2024 Volume 64 Issue 7 Pages 465-473
片頭痛は大きな支障を生じるにもかかわらず,周囲から認識されづらい疾患である.本研究では,片頭痛患者,同居家族,診療医の3者の片頭痛に対する認識を探索的に比較した.患者と家族は片頭痛のつらさについて共通認識を持ち,共に家族で過ごす時間の充実を願っていた.一方で家族は患者をいたわる気持ちを持っているものの,患者の側では,周囲の理解不足や周囲への気遣いによる諦めや我慢が生じていた.医師の診療については,個々の患者の希望や支障を把握し,それに応じた治療提案を行う重要性が示唆された.片頭痛の負担の軽減のため,個々の患者が感じるつらさや希望について周囲が理解しサポートできる環境構築や啓発が必要である.
Migraine is a disease that is difficult to be recognized by those around the patients, even though it causes significant hindrances. In this study, we conducted an exploratory comparison of the perceptions on migraine among patients, family members living with them, and physicians treating migraine patients. Patients and family members shared a common understanding on the pain of migraine, and hoped to spend more/better time together as a family. However, although family members felt compassion for the patients, lack of understanding by and patients’ concern for the surroundings led to feelings of resignation and endurance on the side of patients. Regarding physicians’ medical care, our results suggested the importance to understand the wishes and obstacles of each patient and to propose treatment accordingly. In order to reduce the burden of migraine, it is necessary to create an environment and raise awareness that allows people around the patients to understand and support the pain and hopes that each patient feels.
片頭痛は中等度以上の頭痛が繰り返し起こり大きな支障を及ぼす疾患だが1)2),中核症状である痛みは他者に認識されづらい.痛みの存在を認識されたとしても,その悪化要因や随伴症状はさらに理解されづらい2).このため,片頭痛患者が抱える問題は周囲に十分理解されない可能性がある.先行研究では約3割の患者が自身の片頭痛を医師に深刻なものとして捉えてもらえないと回答しており3),片頭痛症状や支障に対する無理解が患者の孤独感や不安,苛立ちを生んでいるとの報告もある4).
患者や周囲の片頭痛に対する理解を深めることが自身の自己肯定感を改善し,家族が患者をサポートし,診療医がより適切な治療を行うことに繋がると考えられる.しかし,患者と周囲の者がそれぞれ片頭痛をどのように認識しているかが把握されていないために,どのような課題が存在し,どのように議論を進めていくべきかが明確でないのが現状である.
本研究では,片頭痛患者,同居家族,診療医の片頭痛に対する認識を記述し,3者間の認識差を探索評価した.「症状や疾患に対する認識」「日常生活への影響」「コミュニケーション・互いに対する思い」の3点から評価し,家族に伝わりにくい片頭痛の実態や,医師の診療で見落とされがちな片頭痛の支障の記述を試みた.
2022年5月に株式会社社会情報サービスが実施した患者・家族・医師に対するオンラインサーベイの回答を対象に二次解析を行った.患者・家族・医師はそれぞれ独立に募集し,互いの対応関係はない.
患者サーベイは楽天インサイト株式会社の疾患パネル登録者のうち,片頭痛と診断(「二次性頭痛」「うつ/不安症」診断なし)され,典型的な片頭痛の特徴を有し,片頭痛日数(直近3カ月間における月あたりの平均片頭痛日数)が2日以上あり,20歳以上65歳以下の者とした.家族サーベイは同社の一般生活者パネル登録者のうち,自身は片頭痛患者ではない,片頭痛と診断された20歳以上の同居家族(「二次性頭痛」「うつ/不安症」診断なし)がいる,18歳以上の者とした.医師サーベイは医療情報専門サイトm3.com会員医師のうち,月10人以上の片頭痛患者を診療し,脳神経内科・脳神経外科・一般内科・精神科/心療内科に所属し,自身や家族が製薬会社・医療機器メーカーで現在勤務していない者とした.各サーベイの全体の設問数は20~40問だった.
