抄録
【トレーニング現場へのアイデア】ベントオーバーロウにおいて、上体の前傾角度を65°と40°
の2条件で行い主働筋の筋活動量を比較した。その結果、広背筋と僧帽筋下部の筋活動量は65°
条件が40°条件よりも有意に高値を示した。しかし、被験者個々の筋活動量を分析したところ、
すべての被験者が同様の結果を示さなかった。そのため、ベントオーバーロウにおいて、広背
筋と僧帽筋下部の筋活動を増大させるためには上体の前傾角度を65°程度で行うことが推奨さ
れる。しかし、筋活動量には個人差が生じることからエクササイズテクニックに若干のバリエー
ションを加えることが必要であると考えられる。
【目的】上背部の代表的なエクササイズのひとつであるベントオーバーロウは、上体を床面と
平行よりもやや高い姿勢で構えることが専門書に示されている。一方、近年SNSを通じてベン
トオーバーロウの上体の前傾角度を変えることにより、主働筋の活動部位が異なることが発信
されている。しかし、このような上体の前傾角度の相違が主働筋の筋活動量に及ぼす影響につ
いては明らかになっていない。そこで本研究では、ベントオーバーロウにおける上体の前傾角
度条件が主働筋の筋活動量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】レジスタンストレーニング経験を有する男子大学ラグビー選手9名(19.6±0.2歳)を対
象に、両肘を身体に近づけながら挙上を行うベントオーバーロウにおいて上体の前傾角度を65°
および40°の2条件で最大挙上重量(1RM)の70%の負荷を用いて、それぞれ3回行った。挙上動
作は最大速度で、下降動作は任意の速度で行うように指示した。表面筋電図を用いて、広背筋、
僧帽筋下部、僧帽筋中部、上腕二頭筋の4部位の被験筋の筋活動量を測定し、各筋の筋活動量
の指標としてRMS%MVCを算出した。2条件の比較には対応のあるt 検定を行った(p <0.05)。
また、被験者個々の角度条件による筋活動量の違いが意味のある差であるかどうかを判断する
ために、最小有効変化量(SWC)を用いてRMS%MVC値の差を算出し、その値が±0.2SDを超える場
合を差があると判断した。
【結果】広背筋の筋活動量(RMS%MVC)は、65°(55.9±9.6%)が40°(47.9±9.6%)よりも有意に
高値を示し、僧帽筋下部においても65°(52.9±6.7%)が40°(44.0±5.8%)よりも有意に高値
を示した(それぞれ、p <0.05)。一方、僧帽筋中部、上腕二頭筋においては角度条件における
筋活動量に有意差は認められなかった。SWCによって被験者個々の筋活動量に差があると判断
された被験者の割合は、広背筋、僧帽筋下部、僧帽筋中部、上腕二頭筋において、65°でそれ
ぞれ89%、78%、67%、50%であった。また、挙上開始から終了までのバーベルの移動距離(LD)
は65°の方が40°よりも有意に大きかった。
【考察】ベントオーバーロウにおける広背筋、および僧帽筋下部の筋活動量は、上体の前傾角
度65°が40°よりもが増大することが示唆された。また、LDは65°が40°よりも有意に大きい
ことから、65°では肩関節の可動域が増大したと推察できる。したがって、肩関節の屈曲可動
域の違いによる筋長の増加が、広背筋と僧帽筋下部の筋活動量に影響を及ぼした可能性が示唆
された。しかし、すべての被験者が65°で筋活動量が増加したわけではなかった。そのため、
上体の前傾角度以外の要因が個人の筋活動量に影響を及ぼした可能性がある。