抄録
異なる背景を持つ人々が居合わせる音楽における共創のメカニズムを明らかにするためには,音楽を通じて人々の 間に生じる,さまざまなレベルにおける差異と同一性の関係に着目する必要がある.しかし,これに焦点を当てた 従来の民族音楽学は,音や身振りのミクロな差異が同一性の感覚を生み出すことを重視しており,人々の間に共有 される背景の差異を捉え損ねていた.これを考慮に入れて問題を整理した後,「野村誠 千住だじゃれ音楽祭」にお ける音楽ワークショップの導入部分の相互行為を分析した.その結果,共有する背景の差異がその場面に対する認 識や態度の差異を生み出し,それを受けて各々が行う実験的な試行錯誤の連鎖によって,共創的に音楽が立ち上が り展開していることが明らかになった.