Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of myasthenia gravis with coexistence of anti-acetylcholine receptor antibodies and anti-P/Q-type VGCC antibodies
Yuki TakedaYoshikatsu NodaNaohiko SeikeHiroyuki Ishihara
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2024 Volume 64 Issue 4 Pages 292-295

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要旨

症例は79歳女性.嚥下障害,両側眼瞼下垂を来し入院した.抗アセチルコリン受容体(抗AChR抗体)と共に抗P/Q型電位依存性カルシウムチャネル抗体(抗P/Q型VGCC抗体)陽性が判明した.低頻度反復刺激試験で有意なdecrementを認めたが,高頻度反復刺激試験と単線維筋電図ではLambart-Eaton筋無力症候群として特徴的な所見を認めず,重症筋無力症と診断した.両抗体が共存する症例において,主たる病態の判定には電気生理学的な検索が有用である.

Abstract

A 79-year-old woman who presented ptosis and dysphagia were admitted to our hospital. Anti-acetylcholine receptor antibodies and anti-P/Q-type VGCC antibodies were both positive. Electrophysiological examination showed postsynaptic pattern which supported myasthenia gravis. She did not meet the diagnostic criteria for Lambert-Eaton myasthenic syndrome (LEMS). In cases which these antibodies coexist, careful electrophysiological evaluation is required for the diagnosis. In addition, although anti-P/Q-type VGCC antibodies have been specific to LEMS, patients with these antibodies represent various symptoms other than LEMS. Low and middle titer of the antibodies may be not specific to LEMS.

はじめに

抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体)は重症筋無力症(myasthenia gravis,以下MGと略記)の約80~85%で陽性となり1,同疾患に特異度の高い病原性自己抗体として知られる2)~4.また,抗P/Q型電位依存性カルシウムチャネル抗体(抗P/Q型VGCC抗体)も,Lambert–Eaton筋無力症候群(Lambert–Eaton myasthenic syndrome,以下LEMSと略記)に非常に特異的であるとされる5.今回,我々は抗AChR抗体と抗P/Q型VGCC抗体が共に陽性を示し,電気生理学検査よりMGと診断し得た1例を経験した.両抗体が陽性となる筋無力症は少数の報告があるのみであり,それらとの比較を交え本例の考察を行‍う.

症例

患者:79歳,女性

主訴:眼瞼下垂,嚥下困難

既往歴:左下葉肺腺癌(72歳時に摘出術.74歳時に再発部分切除術.以降は再発なし).糖尿病(76歳時に指摘されるも以降フォローアップされていなかった),非弁膜症性心房細動,高血圧症.

内服薬:カンデサルタン8 ‍mg/日,アムロジピン5 ‍mg/日,アピキサバン5 ‍mg/日,酸化マグネシウム500 ‍mg/日.

家族歴:家系内に類症はない.近親婚もない.

現病歴:入院3ヶ月前に両側眼瞼下垂と唾液の飲み込みにくさを自覚した.入院1ヶ月前に両側眼瞼下垂を主訴に前医眼科を受診し,抗AChR抗体が陽性であったことから重症筋無力症が疑われた.同時期より歩行困難も出現し,自宅内で杖歩行・伝い歩きとなった.X日に当科を紹介受診した.

一般身体所見:身長 140.3 ‍cm,体重 52.0 ‍kg,BMI 26.5.体温 36.6°C,血圧 106/61 ‍mmHg,脈拍 94回/分・整,呼吸数 14回/分,SpO2 94%(room air).口腔乾燥なし.

神経学的所見:意識は清明.両側眼瞼下垂と複視,嚥下障害,構音障害を認めた.徒手筋力テストで頸部屈筋は3,三角筋と腸腰筋は両側4と頸部四肢近位筋優位の筋力低下を認めた.四肢腱反射は減弱し,両側アキレス腱反射は消失していた.筋強収縮後の腱反射の回復は認めなかった.協調運動障害はみられなかった.自律神経障害として慢性的な便秘を認めた.来院には車椅子を使用し,診察室では点滴台を支えに短距離の歩行が可能であった.

