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Online ISSN : 2434-4966
Nutritional intervention in Adolescent and Young Adults undergoing allogeneic hematopoietic stem cell transplantation
Takashi Aoyama
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2022 Volume 4 Issue 2 Pages 52-62

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Abstract

要旨:【諸言】思春期・若年成人(Adolescent and Young Adults;以下,AYAと略)世代のがん患者における栄養介入法の議論は進んでいない.【目的】同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation;以下,allo-HSCTと略)を受けたAYA世代患者における栄養介入の実際を調査する.【方法】2007年から2015 年に静岡がんセンター血液・幹細胞移植科においてallo-HSCTを受けたAYA世代(16~29歳)の患者を対象とし,前処置前から経静脈栄養終了までの栄養および臨床指標を評価した.【結果】14例(女性6例)の体重減少率と骨格筋量減少率は相関していた(r=0.87:p<0.01).体重減少率と基礎代謝熱量充足率,総供給タンパク質量は相関していた(r=0.54:p<0.05,r=0.56:p<0.05).経過中の栄養関連有害事象と経口摂取熱量は相関していた(r=-0.94:p<0.01).【結論】AYA世代患者におけるallo-HSCTの経過中の体重変化は骨格筋量変化および基礎代謝熱量充足率,総供給タンパク質量と関連していた.allo-HSCTにおいて有害事象に対応できる早期からの栄養介入には利点があると考えられた.

Translated Abstract

Introduction: There is limited information on the effects of nutritional intervention in Adolescent and Young Adults (AYA) patients.

Objective: To investigate nutritional intervention in AYA patients undergoing allogeneic hematopoietic stem cell transplantation (allo-HSCT).

Methods: The subjects were 14 AYA patients (16–29 years old, 6 females) who underwent allo-HSCT (transplantation date: day 0) at Shizuoka Cancer Center Blood and Stem Cell Transplantation Department from 2007 to 2015. Nutritional and clinical indexes were evaluated from the day before pretreatment to the day after the end of intravenous nutrition.

Results: The rate of weight loss was correlated with the rate of loss of skeletal muscle mass (r = 0.87, p < 0.01), basal energy expenditure (r = 0.54, p < 0.05), and total protein supply (r = 0.56, p < 0.05). Oral calorie intake was correlated with the course of nutritional-related adverse events (r = –0.94, p < 0.01).

Conclusion: Body weight loss during the course of allo-HSCT in AYA patients was associated with changes in skeletal muscle mass, basal energy expenditure, and total protein supply. Early nutritional intervention is beneficial for reduction of adverse events in allo-HSCT.

諸言

近年の若年成人(Adolescent and Young Adults;以下,AYAと略)世代におけるがん患者のサバイバー5年生存率は9割と報告されているが,10年生存率は7割を下回っており,長期にわたる支援が求められている1)~3.AYA世代における造血器腫瘍の治療では,急性リンパ性白血病に対する治療法が確立されている4一方で,急性骨髄性白血病に対する治療法は確立されていない56.造血器腫瘍の治療に用いられる同種造血細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation;以下,allo-HSCTと略)は抗腫瘍効果を高め,免疫抑制を担保しつつ寛解を目指す治療法である7.しかし,その治療は大量化学療法や全身放射線療法による有害事象に加えて移植片対宿主病(graft-versus-host disease;以下,GVHDと略)の出現により経口摂取が障害される8.これまで,がん患者への栄養介入の重要性が提言されているものの9,AYA世代を対象とした議論10)~13はほとんどされておらず,allo-HSCTを受けるAYA世代患者への栄養介入に関する報告もされてきていない.その理由は,患者の治療参加が得られにくい14ことと,成人と小児の違いにより治療法56が標準化されていないことにあると考えられる.著者は以前,多くの食品や料理のデバイスを用いてallo-HSCTの有害事象に対応できるアドヒアランス15に鑑みた栄養介入法を報告した16.しかし,治療遵守の低さが挙げられているAYA世代17患者へのallo-HSCTに関する栄養介入の実態調査はしてこなかった.本稿ではallo-HSCTを受けるAYA世代患者への栄養介入の実態を調査し,若年者に対する早期からの栄養サポートの意義を考察する.

