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Online ISSN : 2434-4966
Construction of a frailty medical checkup system using IoT/ICT tools: Utility and evaluation in the local community
Yutaka Shibata
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2022 Volume 4 Issue 2 Pages 79-89

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Abstract

要旨:【目的】地域高齢者に対するIoT/ICT活用によるフレイル健診システムを構築し分析した.【対象および方法】スクリーニング用アプリを開発し,タブレット・IoT機器より入力後,クラウド上で解析し,診断ツール毎に再構成後出力した.2019年12月-2020年3月,地域高齢者に計2回施行した.健診前後にアンケートを実施し,健診システムの評価と健診後の行動変容に影響した因子を分析した.【結果】延べ173名(男41,女性132,平均72.3歳),フレイル健診の評価は概ね良好.健診後のアンケートでは,問診方法の評価には問診アプリの簡便さが(OR 0.238,p=0.001),健診後の行動変容には健診レポートの総合的アドバイスの評価が(OR 0.104,p=0.013),それぞれ有意に影響する因子として検出された.【結論】IoT/ICT活用フレイル健診は高齢者を対象としても有効で,総合的なフレイル対応が重要である.

Translated Abstract

Objective: The goal of the study was to develop and evaluate a frailty medical checkup system using IoT/ICT tools for local elderly people.

Subjects and Methods: A screening application was developed, after input of data from a tablet or IoT device. Analysis is conducted in the cloud and results are output after reconfiguration for each diagnostic tool. Checkups were performed twice for elderly people in the community from December 2019 to March 2020. Questionnaires were used before and after the checkup. Regression analysis was performed for factors with a possible influence on evaluation of the medical checkup system and behavioral changes after the medical checkup.

Results: A total of 173 people (41 men, 132 women, mean age 72.3 years) received the checkup, and all evaluated the frailty medical checkup system as generally favorable. In the post-checkup questionnaire, the simplicity of the application was significantly associated with the evaluation of the interview method (OR 0.238, p = 0.001), and the comprehensive advice provided by the checkup report significantly affected post-checkup behavioral changes (OR 0.104, p = 0.013).

Conclusion: Our frailty medical checkup system using IoT/ICT tools was found to be effective for elderly people. Provision of comprehensive frailty support is important in this system.

目的

2014年に「フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント」が発表され,健康寿命延伸への観点からフレイルの早期発見・早期介入の重要性を広く啓発する運動が行われている1.フレイルは,身体的脆弱性を主体としながらも,精神心理的問題,社会的問題も含む概念であり1,それぞれ身体的フレイル・精神心理的フレイル・社会的フレイルと表現されている2.この多面的側面を検出するには高齢者の特性にあわせた質問票が不可欠である3.従来から介護予防分野では基本チェックリスト(以下,KCLと略)が妥当性のあるフレイル評価法として広く用いられている23.令和2年度からは高齢者の健診項目の中に後期高齢者の質問票4も追加されたが,フレイル健診として現在,制度に位置付けられたものは一つに定まっておらず5,現状では多数のフレイル評価法が存在している.そのため,地域公衆衛生の現場ではフレイルに関する類似の調査方法が相互の関連なく使用され,実施担当者と対象者に過度の負担が求められており6,フレイルを適切に把握できる簡便な問診票の開発が期待されている3.またフレイル評価の手段としては,総合的なアプローチだけではなく,二次予防対象者選定に基づく領域を特定可能にする,カテゴリー別のアプローチを取り入れた評価方法が望まれている2.その理由として総合的な評価と各領域別の評価を組み合わせることで,フレイル状態の把握のみならず,介入すべき対象領域の医療機関への情報提供にも利用できるからである2

以上のようにフレイル判定には複数の評価法が存在し,多数の高齢者を地域でスクリーニングする際には,煩雑さという問題点がある.そこで,このような課題を解決する新たな試みとして,高齢者の身体機能測定と問診を医療機関以外の地域の場でも短時間に施行可能とする目的で,入出力・解析にInternet of Things/Information and Communication Technology(以下,IoT/ICTと略)を活用するフレイル健診システムを構築した.本研究では,このシステムを用いたフレイル健診の有用性を健診参加者のアンケート調査から,高齢者自身による問診入力の操作性の評価,および出力された健診レポートの内容に対する評価で検討した.

