Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Mononeuropathy multiplex caused by cutaneous arteritis diagnosed by skin biopsies for emerging atypical erythema on upper limbs following neurological symptoms: a case report
Yamato NakamuraKiyohide UsamiTomohiko TaniguchiSaeko NakajimaYo KakuRyosuke Takahashi
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2024 Volume 64 Issue 1 Pages 33-38

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要旨

33歳女性.アトピー性皮膚炎に対して加療中に右手掌の異常感覚が出現し,3ヶ月の経過で異常感覚,筋力低下が四肢に拡大し入院した.右三角筋,右第一背側骨間筋,右前脛骨筋などに筋力低下を認め,神経伝導検査では多発性単神経炎が示唆された.入院直前に前腕に小径の皮疹が出現したが,下肢には皮疹を認めず,性状や分布からは血管炎を疑いにくいとされた.しかし神経所見を考慮すれば血管性病態の評価が不可欠であり,生検の結果中径動脈の血管炎が示唆され,皮膚動脈炎に伴う血管炎性ニューロパチーと診断した.多発性単神経炎を疑う場合には全身の皮疹の検索と積極的な皮膚生検が診断に資すると考えられる.

Abstract

A 33-year-old female was admitted to our department complaining of multifocal paresthesia and weakness of the upper and lower extremities that had developed over the previous three months. She had also been undergoing treatment for atopic dermatitis with dupilumab, an anti-interleukin 4/13 receptor antibody. A nerve conduction study revealed multifocal axonal sensorimotor neuropathy of bilateral limbs. On admission, a small erythema appeared on her right forearm, but it was atypical for vasculitic skin lesions due to its location and time course. Nonetheless, a biopsy revealed medium-sized vessel vasculitis. The patient was therefore diagnosed with vasculitic neuropathy caused by cutaneous arteritis. Methylprednisolone pulse therapy with prednisolone and azathioprine markedly improved her symptoms. A skin biopsy is useful when mononeuropathy multiplex is suspected, even if the skin findings are atypical for vasculitic rash.

はじめに

皮膚動脈炎(cutaneous arteritis,以下CAと略記)は2012年に改訂された血管炎のChapel Hill分類において皮膚型結節性多発動脈炎に代わる疾患概念として新たに定義されたsingle organ vasculitis(SOV)であり1,一部に末梢神経障害を併発することが知られている.今回我々が経験した症例では,多発性単神経炎を疑う神経症状が先行するも,皮膚を含めた臓器障害が示唆されずに経過し,発症3ヶ月後となる精査入院の直前に血管炎としては非典型的な皮疹が上肢に出現した.その皮疹を生検することによりCAによる血管炎性ニューロパチーと診断し得たため,既報告を踏まえた考察とあわせて報告する.

症例

症例:33歳女性.右利き

主訴:両上下肢の異常感覚,筋力低下

既往歴:アトピー性皮膚炎,気管支喘息(最終発作:20歳代).

薬剤歴:デュピルマブ(抗IL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体製剤).新型コロナウイルスmRNAワクチン接種歴なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:アトピー性皮膚炎に対して30歳時よりデュピルマブでの治療が開始され,皮膚症状が安定したため32歳時に一時中断されたが,再増悪し33歳時(入院4ヶ月前)より再開された.同時期にCOVID-19に罹患したが軽症で回復した.入院3ヶ月前に右母指にはじまり,掌側全体に拡大する異常感覚(“正座の後のようなジンジン感”)と,右手の筋力低下を認め,翌月に当科に紹介となった.受診時には尺骨神経支配域に異常感覚および筋力低下がめだち,肘部管症候群が疑われ外来にて精査する方針となったが,その後左足裏,左下腿外側にも異常感覚(ピリピリとした疼痛)が出現し,1ヶ月後には右足底にも疼痛が拡大し,躓き易くなったため精査入院となった.経過中に気管支喘息の再燃,アトピー性皮膚炎の増悪はなかった.

入院時現症:身長160 ‍cm,体重48.5 ‍kg.血圧123/66 ‍mmHg,脈拍73/分,整.SpO2 99%(室内気),体温36.6°C.体表のリンパ節腫脹を認めず,胸腹部に異常所見を認めなかった.全身の皮疹を検索すると,右前腕背側にごく淡い小紅斑を認めた(Fig. 1A).左前腕にもごく小さな浸潤を触れない紫斑(Fig. 1B)を認め,いずれも入院直前に出現したということであった.なお下肢には特記すべき皮膚所見を認めなかった.神経学的診察では,意識,高次脳機能に異常を認めず,脳神経は正常であった.握力は右10.5 ‍kg,左19.0 ‍kgと右で低下しており,徒手筋力テスト(manual muscle test,以下MMTと略記)では右半身において三角筋MMT 4,上腕二頭筋MMT 5,上腕三頭筋MMT 5,前腕手根伸筋群MMT 5,総指伸筋MMT 5,尺側手根屈筋MMT 4,橈側手根屈筋MMT 5,短母指外転筋MMT 5,深指屈筋(I, II)MMT 5,第一背側骨間筋MMT 2,深指屈筋(III, IV)MMT 3と,右腋窩神経,右尺骨神経の障害が考えられた.また右下肢は下垂足を呈し,前脛骨筋MMT 2,ヒラメ筋MMT 5,長母趾伸筋MMT 3,母趾内転筋MMT 5と,右腓骨神経の障害が考えられた.左上下肢のMMTは保たれていた.腱反射は左上腕三頭筋腱,右膝蓋腱,右アキレス腱で低下していた.感覚については右手掌から指先(第1~5指)にかけての異常感覚,両側足底・下腿外側,右足背に異常感覚および痛覚鈍麻を認め,右正中神経,右尺骨神経,両側腓骨神経,両側脛骨神経の支配域として矛盾なかった.

