Rinsho Shinkeigaku
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Summarising a case you experienced: how to write an abstract effectively
Akiyuki Hiraga
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2025 Volume 65 Issue 1 Pages 48-52

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要旨

経験した症例を学会や論文で発表または投稿する際,アブストラクトは表題と共に重要である.アブストラクトを執筆する際は以下の4点を守る.(1)正確,簡潔,明瞭に書く.不要な情報は記載しない.(2)アブストラクトは予告編ではない.アブストラクトだけで独立して内容がわかるように書く.「文献的考察を加えて報告する」や「今後,症例の蓄積が必要である」でアブストラクトを終わらない.(3)稀少性だけを強調しない.「稀で貴重と考えられたので報告した」とは記載しない.アブストラクトには明確な「learning point(学ぶ点)」が必要である.(4)学会と雑誌の規定をよく確認する.

Abstract

Just like the title, a well-written abstract is crucial for submitting your case report to conferences or medical journals. Authors should write the abstract following four key principles. First, one should be guided by the ABCs of writing—accurate, brief, and clear. Do not include unnecessary information. Second, the abstract is not the preview. Abstracts should be stand-alone. Do not write ‘we report this case, adding discussion with the literature’ or ‘additional cases are needed in future’ at the end of the abstract. Third, do not simply focus on the rarity of the case. Avoid writing statements such as ‘we report this case because it is a rare, valuable/worthful case’. The abstract of a case needs a clear ‘learning point’ for readers. Lastly, carefully confirm and follow the guidelines of target conferences or journals.

はじめに

アブストラクトは学会発表の「抄録」と論文の「要旨」である.表題と同様,アブストラクトは論文で最も重要である1)~3.筆者は本誌に「症例報告の効果的な書き方」4を提案し,「稀で貴重と考えられたので報告した」と「文献的考察を加えて報告する」が症例報告には不要と主張した.しかし,本邦では,不要な表現を含むアブストラクトをいまだに多く見かける.本稿では,経験した症例を学会や論文で発表または投稿する際の,アブストラクトの正しい書き方を提案する.

なお,本稿では筆者の視点で避けるべき例を✕,できれば避けるべき例を△,通常の表現を◯とした.また,略語の項では,本誌の投稿規定に準じていない例示があることをお断りしておく.

アブストラクトで重要な点

アブストラクトでは以下の4点が重要である.

1.正確,簡潔,明瞭に書く.不要な情報は省く5

2.アブストラクトだけで内容が独立するように書く167.アブストラクトは予告編ではない8.そのため,「文献的考察を加えて報告する」でアブストラクトを終わらせてはいけない.

3.明確な「learning point(学ぶ点)」をメッセージとして記載する.症例の稀少性のみを強調しない.すなわち,「稀で貴重と考えられたので報告した」を結論にしない.

4.発表する学会または投稿する雑誌の規定をよく確認する.

なお,論文では,アブストラクトは最後に執筆する24.本文とアブストラクトで内容の相違がないように注意する.本文を修正した際は,アブストラクトも修正するのを忘れないようにする3.レター形式の症例報告では,アブストラクトは不要である.

アブストラクトの構成

症例報告のガイドラインであるThe CARE (CAse REport) guidelinesでは,序論・症例記述・結論をアブストラクトの構成としている9.序論は含まず,アブストラクトを症例記述から記載することもある.アブストラクトに序論を含める症例報告では,序論(1から2文)・症例記述・「学ぶ点」(1から2文)とする10.論文のアブストラクトには構造化(structured)と非構造化(unstructured)がある.原著論文の構造化アブストラクトは,目的・方法・結果・結論のように決められた見出しをつける.一方,症例報告は非構造化アブストラクトが多い11.学会発表では,症例(年齢と性別)・主訴・現病歴・経過・考察と,構造化アブストラクトが指示されることも多い.

英文誌では,症例報告のアブストラクトは100から150単語以内の規定が多い.この場合,筆者の経験では4から7文程度になる.序論と考察・結論(「学ぶ点」)をそれぞれ1から2文とすると,症例記述は2から5文に限定される.アブストラクトの初稿は規定の文字数を超過しやすい.そこから不要な情報を削っていく.

序論

アブストラクトに序論を含める場合は,なぜその症例を報告するのかがわかるように書く.序論は1ないし2文までにする10.症例報告の本文では,序論に既に知られている事実(known),知られていない点(unknown),そしてなぜ報告するのかを記載する4.アブストラクトの序論には多くを記載できないため,知られていない点や問題点を主にするとよい.