対象および方法

本研究は,新たに開発したフレイル健診システムに対する実証参加者へのアンケート調査結果を解析した横断研究である.まず,フレイルの問診を高齢者自身がタブレットで入力し,IoT機器からの身体測定結果と共にクラウド上へデータを集積・解析後,診断ツール毎に自動的に判定結果を出力するシステムを新規に構築した.その後,秋田県秋田市と潟上市に在住する60歳以上の地域住民に公募を行い,参加希望者を決定した.2019年12月から2020年3月までの間に,1グループ20人前後に分け,コミュニティセンター等の通いの場でフレイル健診を実施した.健診は初回および最終健診を2カ月間隔で計2回施行した.最初に大型モニタを活用してフレイル予防の重要性について講義した後,タブレット端末を用いてフレイル関連項目を問診した.身体組成・機能の測定は,体組成計(InBody 770,(株)インボディ・ジャパン)とIoTセンシング型リハビリプログラム(TANO,(株)TANOTECH)を用いて筋肉量など体成分測定,4m歩行速度,5回椅子立ち上がりテスト等を実施した.フレイル評価ツールとしてフレイルの診断は日本版Cardiovascular Health Study Index(以下,J-CHSと略)7,介護予防で用いられているKCL2,栄養関連はMini Nutritional Assessment-short form(以下,MNAと略)8とGlobal Leadership Initiative on Malnutrition(以下,GLIMと略)9,運動機能関連はサルコペニア簡易スクリーニングツール(以下,SARC-Fと略)10,Asian Working Group for Sarcopenia 2019(以下,AWGS2019と略)11とロコモティブシンドローム判定ツール(以下,ロコモ25と略)12,認知機能はDementia Assessment Sheet in Community-based Integrated Care System-21(以下,DASC-21と略)13を用いた.フレイル判定は,J-CHS7で3項目以上をフレイルとし,1–2項目をプレフレイル,0項目を健常と判定した.KCL2では判定基準に従って二次予防事業対象者を判定した.さらにMNA8では栄養状態良好・低栄養のおそれあり(At risk)・低栄養を,GLIM基準9では低栄養とその重症度判定を,SARC-F 10で4点以上かつ5回椅子立ち上がりテスト12秒以上でサルコペニアの可能性を,AWGS201911では骨格筋量のカットオフ値未満からサルコペニアを,ロコモ2512では移動機能の低下の程度を,DASC-2113では軽度・中等度以上の認知症および疑いをそれぞれ判定した.ただし,社会的フレイルに関しては評価法のエビデンスが乏しいため,今回の評価項目には組み込まなかった.問診と計測結果を入力後,クラウド上にデータを集積・解析し,判定結果を健診レポートとして参加者に印刷物を郵送で提供した.

参加者用出力形式は,まず総合的アプローチとしてJ-CHSによるフレイル判定とKCLの総合点による判定を行い,その結果を総合的アドバイスとして参加者に提供した.総合的アドバイスにはフレイル予防が健康寿命延伸につながる等の啓蒙を主とした一般的な情報と,KCL判定に基づく介護予防・生活支援サービスが利用可能となる情報も提供した(例:全般的な生活機能低下の恐れがありますので,機能向上に取り組みましょう.地域包括支援センターにご相談することもおすすめします).次にカテゴリー別アプローチとして,栄養状態(MNA,GLIM),運動機能(SARC-F,AWGS2019,ロコモ25),認知機能(DASC-21)の各ツールによる判定を行い,カテゴリー別アドバイスとして参加者に提供した.カテゴリー別アドバイスには判定基準により医療機関受診を推奨する情報も追記した(例:筋肉量減少による歩行速度低下の可能性がありますので,一度医療機関を受診することをおすすめします).アドバイス内容は各判定ツールで推奨している文章を平易な表現にした上で引用した.なお,本研究施行後に策定された後期高齢者の質問票4は含まれていない.スクリーニングにおける質問は,体重減少や身体活動の程度に関する項目等,前記ツールで重複する問診内容を統一・集約することで簡素化(全83項目から62項目)したアプリを新たに開発し,選択肢から選ぶことも高齢者自身が行った.タブレットに不慣れな参加者を想定し,タッチ操作のみで選択・回答可能な仕様とした.また,関連する領域の症状や状態の質問項目(例:食事量や体重の変化)を同一ページにまとめて,回答しやすい表示にする工夫も行った.出力は前記参加者用形式以外に,医療機関用として診断ツール毎のフォーマットにあわせた結果と身体測定結果を出力した.また,介護予防分野用としてJ-CHSの判定結果とKCLの総合点から,介護サービス等の相談につながる提案を促す文面も含まれた内容とした(例:市町村が主催する介護予防教室等への紹介により,運動機能の向上を図ってください).データ管理はアマゾンウェブサービスを利用したクラウド上で行い,3省3ガイドラインに準拠したセキュリティを設けることで堅牢性を高めた14