対象および方法

1. 対象

対象者は,2007年4月から2015年3月までに静岡がんセンター血液・幹細胞移植科において,初めてallo-HSCTを施行した16歳以上29歳以下18の患者とした.除外基準項目は,栄養介入を拒否した症例ならびに,主治医が本臨床研究の登録には不適当と判断した症例とした.allo-HSCTの前処置は,シクロホスファミド/全身照射≧8Gy(cyclophosphamide/total body irradiation;以下,CY/TBIと略),ブスルファン≧6.4mg/kg/シクロスファミド(busulfan/cyclophosphamide;以下,BU/CYと略),メルファラン≧140mg/m2/全身照射≧8Gy(melfalan/total body irradiation;以下,MEL/TBIと略),フルダラビン/ブスルファン≧6.4mg/kg(fuludabin/busulfan;以下,Ful/BUと略),メルファラン≧140mg/m2(melfalan;以下,MELと略)を用いた8.移植ソースは非血縁者間同種骨髄移植(unrelated donors bone marrow transplantation;以下,UR-BMTと略),臍帯血移植(cord blood transplantation;以下,CBTと略),同種末梢血幹細胞移植(allogeneic peripheral blood stem cell transplantation;以下,allo-PBSCTと略)を用いた.

2. 方法

静岡がんセンター血液・幹細胞移植科におけるallo-HSCTの栄養パス(図1)は,造血幹細胞移植学会ガイドライン(移植後早期の感染管理 第4版;以下,ガイドラインと略)にある食品衛生を遵守し,allo-HSCTの経過に応じて前処置前の食事(普通食)に戻せるよう支援している16.実際に用いている介入のデバイスは通常の料理と食品で構成されており,ヒト白血球型抗原(human leukocyte antigen;以下,HLAと略)を揃えたランダム化比較試験(randomized controlled trial;以下,RCTと略)結果が示されていない免疫栄養剤(グルタミンやアルギニン)や栄養強化剤は用いていない19.当センターのallo-HSCTにおける栄養サポートは,前処置前から経静脈栄養(高カロリー輸液・アミノ酸製剤・脂肪乳剤;parenteral nutrition;以下,PNと略)終了までの間,病棟担当管理栄養士が患者のベットサイドまで毎日出向き,患者の嗜好と主訴を聞き取り,担当医に食事調整の指示確認およびPNと経口摂取の栄養量を報告し,患者の主訴と症状に対応した食事変更を行っている.本稿では前処置開始日前(1~2日前:T1)から,PNが終了となった日以降(1~2日後:T2)までの期間に以下の項目を調査した.

図1.静岡がんセンター血液・幹細胞移植科におけるallo-HSCTに用いている栄養パス

文献16より著者作成:免疫低下普通食~血球減少期(欠食または個人対応食)~血球回復期(ライトIまたはII)~症状軽減期(ライトIIまたハーフ,下痢時低残渣食)~免疫低下普通食へ順次食上げしていき,そのフレーム内でも患者の主訴に応えるように可逆的かつ柔軟に対応している.

評価項目:

①T1における体格指数(body mass index;以下,BMIと略)と標準体重比(% ideal body weight;以下,%IBWと略)を調査した.T1からT2までの評価は,体重減少率(% loss of body weight;以下,%LBWと略)20と生体電気インピーダンス(bioelectrical impedance analysis;以下,BIAと略)方式高精度体構成成分分析器 InBody S20により骨格筋量(skeletal muscle mass;以下,SMMと略),体脂肪量(fat mass:以下FMと略),位相角(phase angle;以下,Paと略)を評価した21.骨格筋量減少率(% loss of skeletal muscle Mass;以下,%LSMMと略)と体脂肪量減少率(% loss of fat mass;以下,%LFMと略)を算出し,%LBWとの関連を調査した.T1におけるBIAで求めた四肢筋肉量(skeletal muscle index;以下,SMIと略)を算出し,サルコペニアの基準値(女性5.7kg/m2,男性7.0kg/m222と比べて評価した.また,T1におけるSMIとBMIとの関連を調査した.