Fig. 1 Dermatologic findings on admission.

(A) Small erythema on the right anterior forearm. (B) Small non-pulpable purpura on left posterior forearm. Black markers are dotted around the lesions for a punch biopsy.

検査所見:血液検査では血算,生化学所見に異常を認めず,好酸球の上昇を認めなかった.赤血球沈降速度は67 ‍mm(正常範囲:3~15 ‍mm)と上昇を認めた.CRPは0.19 ‍mg/dl.抗好中球細胞質抗体(ANCA),抗核抗体は陰性で,アンギオテンシン転換酵素(ACE)は11.3 ‍IU/ml(正常範囲:7.7~29.4 ‍IU/ml)であった.HIV抗体,HCV抗体は陰性.髄液検査では細胞数上昇を認めず,蛋白は37.5 ‍mg/dl,IgG indexは0.72,オリゴクローナルバンドは陰性であった.尿検査では蛋白,潜血,糖を認めず,円柱の出現を認めなかった.入院前に行った末梢神経‍伝導検査では,複合筋活動電位(compound motor action potential: CMAP)振幅の低下を右正中,右尺骨,両側橈骨神経で認め,感覚神経活動電位(sensory nerve action potential,以下SNAPと略記)振幅の低下を右正中,右尺骨神経で認めた.入院後のフォローアップでは左正中,左尺骨神経においてもSNAPの低下を認めた(Table 1).躯幹部造影CTでは,前縦隔に径9 ‍mm程度の造影される結節影を認めたが,他に有意なリンパ節腫脹は認めなかった.

Table 1 Nerve conduction study findings.

On admission* 2 weeks after admission
MNC Right Left Right Left
Median MCV (m/s) 57.7 64.7 59.0 70.0
CMAP (mV) 6.5 9.9 7.9 10.1
Ulnar MCV (m/s) 56.5 64.4 57.3 62.3
CMAP (mV) 4.1 6.5 5.4 8.2
Radial MCV (m/s) 56.6 60.0 50.4 61.5
CMAP (mV) 3.2 3.6 2.4 3.0
Tibial MCV (m/s) 46.0 45.1 55.8 48.3
CMAP (mV) 9.6 6.6 9.7 8.9
Fibular MCV (m/s) N/A N/A N/R 43.3
CMAP (mV) N/A N/A N/R 1.6
SNC
Median SNAP (μV) 25.6 68.0 22.9 18.1
Ulnar SNAP (μV) 5.6 38.5 7.7 7.6
Radial SNAP (μV) 20.1 33.6 33.8 61.2
Sural SNAP (μV) 22.7 15.9 21.1 19.0

MNC: motor nerve conduction study, SNC: sensory nerve conduction study, MCV: motor nerve conduction velocity, CMAP: compound motor action potential, SNAP: sensory nerve action potential, N/A: not applicable, N/R: no response. *MNC/SNC were conducted 2 weeks before admission for bilateral median and ulnar nerves, and one day before admission for the other nerves.

