Rinsho Shinkeigaku
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Picture in Neurology
Anti-NXP2 antibody-positive dermatomyositis showing marked subcutaneous edema predominant in the upper limbs
Nozomu AbeSatoko Uruha Akinori UruhaShinsuke TobisawaKazushi Takahashi
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2025 Volume 65 Issue 9 Pages 679-680

Details

症例

症例:65歳女性

主訴:筋痛,両上肢の挙げにくさ

既往歴:高血圧.

家族歴:なし.

現病歴:2024年X月中旬に両大腿の筋痛が出現し,同下旬に両上肢挙上困難を訴えた.X+1月上旬,両上腕の発赤がみられ,近医皮膚科で蜂窩織炎が疑われた.この際,血液検査で血清CK高値(718 ‍U/l)を指摘された.同時期から両下肢脱力を自覚し,X+1月中旬に両上肢に浮腫が出現した.X+1月下旬に当科を受診し,両上肢優位の全身性の皮下浮腫,体幹・四肢近位筋優位の筋力低下を認め,精査目的に入院した.

一般身体所見:バイタルサインに異常なし.顔面および上肢優位の全身性圧痕性浮腫を認めた(Fig. 1).また右肘を中心に前腕から上腕尺側の広範囲に及ぶ,落屑を伴わない浮腫性紅斑,右上腹部には硬結を触れる紅斑がみられた.

Fig. 1  Subcutaneous edema.

Subcutaneous edema of the left forearm at the admission (A). The edema disappeared after the treatment (B, Day 58). The MRI STIR image at the shoulder level showed a marked edematous change in the subcutis besides the skeletal muscles (C, arrow).

神経学的所見:軽度の嚥下障害があり,四肢近位筋に自発痛・圧痛を認め,徒手筋力検査では頸部屈筋4,四肢近位筋4で,寝返りに上肢支持を要した.

検査所見:CK 4,596 ‍U/l(基準値:41~153 ‍U/l),他,血算,一般生化学,凝固系に異常なし.抗核抗体は陰性.筋電図で筋原性変化を認め,骨格筋MRIのSTIR画像で筋内及び皮下にびまん性の高信号を呈し,浮腫性変化が示唆された(Fig. 1).左三角筋筋生検では壊死・再生線維が散見され,筋束辺縁部萎縮‍はみられなかったが,ほとんどの筋線維で均一にmyxovirus resistance protein Aが発現していた.主要組織適合性複合体クラスIはほぼすべての筋線維で均一に過剰発現していたが,同クラスIIの異常発現は認められなかった.毛細血管や筋細胞膜上の補体C5b-9複合体の異常沈着は観察されなかった.筋内鞘の線維化や筋周鞘の結合織断片化はみられなかった.これらの所見より,皮膚筋炎(dermatomyositis,以下DMと略記)と診断した.後日,抗NXP2抗体が陽性と判明した.心機能,呼吸機能は正常で,悪性腫瘍は検出されなかった.

入院後経過:第2病日に筋生検を施行し,同日よりステロイドパルス療法を開始(メチルプレドニゾロン1,000 ‍mg/‍日,3日間),その後プレドニゾロン0.5 ‍mg/kg/‍日による後療法を行ったが,急速に四肢・体幹の筋力低下は進行し全介助状態となり,血清CK高値も持続した.血栓症予防目的にヘパリン投与を開始.第10病日にショック状態を呈し,血清ヘモグロビン値が12.9 ‍g/dlから5.7 ‍g/dlに低下していたことから出血性ショックと判断,出血源検索を行いCTで右大腿伸筋群と腹直筋に多発筋内出血を認めた.外傷など外因性の要因は確認されず,予防的抗凝固療法が出血の誘因ないし増悪因子となった可能性を考え,ヘパリンを中止し輸血を含めた全身管理を施行した.同時にステロイドパルス療法・後療法,免疫抑制剤で加療を継続したが,筋力の改善は不十分で,またステロイド精神病の併発もあったため,ステロイドを減量しつつ,免疫グロブリン療法を追加した.出血コントロールのため抗血栓療法を中止せざるを得ず,深部静脈血栓症,無症候性肺血栓塞栓症を発症したが,アピキサバン投与開始により血栓は消失した.経過中,嚥下障害の増悪により一時的に経鼻経管栄養を使用したが,治療の継続により筋力低下,皮下浮腫,多発筋内血腫は徐々に改善,経口摂取も可能となり,第178病日に独歩で退院した.

考察

抗NXP2抗体陽性DM患者235例の臨床像を解析した報告では36%に皮下浮腫がみられ,一方陰性群では19%に留まり,同抗体と皮下浮腫の関連が示唆されている1.他に,皮下浮腫を伴う筋炎患者17例のケースシリーズでは,抗NXP2抗体陽性DMが25%,抗TIF-1γ抗体陽性DMが37.5%を占め,また他のDM特異自己抗体陽性例に比して多い傾向が指摘された2.さらに,抗NXP2抗体陽性DMの特徴として筋力低下が高度で,DMの特徴的皮疹を伴わない例があることが知られている34.本例のように著明な皮下浮腫を呈し,筋力低下が高度な例では,特徴的皮疹がなくとも抗NXP2抗体陽性DMを鑑別疾患として考える必要がある.

利益相反

著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

Notes

本報告の要旨は,第251回日本神経学会関東・甲信越地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

文献
 
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