抄録
【トレーニング現場へのアイデア】定期的な運動習慣のある幼児において疾走能力が高ければ
敏捷性(単純反応及び選択反応)が高いことが明らかとなったが、疾走能力や方向転換能力と単
純反応と選択反応の変化率との関係性は見られなかった。幼児期の敏捷性を高めるためには疾
走能力向上を目的とした遊びを行っていくことが必要であるが、総合的な運動能力を向上させ
るためには、疾走能力向上だけでなく複数の刺激に反応し認知機能を高めるための遊びなど
様々な遊びを並行して実施することが必要であると考えられる。
【目的】幼児期の敏捷性における単純反応及び選択反応と疾走能力及び方向転換能力との関係
性を検証することを目的とした。
【方法】測定環境:S大学体育館にて測定を実施した。測定参加者:定期的な運動習慣のある4
~5歳児19名(身長111.7±6.3㎝、体重19.6±2.4kg、年齢4.6±0.5歳)を対象とした。測定手順:
疾走能力の指標として10m走、方向転換能力の指標としてプロアジリティ2.5m法、敏捷性の指
標として4センサーアジリティ(単純反応、選択反応)の測定を行った。10m走及びプロアジリティ
2.5m法はWitty光電管、4センサーアジリティはWitty SEMを用いた。10m走はスタートからゴー
ルまでの10m間全力疾走を行わせた。プロアジリティ2.5m法は、現法の5m間隔を幼児用に2.5m
間隔に変更して実施した。4センサーアジリティ(単純反応、選択反応)はWitty SEMを対角線4m
の四角形の頂点に4か所設置した。単純反応は4つのセンサーの内1つのみ緑色の四角がランダ
ムに表示され、表示されたセンサーを10回タッチする時間を計測した。選択反応は4つのセン
サー全てに数字又はアルファベットがランダムに表示され、その内数字の「3」のみが表示さ
れたセンサーを10回タッチする時間を計測した。さらに以下の式により単純反応と選択反応の
変化率を算出し認知機能の指標とした:変化率(%)=((選択反応-単純反応)/単純反応)
*100 統計分析:単純反応、選択反応及び変化率を従属変数、10m走及びプロアジリティ2.5m
法を独立変数とした重回帰分析を行った。統計的有意水準は全て5%未満とした。
【結果】重回帰分析の結果、単純反応及び選択反応を従属変数とした場合10m走のみが回帰式に
投入され、単純反応を従属変数とした場合10m走が27.9%の分散(p<0.05)を説明し、選択反応
を従属変数とした場合10m走が28.2%の分散(p<0.05)を説明する結果となった。変化率を従属
変数とした場合、どの独立変数も回帰式に投入されなかった。
【考察】本研究において、10m走が速ければ単純反応及び選択反応が速くなるという関係性が認
められたが、疾走能力及び方向転換能力と変化率との関係性は見られなかった。以上のことか
ら敏捷性を高めるためには疾走能力を向上させていく必要が示唆された。しかし、変化率には
他の要因が関与していることが明らかとなった。変化率にどの様な要因が関与しているかにつ
いては今後更なる検討が必要である。