検査所見:血液検査では,血算に異常を認めなかった.生化学検査ではBUN 31.1 ‍mg/dl,Cre 1.23 ‍mg/dlと軽度高値で,HbA1cは6.8%であった.抗AChR抗体は60.0 ‍nmol/l(基準値:0.3 ‍nmol/l以下)と陽性であったほか,抗P/Q型VGCC抗体も36.0 ‍pmol/l(基準値:30.0 ‍pmol/l)と陽性を示した.その他の自己抗体として,抗核抗体は40倍(均質型)で,そのほか抗SS-A/Ro抗体と抗GAD抗体も陽性であった.腫瘍マーカーはProGRP 106 ‍pg/ml(基準値:81 ‍pg/ml未満)と陽性を示し,NSEは12.7 ‍ng/ml(基準値:16.3 ‍ng/ml以下)と正常範囲であった.胸部CTで胸腺腫や肺内の腫瘍性病変はなかった.頭部MRIでは慢性虚血性変化のほかに特記すべき所見を認めなかった.末梢神経伝導検査では右正中神経,尺骨神経,脛骨神経いずれにおいても運動神経伝導検査に異常を認めなかった.感覚神経伝導検査では,右腓腹神経にSNAP振幅および伝導速度の軽度低下を認めた.3 ‍Hzの低頻度反復刺激試験では,右尺骨神経と副神経で漸減現象を認めた(右小指外転筋:1発目に対する4発目の複合筋活動電位の振幅減衰率13.7%.右僧帽筋:1発目に対する4発目の減衰率29.0%).右尺骨神経の高頻度反復刺激試験で漸増現象はみられなかった.アイスパックテストは陰性であった.また,退院後に実施した単線維筋電図試験(stimulated SFEMG)では,左前頭筋でmean MCD 40.6 ‍μsで,abnormal jitterは15ペア中4ペアにみられた.Blockingの頻度は0.9%で,刺激頻度の増加によるBlockingの改善は認めなかった.

臨床経過:嚥下障害,歩行障害を認め,X日緊急入院となった.抗AChR抗体陽性の非胸腺腫全身型MGとして,同日より大量免疫グロブリン療法を5日間実施し,経口プレドニゾロンを5 ‍mg/日より開始した.X+1日に経口プレドニゾロンを10 ‍mg/‍日に増量したが,X+2日に嚥下障害の増悪がみられたためプレドニゾロンは中断した.X+6日,刻み食の摂取が可能となり,経口プレドニゾロンを5 ‍mg/日より再開した.X+7日よりタクロリムス2 ‍mg/日を追加し,プレドニゾロンは20 ‍mg/日まで漸増した.歩行障害と嚥下障害,眼瞼下垂は経時的に改善し,X+10日時点でMG-ADLスコアは16点から8点に改善した.X+16日,抗P/Q型VGCC抗体の陽性が判明した.病態を再検討したが,LEMS診断基準20221は満たさず,電気生理学的検査でpostsynaptic patternを認めたことを踏まえ,重症筋無力症として治療を継続した.普通食の嚥下と,杖使用下での日常生活動作が可能となり,X+24日自宅退院した.退院後X+31日に再検したProGPRは61.5 ‍pg/mlと陰性化していた.その後外来でプレドニゾロンを5 ‍mg/日まで漸減し,X+624日時点で再検した抗P/Q型VGCC抗体は陰性化(<30 ‍pmol/l)していた.

考察

本例は筋無力症を呈した患者において抗AChR抗体と抗P/Q型VGCC抗体とが共に陽性を示し,電気生理学的検査からMGと診断した1例である.大量免疫グロブリン療法およびプレドニゾロンを主とする免疫治療により症状の改善を認めた.

神経筋接合部疾患は通常,シナプス前終末の障害またはシナプス後膜上の障害に分類される.MGはシナプス後膜上の障害で最も頻度が高く,LEMSはシナプス前終末の神経筋接合部の伝達の障害としてよく知られている6.一方で過去にMGとLEMS両者の臨床的・電気生理学的特徴を有する症例が複数報告されている.それらはMG LEMS overlap syndrome(MLOS)と表現され,診断基準にはLEMSの電気生理学的特徴を満たすことが含まれている7.本例ではMG,LEMSそれぞれに特異的とされる抗AChR抗体および抗P/Q型VGCC抗体が陽性であったが,電気生理学的検査でシナプス後膜上の障害のみが示唆されたことから,MGと診断した.肺小細胞癌の腫瘍マーカーであるProGRPは3ヶ月後の再検で陰性化しており,以降も悪性腫瘍の出現は認めなかった.ProGPRは腎不全により偽陽性となることがあり8,本例における一過性のProGRP陽性は経口摂取困難による腎前性腎不全が原因であったと判断した.

