抄録
海洋深層水(DOW)から分離した出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae SCAK-1株(分離株)の産業利用に向けて,出芽酵母の利用時に曝される各種ストレスに対する代謝機能の応答性を検討した.本研究では,解糖系による培養液重量の減少量を出芽酵母の代謝機能と考えた.環境ストレスとして温度,浸透圧,アルコールおよび酸化の4種類のストレスを選んだ.基準株の代謝は,高温ストレス,酸化ストレス,高濃度のアルコールストレスの負荷で著しく低下したが,分離株の代謝はこれらのストレス負荷では低下しなかった。なお,浸透圧ストレスはどちらの株の代謝にも影響を与えなかった.またDOW環境において分離株が喪失していたマルトース資化性は,グルコース制御の解除により復元された.本研究により分離株は,高いストレス耐性を有し,マルトース資化性という出芽酵母にとっての重要な能力も復元されたことから,今後幅広い産業分野での利用発展が期待される.