Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of young onset cerebral amyloid angiopathy associated with dural grafting
Kengo FurutsukaAya MurakamiHaruka IwamuraKosuke MiyakeAkio AsaiYusuke Yakushiji
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2024 Volume 64 Issue 10 Pages 736-741

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要旨

症例は47歳男性.42歳から3回の脳葉出血の既往があった.今回,突然発症の運動性失語と右片麻痺で受診し,頭部CTで左前頭葉に脳葉出血を認めた.開頭術痕を契機に,6歳時のヒト死体由来乾燥硬膜移植の既往が明らかになった.病理標本は得られなかったが,2022年に提唱された医原性脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy,以下CAAと略記)の診断基準案に則り,50歳未満の発症,髄液中アミロイドβの低下,遺伝的素因を認めないことから,本症例を医原性CAAと臨床診断した.若年の脳葉出血の原因として脳外科手術歴がある場合は,医原性CAAの可能性も検討されるべきである.

Abstract

A 47-year-old man was admitted to our hospital because of sudden-onset motor aphasia and right hemiplegia. His past medical history was notable for left craniotomy and hematoma evacuation following a traumatic brain hemorrhage approximately 40 years earlier, for which dural grafting was performed. He also had a history of three lobar hemorrhages in the left hemisphere since the age of 42 years. Brain CT imaging revealed an acute left frontal lobar hemorrhage. His initial brain MRI conducted at our hospital demonstrated hemorrhagic findings with left hemisphere dominance, including acute and old lobar hemorrhage, cortical superficial siderosis, and cerebral microbleeds. Cerebrospinal fluid analyses demonstrated reduced levels of cerebral amyloid-β 42, and elevated total tau. His apolipoprotein E genotype was ε3/ε3. Whole-exome sequencing did not detect mutations in genes associated with Alzheimer’s disease, including presenilin 1, presenilin 2, and amyloid precursor protein. These findings led to a clinical diagnosis of iatrogenic cerebral amyloid angiopathy (CAA) using recently proposed diagnostic criteria, which do not require pathological evaluation of the brain. Iatrogenic CAA should be considered as a cause of lobar hemorrhage in young patients, especially those with a past history of neurosurgery.

はじめに

脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy,以下CAAと略記)は元来,高齢者の脳葉出血の原因として知られる1)~4.一方,稀ながらも50歳未満で発症する若年性CAAもあるが,その多くは遺伝的素因を有する一群と考えらえていた.近年,若年性CAAの原因疾患として幼少期の脳外科手術の数十年後に生じる医原性CAAの概念が注目されている5)~10.しかし,これまでは病理所見に基づいて診断された報告が主であったが,2022年に病理診断を必須としない診断基準案が提唱された11.今回,我々は繰り返す脳葉出血を呈する若年者において,同診断基準案に則り,幼児期のヒト死体由来乾燥硬膜移植による医原性CAAと診断した1例を経験したので報告する.

症例

症例:47歳,男性

主訴:言葉の出にくさと右片麻痺の増悪

既往歴:6歳時,交通外傷による左急性硬膜下血腫に対して開頭血腫除去術を施行.42歳時に左頭頂葉皮質下出血,46歳4ヶ月時に左前頭葉皮質下出血,47歳6ヶ月時に左前頭葉皮質下出血を発症し,いずれも保存的に加療した.後遺症として軽度運動性失語と軽度右片麻痺が残存した.高血圧,糖尿病,脂質異常症の既往はなし.

家族歴:脳出血(祖母).

内服歴:なし.

発達歴:問題なし.

生活歴:日常生活は自立.喫煙30本×12年(14年前に禁煙).飲酒歴なし.

現病歴:2022年6月某日,言葉の出にくさの悪化と右片麻痺の増悪を突然認め,救急搬送された.

入院時身体所見:

一般身体所見:身長172 ‍cm,体重80 ‍kg,体温37.5°C,血圧138/70 ‍mmHg,脈拍97回/分,SpO2 98%(室内気),呼吸数20回/分.一般身体所見に特記すべき異常はなかった.