健診前後に無記名自記式質問紙によるアンケート調査を実施した.回収した質問紙はIDで管理し,研究終了後に破棄した.アンケートでは,参加者のフレイル関連用語の認知度や健康に関する関心の程度,また健診システムおよび提供されたアドバイスへの評価を質問した.まず,初回健診実施者を対象に健診前アンケートを行った.対象者の基本情報として年齢と性別以外に,フレイル関連用語の知識や健康・社会活動について質問した.この結果と平成30年秋田県健康づくりに関する調査報告書15の同一項目を比較し,今回の対象者のバックグラウンドとなる情報として検討した.次に最終健診実施者および初回健診のみ実施かつ,アンケート実施者を対象に健診後にアンケートを行い,今回のフレイル健診システムへの評価を質問した.このフレイル健診システムに対する評価項目のうち,問診方法の評価とフレイル健診後の行動変容の程度に影響した要因を検討した.まず,問診方法の評価(5:良い,4:やや良い,3:普通,2:やや悪い,1:悪い)と他の質問項目(電子機器所有の有無,タブレット端末のサイズや使用感,問診アプリの簡便さ)との関連を比較検定した.次に問診方法に影響した因子を検討するために,問診方法の評価を目的変数として,前記解析でp値が0.10未満の関連性を認めた項目を説明変数とする順序ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を実施した.同様に,フレイル健診後の行動変容の程度(5:非常に続けてみようと思う,4:まあまあ続けてみようと思う,3:気持ちに変化はない,2:ほとんど続けてみたいと思わない,1:全く続けてみようと思わない)と,他の質問項目(フレイル健診レポートの総合的アドバイスとカテゴリー別アドバイスへの評価,フレイル・サルコペニア・ロコモに関する理解度)との関連を比較検定した.次にフレイル健診後の行動変容の程度に影響した因子を検討するために,行動変容の程度を目的変数として,前記解析でp値が0.10未満の関連性を認めた項目を説明変数とする順序ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を実施した.統計解析における群間の比較検定はKruskal-Wallis検定,Mann-Whitney U検定で行った.回帰分析は各項目における5段階リッカート尺度の順序データ情報を活かすため,各水準の検定は順序尺度として扱った.統計学的解析はIBM SPSS Statistics® 26.0(IBM, Armonk, NY, USA)を用いた.いずれも危険率5%未満を有意水準とした.

参加者には本研究の目的,個人情報の取り扱い等について十分な説明を文書で行い同意を得た.本研究はヘルシンキ宣言に沿って行われ,当法人内倫理審査委員会の承認を得て実施し(承認年月日:2019年11月7日),研究対象者が拒否できる機会を保障する方法(オプトアウト)として,当院ホームページに本臨床研究を公開し,同時に拒否の意思表示を受け付ける連絡先を明示した.

