Rinsho Shinkeigaku
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Pathophysiology of vertebral artery stump syndrome
Miharu YanagidaYasushi HosoiTatsuhiro KawanoYusuke OtakeHiramatsu HisayaMichiko Ito
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2024 Volume 64 Issue 11 Pages 824-825

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拝復

我々の論文「CTアンギオグラフィーによってvertebral artery stump syndromeを疑った1例」1に関して,vertebral artery stump syndrome(VASS)の診断,治療において重要なご指摘をありがとうございます.ご指摘の点について補足させていただきます.

1.椎骨動脈閉塞の部位と病態:本症例は血管造影検査で,左椎骨動脈がV2遠位で閉塞しており,左椎骨動脈遠位側への側副血行路は確認できませんでした.ご指摘いただいたように,本症例では椎骨動脈の閉塞部位が起始部でない点,側副血行路‍の直接的な証明ができていない点が,過去のVASSの報告23と異なっています.VASSの病態には,椎骨動脈における側副血行路が大きくかかわっており,本症例のように椎骨動脈の閉‍塞‍部位が起始部よりも遠位であった場合に,遠位側への側副‍血‍行路が発達するかどうかについては議論が必要です.本文中でも述べた通り1,本症例のCTアンギオグラフィー(CT Angiography,以下CTAと略記)および血管造影検査で,側副血行路を直接的に証明できておらず,血管造影検査で確認したto-and-froの血流パターンから間接的に側副血行路からの血流を証明できたと判断しました.本症例は直接的な側副血行路の証明ができていませんが,本症例の塞栓症に椎骨動脈の側副血行路が関与していた場合,過去の報告23の病態と同様の機序で脳塞栓症を来した可能性は否定できません.脳梗塞の病型診断における検査体制が十分でない施設でも,CTアンギオグラフィーの所見からVASSを疑い,診断が行えるようになれば適切な治療介入につながる症例が増えると考えました.CTAで直接的に側副血行路を証明できた報告があり4,今後も簡便な検査方法が検討されます.

他疾患の除外に関して,本症例はCTアンギオグラフィーにおいて,血管と周囲の骨組織が密接する部位は確認できませんでした.本症例は血管造影検査で頭位変換時の血管描出の変化を評価しておりませんが,脳梗塞発症前や日頃から習慣的に頭頸部を運動させる病歴は聴取されませんでした.また繰り返し評価した頭部MRAで,脳主幹動脈の見え方に変化がなかったことから,椎骨動脈解離やbow hunter症候群など周囲の骨組織が関連する脳梗塞の可能性は低いと判断しました.60歳未満の卵円孔開存の関与が疑われる潜在性脳梗塞例に対して,経皮的卵円孔開存閉鎖術を検討するように本邦のガイドラインで推奨されています5.本症例は経胸壁心臓超音波検査での評価は行っておりますが,マイクロバブルテストとバルサルバ負荷を組合せた経頭蓋超音波検査や経胸壁心臓超音波検査または経食道心臓超音波検査を施行していません.下肢静脈超音波検査で血栓症を確認できず,血液検査で凝固線溶系の異常を指摘できなかったことから,奇異性脳塞栓症の可能性は低いと判断しました.VASSの診断基準36には,急性期脳梗塞の他の原因が除外できることが挙げられており,その他の原因検索が不十分な可能性があります.

2.治療について:本症例は17か月前に初回の脳梗塞を発症した際に,シロスタゾールとダビガトランを導入しました.2回目の脳梗塞を発症した際にアスピリン単剤に変更し,直後に再梗塞を来したためクロピドグレルを追加しました.退院6か月後にアスピリンをシロスタゾールに変更し,クロピドグレルとの2剤併用によって退院22か月後まで新規の神経学的脱落所見はなく,頭部MRIで無症候性脳梗塞の再発も認めませんでした.VASSの治療として確立されたものはなく,椎骨動脈閉塞による動脈原性塞栓症として抗血小板剤を用いた報告がある一方で4,抗血小板剤で防げなかった再発をワルファリンによって抑制できた報告があります3.ご指摘いただいたように,椎骨動脈遠位部のコイル塞栓術2や末梢血管形成術6などの外科的治療が有効であった報告もあります.本症例では,直接作用型経口抗凝固薬の内服下で再梗塞を防げなかったため,動脈原性塞栓症が主病態であると考え,抗血小板剤による治療を選択しました.本症例は現時点では抗血小板剤が有効であると判断しておりますが,今後再発を繰り返し,再発予防薬の見直しが必要な際には,病態の再検討と共に,ご指摘いただいたようにワルファリン(用量調整)の使用を検討いたします.本症例は今後も注意深く経過を観察する必要があり,VASSの治療法の確立には更なる症例の蓄積が必要であると考えます.

最後に,塞栓源不明の脳塞栓症における鑑別疾患であるVASSに関して,重要な点をご指摘いただきありがとうございました.VASSの臨床経験が豊富な先生からご指摘いただき,大変光栄です.貴重なご意見をありがとうございました.

敬具

利益相反

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