次に,本例における抗P/Q型VGCC抗体の意義について考察する.本邦では本村らによる抗P/Q型VGCC抗体RIAキットを用いた検討により,健常成人の抗体価分布の100パーセンタイル値からカットオフ値が30.0 ‍pmol/lに定められており,健常群,重症筋無力症,筋萎縮性側索硬化症での陽性率はいずれも0.0%であった9.一方で,Zalewskiらは,Mayo clinicで腫瘍随伴性自己抗体を測定された6,842例のうち,236例(3.4%)が抗VGCC抗体陽性を呈し,更にその中で神経筋接合部障害を呈したのは10例(陽性例の4.2%)であったと報告している.10例中6例は電気生理学的にLEMSと確定診断されたが,残りの4例は臨床的・電気生理学的にシナプス後膜上の障害を認め,うち2例では抗AChR抗体も陽性であった.また抗VGCC抗体陽性例の中で,神経筋接合部疾患の他に末梢神経障害,認知機能障害,自律神経障害,パーキンソニズムなどが多彩な表現型がみられたが,抗体価の上昇が軽度から中等度の患者(30~99 ‍pmol/l)は高値の患者(100 ‍pmol/l以上)と比較し,自己免疫性の機序が考えられる神経症状(脳症や失調症,脊髄症,ニューロパチー,神経筋接合部疾患,ミオパチー)の頻度が有意に低かった10.本例の抗体価も36.0 ‍pmol/lと低値であり,抗P/Q型VGCC抗体が病的意義を有していなかった可能性もあると考えた.

最後に,2023年時点での抗AChR抗体と抗P/Q型VGCC抗体が共に陽性を示した神経筋接合部疾患のうち症状および電気生理学的評価が記載されている既報告をTable 1に示す61112.本例を含む4例中,電気生理学的にMGと診断された症例は2例で,他方はLEMSと診断されている.LEMSで比較的頻度が低い眼球運動障害を全例に認めており,共陽性例の特徴である可能性がある.同様に深部腱反射も全例で低下・消失していたが,本例を含むMGの2例はいずれも糖尿病の影響を否定できなかった.抗体価の記載があるLEMSの2例と本例の比較では,前者で抗P/Q型VGCC抗体の抗体価が高かった.前述のZalewskiらの報告10も考慮すると,抗AChR抗体と抗P/Q型VGCC抗体が共に陽性を示す症例において,抗体価の多寡が表現型に反映されることが示唆された.

Table 1 A review of cases in which anti-acetylcholine receptor antibodes and anti-P/Q-type VGCC antibodies coexist.

Age/
gender
Oculo-bulbar weakness Depressed or absent DTR Dysautonomia Antibody EMG pattern Comorbidities
AChR
(nmol/l)
type P/Q VGCC
(pmol/l)
Kanzato et al11) 57/M + + 0.3 342.7 Presynaptic benign adenoidal hypertrophy
Katz et al12) 47/F + + + 9.3 94 Presynaptic
Roohi6) 70/F + + 3 n.a. Postsynaptic diabetes mellitus, abdominal/uterine leiomyosarcoma
Our case 79/F + + + 60 36 Postsynaptic diabetes mellitus

n.a: not available.

抗P/Q型VGCC抗体はLEMSに特異的な抗体であるとされてきたが,MGを含め,多様な表現型を呈しうる.本邦のガイドラインにおいても,LEMSの診断においては反復刺激試験の異常を証明することが必須とされており,抗P/Q型VGCC抗体は反復刺激試験の異常を補完する診断項目に留められている1.本邦では2021年9月よりRIA法による抗P/Q型VGCC抗体検査が保険収載され測定が従来と比べ容易となったが,偽陽性やMLOSの可能性を考慮し,その抗体価と臨床症状,そして電気生理学的検査をもとに病態を正確に評価することが重要である.

利益相反

著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

Notes

本報告の要旨は,第124回日本神経学会近畿地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

文献
 
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