2024 Volume 64 Issue 7 Pages 496-497
拝啓
この度，私たちは千崎香氏らの「レム期睡眠行動異常症に類似した夜間異常行動を呈した周期性四肢運動異常症の1例」1）を非常に興味深く拝読しました．
59歳男性，40歳代から夜間に寝言と異常行動を経験し，REM sleep behavior disorder（RBD）ではなく睡眠時の周期性四肢運動異常（periodic limb movement of sleep，以下PLMSと略記）が誘因となったノンレム関連睡眠時随伴症群であったという症例でした2）．治療は下肢静止不能症候群（restless legs syndrome，以下RLSと略記）の治療薬であるガバぺンチンエナカルビルよりもプランペキソールが奏効しました．夢内容が想起されなかったことでは，RBDの鑑別診断として重要な示唆を与えた症例です．
この症例において，われわれは脳に鉄動態の異常が潜在している可能性を推察しました．検査成績では，Hb 16.1 g/dl，血清Fe 109 μg/dl，フェリチン89.4 ng/dlからみかけ上の鉄欠乏症はみられませんでしたが，フェリチン100 μg未満とトランスフェリン飽和度が45％未満になるのではないかと推定され3），non-anemic iron deficiency4）として鉄補充によってPLMSや異常行動が軽減するのではないかということに興味があります5）．一般にPLMSは加齢ともに増加するとされています6）．現在までRLS症状はないようですが，今後さらに年齢を重ねていった結果，この症例がRLSを発症するのか，周期性四肢運動異常症（periodic limb movement disorder，以下PLMDと略記）がRLSの前駆病態あるいは臨床的な不全型として捉えられるか，著者らが考察に述べられたようにPLMDとRLSが一つの疾患単位（同一病態）か異なる病態かという課題を解明するうえで貴重な症例と考えます．RLSのゲノムワイド関連研究で同定されたBTBD9とMEIS1の遺伝子変異はメンデルランダム化分析によりPLMSと因果関係があることがわかりました6）．PLMSがRLSに関連した遺伝学的要因の表現型の一部として生じている可能性が示唆されます．RLS/PLMDの病態機序として鉄欠乏症が注目されています7）．RLS/PLMDは脳鉄欠乏症（brain iron deficiency）によって線条体におけるアデノシン・ドパミン・グルタミン作動性神経のバランス異常が生じると推定されています8）．一方，最近小児においてはrestless sleep disorder（RSD）という疾患が提唱されました9）．RSDの小児は，少なくとも週3回，3ヶ月以上，夜間の睡眠中に頻繁に体を動かすことがあり，睡眠の質の低下に関連する日中に過度の眠気，多動性，過敏症などの症状がみられます．RSDでは交感神経優位の増加，ノンレム睡眠の不安定性の増加，鉄欠乏症，さらに睡眠時随伴症や注意欠陥多動性障害の有病率の増加が示されています．中年期以降に発症するノンレム関連睡眠時随伴症群は，薬物，睡眠時無呼吸，RLS，parasomnia overlap disorderなどを鑑別診断として検討する必要があります2）．われわれはその病態の中で今回の症例においてとくに脳内の鉄動態の恒常性の異常とノンレム睡眠の不安定性（NREM instability）がどのように関与するかということに注目しています8）9）．ただし，臨床的データからRLS/PLMDにおける脳内の細胞レベルでの鉄の病態を解明することは現時点では困難な状況であると思います．しかし，このような症例報告の蓄積によってPLMS指数が上昇したPLMDで夢をみているような行動とRBDとの相違について，さらに臨床研究でRLS/PLMDの病態解明の糸口になることに期待し，私見を申し上げました．
敬具
著者全員に本論文に関連し，開示すべきCOI状態にある企業，組織，団体はいずれも有りません．