症例記述

臨床情報は厳選し,年齢と性別,際立った臨床的特徴,診断,治療と経過に限る4.よくある間違いが,多すぎる情報の記載である12.上述のように,英文誌ではアブストラクトに記載できる症例記述は数文に限られる.理学所見と検査所見は,なるべく診断に必要な項目に限定する.診断に不要な所見は記載しない12

症例記述では,マイクロソフト・エクセルでの管理が有用である(Fig. 1).エクセルに「第1病日=発症日」と日付を入力し,オートフィル(自動入力)機能を用いて拡張する.入院日・退院日・症状・検査・治療を入力する.この方法を使うと,第○病日に何があったかが一目瞭然となる.この方法は経過図の作成にも役立つ.「X月Y+5日」という記載は英文論文ではまず見かけない.「第6病日」や「発症5日後」と記載する.個人情報の保護のため,実際の日付は記載しない.

Fig. 1 Example of Microsoft Excel use for case description.

First, enter ‘Day 1’ and the date of neurological onset in two adjacent cells (one cell and the next cell to the right). Then, select both cells (Day 1 and onset date) and drag the bottom right corner of these cells downwards (fill handle) to automatically fill the selected cells with sequential information. Afterwards, inputs for symptom, admission, discharge days, investigation, and treatment should be entered. For case presentations, the authors should not use the date itself. Instead, they should refer to events relative to symptom onset, such as ‘Day 3’ or ‘2 days after onset’. Consider these examples: ‘The patient was admitted to our hospital on Day 3’, ‘He was treated with oral prednisolone (60 ‍mg per day) since admission; however, hemiparesis developed on Day 5’, and ‘Follow-up magnetic resonance imaging on Day 5 showed multiple infarctions in the bilateral frontal cortex’. This method also helps the authors to figure out the clinical course of the case.

 ✕  「2023年11月7日に入院した.」

△ 「X月Y+5日に入院した.」(論文では使用しない)

◯ 「第6病日に入院した.」

文字数が制限されるため,アブストラクトには検査値を記載しないことが多い.検査値を記載する場合は,血液検査と脳脊髄液検査は単位を記載し,特殊な検査では基準値も併記する.検査値の表現で間違いやすいのは血算(全血球計算)と細胞数である.上昇・低下ではなく,増多・減少と記載する.

 ✕  「全血ビタミンB1は15と低下していた.」

◯ 「全血ビタミンB1は低下していた.」

◯ 「全血ビタミンB1は15 ‍ng/ml(基準値:24~66)と低下していた.」

 ✕  「白血球低下」

◯ 「白血球減少」

 ✕  「細胞数上昇」

◯ 「細胞数増多」

考察と結論

考察と結論には,明確な「学ぶ点」を記載する13.経験した症例から「何が学べたのか?」「何を他の医師に教えたいのか?」と考えるようにしてほしい.「学ぶ点」にはこれまで見逃されてきた可能性,臨床での落とし穴,これまでの理論への反論・反証,病態機序の示唆,神経解剖の理解に貢献などがある4.なお,「学ぶ点」を見つけるには,好奇心を持ち,担当患者の病態生理と解剖をよく考え,文献を検索するように心がけるとよい4.考察を一般論にしてはいけない.また,「考えられた」ではなく,「考えた」と能動態で記載する.考えたのは発表者であって,他人ではない.

△ 「脳梗塞の機序として,血管炎が考えられた.」

◯ 「脳梗塞の機序は,血管炎と考えた.」

本文の考察と異なり,アブストラクトでは文献は引用しない6

用語:正確さを心がける

1.専門用語は,神経学用語集(日本神経学会編)を参考にする.

 ✕  「腱反射低下」

◯ 「腱反射減弱」

 ✕  「痛覚低下」

◯ 「痛覚鈍麻」

2.人名を冠する英文病名では,複数人物はハイフンをいれる.単一人物ではハイフンは不要である.

単一人物の病名

◯ 「Miller Fisher syndrome(神経学用語集では,Fisher syndrome)」

◯ 「Ramsay Hunt syndrome(神経学用語集では,Hunt syndromeでもよい)」

複数人物の病名

◯ 「Guillain-Barré syndrome」

◯ 「Charcot-Marie-Tooth disease」

略語の原則

1.略語の使用は最小限にする681415

2.単回の使用は略語にしない.

3.投稿・発表する分野で広く使用されている略語に限る71416

 例:運動失調不全片麻痺をAHと略語にしない.AHは神経領域でもataxic hemiparesisとalternating hemiplegiaがある.なお,消化器内科医にとっては,AHはacute hepatitisであろう.

