Rinsho Shinkeigaku
Online ISSN : 1882-0654
Print ISSN : 0009-918X
ISSN-L : 0009-918X
Original Articles
Importance of early treatment and quantitative evaluation of enzyme replacement therapy for Pompe disease: alglucosidase alfa post-marketing surveillance additional analysis
Yoshinori SunagaTatsuro SakashitaTadashi KogaTakayuki SawadaShiho YamaneMitsunobu Ikeda
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML
Supplementary material

2024 Volume 64 Issue 12 Pages 866-877

Details
要旨

ポンペ病に対するアルグルコシダーゼ アルファ特定使用成績調査データを用い,全般改善度別の%努力肺活量(percentage of predicted forced vital capacity,以下%FVCと略記)と6分間歩行検査(6-min walk test,以下6MWTと略記)の変化及び発症後本調査登録時期別(shorter群/longer群)に%FVC推移を線形混合効果モデルにて検討した.%FVC(37名)と6MWT(18名)の評価可能例のうち全般改善度でやや改善と判定された71.4%で%FVC,66.7%で6MWTが悪化していた.登録時%FVCのモデル推定値はlonger群よりshorter群で高値(P = 0.0413),傾きは有意に小さかった(P = 0.0051).発症後早期の治療開始と各臨床症状の定量的評価が重要である.

Abstract

We conducted an additional analysis using the data from the post-marketing surveillance of Alglucosidase alfa for Pompe disease. We aimed to investigate the changes in the percentage of predicted forced vital capacity (%FVC) and the changes in the distance of the 6-min walk test (6MWT) by overall improvement and to investigate the %FVC change by the duration from symptom onset to survey registration (shorter/longer groups) using a linear mixed model. Thirty-seven and eighteen survey participants had %FVC and 6MWT data available, respectively; of the patients whose overall improvement was rated as “relatively improved,” %FVC and 6MWT worsened in 71.4% and 66.7%, respectively. The %FVC at the survey registration estimated using a linear mixed model was significantly higher in the shorter group than in the longer group (P = 0.0413). The estimated slope of %FVC was significantly lower in the shorter group than in the longer group (P = 0.0051). These results suggest the importance of early treatment initiation and quantitative evaluation of each symptom.

前文

ポンペ病(糖原病II型)はライソゾーム内の酸性α-グルコシダーゼ(acid α-glucosidase,以下GAAと略記)の欠損又は機能低下によりグリコーゲンがライソゾーム内に蓄積し筋組織が破壊される常染色体潜性遺伝性疾患である.病型は乳児型・遅発型(小児型・成人型)に分類され,乳児型は劇的に進行し全身の筋緊張低下や心肥大を呈し,自然経過では1歳までに心不全や呼吸不全により死亡する1.遅発型は乳児期以降に発症,乳児型より緩徐に進行する.遅発型の臨床症状は多様で近位筋や呼吸筋の筋力低下を呈するが,心筋疾患は稀で最終的には歩行障害や呼吸不全に至る.

治療としては欠損したGAAを補う酵素補充療法(enzyme replacement therapy,以下ERTと略記)が確立しており,日本では現在GAA遺伝子組み換え製剤であるアルグルコシダーゼ アルファ(マイオザイム®,以下本剤)及びアバルグルコシダーゼ アルファ(ネクスビアザイム®)の2剤が承認されている.本剤は,海外臨床試験成績2)~4を基に糖原病II型を適応として2007年に本邦でも承認され,同年より本剤長期使用に関する特定使用成績調査(以下本調査)が実施された.アバルグルコシダーゼ アルファは2021年に承認を受け,実臨床下でのデータを現在集積中である.

本調査の結果,日本人ポンペ病患者での実臨床下における本剤長期使用の安全性・有効性は承認時の海外臨床試験下でのプロファイルと乖離しないことが示唆された5.本調査の対象者において治療前と比較した全般改善度は,不変又は改善以上が86.1%,そのうち不変が65.3%であった.これに対し進行性の病態を考慮すれば呼吸・筋機能悪化が減弱していると考えられるものの,呼吸・筋機能の客観的な指標である努力肺活量の予測正常値に対する割合(percentage of predicted forced vital capacity,以下%FVCと略記)と6分間歩行検査(6-min walk test,以下6MWTと略記)の変化率はそれぞれ月次−0.07%,年次−7.1 ‍mと全体的に若干の低下傾向であった.また,全般改善度の改善以上の割合が8.8%に対し,呼吸機能の改善度評価の改善以上の割合は4.4%とやや低かった6.呼吸・筋機能の各評価と多様な症状を踏まえた総合的な全般改善度評価とが乖離する傾向が認められ,これらの指標の関連についてより詳細な検討を要することが示唆された.

