抄録
縄文時代のアクセサリーの一つに貝のブレスレット(貝輪)がある.その主要素材であるベンケイガイは,
漂着物としての「打ち上げ貝」が利用されていた.筆者は各地の考古資料を分析するとともに,東日本各地
に所在するベンケイガイの打ち上げ貝集積地の分布調査と,採集した標本の分析をおこなうことで,「縄文人の打ち上げ貝利用」を明らかにした.そしてこの過程で,房総半島南部に所在する千葉県鴨川市浜荻海岸を発見し定期的に調査するようになった.この海岸は,おそらく東日本では最も多量にかつ良好な状態でベンケイガイが打ち上がる地点で,その様相は他所と比較して特異である.この近隣の海域が,ベンケイガイにとって極めて良好な生息地であるとともに,地理的・地形的要因から良好な漂着物集積地だからである.浜荻海岸における定期的調査の目的は,ベンケイガイの打ち上げ情報を,生物学的・漂着物学的・考古学的研究に資するためであるが,一方では,採集した打ち上げ貝類を体験学習用教材に利用するためでもある.本論では,千葉県鴨川市浜荻海岸における過去数年間分のベンケイガイの打ち上げ貝類データを提示するとともに,筆者の所属する市原市教育委員会でおこなっている漂着物を利用した体験学習としての「貝輪づくり」を紹介する.