Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Juvenile-onset anti-nuclear matrix protein 2 (NXP-2) antibody-positive dermatomyositis with joint contractures before manifestation of myositis: a case report
Eito MiuraTomone TanedaYoshitaka UmedaMaiko UmedaMutsuo OyakeTakashi MatsushitaIchizo NishinoNobuya Fujita
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2024 Volume 64 Issue 6 Pages 417-421

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要旨

症例は23歳男性.18歳より両手の手指の関節拘縮に気づき,22歳より筋力低下と筋萎縮が出現した.皮疹,関節拘縮,嚥下障害,四肢体幹の筋力低下と著明な筋萎縮を認めた.間質性肺炎や悪性腫瘍はなく,腱のCT値の上昇を認めた.筋生検では筋束辺縁部萎縮を認めたが,リンパ球の浸潤はめだたなかった.血清抗体検査から,抗nuclear matrix protein 2(NXP-2)抗体陽性皮膚筋炎と診断した.ステロイド治療で,皮疹や球麻痺症状は速やかに消失したが,筋力低下や関節拘縮は残存した.若年成人発症で関節拘縮が4年間も先行した抗NXP-2抗体陽性皮膚筋炎の報告はなく,鑑別上重要である.

Abstract

A 23-year-old man was admitted to our hospital with a one-year history of muscle weakness and atrophy. He had noticed contractures of the fingers of both hands from the age of 18. Examination revealed a skin rash including heliotrope rash and Gottron’s sign, joint contractures in the extremities, dysphagia, extensive muscle weakness and marked muscle atrophy. The serum creatine kinase level was 272 ‍IU/l and muscle biopsy showed typical perifascicular atrophy but little lymphocyte invasion. There was no interstitial pneumonia or malignancy, but muscle tendons showed elevated CT values suggesting calcification or fibrosis. Anti-nuclear matrix protein 2 (NXP-2) antibody-positive dermatomyositis was diagnosed on the basis of the serum antibody level. Methylprednisolone pulse therapy ameliorated the skin rash and bulbar palsy, but muscle weakness, atrophy and joint contractures were resistant to the treatment. There have been no previous reports of young adults with anti-NXP-2 antibody-positive dermatomyositis in whom joint contracture became evident as early as 4 years beforehand, which is a important feature for differential diagnosis of dermatomyositis.

はじめに

抗nuclear matrix protein 2(NXP-2)抗体は,小児の皮膚筋炎(dermatomyositis,以下DMと略記)において約20%を占める主要な自己抗体である1.近年,成人例の報告も蓄積されてきているが,皮疹が有意に少なく,悪性腫瘍や間質性肺疾患が多い傾向があるなど,小児例との違いがみられる23.我々は,18歳で手指の関節拘縮から始まり,その4年後より筋炎の所見が顕在化し,全身の著明な筋萎縮と関節拘縮を認めた若年発症のDMの症例を経験したので報告する.

症例

症例:23歳,男性

主訴:四肢筋力低下,体重減少

既往歴:なし.

生活歴:小学校では野球部,中学校から高校はテニス部に所属.大学卒業後は事務職に従事.飲酒なし,喫煙なし.

現病歴:2018年(18歳)より両手の手指の完全な屈曲や伸展ができなくなったが,手指以外に症状はなく,進行なく経過した.2021年より両膝の伸側に紅斑が出現し,消退なく残存した.2022年5月頃から,徐々に椅子からの立ち上がりが困難となり,8月から重い物が持ち上げられなくなった.2023年1月から,顔面や手指にも皮疹が出現したため,前医を受診した.約1年間で15 ‍kgの体重減少があり,体幹や四肢の著明な筋萎縮と筋力低下,皮疹,筋原性酵素の上昇を指摘され,当科へ紹介,入院となった.

入院時現症:身長175 ‍cm,体重47 ‍kg,BMI 15.3,血圧129/65 ‍mmHg,脈拍118/分,体温36.5°Cで,心肺腹部に異常所見はなく,ヘリオトロープ疹,手指や肘,膝関節伸側のゴットロン徴候,耳介の紅斑,ショール徴候を認めた.爪囲紅斑や皮下石灰沈着,四肢の浮腫,皮膚硬化はなかった.神経学的には,意識は清明で,眼球運動に制限はなく,顔面麻痺を認めなかった.舌の萎縮や運動障害はなかったが,開鼻声,開口制限,嚥下障害を認めた.筋痛はなかったが,体幹と四肢遠位まで及ぶびまん性の筋萎縮があり,臥位での頸部前屈は不可能であった.両手掌で浅指屈筋腱が短縮しており,体表からの観察と触知が可能で(Fig. 1A),関節拘縮により手指の完全な伸展は困難であった(Fig. 1B).手指の屈曲制限により(Fig. 1C),握力計を握り込めず,握力の測定はできなかった.肩関節(屈曲75°/70°,伸展−60°/30°,外転90°/90°),肘関節(屈曲−25°/−40°),手関節(掌屈60°/50°),中手指節関節(伸展0°/0°),近位・遠位指節関節(屈曲80°/80°,伸展−30°/−30°),股関節(屈曲100°/100°),足関節(背屈0°/5°)に関節可動域制限がみられた.四肢の完全な挙上は不可能であり,徒手筋力テストでは四肢近位筋2レベル,遠位筋4レベル程度と考えられたが,関節拘縮のため正確な評価は困難であった.四肢腱反射は減弱していた.運動失調や感覚障害は認めなかった.

