日本トレーニング指導学会大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2434-3323
Print ISSN : 2433-7773
第7回日本トレーニング指導学会大会
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ポスター発表
大学女子球技選手における慢性足関節不安定性と方向転換能力との関係
*成相 美紀楠本 繁生村上 なおみ下河内 洋平
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 25-

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抄録
【目的】慢性足関節不安定症(CAI: Chronic Ankle Instability)は、足関節捻挫を繰り返し、 慢性的な不安定感が残存する病態である。CAIでは患部周囲の筋力や神経活動の低下だけでな く、方向転換時の下肢関節の運動様式が健常者と異なることも観察されており、球技選手の方 向転換の素早さにも影響を及ぼす可能性がある。そこで本研究の目的は、慢性足関節不安定症 と方向転換能力との関係性を検討することとした。 【方法】対象は、大学女子球技選手54名とした。そのうち下肢の筋骨格系に手術歴や過去3 ヶ月以内における外傷の受傷歴を有する選手、測定時にテーピングの着用が必要な選手、左 右またはどちらかの足関節において足関節捻挫の既往歴は無いが過去6ヶ月以内に2回以上の Giving-wayを経験している選手および日本語に翻訳したCumberland Ankle Instability Tool (CAIT)のスコアが25点以下であった選手を除外し、最終的に22名(ハンドボール選手6名、バ スケットボール選手16名)を対象とした。利き脚と非利き脚における足関節のCAIに関する変 数として、足関節内反捻挫の受傷回数、Giving-wayの過去6ヶ月以内2回以上の経験の有無、 CAITのスコアによる足関節の不安定感の有無を調査した(カットオフ値: 25点)。有りは「1」、 無しは「0」とするダミー変数で分析を行った。利き脚は走り幅跳びの踏切脚とした。また、 方向転換能力として5 m、10 m、5 mの順に方向転換を行い合計20 mを疾走するプロアジリティ のタイムを計測し、さらにそのタイムと直線20 m走のタイムとの差を方向転換のタイムとして 算出した。全てのタイム(sec)は光電管を用いて計測し、実験は体育館内で行った。分析は、 前述したCAIに関する変数と直線20 m走のタイムを独立変数とし、プロアジリティと方向転換 のタイムを従属変数としたステップワイズ重回帰分析を行った。 【結果】プロアジリティのタイム(5.38±0.25 sec)を従属変数とした重回帰分析は、ステッ プ1で直線20 m走のタイム(3.51±0.17 sec)が回帰式に投入され(R2 = 0.706, p < 0.001)、 ステップ2では足関節の不安定感の有無が投入され、これらの独立変数によって従属変数を合 計79.0%説明できた(R2 = 0.790, R2変化量 = 0.084, p < 0.001)。そして、直線20 m走が速 いほど、また、足関節の不安定感が無いとプロアジリティのタイムが速いという関係性が示さ れた。方向転換のタイム(1.87±0.14 sec)を従属変数とした重回帰分析には、足関節の不安 定感の有無のみが回帰式に投入され(R2 = 0.319, p = 0.006)、この独立変数により従属変数 を31.9%説明できた。そして、足関節の不安定感が無いと方向転換が速いという関係性が示さ れた。 【考察】本研究の結果、予想通り純粋な走力はプロアジリティのタイムに大きく影響を及ぼす ことが示された。しかし、両重回帰分析において足関節に不安定感が有るとタイムが有意に遅 くなる関係性が示されたため、切り返し動作の遂行能力を向上させるには、走力の向上だけで なく、足関節の不安定感を軽減させる必要があることを示しているといえる。 【現場への提言】足関節捻挫後に残存する足関節の不安定感は、方向転換の遂行能力を低下さ せる可能性がある。よってスポーツ現場では、足関節に不安定感を有する選手には、それを軽 減するためのトレーニングを積極的に取り入れることが推奨される。
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