また,本調査における各患者の%FVC推移から,ポンペ病発症後早期に治療を開始した患者と遅れて開始した患者では治療開始時の呼吸機能や治療開始後の呼吸機能改善の予後が異なる傾向も示唆された7.現行のガイドラインでも診断後すぐに治療を開始することが推奨されており8,早期発見により発症後いかに早く治療を開始できるかが重要である.ERTの早期開始により良好な予後が期待されることは海外の先行研究でも報告されてきている9)~13.ただし,臨床的,医療社会的背景は国や地域により異なり,例えば欧米では成人型が多いのに対し14国内では小児型が多い15.また,本邦で多く見られるGAA遺伝子変異は欧米1617や他のアジア圏1819とも異なるc.546G>Tである2021.こうした相違点を踏まえ,日本人を対象としたERTの早期開始による予後の改善に関する検討が必要であると考えた.

そこで今回我々は本調査データを用いた追加解析を実施した.本追加解析の目的として以下を検討することとした.

- 全般改善度の評価結果別に%FVCと6MWTの変化を評価する.

- 本邦ガイドラインや海外先行研究に基づき治療開始の早い群でアウトカムが良好であると仮説を立て,発症後本調査登録時期別(shorter群/longer群)に%FVCと6MWTの推移を評価する.

対象・方法

方法

本検討は2007年6月11日(本剤発売日)から2016年6月10日まで実施された本剤特定使用成績調査の結果を用いた追加解析である.本調査方法は既報の通りで5,本剤の使用実態下での長期使用例における安全性及び有効性の確認を目的とし,本剤使用症例を対象に実施した.観察期間は本調査登録時より1年から最大9年間であった.本剤の用法用量は2週間に1回点滴静注である.本調査は「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」に基づき実施された.

評価項目

本調査登録時点をベースラインとし,対象者背景についてベースラインの情報のうち以下を集計した.性別,年齢(生年月日),身長,体重,及びポンペ病に関して症状発現日,確定診断日,病型(乳児型,小児型,成人型),症状(心血管,呼吸器,神経,消化管,筋骨格)の有無,重症度(5段階:1.就労[就学]可能,2.就労[就学]不能,日常生活自立,3.部分介助[食事,入浴,着脱],4.全介助,入院,入所が必要,5.寝たきり,医療的ケアが必要),人工呼吸補助の使用有無,手術歴(気管切開,側弯症矯正術)の有無.

有効性評価項目のうち本検討では最終評価時点での全般改善度,ベースライン以降の%FVCと6MWTのデータを用いた.本調査では,一部の症例で本調査登録時点のほか本調査登録前の本剤投与開始時点の測定データも収集されていたが,多くの症例において両時点の大きな乖離は認められずほぼ同時期であったことから,全例で利用可能な本調査登録時(ベースライン)以降のデータを用いることとした.

全般改善度は,治療開始前の病態と比較した改善度を前治療歴,病態,臨床症状,運動機能,心臓,呼吸障害それぞれの改善度などを考慮し,担当医師による総合的な判断により評価した(著明改善[well improved],改善[improved],やや改善[relatively improved],不変[stable],悪化[worsened],判定不能[undecidable]).

なお,全般改善度評価に含まれる心臓に関する評価として心エコーや心電図の情報を収集していたが,本調査対象者は結果的に遅発型の症例で構成され,遅発型では心疾患は稀であることから今回の検討には含めなかった.

統計解析

本調査に組み入れられた92名のうち本調査の研究発表について同意が得られ,症状発現時期が明確かつ%FVCと6MWTデータがベースライン後2時点以上ある症例を対象とした.ポンペ病の症状発現後からベースライン時までの期間の中央値で対象者をshorter群(中央値以下)とlonger群(中央値超)に分類し,各対象者背景について要約統計量を算出した.