Fig. 1 Joint contractures of the fingers on admission.

The tendons of the flexor digitorum superficialis are shortened (arrowheads) (A), and complete hand opening is restricted (B). Complete hand gripping is restricted due to hand flexion contracture (C).

検査所見:血液検査では,白血球やCRPの上昇,赤沈の亢進は認めなかった.CK 272 ‍IU/lと軽度の上昇を認めたが,肝腎機能に異常はなく,甲状腺機能は正常であった.アルドラーゼは14.4 ‍U/lと軽度上昇していた.抗ARS抗体,抗Mi-2抗体,抗MDA5抗体,抗TIF1-γ抗体は,いずれも陰性であった.一方,抗NXP-2抗体,抗small ubiquitin-like modifier activating enzyme(SAE)抗体を免疫沈降法-ウェスタンブロッティング法で測定したところ,抗NXP-2抗体が陽性であった.針筋電図では,右上腕二頭筋,大腿四頭筋にて,低振幅,低持続時間の運動単位電位を示したが,安静時の線維自発放電や陽性鋭波は認めなかった.呼吸機能検査では,%VC 57.8%,FEV 1.0% 99.7%の拘束性換気障害を認めた.嚥下造影検査では,軟口蓋の挙上不良と鼻咽腔閉鎖不全,喉頭挙上不全を認めた.上部内視鏡検査では異常を認めず,体幹部造影CTでは,間質性肺炎や悪性腫瘍を認めなかった.四肢,体幹部単純CTで,手内筋や腸腰筋,薄筋の腱やアキレス腱の高吸収を認めた(CT値70~100 ‍HU(Hounsfield Units)程度)(Fig. 2).下肢筋MRIでは,short-tau inversion recovery(STIR)法で両側内側広筋に高信号域を認め‍た.

Fig. 2 Abdominal and leg CT on admission.

Plain CT shows high density in the gracilis muscle tendon (A), the iliopsoas muscle tendon (B), and the Achilles tendon (arrowheads) (C). CT values of these tendons are 70–90 Hounsfield Units.

左大腿直筋の筋生検では,リンパ球の浸潤はめだたず,筋線維の大小不同も著明ではなかったが,筋束辺縁部萎縮を認めた(Fig. 3A).微小梗塞はなかった.免疫染色では,筋束辺縁部筋線維主体にHLA-ABCの発現を認めるとともに,同部位の毛細血管に膜侵襲複合体沈着を認めた.また,筋束辺縁部の筋線維にはミクソウイルス抵抗性タンパク質Aが発現しており,病理学的にもDMと診断された(Fig. 3B~D).

Fig. 3 Pathological examination of biopsy specimens from the left quadriceps muscle.

Hematoxylin and eosin staining shows mild to moderate levels of variably sized myofibers and myofiber atrophy in the perifascicular region, but absence of any mononuclear inflammatory infiltrate (A). Moderate to marked expression of sarcolemmal HLA-ABC is apparent in the perifascicular region (B). Membrane attack complex (MAC) deposition on capillaries in the perifascicular region (C). Myxovirus resistance protein A (MxA) expression is evident in myofibers, predominantly in the perifascicular region (D). Bar = 100 ‍μm (A), 200 ‍μm (B,D), 50 ‍μm (C).

入院後経過:抗NXP-2抗体陽性DMと診断して,入院10日目よりステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン: mPSL 1,000 ‍mg/日×3日間)を2クールとプレドニゾロン30 ‍mg/日の後療法を行い,CKは72 ‍IU/lまで低下した.皮疹は,すみやかに消失して,開鼻声や開口制限,嚥下障害も寛解した.関節可動域は,肩関節外転115°/110°,股関節屈曲110°/120°と部分的に改善を認め,手の関節拘縮の改善で握力は10 ‍kg/7 ‍kgとなった.明らかな筋力の改善は認めなかったが,介助なしでの椅子からの立ち上がりは,治療前には座面の高さが56 ‍cm以上必要であったが,治療後は49 ‍cm以上まで改善した.治療後のアキレス腱のCT値は70~100 ‍HU程度で著変はなかった.

考察

本例は,18歳で手指の関節拘縮が先行して発症し,4年後に全身の著明な筋萎縮が進行した皮膚筋炎の症例である.関節拘縮を合併していることから,抗NXP-2抗体陽性DMを疑い,抗体検査で診断に至った.抗NXP-2抗体陽性DMは,筋痛や皮下浮腫,嚥下障害,石灰沈着を特徴とするが2,本例では,筋痛や皮下浮腫はなく,筋症状出現の4年前からの関節拘縮がめだった点が特徴的であった.

