Rinsho Shinkeigaku
Online ISSN : 1882-0654
Print ISSN : 0009-918X
ISSN-L : 0009-918X
Invited Reviews
The neural basis of face-to-face communication: exploring transmission and sharing through neuroimaging
Norihiro Sadato
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 64 Issue 4 Pages 247-251

Details
要旨

人間のコミュニケーションは「意味の伝達と共有を図る双方向的・循環的・創発的な記号・象徴行為」であることから,その神経基盤探索においては,伝達と共有の両概念を適用する必要がある.対面コミュニケーションは,「情報,観念,あるいは態度を共有することにより相手の心的状態を変えること」と定義できる.対面コミュニケーションは「相互予測性」を特徴としており,これにより生成される行動や神経活動の同期現象から,コミュニケーションの神経基盤を明らかにする試みが進行している.

Abstract

Effective human communication is a complex process that involves transmitting and sharing information, ideas, and attitudes between two or more individuals. Researchers need to explore both transmission and sharing concepts to understand the neural basis of communication. Face-to-face communication refers to changing someone’s mental state by sharing information, ideas, or attitudes. This type of communication is characterized by “mutual predictability.” Scientists are working to clarify the neural basis of communication by studying how inter-individual synchronization of behavior and neural activity occurs during face-to-face communication.

はじめに

コミュニケーションの定義は多様である.日本大百科全書(ニッポニカ)から引用すると,

「社会学者,社会心理学者,コミュニケーション研究者などによる若干の定義を紹介してみるならば,コミュニケーションとは,「一方から他方へのメッセージの伝達」「情報を伝達して反応を引き出すこと」「情報,観念,あるいは態度を共有すること」「一連の規則によって行動の諸要素あるいは生活の諸様式を共有すること」「精神の相通じること,参加する人々の精神に共通のシンボルを生ぜしめること,要するに了解のこと」「人から人へと情報,観念,態度を伝達する行為のこと」「ある人ないし集団から他の人ないし集団(あるいは人々ないし諸集団)へ,主としてシンボルによって情報を伝達すること」「メッセージによる社会的相互作用のこと」といったぐあいに,実に多様な定義が提示されてきた.」(日本大百科全書)

これらの定義で読み取れるのは,「人々がなにものか(情報,観念,態度,行動,感情,経験など)を共有すること」というコミュニケーションの基底的属性である.ここから「情報,観念,あるいは態度を共有することにより相手の心的状態を変えること」という対面コミュニケーションの定義が派生する1.例えば,その発達初期における重要な行動指標である模倣においては動作が,共同注意においては注意が,心の理論においては意図が,共感においては情動が共有され,それとともに行動が変容する.その起源は母子関係における,他者を介した自己のホメオスタシスの維持(allostasis)とも考えられている2が,対面コミュニケーションにおける共有の神経基盤については不明の点が多い.その神経基盤を調べるにあたり,発達過程における社会能力の行動里標を考慮することは有益である(Table 1).特に注目に値するのは新生児模倣3であり,自動模倣が発達の最初期から存在することを示していることから,その後に出現する社会的随伴性や共同注意などの行動里標の基盤となっていることが予想される.

Table 1 社会的認知機能の発達.

行動里標
0ヶ月 新生児模倣
4ヶ月 社会的随伴性
9ヶ月 共同注意
1.5歳 自己認知
4.5歳 心の理論
学童 比喩/皮肉の理解
善意の嘘
道徳
共感
向社会行動

自動模倣

対面コミュニケーションが,相手の内部状態に対して影響を及ぼそうとする相互作用であるとするならば,他者の意図を正確に認知し4これにより他者の行為を予測して自己の行動を決定することが必要である.意図は,行為に先立ち行為を因果するものであり,行為内意図と事前意図がある.行為の中には,身体運動とその身体運動の裏側に張り付いている行為内意図があり,それが因果作用を起こすとともに,身体運動と行為内意図をあわせた行為全体に対して因果作用を及ぼす事前意図がある(Fig. 15