全般改善度と%FVC,6MWTの関係について,全般改善度別の%FVC,6MWTのベースラインからの変化量をbox-plotにて表示した.また,%FVC,6MWTの変化量を増加/維持と減少の2値に分け,クロス集計を行った.

ERT開始時期の影響に関して,対象者毎の%FVCと6MWTの症状発現時期からの推移を全体及び群(shorter群/longer群)毎にグラフに示した.

6MWTはデータを有する症例数が少なかったため,下記の解析では%FVCのみについて検討した.

観察研究である本調査データには患者間・患者内のデータのばらつきや測定間隔の違い,予後因子の影響を含め,バイアスを生じる要因を含んでいる.これらの影響を考慮しつつ,より正確に本調査に組み入れられた症例全体の平均的な%FVCの推移を発症後本調査登録時期別に把握するため,線形混合効果モデルを用いて%FVCの経時的な傾きとその起点となるベースライン時の値(切片)を推定し,さらに本調査登録時期別の差を推定することとした.線形混合効果モデルは,固定効果と変量効果の両方を含むモデルをさす.固定効果(または平均効果)とは,集団における曝露とアウトカムの関係性を表す要素(本解析では,主に本調査登録時期「shorter群/longer群」と%FVCの関係)であり,変量効果とは,固定効果からのバラツキを表す要素である.また変量効果は,同一患者から反復的に測定が行われた場合に生じる被験者内の相関を考慮することを可能にする.混合効果モデルは,臨床試験等で得られた経時的反復測定データの解析に一般的に用いられる解析方法となっており,変量効果に対する仮定によって,ランダム切片モデルや,ランダム切片・ランダム傾きモデル等が一般的に使用されるが22)~24,本解析では症例全体の平均的な%FVC推移の推定という目的,利用可能なデータ数,また赤池情報量規準を参照し事前検討したモデルの適合性を考慮し,ランダム切片モデルを採用した.線形混合効果モデルに関する詳細は,成書25やレビュー論文26)~29などを参照されたい.

予備解析として,まず各背景因子を説明変数として1元配置分散分析モデルを当てはめると共に,各背景因子の水準毎に%FVCのベースライン値の記述統計量を算出し,ベースライン値と各背景因子の関連性を探索的に検討した.

ベースラインからの各時点における%FVCを目的変数に,背景因子,群(shorter群/longer群),ベースラインからの時間,及びこれらの交互作用を説明変数とした.対象者毎にランダムに異なるベースライン時の%FVCを考慮するため対象者を変量効果として混合効果モデルを当てはめた.モデルに含める際,年齢(ベースライン,症状発現,診断時点),症状発現又は診断からの期間,身長,体重は中央値以上/未満へ,重症度は5段階のうち2.就労(就学)不能以下を軽症(mild),3.部分介助以上を重症(severe)へ2値化した.

感度分析として,予備解析の結果得られた%FVCのベースライン値に関連する背景因子のうち説明変数間の相関,切片に対する影響の程度を考慮して特に関連が大きいと考えられる因子とベースラインからの時間,及び群と時間の交互作用を説明変数,対象者を変量効果として混合効果モデルを当てはめ,群毎に切片の推定を行い,群間の差を推定し,主解析の結果の頑健性を確認した.

各対象者の単回帰分析により求められる%FVCの傾きについても予備解析として,各背景因子を説明変数として1元配置分散分析モデルを当てはめ,傾きと各背景因子の関連性を探索的に検討し,同様の方法にて感度分析を実施した.

統計学的な有意水準は両側5%と設定した.統計解析にはSAS ver.9.4(SAS Institute, Cary, NC, USA)を使用した.

