ドイツ文學
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「トニオ・クレーゲル」試論
小崎 順
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1962 年 28 巻 p. 100-110

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抄録

一部の作品によって作家像を形成する弊害。これは一つのイデーを持ち,イロニーを事とするトーマス・マンのような作家において特に警戒さるべき点であろう。事実,マンはある作品でははなはだしい誤解を免れ得なかった。例えばその「非政治的な人間の観想」は今日からみれば余りに政治的な時代の悲劇だったが,反動の書との烙印を当時おされた。この種の誤解はマンのイデーの発展段階上にその作品を位置せしめてみるとき初めて解消されるであろう。そして今日,我々は幸か不幸かマンの死によりそのような作業がより可能な時点に立っている。作品「トーニオ」は短編ではあるが,そのような視点からすればはなはだ重要である。「ブッデンブロークス」が「生育」したものならこの短編は精神的に「作成」されたものなのだ。生と精神の対立という形で試みられたマンの対人生の姿勢がこの短編には告白されているのである。それは同時にマンのロマン的青春のメタモルフォーゼを意味していた。

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