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商業化が加速されるアルカリ水電解(AWE)や固体高分子水電解(PEMWE)では,電極周りがそれぞれ高い OH−または H+濃度となり,極めて過酷な条件となるため,使用できる元素群が限られる.一方,非極 pH の水中では安価な材料群が使用できるが,反応により OH−または H+の消費・生成が起こり,容易にイオン拡散限界領域に達してしまう.カソードとアノード間のpH 勾配は,約 60 mV pH−1 の過電圧ロスとなるため,高効率電解のためには,大電流密度領域でも pH 変化を最小化することが必須となる.特に1 A cm−2 を超えるような大電流環境においては,実にpH 2-12 の広域なpH(非極pH と定義)において濃厚緩衝液の利用が必須となる.我々は濃厚緩衝液のような電解質のコンディショニングの重要性を電解質エンジニアリング(Electrolyte engineering)として提案し,基本要素を定量的に議論してきた.特に重要な特性の一つが電解質の粘度であり,拡散定数と導電率に大きく影響を与える.さらに前述のpH 勾配によるロスの最小化には,各緩衝イオンの pKa に合わせた水を利用することが有効である.このように非極 pH には電解質エンジニアリングの知識を活用した濃厚緩衝液を決定し,新規に決定される電解質環境で高活性で高安定な触媒開発を合わせて行うことが重要である.