結果

解析対象の概略とベースライン時の背景情報

本調査に組み入れられた92名のうち37名で%FVCが評価可能であり,うち18名は6MWTも評価可能であった(Fig. 1).本解析対象集団における症状発現後からベースラインまでの期間の中央値(四分位範囲[interquartile range,以下IQRと略記])は79.0(128.0)か月であった(Table 1).Shorter群とlonger群の症状発現(及び診断)からベースラインまでの期間の中央値はそれぞれ34.0か月(及び2.0か月)と169.0か月(及び92.5か月)であり,ベースライン時の年齢の中央値は14歳と24歳であった.男性が過半数を占め,特にshorter群では73.7%と男性が占める割合が大きかった.乳児型は含まれず,半数以上の24名(64.9%)が小児型であった.Shorter群に比べてlonger群で重症度の高い症例や(3.部分介助以上,shorter群:15.8%,longer群:44.4%),人工呼吸補助が使用された症例が多かった(shorter群:57.9%,longer群:88.9%).

Fig. 1 Patient disposition.

Thirty-seven patients with %FVC data and eighteen patients who had 6MWT data were included in the analysis of %FVC and 6MWT, respectively. %FVC, percentage of predicted forced vital capacity; 6MWT, 6-min walk test.

Table 1 Patient characteristics at the baseline.

Factors Overall (n = 37) Longer (n = 18) Shorter (n = 19)
n (%) n (%) n (%)
Sex
 Male 23 (62.2) 9 (50.0) 14 (73.7)
 Female 14 (37.8) 9 (50.0) 5 (26.3)
Type of Pompe disease
 Juvenile-onset 24 (64.9) 11 (61.1) 13 (68.4)
 Adult-onset 13 (35.1) 7 (38.9) 6 (31.6)
Age at baseline (year)
 All
  Mean 23.2 29.6 17.2
  Median (IQR) 16.0 (17.0) 24.0 (21.0) 14.0 (11.0)
 Juvenile-onset
  Mean 12.8 16.7 9.5
  Median (IQR) 13.5 (8.0) 16.0 (12.0) 9.0 (8.0)
 Adult-onset
  Mean 42.4 49.7 33.8
  Median (IQR) 36.0 (39.0) 39.0 (37.0) 25.0 (27.0)
Age category at baseline
 <15 years 15 (40.5) 4 (22.2) 11 (57.9)
 15 to 65 years 18 (48.6) 11 (61.1) 7 (36.8)
 ≥65 years 4 (10.8) 3 (16.7) 1 (5.3)
Age at onset (year)
 All
  Mean 13.4 12.6 14.1
  Median (IQR) 9.0 (15.0) 9.0 (16.0) 9.0 (15.0)
 Juvenile-onset
  Mean 5.5 4.7 6.1
  Median (IQR) 4.5 (8.0) 4.0 (8.0) 7.0 (8.0)
 Adult-onset
  Mean 27.9 24.9 31.5
  Median (IQR) 22.0 (14.0) 29.0 (15.0) 21.0 (25.0)
Age at diagnosis (year)
 All
  Mean 17.8 20.2 15.5
  Median (IQR) 12.0 (15.0) 12.0 (17.0) 12.0 (13.0)
 Juvenile-onset
  Mean 8.2 8.7 7.8
  Median (IQR) 9.0 (8.0) 10.0 (8.0) 9.0 (8.0)
 Adult-onset
  Mean 35.5 38.3 32.2
  Median (IQR) 23.0 (23.0) 38.0 (41.0) 21.5 (25.0)
Period from onset to baseline (month)
 Mean 118.0 202.5 38.0
 Median (IQR) 79.0 (128.0) 169.0 (83.0) 34.0 (45.0)
Period from diagnosis to baseline (month)
 Mean 65.2 111.6 21.4
 Median (IQR) 55.0 (88.0) 92.5 (127.0) 2.0 (54.0)
%FVC at baseline
 Mean 77.7 74.3 81.5
 Median (IQR) 59.0 (52.4) 44.7 (44.2) 67.0 (36.5)
Height (cm)
 Mean 149.3 153.5 145.0
 Median (IQR) 161.2 (34.1) 155.6 (20.5) 165.3 (53.6)
Weight (kg)
 Mean 39.2 39.6 38.7
 Median (IQR) 39.4 (23.3) 38.0 (19.0) 40.7 (35.3)
Severity
 1. Able to work (go to school) 20 (54.1) 7 (38.9) 13 (68.4)
 2. Unable to work (go to school), independent in daily living 4 (10.8) 2 (11.1) 2 (10.5)
 3. Partial assistance (eating, bathing, dressing/undressing) 8 (21.6) 5 (27.8) 3 (15.8)
 4. Full assistance, hospitalization or residential care required 1 (2.7) 1 (5.6) 0 (0)
 5. Bedridden, needs medical care 2 (5.4) 2 (11.1) 0 (0)
 1. and 3. 1 (2.7) 1 (5.6) 0 (0)
Muscle weakness
 Yes 23 (62.2) 12 (66.7) 11 (57.9)
 No 3 (8.1) 1 (5.6) 2 (10.5)
Respiratory deficiency
 Yes 18 (48.6) 10 (55.6) 8 (42.1)
 No 8 (21.6) 3 (16.7) 5 (26.3)
Gastrointestinal symptoms
 Yes 9 (24.3) 5 (27.8) 4 (21.1)
 No 17 (45.9) 8 (44.4) 9 (47.4)
Neurological symptoms
 Yes 7 (18.9) 4 (22.2) 3 (15.8)
 No 19 (51.4) 9 (50.0) 10 (52.6)
Cardiovascular symptoms
 Yes 3 (8.1) 1 (5.6) 2 (10.5)
 No 23 (62.2) 12 (66.7) 11 (57.9)
Ventilatory support
 Yes 27 (73.0) 16 (88.9) 11 (57.9)
 No 9 (24.3) 2 (11.1) 7 (36.8)
Tracheotomy
 Yes 3 (8.1) 1 (5.6) 2 (10.5)
 No 34 (91.9) 17 (94.4) 17 (89.5)
Scoliosis correction
 Yes 0 (0) 0 (0) 0 (0)
 No 37 (100) 18 (100) 19 (100)