4.普遍的な略語は,スペルアウトしなくても許容されうる7

 例:AIDS,COVID-19,MRIなどは許容されうる.「磁気共鳴画像」や「magnetic resonance imaging」より,「MRI」のほうがほとんどの医師にはわかりやすいだろう.略語の取り扱いは,投稿する雑誌と発表する学会の規定をよく確認してほしい.

日本語:読みやすさを意識する

読者にやさしい日本語を心がける.長すぎる文と冗長な表現を避け,わかりやすい言葉で書く.アブストラクトでよく見かけ,筆者が改善すべきと考える日本語の表現を列記する.日本語スタイルガイド第3版17を参考にした.

1.サ行変格動詞を使い,簡潔に記載する.

サ行変格動詞とは,名詞+「する」で動詞になるものである.例として,「計算する」や「入院する」がある.

△ 「計算を施行した.」

△ 「計算を実施した.」

△ 「計算を行った.」

◯ 「計算した.」

△ 「改善をみとめた.」

◯ 「改善した.」

△ 「入院となった.」

◯ 「入院した.」

2.助詞を省略しない.

 ✕  「当院入院した.」

◯ 「当院に入院した.」

3.修飾語は被修飾語の前に置く.

 ✕  「赤い皮膚の腫瘤があった.」

◯ 「赤い皮膚に,腫瘤があった.」

◯ 「皮膚に,赤い腫瘤があった.」

4.むやみに「・・的」「・・上」を用いない.

 ✕  「内科的には」

 ✕  「文献上」

5.否定文はなるべく肯定文にする.

△ 「心電図で異常はなかった.」

◯ 「心電図は正常であった.」

6.受動態はなるべく少なくし,能動態を心がける.なお,英文でも能動態(active voice)が好まれる7814

△ 「脳梗塞と診断された.」(入院後の経過)

◯ 「脳梗塞と診断した.」

避けるべき表現

筆者は,以下の表現を避けるべきと考えている.

 ✕  「稀で貴重と考えられたので報告した.」

 ✕  「文献的考察を加えて報告する.」

 ✕  「調べた限り,世界初である.」

 ✕  「今後,症例の蓄積が必要である.」

症例には「学ぶ点」が必要で,稀さだけを強調してはいけない.また,貴重かどうかは編集者と読者,そして歴史が決める.文献を検索して考察しない論文や発表はない.「世界初」はfirst person voiceと言われ,嫌われる表現である.新規の遺伝子異常など以外では,世界初の証明は難しい.症例を蓄積して意義を示すのでなく,経験した1例からの「学ぶ点」をメッセージにすべきである.

「稀で貴重と考えられたので報告した」と「文献的考察を加えて報告する」は海外の論文ではまず見かけない.本邦では,間違った様式美として真似されてきたのだろう.

おわりに

以上,経験した症例をまとめる際の,アブストラクトの書き方を解説した.本稿の内容は,アブストラクトだけでなく症例報告の本文にも適用できる.自身が執筆または指導した論文と学会発表を振り返ると,本稿の内容に合致していないアブストラクトも多い.自戒をこめて,アブストラクトのチェックリストをTable 1にまとめる.文字数がかなり限られるアブストラクトの執筆は,情報を取捨選択するよい訓練になる.若い医師は,自分が発見した「学ぶ点」を簡潔に読者に伝えてほしい.また,アブストラクトの執筆を通してアカデミック・ライティングの基礎を身に付けてほしい.本稿がその一助となれば幸いである.

Table 1 Check list for abstract writing.

1. Readers should be able to read the abstract independently from the main text (stand-alone).
2. Avoid or minimise the use of abbreviations. Do not use abbreviations that are not commonly used and accepted in the subject area.
3. Do not use the following four phrases: ‘We report this case, adding discussion with the literature’. ‘We report this case because it is a rare, valuable/worthful case’. ‘To our knowledge, this is the first case to occur worldwide’ or ‘additional cases are needed in the future’.
4. The final sentences of the abstract should consist of a clear learning point (take-home message) for the readers.
5. The authors should prepare the abstract following the ABCs of writing (accurate, brief, and clear). Exclude unnecessary information. Use the active voice rather than the passive voice. Avoid long sentences and redundancy.
6. Use specific/technical terms correctly and consistently.
7. Carefully confirm if the abstract adheres to the guidelines of the target conference or journal.

利益相反

著者に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2025 Japanese Society of Neurology

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