抗NXP-2抗体は,1997年にOddisらにより,抗MJ抗体という名称で小児DMに関連する抗体として初めて報告された4.抗NXP-2抗体は,小児のDMの約20%を占めるが(発症年齢中央値5.8歳)1,近年の本邦の統計では,病理学的にDMと診断された成人(≧18歳)においても,DM特異的自己抗体のうち,抗TIF1-γ抗体に次いで二番目に多く,25%を占めるとされる5.成人発症の抗NXP-2抗体陽性DMでは,小児発症の症例に比べると,DMに特異的な皮疹や石灰沈着が有意に少なく,悪性腫瘍や間質性肺疾患の頻度が多いと報告されている3.本例は,18歳と若年発症で,悪性腫瘍や間質性肺疾患の合併はみられず,皮疹や関節拘縮がめだち,小児例の特徴を呈していた.

小児発症の抗NXP-2抗体陽性DMでは,関節拘縮は特徴的な所見とされる4.関節拘縮を合併した報告は,渉猟し得た限り,成人発症例では19歳発症の1例のみである6.アルゼンチンの小児筋炎を対象とした研究では,抗MJ抗体陽性筋炎16例のうち7例で,重度の筋萎縮に関節拘縮や筋の短縮を伴っていたと報告されている7

抗NXP-2抗体陽性DMにおける関節拘縮の機序は明らかになっていないが,腱の石灰化8や線維化,筋短縮,関節自体の拘縮などの要素があると考えられる.抗NXP-2抗体は小児と成人のいずれにおいても石灰沈着と有意に関連があるが129,成人例と比較して小児例で頻度が高く3,さらに小児例の中では年齢が低いほど石灰沈着が出現すると報告されている9.抗NXP-2抗体陽性DMに限らず小児のDMでは,石灰沈着は筋膜や腱に沿う形でも出現する10.本例では,手内筋や腸腰筋,薄筋の腱やアキレス腱の濃度上昇を認め,石灰化と断定できるほどのCT値ではなかったものの,軽度の腱の石灰化や線維化を反映している可能性がある.また,腱の拘縮以外にも,肘関節などで,関節自体の拘縮も認めており,これらの要素の複合により拘縮を来したと考えられるが,関節自体の拘縮の機序は不明であり,今後の症例の蓄積が必要である.

本例では四肢遠位筋まで及ぶ重度の筋萎縮がみられ,著しい機能障害を認めた.抗NXP-2抗体陽性DMは,重篤な筋症状を呈することが知られており,分布としては,頸部や四肢遠位まで広範にみられる311.小児例と成人例では,筋症状の頻度や分布に有意差はないとされる3.抗NXP-2抗体陽性の成人例では,遠位の筋が障害を受けやすいとの報告もあり11,本例でも,両上肢遠位の障害から発症した.小児の抗MJ抗体陽性筋炎の報告では筋萎縮の頻度が高いとされ7,本例でみられた著明な体重減少を伴う重度の筋萎縮は若年例の抗NXP-2抗体陽性DMの特徴の可能性がある.

抗NXP-2抗体陽性DMでは,通常数千台の高度の高CK血症を伴うが23,本例では重度の筋萎縮を伴っていたにも関わらず,血清CKの上昇は軽度であった.抗NXP-2抗体陽性DMの筋病理では炎症細胞浸潤がみられるが12,本例の筋病理所見では,皮膚筋炎に特徴的な筋束辺縁部萎縮を認めたものの,炎症細胞浸潤がめだたなかった.抗NXP-2抗体陽性DMの筋病理では微小梗塞の有無が筋力低下の程度と関連しており,筋虚血があるDM患者では重症のミオパチーを呈するとの報告もあるが3,本例では微小梗塞や筋虚血の所見は認めなかった.臨床的にも,筋痛がなく筋萎縮が進行したことや,血液検査で炎症を示唆する所見がなかったことは,軽度の慢性炎症が長期間持続したためと考えられた.本例は関節拘縮の出現と筋炎の顕在化に時間差がみられたが,その理由としては,小児例の関節拘縮の特徴を併存していたことや,筋炎が顕在化する前より無症候性に筋症状が発症していたことが考えられる.

抗NXP-2抗体陽性DMでは,成人発症と小児や若年発症では臨床症状が異なる.若年発症で関節拘縮を合併している場合,抗NXP-2抗体を積極的に検査することが診断につながる.若年発症の抗NXP-2抗体陽性DMは,本例のように筋炎としての炎症所見は軽度であるものの,筋萎縮や関節拘縮がめだつ可能性があり,重度のADL低下をきたすため,早期の診断と治療が重要である.

利益相反

著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

Notes

本研究は,国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(5-6)の支援を受けたものである.

文献
 
© 2024 Japanese Society of Neurology

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