%FVC, percentage of predicted forced vital capacity; IQR, interquartile range.

全般改善度

全般改善度別の%FVCと6MWTの年次変化量をFig. 2,全般改善度別の%FVCと6MWTの増加/維持,減少割合をTable 2に示した.全般改善度で「やや改善」と判定された症例のうち71.4%で%FVCが減少,66.7%で6MWTが減少していた.「不変」と判定された症例においても57.1%で%FVCが減少,81.8%で6MWTが減少していた.

Fig. 2 Overall improvement at the last evaluation and change (/year) in %FVC (A) and in 6MWT (B) from the baseline.

The changes in %FVC and 6MWT per year were plotted by evaluating overall improvement. %FVC, percentage of predicted forced vital capacity; 6MWT, 6-min walk test. The values of each participant are plotted in an open circle. The horizontal line within the box represents the median, and the top and bottom lines indicate the first and third quartile, respectively. The whiskers indicate the range within the 1.5 times interquartile range.

Table 2 Crosstabulation of overall improvement and change (/year) in %FVC and 6MWT from the baseline.

Overall improvement %FVC 6MWT
Total Increased/Maintained Decreased Total Increased/Maintained Decreased
n n (%) n (%) n n (%) n (%)
Well improved 1 0 (0) 1 (100) 0 0 (0) 0 (0)
Improved 1 1 (100) 0 (0) 0 0 (0) 0 (0)
Relatively improved 7 2 (28.6) 5 (71.4) 3 1 (33.3) 2 (66.7)
Stable 21 9 (42.9) 12 (57.1) 11 2 (18.2) 9 (81.8)
Worsened 7 1 (14.3) 6 (85.7) 4 0 (0) 4 (100)

%FVC, percentage of predicted forced vital capacity; 6MWT, 6-min walk test.

%FVC,6MWTの推移

%FVCの推移を全体,並びに群毎にFig. 3に示した.データを有する症例数が限られるものの,6MWTの推移もSupplementary data 1に示した.

Fig. 3 Chronological changes from disease onset in %FVC of each participant in overall participants (A) and by the shorter and longer groups (B).

%FVC, percentage of predicted forced vital capacity. The figure displays the measured values from the survey registration. Each line indicates each participant; lines with circles indicate those who underwent tracheotomy.

%FVCモデル分析

%FVCのベースライン値と推移の傾きに注目して以降の解析を実施した.