②1日あたりの総供給熱量とタンパク質量(PN,経口摂取)を算出した.期間中の総供給熱量を標準体重(ideal body weight;以下,IBWと略)23あたりの基礎代謝熱量(basal energy expenditure;以下,BEEと略)24において除したBEE充足率とIBWあたりの総供給タンパク質量を算出し,%LBWとの関連を評価した.

③経時的な有害事象の重複を調査するため,有害事象共通用語規準(common terminology criteria for adverse events v3.0, v4.0;以下,CTCAEと略)25のうち,食事に関する変化を示している有害事象(嘔吐,吐き気,食欲不振,口腔粘膜障害および味覚変化)を栄養関連有害事象として,カットオフ値を設定している(表1:グレーン区域).経時的な症状の増減を調べるために,栄養関連有害事象のうち,グレード(以下,Gと略)1以上の嘔吐(24時間以内に1回以上の嘔吐がある),G2以上の悪心(経口摂取量が減少する),G2以上の食欲不振(摂食量が変化している),G2以上の口腔粘膜障害(食品の加工を要する),G2以上の味覚変化(食事に影響する)を全てスコア1とカウント[例:G3の食欲不振はスコア1とカウントする]し,それぞれのスコアの合計量をその日毎の症例数で割って累積グラフとした.経過日毎の経口摂取熱量/IBW(経過日毎の症例数で除した値)およびPerformance Status(以下PSと略す:経過日毎にScore[例Score 2は2とカウントする]の計をその日の症例数で除した値)を調査し,栄養関連有害事象の積算グラフと重ね合わせて経時的な関連性を評価した.

表1 CTCAEにおける栄養関連有害事象
グレード1 グレード2 グレード3 グレード4
嘔吐 Version 3.0 24時間に1エピソードの嘔吐 24時間に2–5エピソードの嘔吐<24時間の静脈内輸液を要する 24時間≧6エピソードの嘔吐;≧24時間の静脈内輸液/経管栄養/TPNを要する 生命を脅かす
Version 4.0 24時間に1–2エピソードの嘔吐(5分以上間隔が開いたものをそれぞれ1エピソードとする) 24時間に3–5エピソードの嘔吐(5分以上間隔が開いたものをそれぞれ1エピソードとする) 24時間に≧6エピソードの嘔吐(5分以上間隔が開いたものをそれぞれ1エピソードとする):TPNまたは入院を要する 生命を脅かす:  緊急処置を要する
悪心 Version 3.0 摂食習慣に影響の無い食欲低下 顕著な体重減少・脱水または栄養失調を伴わない経口摂取量の減少<24時間の静脈内輸液を要する カロリーや水分の経口摂取が不十分;≧24時間の静脈内輸液/経管栄養/TPN/入院を要する 生命を脅かす
Version 4.0 摂食習慣に影響のない食欲低下 顕著な体重減少・脱水または栄養失調を伴わない経口摂取量の減少 カロリーや水分の経口摂取が不十分;経管栄養/TPN/入院を要する 生命を脅かす:  緊急処置を要する
食思低下 Version 3.0 食習慣の変化を伴わない食欲低下 顕著な体重減少や栄養失調を伴わない摂食量の変化:経口栄養剤の補充を要する 顕著な体重減少や栄養失調を伴う;静脈内輸液/経管栄養/TPNを要する 生命を脅かす
Version 4.0 食生活の変化を伴わない食欲低下 顕著な体重減少や栄養失調を伴わない摂食量の変化:経口栄養剤の補充を要する 顕著な体重減少や栄養失調を伴う;静脈内輸液/経管栄養/TPNを要する 生命を脅かす:  緊急処置を要する
口腔粘膜障害 Version 3.0 わずかな症状で摂食に影響なし 症状があるが,食べやすく加工した食事を摂取し嚥下することはできる 症状があり,十分な栄養や水分の経口摂取ができない 生命を脅かす
Version 4.0 症状がない,または軽度の症状がある;治療を要さない 中等度の疼痛;経口摂取に支障がない;食事の変更を要する 高度の疼痛;経口摂取に支障がある 生命を脅かす:  緊急処置を要する
味覚障害 Version 3.0 味覚変化はあるが食事に影響なし 味覚変化が食事に影響する;嫌な味がする;味覚の喪失
Version 4.0 味覚の変化はあるが食生活は変わらない 食生活の変化を伴う味覚変化;不快な味;味の消失