片頭痛に対する認識,日常生活における支障,コミュニケーションに関する設問の回答結果を解析対象とした.家族では,家族から見た同居患者の片頭痛日数が月あたり2日以上と回答した集団を解析対象とした.
患者と家族間の認識の比較では,母比率の差の検定を用いた.患者,家族,医師でのアブセンティーズムとプレゼンティーズムの心理的なつらさに対する点数の比較ではSteel-Dwass法を用いた.有意水準は両側0.05とした.データ集計はBellCurve秀吉Dplus ver1.10を,統計検定はエクセル統計(いずれも株式会社社会情報サービス)を用いた.
本研究は,医療法人社団藤啓会北町診療所倫理審査委員会の承認を受けた(承認番号BGQ09172,承認日:2022年9月21日).全サーベイで,調査参加ならびに回答データの研究使用について回答者から同意を取得した.
患者207名,家族151名,医師232名を解析対象とした(Table 1).患者の平均年齢(SD)は44.4(9.1)歳,69.1%が女性,63.8%が既婚だった.家族の平均年齢(SD)は45.8(11.4)歳,32.5%が女性,84.8%が既婚であり,同居する片頭痛患者との続柄は80.1%がパートナーだった.医師の所属診療科は45.3%が一般内科,次いで脳神経外科(20.3%),脳神経内科(19.0%),精神科/心療内科(15.5%)だった.月あたり片頭痛患者診療人数の平均(SD)は29.3(31.4)人だった.
Patients (N = 207) |
Family members (N = 151) |
Physicians (N = 232) |
|
---|---|---|---|
Age | |||
Mean ± SD | 44.4 ± 9.1 | 45.8 ± 11.4 | — |
10s | 0 (0.0) | 1 (0.7) | — |
20s | 13 (6.3) | 16 (10.6) | — |
30s | 50 (24.2) | 25 (16.6) | — |
40s | 76 (36.7) | 45 (29.8) | — |
50s | 63 (30.4) | 48 (31.8) | — |
60s | 5 (2.4) | 16 (10.6) | — |
Gender | |||
Female | 143 (69.1) | 49 (32.5) | — |
Male | 64 (30.9) | 102 (67.6) | — |
Marital status | |||
Unmarried | 56 (27.1) | 22 (14.6) | — |
Married | 132 (63.8) | 128 (84.8) | — |
Separated/Widowed | 19 (9.2) | 1 (0.7) | — |
Status of migraine management (of patients themselves [patients], or the status that family members recognize [family members]) | |||
Visiting medical institutions (e.g., clinic or hospital including non-regular visits) | 141 (68.1) | 98 (64.9) | — |
Use of acute treatment drugs prescribed by physicians (when pain occurs) | 117 (56.5) | 78 (51.7) | — |
Use of prophylactic drugs prescribed by a physician (to prevent migraine attacks from occurring or to reduce their incidence) | 44 (21.3) | 30 (19.9) | — |
Use of OTC drugs (sold at pharmacies) | 116 (56.0) | 79 (52.3) | — |
Other | 6 (2.9) | 1 (0.7) | — |
Doing nothing in particular (only ask the family arm) | — | 9 (6.0) | — |
Do not know (only ask the family arm) | — | 4 (2.6) | — |
Number of days with migraine per month (of patients themselves [patients], or based on the family members’ recognizinition [family members]; mean number of days with headache per month in the last 3 months) | |||
Mean ± SD | 8.5 ± 6.8 | 6.0 ± 5.9 | — |
0–1 day | 0 (0.0) | 0 (0.0) | — |
2 days | 28 (13.5) | 32 (21.2) | — |
3–4 days | 44 (21.3) | 52 (34.4) | — |
5–6 days | 33 (15.9) | 26 (17.2) | — |
7–8 days | 19 (9.2) | 6 (4.0) | — |
9–10 days | 41 (19.8) | 22 (14.6) | — |
11 days or more | 42 (20.3) | 13 (8.6) | — |
Relationship to patients with migraine (from a family member’s point of view) | |||