神経学的所見:Japan Coma Scale I-3,Glasgow Coma Scale E4 V2 M6であった.運動性失語および右上下肢の徒手筋力テスト(Manual Muscle Test,以下MMTと略記)は2/5と筋力低下を認めた.知覚障害はなし.腱反射は左右差なく,Babinski徴候は右側で陽性であった.

検査所見:血液検査では白血球数8,500/μl,Hb 15.7 ‍g/dl,血小板数215 × 103lと基準内であった.凝固検査ではDダイマー,PT,APTT,フィブリノゲン,プロテインC活性,プロテインS活性はいずれも正常値であった.一般生化学検査ではAST 39 ‍U/l,ALT 68 ‍U/l,γ-GTP 283 ‍U/lと軽度肝・胆道系酵素上昇を認めた.その他異常所見はなかった.免疫学的検査では,抗dsDNA抗体,myeloperoxidase-anti-neutrophil cytoplasmic antibody(MPO-ANCA)は陰性であった.

画像所見:頭部単純CTにて,左前頭葉に脳葉出血を認めた(Fig. 1A).T2*強調画像では,右前頭葉や頭頂葉に脳微小出血,左前頭葉に皮質脳表ヘモジデリン沈着(cortical Superficial Siderosis: cSS)を認めた(Fig. 1B).同画像上で海綿状血管腫を疑う所見は認めなかった.FLAIR画像ではmultispotパターンの白質高信号は認めなかった(Fig. 1C).T2強調画像では,半卵円中心領域の血管周囲腔拡大はめだたなかった(Fig. 1D).MRAでは,血管壁異常やシャント性疾患,動脈瘤は認めず(Fig. 1E),MRVでは静脈洞血栓を示唆する所見はなかった.

Fig. 1 Brain CT and MRI at admission.

Brain CT scan shows lobar hemorrhage in the left frontal lobe (A). T2*-weighted image reveals multiple strictly lobar cerebral microbleeds in the right hemisphere (B, arrowheads), cortical superficial siderosis in the left frontal lobe (B, arrow), and no evidence of cerebral cavernous malformation. FLAIR images show no white matter hyperintensities with a multispot pattern (C). T2-weighted images show no moderate to severe perivascular spaces in the area of centrum semiovale (D). MRA reveals no vascular wall abnormalities, cerebral arteriovenous malformation, or cerebral aneurysms (E). Three-dimensional CT image demonstrates surgical scar on left temporal region (F).

入院後経過:出血の拡大はなく保存的加療とした.出血源精査目的に第10病日に脳血管造影検査を施行したが,明らかな血管奇形や動脈瘤やシャント性疾患などは認めなかった.入院時の頭部CTで脳葉出血部位近傍に開頭術痕を認めたため(Fig. 1F),改めて病歴を聴取したところ,前述の既往歴に記載した6歳時の交通外傷による急性硬膜下血腫に対する開頭血腫除去術の際に死体硬膜を用いた硬膜再建術が行われていることが明らかになった.当該医療機関に照会したところ,左側頭部の血腫除去の際に硬膜一部切除と同部位に4 × 10 ‍cmのヒト死体由来乾燥硬膜(商品名:Lyodura)を用いた硬膜再建を行っていたことが確認された.第19病日に施行した脳脊髄検査では,髄液中のアミロイドβ(Aβ)42は154.4 ‍pg/ml(カットオフ値289.2 ‍pg/ml以上)12と低値を示し,Aβ42/40比は0.052(カットオフ値0.068以下)13と低値であった.Aβ40は2,941.8 ‍pg/mlであった.p-tauは19.8 ‍pg/ml(カットオフ値41.1 ‍pg/ml以上)12と上昇を認めず,t-tauは1,511.5 ‍pg/ml(カットオフ値408.3 ‍pg/ml以上)12と高値を示した.プレセニリン1遺伝子,プレセニリン2遺伝子,アミロイド前駆タンパク遺伝子の変異はなく,アポリポプロテインEの遺伝子型はε3/ε3であった.病理標本は得られなかったが,50歳未満の発症,髄液中Aβの低下,若年性アルツハイマー病関連の遺伝的素因や血管危険因子がなかったこと,および硬膜移植を含む脳外科手術の既往もあることから医原性CAA診断基準案11に基づいて医原性CAAと臨床診断した.入院後は降圧管理とリハビリテーションを行い,右上下肢はMMT 4/5程度,立位保持可能まで改善した.経過中,認知機能の低下は認めなかった.第40病日にリハビリテーションを継続する目的で転院となった.退院後は降圧管理により,収縮期血圧は110~120 ‍mmHgで管理できていたが,4度目の出血から1年後に頭痛と視覚障害を認め当院外来受診した.頭部単純CTで右側頭葉に皮質下出血を認め(Fig. 2A),右後頭葉に低吸収域を認めた(Fig. 2B).T2*強調画像では,右側頭葉と右後頭葉に新規脳葉出血を認めた(Fig. 2C, D).急性期右側頭葉脳葉出血および亜急性期右後頭葉脳葉出血と診断し,保存的加療の方針とした.その後も外来にて保存的加療を継続している.