Fig. 1 意図と行為の関係

システム神経科学においては,運動制御のモデルに基づく行為内意図のモデルが提唱されている6.即ち行為内意図は,運動司令の感覚的結果の予測(順モデル)と,感覚的結果を生成する運動司令の制御(逆モデル)からなる.自己の事前意図と他者の行為入力が共に逆モデルを起動しうるとするモデルに基づくと,乳児から成人まで広く観察される自動模倣は順モデルと逆モデルが密接に連関していることにより起こることが予想される.人においては下前頭葉が中側頭葉と解剖学的に直接連絡していること,共にmirror neuron systemを形成していることを考慮して,Sasakiら7は,中側頭葉から下前頭葉への方向性を持つ結合(effective connectivity)が逆モデル,下前頭葉から中側頭葉へのeffective connectivityが順モデルを表象することを予想し,機能的MRI実験を行った.24名の被験者に,他者が二つのボールを右手掌で回転させるのを観察しつつその際の回転速度の変化を検出する課題を課した.その間,被験者自身が二つのボールを手掌で回転させる/させない条件を設定した.右上肢の筋電計測から,他者の右手運動を観察することにより自動模倣の起こることが判明した.その際,中側頭葉から下前頭葉への方向性を持つ結合(effective connectivity)は増強し,一方被験者がボールを回す際には減少したことから,逆モデルに対応すると考えられた.一方下前頭葉から中側頭葉へのeffective connectivityはその逆パターンをしめし,順モデルに対応すると考えられた7.つまり自動模倣の神経基盤は逆モデルを表象する中側頭葉から下前頭葉に向かう結合であることが判明した.

社会的随伴性

随伴性とは,自己の行動と認識された環境事象との間の因果的関係理解を指す.生後3ヶ月までの乳児は,実行された行動と観察された行動の完全な一致を求め,それが自分の行動と他者の行動を区別して主体性(agency)を感じる基礎になり,この完全随伴性の検出過程は,生後3ヶ月頃に不完全随伴性へと成熟する8.生後3ヶ月頃に出現する社会的随伴性,即ち自己の行動の結果として他者の行動を理解する能力は,主体性と密接に関わっており,その機能拡張として捉えられる.成人の機能的MRIにより,社会的随伴性と主体性の両方が,視覚領域の体の動きに鋭敏な領域での単純な動作符号化から始まり,頭頂葉を経て左下前頭葉での社会的関連性の複雑な符号化に至る階層的処理によって達成されることが示されている9

社会的随伴性はコミュニケーションを促進する.発達心理学的研究において,肯定的な結果を伴う社会的随伴性は,肯定的な感情やさらなるコミュニケーションの動機を高める10)~12ことが知られている.成人においても,社会的随伴性(無意識に相手に自分の動作を真似られていること)は,関係性を円滑にするとともに相手に好意を抱かせる(カメレオン効果,13).このことから,社会的随伴性には報酬系の関与が示唆されている.参加者がジョークを言うことで聞き手を笑わせるという課題を用いた機能的MRI14では,他人のジョークと比較して,自分のジョークで笑わせることでより大きな喜びを報告した.他者のジョークに対する聞き手の反応に比べて,自分のジョークによる聞き手の反応は内側前頭前皮質により強い活性化を生じさせた.笑いは聴覚野の活動を賦活し,腹側線条体は,参加者が聞き手を笑わせたとき,他人が笑わせたときよりも強い活性化を示した.腹側線条体と聴覚野の機能結合は内側前頭前皮質の活動により変動を受けた.これらの結果は,自己関連処理に関与する内側前頭前皮質が,価値処理の場である腹側線条体へ向かう他者の反応に関連する感覚入力を調整することを示唆する14.母子関係で見られる典型的な社会的随伴行動である相互模倣課題遂行中の機能的MRI計測によると,模倣されることによって引き出されるポジティブな感情は,吻側前部帯状皮質の活性化と正の相関があった.吻側前部帯状皮質は感情的な笑いなどのポジティブな感情状態に関連すること,また将来の報酬推定に重要な役割を果たすことから,対面模倣に於ける社会的随伴性に基づく報酬を表象すると考えられる15

対面コミュニケーションにおける「共有」

対面コミュニケーションは2個体双方の観察と関与が引き起こす2個体間相互行動であり,その本質は「双方向性」と「同時性」にある.またその処理プロセスは個体で独立し,他個体のそれと交わることはない.2個体間相互作用を記述するための概念として主観性と間主観性が定義された.近年,鯨岡16は,間主観性が三つの概念を含むことを指摘した.すなわち,(A)「あなた」の主観のある状態(「思い」としての,意図,感情等)が,「わたし」の主観の中にある感じとしてわかることとしての相互主体性,(B)不特定多数の主観にあまねく抱かれている共通の観念や考えとしての共同主観性,(C)「思い」にしたがって行動する存在としての「わたし」という主体が,他の主体との関係において成り立つ(わたしたち)という理解に基づいて,相手に配慮しつつ自分の思いを貫くという対人関係としての相互主体性である.(A)は心理的共有,(B)は社会規範,(C)は(A)(B)を基盤とした実践的な社会的相互行動として捉えることが出来る.このため,ある人が他者の意図や精神状態に影響を与える試みとしてのコミュニケーションの神経基盤を明らかにするためには,相互主体性を解析することが必須である.