Spouse/Partner | — | 121 (80.1) | — |
Child/Child-in-law (incl. natural child, adopted child, daughter-in-law, son-in-law, or grandchild) who is 20 years old or older | — | 6 (4.0) | — |
Parent/Parent-in-law | — | 21 (13.9) | — |
Grandparent | — | 0 (0.0) | — |
Other cohabitants who are 20 years old or older | — | 3 (2.0) | — |
Type of facility | |||
University hospital | — | — | 29 (12.5) |
National/Public hospital | — | — | 26 (11.2) |
General hospital | — | — | 82 (35.3) |
Office/Clinic | — | — | 95 (40.9) |
Specialty | |||
Neurology | — | — | 44 (19.0) |
Neurosurgery | — | — | 47 (20.3) |
General internal medicine | — | — | 105 (45.3) |
Psychiatry/Psychosomatic medicine | — | — | 36 (15.5) |
Number of migraine patients treated in the past month | |||
Mean ± SD | — | — | 29.3 ± 31.4 |
Fewer than 9 patients | — | — | 0 (0.0) |
10 patients | — | — | 60 (25.9) |
11 to 15 patients | — | — | 51 (22.0) |
16 to 20 patients | — | — | 40 (17.2) |
21 to 50 patients | — | — | 53 (22.8) |
51 patients or more | — | — | 28 (12.1) |
N (%)
始めに,片頭痛の疾患や症状に関する認識を評価した.
片頭痛症状の特徴の記述に対する患者と家族の同意割合について,「1回の発作が4~72時間持続する」「吐き気や嘔吐を伴うことがある」では患者と家族で同程度の回答割合だったが,「頭痛は主に片側である」「脈拍に合わせて頭痛がある」「日常的な動作で頭痛がひどくなる」「音や光の刺激がつらい」ではいずれも患者の方が高い回答割合だった(P < 0.05,母比率の差の検定)(Table 2).
患者 (N = 207) |
家族 (N = 151) |
母比率の差の検定 | ||
---|---|---|---|---|
z | P | |||
自身が片頭痛になった時の症状(患者)/片頭痛の症状としてあてはまると考えるもの(家族) | ||||
1回の発作時の頭痛が4~72時間持続する | 134(64.7) | 99(65.6) | −0.162 | 0.871 |
頭痛は主に片側である | 125(60.4) | 74(49.0) | 2.140 | 0.032* |
脈拍に合わせてズキンズキンとする頭痛がある | 157(75.8) | 100(66.2) | 1.997 | 0.046* |
日常的な動作(歩いたり階段を上る)で,頭痛がひどくなる | 111(53.6) | 54(35.8) | 3.348 | 0.001** |
頭痛の時吐き気や嘔吐を伴うことがある | 128(61.8) | 91(60.3) | 0.301 | 0.763 |
頭痛の時に音や光の刺激がつらいと感じることがある | 126(60.9) | 76(50.3) | 1.986 | 0.047* |
上記のどれにもあてはまらない(患者群のみ聴取) | 0(0.0) | ― | ― | ― |
その他(家族群のみ聴取) | ― | 2(1.3) | ― | ― |
わからない/把握していない(家族群のみ聴取) | ― | 13(8.6) | ― | ― |
片頭痛はどのような病気だと認識しているか | ||||
理由(原因)はわからないが,頭が痛くなる病気 | 143(69.1) | 123(81.5) | −2.646 | 0.008** |
病気というよりは体質のようなもの | 158(76.3) | 107(70.9) | 1.165 | 0.244 |
遺伝として背負ってしまう病気 | 86(41.5) | 47(31.1) | 2.015 | 0.044* |
生活習慣が影響し,頭痛を起こす本人自身でコントロール(管理)が必要な病気 | 118(57.0) | 88(58.3) | −0.241 | 0.810 |
生活に支障が出るが,薬で対処しながら付き合っていくしかない病気 | 186(89.9) | 127(84.1) | 1.620 | 0.105 |
神経学的な脳の病気 | 114(55.1) | 77(51.0) | 0.764 | 0.445 |
治療により症状・状態が改善できる病気 | 136(65.7) | 105(69.5) | −0.764 | 0.445 |
N (%) *: P < 0.05, **: P < 0.01
片頭痛がどのような疾患と思うかの質問では,「理由はわからないが頭が痛くなる病気」では家族の方が同意割合が高かったが,「遺伝として背負ってしまう病気」では患者の方が高かった(Table 2; P < 0.05,母比率の差の検定).