Fig. 2 Brain CT and MRI at recurrence.

The brain CT show lobar hemorrhage in the right temporal lobe (A, arrowhead). A lesion with low attenuation is also seen in the right occipital lobe (B, arrowhead). T2*-weighted images show new lobar hemorrhages corresponding to above mentioned high (A) and low (B) attenuation area (C–D, arrows).

考察

近年,頭部外傷や脳外科手術,硬膜移植後,30~40年の潜伏期間を経て医原性CAAをきたすことが報告されており5)~10,若年性脳葉出血を見た場合は原因として,医原性CAAを考慮する必要がある.本例は,繰り返す若年性脳葉出血の原因として,問診と頭部CT上の手術痕を手がかりに,幼少期のヒト死体由来乾燥硬膜移植由来の医原性CAAと臨床診断したが,特筆すべきは2022年に提案された病理所見が必須でない診断基準案が有用であった点である.診断基準案では1. 発症年齢が55歳未満であること.2. 脳外科手術などの汚染暴露の履歴.3. CAAを示唆する所見すなわち臨床的特徴もしくは放射線学的特徴があること.4. Aβ蓄積の証拠.5. 遺伝的要因の除外が挙げられている.本例では1~5を全て満たしており医原性CAA,probableに該当する(Table 1).本診断基準案の特徴として病理所見を必要としない点は今後の臨床現場での診断機会を増加させるであろう.

Table 1 Proposed diagnostic criteria for iatrogenic cerebral amyloid angiopathy11).

医原性脳アミロイド血管症(CAA)の診断基準案
1. 発症年齢
A. 55歳未満(修正Boston基準における「possible」あるいは「probable」の年齢閾値未満)
注:年齢のみで診断を除外することはできない.55歳以上であっても他の基準(以下に詳述)を満たす場合には診断を考慮するべきである.
2. 暴露の可能性のある既往歴;以下の1項目以上
A. 死体ヒト中枢神経系組織(脳,髄膜,下垂体由来ホルモンなど)を使用する処置または治療
B. 脳神経外科的処置(脳,脊髄,後眼部など)
注:上記以外による曝露の可能性があり,他のすべての基準を満たす場合,診断を考慮することができる
3. CAAの診断に一致する臨床的および画像的特徴
A. 臨床的特徴:来院時または経過中に以下の1項目以上を満たす
 1)脳内出血または円蓋部くも膜下出血(単発または多発)
 2)一過性局所神経症候(amyloid spells)
 3)焦点発作(二次性全般化の有無に関わらない)
 4)他の原因に起因しない認知機能障害(脳卒中を含む)
B. 画像的特徴:以下の1項目以上を満たす
 1)CT:
  a)脳葉出血
  b)円蓋部くも膜下出血
 2)MRI(血液組成の変化に鋭敏なシークエンス;T2*強調MRI, SWI):
  a)脳出血部位から離れた,脳葉優位の脳微小出血
  b)皮質脳表ヘモジデリン沈着(限局性あるいはびまん性)
4. 中枢神経系における脳アミロイドβ(Aβ)蓄積の証拠
A. アミロイドPET検査陽性(ただしこれは血管内Aβ沈着に特異的でない)
B. 髄液中のAβ-42, Aβ-40の低下
C. 脳生検で血管内Aβ沈着が確認され,かつ顕著な炎症所見がない
注:アミロイドPET検査で陽性であっても使用するトレーサーによっては必ずしもAβの蓄積を特異的に示すとは限らない.髄液中のAβ測定値,脳生検所見,非Aβ CAAの遺伝子検査(詳細は後述)のいずれかを行うことが望ましい.
著明な炎症があれば,CAA関連炎症またはアミロイドβ関連血管炎の可能性がある.
5. 遺伝学的要因の除外
A. APPの重複(21トリソミーを含む)
B. APP,PSEN1,PSEN2の変異
中枢神経系へのAβ沈着が他の方法(髄液中のAβ測定,脳生検)で確認されない場合は,非AβCAAを引き起こす変異(CST3, TTR, GSN, PRNP, ITM2B)の次世代シーケンシングを考慮する.
診断: Probable: 2, 3, 4, 5を満たす
Possible: 1, 2, 3を満たす