グレーン区域:スコア1 日本臨床腫瘍研究グループのガイドライン・各種規準25CTCAE v4.0とv3.0より著者作成

④AYA世代患者の嗜好上の持ち込み食が期間中の経口摂取熱量/IBWに占める割合を調査し,年齢との関連を評価した.経口摂取開始日とT2の経過日およびPN充足率,PN期間の関連を調査した.T2時の食種と経口摂取熱量がBEE熱量に占める割合を調査した.

⑤day0を起点日とした5年非生存例と生存日数を調査し,生存例とのT1時のBMI26およびBIAで得られたSMM27とPa28およびSMI29との関連を調査した.

InBody S20計測に際しては仕様を遵守した.T1時における移植前合併症(hematopoietic cell transplantation-specific comorbidity index;以下,HCT-CIと略)30とHLAおよび期間中のGVHDは移植登録一元管理プログラム31より調査した.

経口摂取栄養量はT1の栄養パスの説明時における食札記録(喫食率:10分率評価)に基づいて毎日計算し,PNの栄養量とともに電子カルテ(エクセルチャート)にデータ集積した.

3. 統計処理

評価項目は全て中央値(最小値~最大値)を用いて正規性(Shapiro-Wilk)32を評価した.体重変化(BIAによる)の変化値はWilcoxon signed-rank testを用い比較した.体重変化と供給栄養量,SMIとBMI,経口摂取熱量/IBWのうち持ち込み食の熱量の占める割合と年齢,経時的な栄養関連有害事象と経口摂取熱量/IBWおよびPSの変化値の関連性はPearson’s product moment correlationを用いて評価した.5年生存と非生存のBMIおよびSMMとPa,SMIとの関連はロジスティック単変量解析を用いた.統計分析は,JMP version 12.0 for Windows(SAS Institute,USA)を用い,有意性を両側p<0.05に設定した.

4. 倫理的配慮

本稿は静岡がんセンター倫理審査委員会(Shizuoka cancer center institutional review board;以下,SCC IRBと略)に承認されている後ろ向き臨床研究であり,データ収集の患者同意は院内掲示板を用いて得た(SCC IRB承認番号:J2021-49).

結果

2007年4月から2015年3月までの調査期間中に,allo-HSCTを受けた患者は120例にみられ,全例で栄養介入に同意いただけた.そのうちAYA世代の患者は16例であったが,2例(喫食率を食札に記載できない:1例,移植関連死亡症例:1例)は除外症例となった.対象となった14例(女性6例,男性8例)の年齢の中央値は23歳(範囲:17~29)で,治療前のPSのScoreは全例0であった.対象患者の病名は急性リンパ性白血病6例,急性骨髄性白血病3例,骨髄異形成症候群3例,悪性リンパ腫2例であった.HLA部分不一致28症例は3例に認められた.移植ソースはUR-BMTが6例,PBSCTが6例,CBTが2例であった.allo-HSCTの前処置は全て骨髄破滅的前処置法(CY/TBIが6例,BU/CYが4例,MEL/TBIが2例,Ful/BUが1例,MELが1例)が用いられていた.T1時点におけるHCT-CIは14例中2例にみられた.評価期間中における栄養および臨床指標の結果を表2に示す.総供給タンパク質量と生着日および経口摂取開始日以外の指標に正規性が認められた.