対面コミュニケーションにおける予測

ヒト間の対面コミュニケーションにおいては,個体それぞれがパートナーから情報を得ることで,相手の意図を推測し行動を予測する.ここに対面コミュニケーションを特徴づける「相互予測性」が生じる.相手の意図や情動など心的状態の予測は,‍一般的には「心の理論」あるいはmentalizingと呼ばれる.通常相手の心的状態は不可視のため,その推定には,自己の情‍報‍に基づいたモデルからスタートすることになり(anchor),そこを起点として,相手からの情報によりモデルを更新する‍(adjustment)という過程が想定されている(anchor and adjustment hypothesis)1718.機能的磁気共鳴画像法を用いた研究により内側前頭前野がこの過程に関与することが示されている19.一方,上記相互主体性の問題は,予測される他者の行為に合わせて自分の行動を調整するという予測が相互に必要とされる場において,どのように予測モデルが更新されるかという問題として扱いうることを以下に示す.

同期現象

対面コミュニケーションにおいて頻繁に見られる行動の同期現象は心的過程の共有を表象しており,その発生にはヒト個体間に働く相互作用として予測が重要である.例えば,相互模倣において,模倣者は視覚的に提示された被模倣者の動きを運動表現に逆変換し,一連の運動命令を生成することで模倣を実現する.しかし,これは不良設定問題である.すなわち,同じ視覚入力が,多くの原因(被模倣者の運動命令)によって生成されうるため,一意の解を得ることは困難である.脳内では不良設定問題を解決するために階層的予測符号化を用いているとの理論が提案されている20.この理論によれば,高レベルの皮質階層の神経表象が低レベルの神経表象を予測する.たとえば視覚的に提示された被模倣者の動きの知覚であれば,上位の階層から送られるトップダウンの予測(順モデル)と低レベルの表象の比較が予測誤差を生成し,上位層へとフィードバックされる.このメカニズムは多層にわたっており,各階層での予測誤差を最小化するように各々の順モデルが更新され,これが視覚入力の(隠された)原因に対して階層的な説明を提供する21.つまり,階層的予測符号化のメカニズムは,隠された原因としての相手の運動命令と,それが生み出す結果,すなわち知覚される相手の運動表現を対応付けるものである22.つまり模倣中に模倣者が持つ逆モデルは,模倣者自身の順モデルを制約条件として被模倣者の感覚的行動結果を逆変換したものである.一方で被模倣者は,自分の行動の結果としての相手の反応を予測し監視することで,自分自身の順モデルを更新する.模倣者の運動出力は,模倣者の順モデルを反映しているため,これらの反復的な更新プロセスは,相互作用する個体間の神経同期をもたらしうる.階層的予測符号化理論によれば,2者の相互模倣が成立するような条件においては神経活動の同期が出現し,神経活動の同期は双方の順モデルの共有を表象することが示されている21.すなわち,対面コミュニケーションにおける“共有”は“予測の共有”であり,その神経基盤は個体間神経活動の同期として描出できる15.実際の観測例を列挙する.

相互模倣

相互模倣は,典型的な社会的随伴行動である.相手による模倣は,模倣される側の行動に対するフィードバックであり,結果として行動を共有することになる.2個体同時計測fMRI(hyperscanning fMRI)によって相互主観性の中核をなす対面模倣時の行動表象の共有の神経機構は,ペア特異的な前方内部モデルが,ミラーシステムの一部である右下頭頂小葉の個人間同期によって表現される行動の共有表現であることがわかった15

共同注意

共同注意は,心の理論の前駆として社会能力発達過程における重要な里標であるとともに,自閉症スペクトラムの予測因子である.hyperscanning fMRIを行い,アイコンタクトを介した実時間性相互作用が,小脳と,前帯状皮質(ACC)および右前部島皮質(anterior insular cortex,以下AICと略記)を含むsalience networkを活性化することを示した23.共同注意中に2個体同時計測fMRIを行ったところ,右AIC領域が共同注意特異的に同期し,意図共有を表象すると考えられた24