文献11)より改変を含め,許諾を得て転載.

PET, positron emission tomography(陽電子放射断層撮影):SWI, susceptibility weighted images(感受性強調画像).

診断基準案を用いて診断された医原性CAAを49症例まとめた検討において,臨床症状・画像的特徴は孤発性CAAと同様で臨床的には脳葉出血,一過性局所神経症候,痙攣等を生じることが示されており,本症例同様に医原性CAAにおいて脳葉出血が57%と最も頻度が高かった9.同報告における医原性CAAのうちε2/ε3が27%,ε3/ε4が8%,ε3/ε3が65%であり,一般人口におけるε2キャリアの割合が1~15%であることを考慮すると14)~16,ε2キャリアの頻度が高い.本症例においてはε3/ε3であったが,ε2は孤発性CAA同様に医原性CAAにおいても血管破綻の病態に関与しているのかもしれない1718

医原性CAAの発症メカニズムは未だ不明だが,死体中枢神経組織からのAβ seedの直接伝播によって引き起こされていると考えられており,脳の表層から髄膜,表層皮質血管にAβが優先的に沈着する可能性が示唆されている19.日本では,1983年から1997年までの間に20万人以上が硬膜移植を受けたと推定されている20.2015年以降に報告された硬膜移植後の医原性クロイツフェルト・ヤコブ病患者におけるCAA病理所見の研究を契機に1921)~23,原因不明の若年性CAAの原因として,硬膜移植や頭部外傷による獲得性CAAが認知され近年世界的に報告されている.この事実は,日本においても未だ認識されていない医原性CAAの存在が疑われるべきであり,30~40年程度の潜伏期間を考慮すると5)~10,2040年代頃までは死体硬膜移植に関連する医原性CAAが今後も発症することが考えられる.

一方,死体由来中枢神経組織を用いた脳外科手術歴のない症例においても,獲得性CAA発症の報告もある.この説明として,脳外科手術歴がある症例の場合は,手術内容に関する詳細は不明ながらも死体由来硬膜を使用した可能性と,Aβ seedsに汚染された手術用具を介したAβ伝搬の二つの可能性が考えられる11.一方で,頭部外傷歴はあるが脳外科手術歴のない症例の場合は,Intramural peri-arterial drainage(IPAD)やGlymphatic SystemといったAβ排泄機構の破綻をきたす可能性が示されており1024,明確な死体由来中枢神経組織を用ないケースでのCAA発症メカニズム解明は今後の課題であろう.

今回,繰り返す若年性脳出血の原因として医原性CAAの診断に至った症例を経験した.本例のような若年性脳葉出血では,CAAの臨床症状・画像所見の特徴の有無や外科的手術の既往を確認し,医原性CAAの可能性を念頭におく必要がある.

Acknowledgments

Aβの測定と遺伝子検査を測定頂きました新潟大学 脳研究所 遺伝子機能解析学分野春日 健作先生,池内 健先生に深謝致します.

Notes

本報告の要旨は,第125回日本神経学会近畿地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

本研究は文科省科研費基盤研究C「21K10510」の助成を受けたものです.

文献
 
© 2024 Japanese Society of Neurology

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