表2 栄養および臨床指標(n:14)
p
症例数 14例(女性6例,男性8例)
介入期間(範囲) 52日間(27~91) 0.95
体重:T1(範囲) 61.7kg(43.7~75.2) 0.53
体重:T2(範囲) 58.2kg(41.6~73.6) 0.54
%LBW(範囲) –3.0(–9.8〜7.4) 0.8
SMM:T1(範囲) 24.8kg(10.8~34.5) 0.82
SMM:T2(範囲) 16.7kg(6.6~30.0) 0.82
%LSMM(範囲) –0.8(–4.1〜4.1) 0.89
FM:T1(範囲) 16.7kg(6.6~30.0) 0.81
FM:T2(範囲) 16.0kg(6.3~28.8) 0.81
%LFM(範囲) –0.6(–4.4〜3.1) 0.89
Pa:T1(範囲) 5.08°(3.97~6.65) 0.37
Pa:T2(範囲) 4.75°(3.70~5.38) 0.56
Pa変化率(範囲) –6.0(–31.1〜16.0) 0.52
BIA:ECF/TBF:T1(範囲) 0.35(0.32~0.36) 0.22
  ECF/TBF:T2(範囲) 0.35(0.34~0.37) 0.8
BIA:ECW/TBW:T1(範囲) 0.39(0.36~0.41) 0.2
  ECW/TBW:T2(範囲) 0.40(0.39~0.41) 0.97
BEE/IBW充足率(範囲) 93%(74~138) 0.27
総供給タンパク質量(範囲) 0.8 g(0.6~1.0) <0.05
生着日(範囲) Day16(11~25) <0.05
経口摂取開始日(範囲) Day13(0~22) <0.05
T2経過日(範囲) Day43(16~81) 0.96
T2のBEEに対する経口摂取熱量が占める充足率(範囲) 88%(30~125) 0.15
PN期間(範囲) 35日間(9~74) 0.28
PN充足率(範囲) 55%(22~82) 0.61
期間中のGVHD 8例(grade 1:5例,grade 2:2例,grade 4:1例)
皮膚8例 stage 1:5例,stage 2:2例,stage 4:1例
消化管2例(経過日,食種,喫食率) stage 1:2例(day36,免疫低下普通食,100% day18,ライトI,100%)

p:Shapiro-Wilk

①全症例におけるT1のBMIは21.3kg/m2(18.3~26.8:p=0.40),%IBWは98.8%(83.8~121.7:p=0.32)であり,全例で普通食(小児食を含む)を喫食できていた.T1とT2のBIAではSMMに影響する浮腫は認められなかった(表2).T1とT2の体重の変化量は–1.9kg(–9.8~7.4:p=0.14),骨格筋量の変化量は–1.0kg(–1.4~–0.4:p<0.01),体脂肪量の変化量は–0.7kg(–1.2~–0.3:p<0.01),Paの変化量は–0.32°(–1.95~0.70:p<0.05)であった.%LBWと%LSMM(r=0.87:p<0.01)に相関関係がみられた(図2)が,%LFM(r=0.41:p=0.14)との関連は認められなかった.女性のSMIは5.8kg/m2(3.5~7.8:p=0.75),男性は7.4kg/m2(6.7~8.5:p=0.57)であり,サルコペニアを示す基準値を下回っていたのは,14例中6例(42%:女性3例,男性3例)であった.SMI(6.7kg/m2;3.5~8.5:p=0.65)とBMI(21.3kg/m2;18.3~26.8:p=0.40)は関連していた(r=0.60:p<0.05).

図2.T1からT2までの%LBWと%LSMMおよびIBWあたりのBEE充足率,総供給タンパク質量の関連性

②期間中のIBWあたりのBEE充足率は93%(74~138)であり,総供給タンパク質量は0.8g(0.6~1.0)であった(表2).%LBWとIBWあたりのBEE充足率(r=0.54:p<0.05)および総供給タンパク質量(r=0.56:p<0.05)に相関関係がみられた(図2).

③調査期間中の経時的な栄養関連有害事象と経口摂取熱量/IBWおよびPSは相関していた(r=–0.94:p<0.01,r=0.82:p<0.01;図3).