ベースライン時の%FVC

予備解析としてベースライン時の%FVCに関連する因子を探索した結果,既報の通り症状発現からベースライン(本調査登録)までの期間は%FVCと有意に関連することが示され,shorter群でlonger群より高い値を示した(中央値[第一四分位,第三四分位],shorter群vs longer群:62.1[44.8, 74.6]vs 31.7[20.2, 61.2])(Supplementary data 2).その他,ベースライン時の年齢や重症度が低い症例に比べて高い症例,人工呼吸補助使用なしの症例に比べてありの症例で%FVCは低い値を示した.

Shorter群とlonger群の%FVCベースライン推定値と群間差をサブグループ毎にFig. 4に示した.全てのサブグループ解析の結果はSupplementary data 3に示す.モデルにより推定されたベースライン時の%FVCはlonger群の41.03(95%CI: 30.11, 51.94)に比してshorter群で57.08(95%CI: 46.19, 67.97)と有意に高かった(longer群−shorter群の差:−16.05[95%CI: −31.47, −0.63], P = 0.0413).各水準の症例数が少ないサブグループでは95%CIが大きいが,概ね各サブグループ共ベースライン時の%FVC推定値はlonger群よりshorter群で高い傾向であった(Supplementary data 3).

Fig. 4 Intercept of %FVC in the shorter group (A), longer group (B), and the difference between shorter/longer groups (C) in the overall participants and by each factor using a mixed model.

The intercept of %FVC was estimated using a mixed model for each group. The model included the dependent variable: %FVC at each time point; independent variables: time from baseline, patient characteristics, group, and their interactions; and the random effect: patients. The patient characteristics shown in the figure were selected based on their larger effect on outcomes and the correlation between patient characteristics. The results for all variables are presented in Supplementary Data 3. LCL, lower confidence limit; UCL, upper confidence limit; %FVC, percentage of predicted forced vital capacity.

感度分析として,予備解析の結果ベースライン時の%FVCとの関連が特に強いことが示唆された因子で調整したモデルにおいてもベースライン時の%FVC推定値はshorter群(50.52[95%CI: 42.27, 58.76])の方がlonger群(47.62[95%CI: 39.77, 55.47])より高い傾向であったが,両群の差に統計学的な有意差は認められなかった(longer群−shorter群の差:−2.90[95%CI: −10.82, 5.03], P = 0.4722)(Supplementary data 4).各サブグループでも概ね同様の傾向が認められた.

%FVCの傾き

予備解析として%FVCの傾きに関連する因子を探索したところ,症状発現からベースラインまでの期間が%FVCの傾きに有‍意‍に関連しており,shorter群で緩やかな傾きを示した(Supplementary data 5).その他の関連因子として診断時の年齢で特に強い関連が示され,年齢が低い症例に比べて高い症例で傾きが緩やかになる傾向があり,成人型の病型においても小児型より傾きが緩やかな傾向が見られた.

Shorter群とlonger群の%FVCの傾きの推定値と群間差をサブグループ毎にFig. 5に示した.全てのサブグループ解析の結果はSupplementary data 6に示す.モデルにより推定された%FVCの1年間での傾きはlonger群では−2.17(95%CI: −2.74, −1.59),shorter群では−0.74(95%CI: −1.55, 0.07)で,悪化の程度はshorter群で有意に小さかった(longer群−shorter群の差:−1.43[95%CI: −2.42, −0.43],P = 0.0051).症例数が少ないサブグループでは95%CIが大きいが,概ね各サブグループで一貫してshorter群の傾きが小さい傾向であった(Supplementary data 6).

Fig. 5 Slope of %FVC in the shorter group (A), longer group (B), and the difference between the shorter/longer groups (C) in the overall participants and by each factor using a mixed model.

The slope of %FVC was estimated using a mixed model for each group. The model included the dependent variable: %FVC at each time point; independent variables: time from baseline, patient characteristics, group, and their interactions; and the random effect: patients. The patient characteristics shown in the figure were selected based on their larger effect on outcomes and the correlation between patient characteristics. The results for all variables are presented in Supplementary Data 6. LCL, lower confidence limit; UCL, upper confidence limit; %FVC, percentage of predicted forced vital capacity.