片頭痛,緊張型頭痛,骨折,腎結石,出産に伴う痛みの程度に対する患者,家族,医師の認識を把握するため,各痛みの程度を0(痛みがない)~100(想像できる最大の痛み)の点数で評価した(Fig. 1).5つの痛みの中で,片頭痛の点数の中央値は,患者では出産に次いで2番目に,家族と医師では4番目に大きかった.
The patients, family members, and physicians answered the level of pain due to migraine, tension headache, bone fracture, kidney stone, and childbirth based on their own perception, on a scale of 0 (no pain) to 100 (worst imaginable pain), and the results are shown with box plots. The medians of the level of pain for migraine were 80.0 for patients, 71.0 for family members, and 80.0 for physicians. The crosses (x) indicate responses that are more than 1.5 times the interquartile range from its lower quartile and upper quartile.
次に,片頭痛の日常生活への影響に関する認識を評価した.
片頭痛の支障には,役割を遂行できないこと(アブセンティーズム)や能率が低下すること(プレゼンティーズム)が含まれる.片頭痛による心理的つらさについて,患者,家族,医師がそれらの支障のどちらにより共感するかを0(能率が低下すること)~100(役割を遂行できないこと)の点数で評価した(Fig. 2).点数の中央値は,患者で70.0,家族で68.0,医師で76.5であり,医師は,患者と家族のいずれよりも点数が高い,すなわち役割を遂行できないことのつらさにより強い共感を示した(Steel-Dwass法,患者-医師:P = 0.007,家族-医師:P < 0.001).
The patients, family members, and physicians evaluated which is more psychologically painful, inability (absenteeism) or reduced efficiency (presenteeism) in performing one’s role due to the migraine symptoms, on a scale of 0 (Presenteeism) to 100 (Absenteeism), and the results are shown with box plots. The crosses (x) indicate the responses that are more than 1.5 times the interquartile range from its lower quartile and upper quartile. The p-values show the results of the Steel-Dwass test.
片頭痛による支障(プレゼンティーズム)の内容について,つらいと思うこと・最も改善したいと思うことを評価した(Fig. 3).患者,家族のいずれも,「つらいと思うこと」は上位から順に仕事(患者:79.7%,家族:69.8%),家事や育児(64.9%,61.7%),家族や友人との時間(62.9%,51.0%)および外出・旅行(レジャー)や趣味(61.9%,53.7%)であり,いずれも半数以上だった.それに対し「最も改善したいと思うこと」では患者と家族共に3割以上が仕事を挙げた(34.7%,31.5%)一方で,家族や友人との時間(9.9%,10.1%)および外出・旅行(レジャー)や趣味(9.4%,4.7%)を挙げたのは1割程度以下だった.医師は「つらいと思うこと」「最も改善したいと思うこと」のいずれも,仕事,次の発作への不安が上位だった.
