies deplete B cells and inhibit antibody production. (B) Complement antibodies inhibit activation of complement. (C) IdeS cleaves IgG antibodies and inhibits activation of complement and ADCC. (D) FcRn inhibitors reduce IgG antibodies by inhibition of recycling of them. IdeS = IgG-degrading enzyme of Streptococcus pyogenes, FcRn = neonatal Fc receptor, MAC = membrane attack complex, ADCC = antibody dependent cellular cytotoxicity.

文献
 
© 2024 Japanese Society of Neurology

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top