抄録
ゾルピデムのラット,サルおよびヒトにおけるin vitro血清蛋白結合率,ラットおよびヒトにおけるin vivo血漿蛋白結合率を平衡透析法により測定した.また,血球移行性についても検討した.
1.50~5000ng/mlにおけるゾルピデムのin vitro血清蛋白結合率は,ラットで86.6~86.9%,サルで92.4~93.9%,ヒトで94.5~96.0%といずれも高かった.ヒトでの血清蛋白結合率は最高濃度で低下したが,推定臨床血漿中濃度での変化は軽微であると推察された.
2.ゾルピデムはヒトアルブミンおよびα1-AGPのいずれの蛋白とも親和性の異なる2種の部位と結合した.各結合蛋白に対する会合定数(Ka,M-1),結合定数(NP,M)を以下に示す.
アルブミン : Ka1=1.8×105, N1P=2.9×10-6, Ka2=4.2×103, N2P=2.1×10-4
α1-AGP : Ka1=6.0×105, N1P=6.3×10-6, Ka2=2.0×104, N2P=2.5×10-5
3.40mg/mlヒトアルブミン溶液中でゾルピデムは高率に蛋白結合し,50~5000ng/mlにおける結合率は83.4~85.5%とほぼ一定であった.1mg/ml α1-AGP溶液中でも高率に結合し,50ng/mlでの結合率は83.1%であったが,5000ng/mlでは55.5%に低下した.一方,16mg/mlヒトグロブリン溶液中での結合率は19.5~21.6%と低かった.したがって,ゾルピデムはヒト血漿中で主にアルブミンおよびα1-AGPと結合しているものと考えられた.
4.ラットに酒石酸ゾルピデムを3.29mg/kg経口投与後5分,2時間のin vivo血漿蛋白結合率はそれぞれ83.8,83.2%であった.ヒトに酒石酸ゾルピデムを10mg経口投与後30分,4時間の血漿蛋白結合率はそれぞれ96.3,96.0%であり,いずれも同時に測定したin vitro血漿蛋白結合率との間に有意差はなく,ゾルピデムの血漿蛋白結合はゾルピデムの代謝物の影響を受けにくかった.
5.50~5000ng/mlにおけるゾルピデムの全血/血漿中濃度比はラット,サルおよびヒトでそれぞれ0.83~0.89,0.77~0.85,0.66~0.67であり,この濃度範囲ではほぼ一定であった.血球への移行率はラット,サル,ヒトでそれぞれ31.6~36.1,30.8~36.6,17.5~18.5%であり,血球移行率と血漿中非結合型分率の間には相関性は認められなかった.