患者,家族,医師において,片頭痛によるプレゼンティーズムで生じたつらいと思うこと(患者)・つらいと思われること(家族,医師),そのうちで最も改善したいと思うこと(患者,家族,医師)に対する回答割合を示す.なお,患者,家族,医師のいずれにおいても当該設問の回答対象は,前問の「身体的・精神的なアブセンティーズム~プレゼンティーズム」の点数評価で99点以下(プレゼンティーズムによるつらさあり)の回答を示した患者N = 202,家族N = 149,医師N = 228だった.
片頭痛がなかった場合に期待できることについて,患者と家族の認識をFig. 4で示す.患者では,「プライベートな時間を楽しめる」の同意割合が最も高く,次いで「家庭や身近な人のストレスが減る」だった(「当てはまる」「やや当てはまる」の回答割合合計は順に55.1%,51.2%).家族では,「家族が症状に気を使いながらやり過ごす時間が減る」の割合が最も高く(47.7%),次いで「家族の笑顔が増える」だった(45.7%).
(A)患者において,片頭痛がない場合に期待できる各項目に対する5段階の同意度の回答割合を示す.(B)家族において,同居家族の片頭痛がなくなった場合に変わると思うこと,そのうちで最も変わって欲しいと思うことに対する回答割合を示す.
最後に,片頭痛に関するコミュニケーションや互いに対する思いについて評価した.
患者が家族に対して片頭痛の支障や必要なサポート等を伝えている割合と,伝えない場合の理由をTable 3で示す.36.7%の患者が「できる限りわかりやすく,言葉で伝えるようにしている」と回答した.それ以外の回答をした患者が伝えない場合の理由として,「伝えても片頭痛のつらさを理解されないと思ったから」の回答割合が最も高かった(26.0%).
患者 | 家族 | |
---|---|---|
片頭痛について家族に伝えている割合 | N = 207 | |
全く伝えない | 19(9.2) | ― |
言葉には出さないが,態度で示すくらいはする | 10(4.8) | ― |
ごくわずかではあるが,言葉で伝えるようにしている | 29(14.0) | ― |
言葉で伝えるようにしている | 73(35.3) | ― |
できる限りわかりやすく,言葉で伝えるようにしている | 76(36.7) | ― |
片頭痛のことを家族に伝えない理由* | N = 131 | |
伝えても「片頭痛」のつらさを理解されないと思ったから | 34(26.0) | ― |
伝えることで周りに気を使わせたり,手伝わせたり,迷惑をかけてしまうと思うから | 30(22.9) | ― |
自分さえ我慢してその場をやり過ごすことに慣れているから | 30(22.9) | ― |
「片頭痛」の症状は可視化することができないから | 25(19.1) | ― |
伝える必要がないと思ったから | 23(17.6) | ― |
伝える機会がなかったから | 16(12.2) | ― |
周りに甘えている/怠けていると思われたくないから | 9(6.9) | ― |
片頭痛を言い訳にしている人と映るような気がするから | 9(6.9) | ― |
伝えた時に嫌な顔をされた経験があったから | 5(3.8) | ― |
周りの人との大事なひと時を,片頭痛の話題で占めるようなことをしたくないから | 3(2.3) | ― |
その他 | 4(3.1) | ― |
片頭痛の症状があるときの我慢の度合い | N = 207 | |
我慢せずに自分の役割から完全に離れて,休んだり横になったりする | 33(15.9) | ― |
ごくわずかだが我慢している | 26(12.6) | ― |
やや我慢している | 46(22.2) | ― |
まあまあ我慢する | 47(22.7) | ― |
かなり我慢する | 53(25.6) | ― |
我慢をするほどの症状が出た経験がない/分からない | 2(1.0) | ― |
家族が片頭痛患者に対して望むこと | N = 151 | |
片頭痛で“つらい”“しんどい”時は,無理(我慢)をせずに休んでほしい | 120(79.5) | |
(“我慢”しないで)より改善するための方法(治療)を前向きに考えてほしい | 69(45.7) | |
(“我慢”しないで)自分のことを第一優先に考えてほしい | 65(43.0) | |