心の理論

共同注意から心の理論への発達展開には言語コミュニケーションの関与が想定されるため,hyperscanning fMRIを用いて言語的な共同注意課題を遂行しているペアの神経活動の同期状態を解析したところ,右AICでペア間特異的,課題特異的な正の個体間相関が見られ,視線を介する共同注意の所見を再現した.さらに,課題関連活動除去後の残差時系列データの被験者間相関が前部内側前頭前野と右temporo-parietal junction(TPJ)を含むdefault mode networkにみられた.これらの領域は他者の心的状態の推論に関わる中核領域であることから,志向性を内容とする他者理解の共有,すなわち視覚経験共有を表象しているものと考えられた.さらにAICは,課題特異的同期,バックグラウンド同期の両方がみられ,salience networkとdefault mode networkをつなぐハブ的な存在であることが示された.これらの所見は,具体的な空間的注意の共有から,抽象的な意図・信念の共有に至る神経回路の階層構造が存在することを示している25.このことは,近年の非ヒト霊長類を対象とした実験研究の結果とも一致する.ミラーシステムは因果関係モデルのシミュレーションを通じて,物理的な物体や意図的なエージェントの隠れた特性を明らかにし,それらが提供する様々な行動の可能性(アフォーダンス)をオンラインで自動的に提示するという相互作用検出機能を担うこと26,そしてミラーシステムはdefault mode networkへの入口であることが示唆されている.実際,Ninomiyaら27は,ミラーシステムからdefault mode networkへの情報伝達が他者の動作情報に基づく動作選択に関与することを,ウイルスベクター二重感染法による選択的経路遮断により証明した.これらの研究は,従前独立したシステムと考えられてきたミラーシステムとdefault mode networkは,社会的随伴性を含む自他の関係性の解析において階層構造を形成するシステムであることを示唆している.

今後の展望

2人から3人以上へ

上記のアプローチは2個体間の相互作用の結果としての神経同期をhyperscanning fMRIで捉えている.一方,ヒトを特徴づける社会的相互作用は3人以上でより複雑となり,2人の相互作用と質的に異なるとされている28.3人以上のhyperscanningは脳波,NIRS(近赤外線スペクトロスコピー)が用いられることが多い29が,神経活動の局在を明らかにするために3人のhyperscanning fMRIが試みられている30.今後internetを経由して複数施設を結んだhyperscanning fMRIが展開することが予想される.一方fMRIは身体拘束が高度であり,課題の生態学的妥当性(ecological validity)を下げている.自然な体勢での社会的相互作用を行いつつ,脳皮質表面での神経活動描出に空間的時間的解像度をもたらす技術としてoptically pumped magnetometer (OPM)-magnetoencephalography (MEG)が注目されており,2個体同時計測が報告されている31

疾患へのアプローチ

自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder,以下ASDと略記)は,社会的相互交渉の質的異常,コミュニケーションの質的異常,および興味の限局と反復的行動のパターンを特徴とする発達障害である.共同注意の欠如は自閉スペクトラム症の初期徴候とされている.最近のメタ解析では,前部島皮質がASDにおける一貫した活動低下の場所であることが確認されている3233.上記の通り,共同注意において前部島皮質が重要な役割を果たすことから,前部島皮質をハブとしたネットワーク解析がコミュニケーション障害としての自閉スペクトラム症病態解明に向けて重要な手がかりを与えるものと期待される.

コミュニケーションの生物学的基盤探求ならびに臨床を包含するヒト社会脳科学の研究領域において,コミュニケーション障害を含む精神疾患の生物学的基盤を神経回路異常と捉えた場合,その制御という目標への実験的アプローチは,遺伝子型から出発するか,表現型から出発するかに大別できる.前者は,ヒトで原因遺伝子を同定-遺伝子改変マウスを作製-作製したマウスの回路解析-可能であればさらに非ヒト霊長類での回路解析,というアプローチである.精神疾患発症には複数遺伝子が関与していることに加えて,作製したマウスを解析する際のバイオマーカー(表現型/中間表現型を含めた)がないことが,精神疾患の病態解明における困難をもたらしている.

一方,表現型から出発する場合は,直接ヒトを対象として,表現型としての疾患診断を判別できる測度としての局所間機能結合を中間表現型として責任神経回路を同定し34,相同回路を霊長類で解析するというアプローチが考えられる.上記の展望は後者のアプローチである.すなわち精神疾患の基盤に想定される機能(例えばASDにおける心の理論を始めとする社会能力)を2者の相互作用の形でhyperscanning fMRIにより描出し,より高磁場(7テスラ)のMRI装置を用いてネットワーク構造を詳細に調べる一方で,前者のアプローチとの接点を非ヒト霊長類の脳画像上で探る,という展開が期待される.

利益相反

著者に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2024 Japanese Society of Neurology

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top