予備解析の結果,傾きとの特に強い関連が示唆された因子を調整因子に加えたモデルでも同様に,%FVCの1年間の傾きはlonger群(−2.21[95%CI: −2.76, −1.66])でshorter群(−0.70[95%CI: −1.48, 0.08])より有意に急峻であった.(longer群−shorter群の差:−1.51[95%CI: −2.46, −0.55],P = 0.0021)(Supplementary data 7).各サブグループでも概ね同様の傾向であった.

考察

本剤投与を受けたポンペ病患者の9年間に及ぶ特定使用成績調査で得られたデータを用い,ERTの全般改善度と有効性評価項目の関係とERT開始時期による呼吸機能への影響に焦点を当て事後解析を行った.この結果,全般改善度で「やや改善」,「不変」と評価された対象者の多くで%FVCと6MWTは減少していた.またlonger群に比べてshorter群ではベースライン時の%FVCが高値で,%FVCの傾きは有意に小さかった.

本解析結果より,全般改善度は%FVCや6MWTと必ずしも一致しないことが示唆された.特に全般改善度で「やや改善」と評価された症例の多くで,%FVCや6MWTの経時的な推移は悪化傾向を示していた.本剤投与後の呼吸機能や運動機能の経時的な傾向として,その両方又はいずれかが本剤投与後早期に一時的に改善するものの,その後徐々に悪化することが先行研究より報告されている30)~34.本調査対象例も同様の傾向をたどり,最長9年間の長期間における平均的な推移は悪化したと考えられる.そして,こうした症例においてもその他の症状で改善が認められた場合には総合的な判断として全般改善度が「やや改善」と評価されたと推察される.%FVCや6MWTは個々の症状の客観的な評価指標であるのに対し,全般改善度は各症状の評価では反映しきれない症状,病態も考慮した包括的な改善度評価である.ポンペ病は発症時期や臨床症状スペクトラムが幅広く,治療開始時の病状に応じて治療目標も症例毎に多様である.全般改善度評価はこうした多様性を反映する一方で,治療開始時の病態や治療目標によって改善度評価の意味合いが症例間で異なる可能性がある.例えば,疾患の進行した症例においてベースライン時点で既に不可逆的な悪化が認められ%FVCが低値で,その後も改善せず低値のまま推移した場合も「不変」と評せざるを得なかった可能性も考えられ,全般改善度評価の解釈には注意が必要である.本解析結果は,これら評価指標それぞれの意義を示すとともに,長期間にわたるポンペ病治療において多様な臨床症状の定量的な変化を評価しうる総合的な指標の必要性を示唆するものと考えられる.

予備解析として%FVCの推移と関連する対象者背景の探索を行い,重症度,人工呼吸補助の有無,診断時の年齢,症状発現から本調査登録までの期間と言った因子が%FVCの推移に関連することが示唆された.その中で,症状発現から本調査登録,すなわち多くの症例において本剤治療開始までの期間は,病型や病態に関連する因子とは異なり,介入により比較的容易に変更が行える因子と考えられた.

ERT開始時期と%FVCの関連について,%FVCのベースライン推定値がlonger群と比較してshorter群で高く(shorter群 vs longer群57.08 vs 41.03, P = 0.0413),%FVCの傾きはshorter群でより緩徐(−0.74 vs −2.17, P = 0.0051)であった.Shorter群とlonger群の症状発現からベースラインまでの期間の中央値はそれぞれ2.8年と14.1年であり,shorter群とlonger群でERT開始時点までの期間に凡そ11年の間の差があった.その間にlonger群ではshorter群に比べて16%の肺機能低下が認められ,ERT開始後も両群では年間1.43%の肺機能低下の差が認められた.これらのことから,症状発現後早期の治療開始がその後の良好な転帰を得るために重要であると考えられる.ERT早期開始の重要性は先行研究でも示唆されている79)~13.例えばStocktonらは国際的なPompe Registryのデータ(約7割が欧州,約2割が北米)を用いて診断からERT開始までの期間がFVCの経過に及ぼす影響を検討した.その結果,診断から治療までの期間が短い群(中央値1.7年以下)の方が同期間の長い群(1.7年超)より%FVCのベースライン値が高く,ERT開始後もより高値で%FVCが維持されたが,両群とも%FVC値はERT開始後大きく変化せず“stable”であった(Slope[95%CI],shorter群:−0.07[−0.44, 0.31],longer群:−0.25[−0.61, 0.10])12.今回の解析結果とStocktonらの報告でERT開始後の%FVC推移が異なる要因の一つとして,対象集団の違いが挙げられる.Stocktonらの調査対象者は多人種であり,本解析対象者に比して(Stockton vs 本研究),症状発現年齢が高く(中央値[IQR]:33.7歳[17, 45]vs 9.0歳[2, 17]),診断から治療開始までの期間が短いほか(中央値:1.7年 vs 4.6年[55.0か月]),ベースライン時の%FVCは高く(中央値[IQR]:66.9[49.0, 85.0]vs 59.0[22.4, 74.8]),人工呼吸補助有りの症例割合が低いことから(16% vs 73.0%),Stocktonらの調査では成人型のポンペ病患者や軽症例が比較的多く含まれていたと考えられる.こうした対象集団の特徴がStocktonらの研究で認められた%FVC値の維持に寄与したと推察される.