(現状を改善できる治療があるのならば,)時間をかけてでも最新の治療を受けてほしい | 53(35.1) | |
(現状を改善できる治療があるのならば,)費用をかけてでも最新の治療を受けてほしい | 52(34.4) | |
片頭痛で“つらい”“しんどい”時は,私を頼ってほしい | 50(33.1) | |
片頭痛をよく知る専門の医師に相談してほしい | 42(27.8) | |
私にどんなサポートができるのかもっと知らせてほしい | 38(25.2) | |
片頭痛というのがどんな病気でどういう影響があるのかもっと悩みを打ち明けてほしい | 17(11.3) | |
頭が痛いせいで,家族にきつく当たらないでほしい | 17(11.3) | |
ゆっくりでもいいから,できることをちゃんと完逐してほしい | 9(6.0) | |
頭が痛いくらいであまり大げさにしないでほしい | 7(4.6) | |
その他 | 3(2.0) |
N (%)
*「片頭痛のつらさを家族に伝えない理由」の設問は,「片頭痛のつらさを家族に伝えている度合い」の設問で「できる限りわかりやすく,言葉で伝えるようにしている」と回答していない者を回答対象とした.
患者・家族間の姿勢や思いを把握するため,片頭痛の症状がある状態で役割を行うことに対する患者の我慢の度合いと,家族が患者に対して望むことについて評価した(Table 3).患者において「まあまあ我慢する」「かなり我慢する」の回答割合の合計は48.3%だった.一方で,家族が患者に望む項目として「片頭痛でつらい時は無理せずに休んでほしい」の回答割合が最も高く(79.5%),次いで「我慢しないで改善するための方法を前向きに考えてほしい」(45.7%)だった.
診療における患者・医師間の思いを評価した(Fig. 5).患者が医師に改善を望む項目は,症状の予防法の説明(45.4%),症状への対策・対応の説明(33.3%),自身の症状やつらさに合わせた治療方針の提案(26.1%),今後の治療方針の説明(21.3%),自身の症状やつらさの理解への要望(20.8%)が上位だった.医師が診療時に意識する項目は,症状の予防法の説明(60.8%),症状への対策・対応の説明(57.8%),症状の説明(54.3%),薬の効果の説明(52.2%),今後の治療方針の説明(41.4%)が上位だった.
(A)患者が医師に対して改善して欲しいと思うことに対する回答割合を示す.(B)医師が診療時に意識しているとした回答割合を示す.
片頭痛患者と家族,診療医で片頭痛の認識に共通点と相違点が見られた.片頭痛のつらさの認識や片頭痛がない場合に期待する内容は患者と家族で同様であるものの,周囲が把握しづらい疾患特性のため患者に諦めや我慢が生じていた.一方で,家族には患者をいたわる気持ちや状況改善のために治療を前向きに考えてほしい等の期待があり,片頭痛に向き合うために家族間の理解やコミュニケーションも重要であることが示唆された.患者・医師間でも片頭痛のつらさについて一定の共通認識があり,医師は診療において片頭痛の様々な側面に注意を払っているものの,個々の患者に応じた治療提案の点で患者のニーズが十分に満たされておらず,より良い治療の実現にはその改善が重要と考えられた.
症状の認識について,他者が把握しやすい症状(頭痛の長時間持続や吐き気・嘔吐)は家族も患者と同程度の認識だったが,患者が主観的に感じる特徴(頭痛の感じ方や増悪因子)は,家族は患者ほど認識していなかった(Table 2).疾患認識では「理由(原因)はわからないが,頭が痛くなる病気」と考える割合は家族の方が高く,患者が痛がる様子をよく目にする家族は,原因や周囲に見えにくい発作のきっかけより,痛み自体に意識が向かいがちだと推測できる.一方で「遺伝として背負ってしまう病気」と考える割合は患者で高く,親も片頭痛だから仕方ない,等の諦めを抱いている可能性が考えられた.5種類の痛みの程度について,片頭痛の相対順位は,患者では出産の痛みに次いで2位だったが,家族と医師では4位だった(Fig. 1).脳神経系内に発症機序をもつ片頭痛は,原因が明確な骨折・腎結石・出産と比べて他者からの痛みの想像が難しく,過小評価されているかもしれない.また片頭痛が,最下位だった緊張型頭痛と同様とみなされた可能性も考えられる.症状理解の困難さが,片頭痛に対する周囲の無理解3)4)に繋がっていると推察された.
