1994 年 9 巻 5 号 p. 580-587
ペンゾジアゼピンアンタゴニストであるフルマゼニル(FMZ)は,ベンゾジアゼピン系薬物による鎮静状態の解除あるいはベンゾジアゼピン遁剰投与による呼吸抑制の改善を目的として使用されている.それ自身の固有活性は非常に小さいが,レセプターにおいて各種ベンゾジアゼピン系薬物と拮抗し,その作用を消失させることにより覚醒効果を発現する.本研究では,各種体内動態パラメータを文献から収集することによりFMZのベンゾジアゼピンレセプターへの結合占有率を算出し,臨床試験における覚醒効果との関係を定量的に検討した.FMZは静脈内投与後,血漿中から速やかに消失するのに対し,覚醒効果が発現されるまでには5分から10分を要するため,FMZの血漿中濃度と効果との間には相関は認められなかった.一方,レセプターにおける結合・解離の過程を考慮することにより算出したレセプター結合占有率は,FMZ投与後初期において覚醒効果と良好な相関を示し,FMZの種々の投与量において同様のプロフィールが得られた.また,本条件下ですべての患者が覚醒状態になるためには,FMZのレセプター結合占有率が約30%以上必要であることが明らかとなった.