今回,%FVCと6MWTの有効性評価データを2時点以上含む症例を対象としたため,乳児型の症例が含まれない結果となったが,乳児型においても診断後すぐにERTを開始すると予後が良いことが報告されており913,本邦のガイドラインでも診断後1日でも早くERTを開始することが推奨されている8

今回の追加解析の限界は本調査の限界を基本的に踏襲する.本調査は実臨床下において実施され,ランダム化した対照群を設けていないため未測定の項目を含み交絡の影響による推定のバイアス発生は避けられず,因果関係を結論付けることはできない.希少疾患を対象とした調査に共通するが,本調査及び,本解析に含まれた症例数は限られている.特に本調査登録時の関連を探索した本解析では,各サブグループの例数はさらに絞られているためサブグループ解析の推定精度が低い可能性が考えられる.本追加解析では,担当医師による報告に基づく症状発現時期から起算したベースライン時までの期間の中央値で対象者を分類しているが,一般にポンペ病,特に遅発型では発症時期の厳密な特定は困難であり,本解析結果の解釈の際には留意が必要である.ポンペ病では努力肺活量は立位や座位に比べて仰臥位での測定で低下することが知られている35)~39.本調査では測定体位の指定や体位に関連する情報の収集をしていないため,%FVCの推移には測定時の体位の違いによる変動が含まれる可能性がある.こうした限界が挙げられるものの,本調査結果及び本解析結果は希少疾患であるポンペ病治療の知見集積に貢献するものと考えられる.

以上より,症状発現後早期のERT開始がその後の良好な転帰を得るために重要であり,また治療経過の評価にあたっては各臨床症状の定量的な評価が必要であると考えられる.現在新たなポンペ病治療薬のアバルグルコシダーゼ アルファについても実臨床下での長期使用に関する特定使用成績調査が進行中である.ポンペ病治療の発展のため,今後アバルグルコシダーゼ アルファを用いたERTでの転帰についても検討することが求められる.

Contribution

須永 義則:解析,データの解釈,執筆,レビュー.坂下 達郎:解析,データの解釈,執筆,レビュー.古賀 正:解析,データの解釈,執筆,レビュー.澤田 孝之:解析,データの解釈,執筆,レビュー.山根 志真:研究立案,データ収集,執筆.池田 光伸:研究立案,データの解釈,執筆,レビュー.

利益相反

※本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業・組織

〇開示すべきCOI状態がある者

須永義則:報酬額:サノフィ株式会社

坂下達郎:報酬額:株式会社CLINICAL STUDY SUPPORT

古賀 正:報酬額:株式会社CLINICAL STUDY SUPPORT

澤田孝之:報酬額:株式会社CLINICAL STUDY SUPPORT

山根志真:報酬額:サノフィ株式会社

池田光伸:報酬額:サノフィ株式会社

謝辞

本調査はサノフィ株式会社の資金提供により実施した.

本調査へ協力いただき貴重なデータを提供いただいた調査担当医師と関係各位,また本調査参加者に深謝する.本稿作成にあたり,サノフィ株式会社の資金提供により編集支援を株式会社CLINICAL STUDY SUPPORT(佐藤 恵美子)が実施した.

文献
 
© 2024 Japanese Society of Neurology

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top