片頭痛による心理的つらさでは,医師は患者や家族と比べ,アブセンティーズムのつらさにより強く共感した(Fig. 2).他者に見えやすく経済損失等に直結するアブセンティーズムを医師はより強く認識し,診察時に患者のパフォーマンス損失の判定に用いている可能性がある.その反面,日本人の特性として「我慢して役割をこなす」ことによるプレゼンティーズムは,それが生じる就業・生活現場に医師が居合わせないため客観的に把握しづらいと推察される.一方で家族は,片頭痛による集中力・効率低下に苦しむ患者を身近に見てきた結果,患者に近い認識になったと考えられる.患者のアブセンティーズムの軽減に加え,医師が意識的にプレゼンティーズムを確認し各患者に応じた診療を提供することも重要である.
片頭痛によるプレゼンティーズムについて,つらい・改善したいと思うことの一部項目で患者,家族,医師間の相違が見られた(Fig. 3).つらいことの上位として3者とも仕事・勉強や家事・育児を挙げた点は共通だが,最も改善したいこととして仕事・勉強を挙げる傾向は医師が他より強く,仕事・勉強の優先度に認識差が見られた.また,家族・友人との時間やレジャー・趣味を楽しめないことがつらいと思う割合は3者とも約半数だったが,最も改善したいと思う割合はいずれも約10%未満であり(Fig. 3),つらいと感じても,生活や経済面で必要な仕事や家事の改善を優先せざるを得ない状況が示唆された.一方で患者・家族いずれも,片頭痛がない場合に期待できることとしてはプライベート・家族との楽しみが仕事・家事よりも上位であり(Fig. 4),両者は家族共に心から楽しめる時間を本来求めていると言える.治療により片頭痛が改善した患者から臨床現場で聞かれる喜びの声としても,仕事や家事の改善より「旅行に行けるようになった」「飲酒が楽しめるようになった」「家族に喜んでもらった」等の変化に関する声が多かった(鈴木,私信).加えて,ガルカネズマブによる予防療法を受けた症例群ではレジャー等の計画についての発作間欠期の懸念が軽減されたことが国際第III相試験CONQUER5)でも報告されている.診療においては,患者や家族が求めているプライベートや家族との時間をも考慮する必要がある.
家族間コミュニケーションについて,多くの患者が片頭痛のことを家族に伝えていたが,伝えない場合の理由として症状への無理解,周りへの配慮,我慢することへの慣れが上位に挙がった(Table 3).患者は周囲への遠慮や気遣いから,周囲の理解やサポートを諦めて我慢していると推測される.また約半数の患者が症状を我慢して自身の役割を行っており,その一方で,家族の多くは無理せず休んで欲しい,改善方法や治療を前向きに考えて欲しいと回答した(Table 3).この結果から,無理して役割を行う患者を近くで見る家族の心情が推察される.患者が片頭痛を我慢して役割を行うことは家族にとっても望ましくなく,例えば家事や育児での支障が患者の同居家族にも影響することが国内外で報告されている6)7).患者・家族双方の支障やつらさの軽減のためにも,適切な治療等の積極的な対応による状況改善が重要である.