図3.T1からT2までの栄養関連有害事象と経口摂取熱量/IBW/dayおよびPSの経時的評価

④持ち込み食は14例中12例にみられ,経口摂取熱量/IBWに占める割合は7%(0~67%:p<0.01;カップ麺,菓子,おにぎり等)であり,全ての持ち込み食はガイドラインの食品衛生に準拠されていた.持ち込み食が経口摂取熱量/IBWに占める割合と年齢は関連していなかった(r=0.25:p=0.38).経口摂取開始日(day13:0~22)とT2の経過日(day43:16~81)およびPN充足率(55%:22~82),PN期間(35日間:9~74)は正相関していた(r=0.54:p=0.05,r=0.76:p<0.01,r=0.69:p<0.01).T2時(day43:16~81;p=0.96)の食種は全例とも普通食(小児普通食5例含む)であり,経口摂取熱量がBEEに占める割合は88%(30~125)であった.期間中のPNは全例で高カロリー輸液とアミノ酸製剤が用いられており,脂肪乳剤はPNの期間が最も長かった1例(T2:day81,表2)に用いられていた.

⑤day0を起点日とした5年非生存症例は2例(急性骨髄性白血病)で,day0を起点日とした生存日数はそれぞれ218日,333日であった.生存例の12例と5年非生存例の2例におけるT1時のBMI(オッズ比1.2,信頼区間0.64–2.38)およびSMM(1.3,0.95–2.38)とPa(0.7,0.07–4.72),SMI(2.6,0.63–34.70)は関連していなかった.

考察

本稿では,allo-HSCTを受けたAYA世代における栄養介入の実際を調査し,得られた栄養および臨床指標より早期からの栄養サポートの意義を探索した.

正規性がみられた調査期間中の%LBWと%LSMMおよびBEE充足率に相関が認められた.この%LSMMに相関していた%LBWが,IBWあたりのBEE充足率に支持されていた本研究結果は,熱量摂取量と窒素出納の間に有意な正相関を認めた既報33と同様であった.栄養学では熱量摂取によるタンパク質節約効果がよく知られている34.熱量摂取量が増すと窒素出納は改善されるが,一方では熱量不足はタンパク質利用効率を低下させる35.このような一般的な観点からもallo-HSCTにおける供給栄養量は考慮すべきであると考えられた.一方,%LBWは総供給タンパク質量と相関していたが,総供給タンパク質量に正規性が認められなかった.この点は,定量化されているPNの非タンパクカロリー/窒素比に,足し合わせている,定量化できない経口摂取による肉,魚などのたんぱく質の摂取量の個人差によるためであると考えられた.また,総供給タンパク質量と%LBWに認められた相関性の支持は,経過中の安静時エネルギー消費量を検討していないため,不明瞭のままである.T1(前処置前)時点において,すでに14症例中6例(42%)にSMIの診断によるサルコペニアが認められた.造血器腫瘍の治療は,その腫瘍量に応じてallo-HSCT以前に寛解導入療法および地固め療法を施行する36.このため,治療経過と感染管理の観点からPSが低下していたことによってサルコペニアが進んでいた可能性がある.この点は,allo-HSCT以前からの栄養介入の必要性を示唆しているものと考えられた.T1(前処置前)時点におけるSMIとBMIが正相関していた.これは,双方の単位(kg/m2)が同一のためであると考えられるが,高価な医療機器の計測を要するSMIが簡易なBMIによって支持されている点については臨床での汎用性が広がることから,今後,より多くの症例で検討する必要があると考えられた.