入院後経過:多発性単神経炎を示唆する臨床所見から,背景疾患として血管炎を疑った.発熱や体重減少,高血圧,ベースラインからの腎機能の悪化,尿検査異常,消化器症状を認めなかったことから他の臓器病変は疑われず,非全身性血管炎性ニューロパチー(nonsystemic vasculitic neuropathy,以下NSVNと略記)が考慮された.しかし,診断のための腓腹神経生検については同神経支配域に感覚障害を認めず,後遺症や侵襲の観点から実施が躊躇われていた.そこで新規に出現した皮疹を皮膚生検することの診断的意義について皮膚科と協議した.皮疹は上肢に出現しており,下肢にはみられない点は血管炎として非典型的であると考えられた.また,確かに皮疹の一部は紫斑様ではあるが,所見として極めて軽微であり,生検にて陽性所見が見出される可能性は低いとも考えられた.しかし,神経学的に血管炎が第一に考慮されることを踏まえ,病態精査の必要を患者に説明した上で左右前腕の紅斑および下腿の無疹部より生検を行った.その結果,右前腕の小紅斑(Fig. 1A)より採取した検体で,皮下結合組織中の中径動脈にリンパ球などの単核球を主体とした血管炎が示唆された.内膜にリング状のフィブリン沈着が見られ,CAと診断した(Fig. 2).ステロイドパルス療法を2コース施行し,寛解維持療法としてプレドニゾロン25 ‍mg/日を開始した.また,NUDT15遺伝子コドン139多型はArg/Argであることを確認し,アザチオプリンを25 ‍mg/日より開始し,50 ‍mg/日に増量した(Fig. 3).ステロイドパルス療法1コース目施行中から,両下肢に複数の有痛性紅斑~紫斑が新規に出現し,その後経過観察中に徐々に消退した(Fig. 4A, B).赤血球沈降速度は治療導入とともに低下傾向となり,入院2ヶ月後には15 ‍mmとなった.アトピー性皮膚炎に対するデュピルマブでの治療はステロイド内服により皮膚症状のコントロールがついたことも踏まえて中断し,外用薬で経過観察することとなった.パルス療法中より四肢の筋力低下は改善し,握力は右21 ‍kg,左25 ‍kgまで上昇し,下垂足も見られなくなった.右足趾の異常感覚(疼痛)に対して,ミロガバリンベシル酸塩での対症療法を行い,外来でのフォローアップを継続することとした.なお,前縦隔結節については免疫療法の導入後に退縮したため,定期的な画像検査にてフォローアップすることとなった.

Fig. 2 Hematoxylin and eosin staining of skin punch biopsy specimen.

Note inflammatory cell infiltration on small-medium sized vessels (arrows) and marked fibrin deposition on the vascular lumen (arrowhead).

Fig. 3 Clinical and treatment course.

She was treated with methylprednisolone pulse therapy and oral prednisolone and azathioprine. New erythema and papule appeared during methylprednisolone pulse therapy and improved following the recovery of her muscle weakness. Erythrocyte sedimentation rate (ESR) decreased concordantly with clinical symptoms. COVID-19: coronavirus disease 2019.

Fig. 4 Dermatologic findings that appeared during methylprednisolone pulse therapy.

(A) Multiple erythema or purpura on bilateral legs (arrows). (B) Purpura on the right foot.

考察

本症例は3ヶ月の経過で神経症状が先行し,その後に出現した皮疹の病理所見からCAの診断に至った.CAは皮膚外症状として発熱,関節痛に加え,末梢神経障害を合併することが知られている1.神経症状を有するCAと,結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa,以下PANと略記)の異同については議論があり2,皮疹を認めない部位に神経症状がある場合はPANとする診断基準も提唱されている3.なお,CA/PANと本症例の先行疾患との関係であるが,アトピー性皮膚炎に対するデュピルマブの使用と好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の関連を示唆する症例報告は散見される4が,CA/PANとの関係を示す文献は検索範囲で認めなかった.COVID-19との関連についても,新型コロナウイルスmRNAワクチン接種後にCA/PANを発症した報告は2例56認めたが,COVID-19との関連を示唆したものは認めなかった.いずれの先行疾患,薬剤も免疫学的な修飾から血管炎の発症に関与した可能性を否定はできないが,それ以上の証左は得られなかった.

当初,本症例ではNSVNといえる臨床像をもちながら,神経症状に遅れて上肢に皮疹が出現し,治療導入後に下肢にも皮疹が出現した(Fig. 3).この経時的な臨床所見の推移は,NSVN,CA/PANによる末梢神経障害の診断を考える上で重要な示唆を与えると考えられる.NSVNの診断にはCAの除外が必要とされる7が,NSVNにおいて無疹部の皮膚生検から血管炎が示唆されうること8や,NSVNとされた症例において後にCAの診断基準を満たす例があること9が報告されている.また,NSVNの臨床像を呈しながら,18F-FDG PET CTで無症状ながら直腸に集積を認め,同部位の生検より血管炎が示唆されたため全身性血管炎の診断に至った1例の報告もある10.本症例の経験も合わせれば,伊佐早らも既報にて示唆したように2NSVNとCA/PANは同一スペクトラム上の疾患と捉えられ,それらの疾患概念には重複があると考えられる.NSVNとされている症例の中には,本症例のように,軽微だが特異的診断のカギとなる皮膚症状を伴っている可能性も否定できず,臨床的にNSVNが疑われる場合には,皮膚所見の出現に注意しつつ全身をくまなく診察することが必要であろう.

CA 22例の皮膚所見を解析した報告では,全例で下肢を含んだ部位に皮疹がみられ,性状としては潰瘍,網状皮斑,紫斑であったとされる11.しかし,本症例の皮疹は上肢に出現し,かつ一部は紅斑と非典型的なものであった.それでも皮膚生検からはCAの診断に足る病理所見を得られた.NSVNを疑う症例で全身を診察した結果皮疹を発見した場合は,神経生検と比較し侵襲度の低い皮膚生検で診断に至ることができる可能性を念頭に,積極的に皮膚生検を行うことが重要である.

Notes

本報告の要旨は,第124回日本神経学会近畿地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

文献
 
© 2024 Japanese Society of Neurology

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