医師が診療時に意識する内容と患者が求める情報には一部乖離があった.患者が医師に改善を望むこととして,症状の予防法や症状への対応についてもっと教えてほしいとの回答が上位であった(Fig. 5).これらは医師が診療時に意識する上位2項目でもあったことから,医師はこれらを意識しているものの説明が十分ではなく,患者のニーズを満たせていないと考えられる.一方で医師が意識する内容の3,4位であった片頭痛の症状や薬の効果の説明については,改善を望む患者は20%未満と比較的少なく,患者が求める情報を提供できていると考えられた.しかしながら,患者が改善を望む項目の第3位「自分の症状やつらさに合わせた治療方針の提案」は,医師が意識する項目としては最下位だった.片頭痛の症状や支障は痛みだけではなく,患者ごとに内容や程度も多様であるため,各患者に応じた診療は容易ではない.まずは医療者がこの点に気づき,各患者の状況や希望をよく把握した上での説明や提案が重要である.
本研究の留意点として,患者・家族・医師は独立した集団であり対応関係はない.このため各群の数値自体の比較には限界があることから,群間差が明確な項目や,各群内での優先度の群間の違い等の評価を主とした.また,医師においては診療経験等によって片頭痛に対する認識が異なる可能性が考えられたため,診療患者数別(中央値未満/以上の2群)に各結果を確認した(Supplementary Table 1).結果の大部分においてサブグループ間で際立った相違は見られなかったが,「医師が診療時に意識していること」については,診療患者数が多い医師の方が,より多くの項目を意識している傾向が見られた.医師の経験に関する情報は本調査において詳細に収集できておらず,そういった要素が医師の認識にもたらす影響の評価は今後の研究課題である.痛みの程度の評価(Fig. 1)では外れ値が一部見られた.これは回答者の認識の多様性に加え,未経験の痛みについても推測に基づく回答を取得したことによる過小評価の可能性がある.各痛みを実際に経験した者のみでの結果はFig. 1と同様だったが,外れ値は少なかった.
本研究では患者,家族,医師の片頭痛に対する認識に,共通する点のみならず,ギャップが存在することが示された.周囲から理解されにくい片頭痛の特性のために患者が我慢したり諦めたりするのではなく,つらさを周囲に共有し,家族を含む周囲の者が理解しサポートする環境構築や啓発が必要である.医療面では症状や改善必須な仕事や家事への影響に加え,患者の主観的なつらさや家族との団欒等の真のニーズをくみ取り,適切な治療に結び付ける必要がある.
本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業・組織や団体
○開示すべきCOI状態がある者
柴田護:原稿料:日本イーライリリー株式会社,第一三共株式会社,大塚製薬株式会社,アムジェン株式会社
團野大介:講演料:日本イーライリリー株式会社,第一三共株式会社,大塚製薬株式会社,アムジェン株式会社
谷澤欣則,大佐賀智,小森美華:報酬額:日本イーライリリー株式会社(谷澤,大佐賀,小森は従業員であり,本研究の実施費用は日本イーライリリー株式会社および第一三共株式会社が負担した.)
濱川昌之:報酬額:株式会社社会情報サービス(濱川は従業員であり,本論文で使用されたオンラインサーベイのデータの取得,データ解析,論文作成は,株式会社社会情報サービスが研究依頼者である日本イーライリリー株式会社から業務を委託して実施した.)
○開示すべきCOI状態がない者
鈴木紫布:本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.
サーベイに参加された片頭痛患者,片頭痛患者と同居する家族,片頭痛患者を診療する医師の方々へ感謝申し上げます.
本研究における各著者の役割と貢献は次の通りである.研究のコンセプトは谷澤と小森が考案した.研究のデザインは谷澤,大佐賀,小森,濱川が行った.データの解析は濱川が行った.結果の解釈は鈴木,柴田,團野,谷澤,大佐賀,小森,濱川が行った.論文のドラフト作成は濱川が行った.論文の重要な知的内容のための批判的修正は鈴木,柴田,團野,谷澤,大佐賀,小森,濱川が行った.