allo-HSCTにおける栄養パス(図1)では,栄養関連有害事象の重複により経口摂取が困難となることが多く,生着前後に飲水と内服を確認後,流動物や半固形食および果物などを用いて開始している.その後,食札に記載された喫食率と嗜好および重複する悪心と食欲不振などを勘案し,患者の合意を得て普通食(固形食)へ戻せるよう,順次食事調整し栄養量を確保している16.その結果として,図3にあるように有機的な経時的栄養介入が認められており,かつT2における食種はIBWあたりのBEE充足率は9割を占める普通食(小児食を含む)に正規性32が認められたday43(T2)に戻すことができていたことから,早期からの栄養サポートには意義があると考えられた16.栄養関連有害事象とPSに経時的な正相関がみられたことから,PS低下により,総熱量消費量は低下していた37と考えられた.また,栄養関連有害事象により経口摂取熱量/IBWは減少し,負相関を示していたことから(図3),経過中の食事誘導性熱産生は低下していた38と考えられた.このため,TPNの熱量を増量してBEE充足率を上げて体重減少を抑止することで筋肉量の低下の改善を図りたいところだが,TPNは長期化すると,高血糖が高頻度に認められ,それに伴う感染症発症との関連が示唆されている39.また,TPNからの過剰な水分投与がallo-HSCTにおける生着症候群に悪影響を及ぼす報告がされている40.したがって,TPNから経口摂取への速やかな移行が望ましく,本稿に示されているように生着日が異なる患者個々に重複する有害事象に応じた早期からの栄養学的介入法には意義があると考えられた.嗜好上の持ち込み食は14例中12例に認められたが経口摂取熱量に占める割合は7%であり,年齢との関連は認められなかった.また,経過中の経口摂取開始日はバラツキが認められたが,T2(PN終了1~2日後)の経過日およびPN充足率,PN期間に相関性がみられ,かつ各指標に正規性が認められていた.これらの結果は,治療遵守の低さが挙げられているAYA世代1417患者に対しても,自験例16同様に一貫した栄養サポートによる喫食率改善が,移植経過や患者の苦痛緩和および医療資源の軽減につながっていることを表しているものと考えられた.これまで,造血器腫瘍の治療以外のがん化学療法患者における栄養カウンセリングとそのアウトカムの議論では,体重減少を焦点とするシステマティックレビュー41が報告されており,本稿で示された栄養介入法が客観的に評価されたものと考えられた.

本稿のAYA世代におけるallo-HSCT後の5年生存症例数は既報1同様に9割にまで達していたが,前処置前(T1)の栄養指標(BMI,SMM,Pa,SMI)との関連は認められなかった.AYA世代において小児の治療法が確立している急性リンパ性白血病3であった6例は,成人のallo-HSCTの治療において全症例に5年生存が認められた.一方,AYA世代における治療法が確立していない急性骨髄性白血病45であった3例は,成人のallo-HSCTの治療において2例の予後不良症例がみられた.これまで,allo-HSCTにおける転帰との関連因子としてBMI26および第3腰椎骨格筋面積とBIA27やPa28,SMI29が挙げられているが,本稿においては非生存症例数が少ないことから影響している関連因子は探索できないままであり,今後に課題が残された.

本稿ではAYA世代患者におけるallo-HSCTに栄養および臨床指標が関与しているかを調査し,栄養介入の意義を探索した.その結果,寛解を目指すallo-HSCTを受けたAYA世代患者においても前処置前からPN終了までの間,骨格筋量を支持している体重にBEE充足率と総供給タンパク質量の関連が示された1642.また,経時的な栄養関連有害事象と経口摂取熱量/IBW/dayに相関関係が認められた.これらの結果より,allo-HSCTを受けたAYA世代患者における早期からの栄養サポート1643には,患者視点に立ったアウトカムである体重減少抑止に寄与できる可能性があると考えられた.今後は,本稿で求めることができたPN終了経過日(T2)を参考に至適栄養量の探索をし,転帰と栄養および臨床指標との関連をより多くの症例数で検討する必要があると考えられた.

本稿の限界は,GVHDに対する免疫抑制剤やステロイドの影響をRCTにおいて検討していない点にあり本研究のバイアスに影響していると考えられた.

結論

同種造血幹細胞移植を受けたAYA世代患者における栄養介入では,体重変化が,骨格筋量の変化と基礎代謝熱量充足率および総供給タンパク質量と関連していた.AYA世代患者の同種造血幹細胞移植時における早期からの栄養サポートには,有害事象に鑑みた栄養介入法としての利点があると考えられた.

謝辞

本稿のデータ提示に快諾いただけた静岡県立静岡がんセンター血液・幹細胞移植科部長 池田 宇次先生に深謝申し上げます.日常の栄養パスに協力して頂いている静岡県立静岡がんセンター栄養室の管理栄養士の方々に感謝申し上げます.

本研究は,日本学術振興会からの科研費22K18237の助成を受けたものである.

本稿に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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