結果

60歳以上を対象に5会場,計12回,延べ173名(男性41名,女性132名,年齢72.3±6.2歳)に施行した.IoT機器での測定は特にトラブルなく入力され,タブレットからの問診入力時間は平均17.5分であった.健診対象者のフローチャートを図1に示す.初回健診実施予定者152名のうち,新型コロナウイルス感染症対策のため未実施者40名を除く112名(男性25名,女性87名,年齢72.5±5.9歳)に対して初回健診を行った.各診断基準による判定人数とその割合は,J-CHS判定によるフレイルは3名(2.7%),プレフレイルは48名(42.9%),健常は61名(54.5%),KCLによる生活機能低下の疑いは67名(59.8%),非該当は45名(40.2%),MNAによるAt riskは25名(22.3%),栄養状態良好は87名(77.7%),SARC-Fによる筋肉量減少の可能性は8名(7.1%),可能性なしは104名(92.9%),ロコモ25による移動機能低下の可能性ありは49名(43.8%),移動機能低下の可能性なしは63名(56.3%)であった.GLIM,AWGS2019,DASC-21による基準範囲外の判定は認めなかった.初回健診実施者を対象とした健診前アンケートを112名に行い(図1),有効回答は106名(男性24名,女性82名,年齢72.6±6.0歳,有効回答率94.6%)であった.この健診前アンケートと,平成30年秋田県健康づくり調査報告結果15を比較検討した結果を表1に示す.今回の健診参加者は,健康に対する意識,フレイル・ ロコモの知識,健康づくりおよび社会活動が平成30年度秋田県調査より有意に豊富であった.健診後アンケートを実施した95名(図1)のうち,有効回答は82名(男性17名,女性65名,年齢72.3±6.0歳,有効回答率86.3%)であった.その結果,フレイル健診の評価は概ね良好であった(表2).このフレイル健診評価項目のうち,表2の質問項目4.問診方法の評価と表3の質問項目(1~4)との関連を検討した.2群・多群間比較検定では電子機器所有の有無以外の項目が有意に検出されたが(表3),回帰分析の結果,問診アプリの簡便さのみが有意に関連した(表4).さらに表2の質問項目5.フレイル健診参加後の行動変容の程度と表5の質問項目(1~7)との関連を検討した.2群・多群間比較検定ではすべての項目が有意に検出されたが(表5),回帰分析の結果,健診レポートにおける総合的アドバイスの評価のみが有意に関連した(表6).

図1.健診対象者のフローチャート

*1:新型コロナウイルス感染症対策による自粛のため

*2+*3:延べ実施人数

*2:健診前アンケート実施者

*3+*4:健診後アンケート実施者

表1 フレイル健診事業と秋田県調査報告との比較
フレイル健診  N=106 秋田県調査  N=740 統計量Z 効果量r p値*
健康に対する意識 n(%) n(%) –2.467 0.085 0.014
あなたは普段健康だと感じていますか
健康である 13(12.3) 108(14.6)
どちらかといえば健康 70(66.0) 342(46.2)
どちらとも言えない 12(11.3) 99(13.4)
どちらかといえば健康でない 5(5.0) 104(14.1)
健康でない 6(5.7) 78(10.5)
フレイルの知識 –8.769 0.313 <0.001
フレイルという言葉を知っていますか
良く知っている 22(20.8) 28(3.8)
意味はよく知らない 48(45.3) 147(19.9)
全く知らない 36(34.0) 505(68.2)
ロコモの知識 –5.57 0.199 <0.001
ロコモという言葉を知っていますか
良く知っている 23(21.7) 104(14.1)
意味はよく知らない 58(54.7) 196(26.5)
全く知らない 24(22.6) 377(50.9)
健康づくりの活動に関して –12.339 0.435 <0.001
あなたは健康づくりに関する地域,職場,学校等での活動に参加していますか
している 63(59.4) 106(14.3)
どちらとも言えない 23(21.7) 53(7.2)
していない 19(17.9) 539(72.8)
社会活動に関して –5.435 0.209 <0.001
あなたは何らかの社会活動をしていますか
している 66(62.3) 239(32.3)
どちらとも言えない 21(19.8) 40(5.4)
していない 18(11.0) 292(39.5)

無回答者除く * Mann-Whitney検定

表2 フレイル健診の評価 N=82
質問項目 n %
1.フレイル予防の説明
フレイル予防についての説明はいかがでしたか
良い 61 74.4
やや良い 8 9.8
普通 8 9.8
やや悪い 0 0.0
悪い 0 0.0
無回答 5 6.1
2.身体データ測定
身体測定や体組成測定(InBody)はいかがでしたか
良い 59 71.2
やや良い 9 11.0
普通 9 11.0
やや悪い 1 1.2
悪い 0 0.0
無回答 4 4.9
3.身体機能評価
身体機能評価(TANO)はいかがでしたか
良い 49 59.8
やや良い 14 17.1
普通 11 13.4
やや悪い 0 0.0
悪い 0 0.0
無回答 8 9.8
4.問診方法の評価
問診をタブレットで行う簡便さはいかがでしたか
良い 54 65.9
やや良い 10 12.2
普通 15 18.3
やや悪い 1 0.1
悪い 0 0.0
無回答 2 2.4
5.フレイル健診参加後の行動変容の程度
健診に参加したことでフレイル予防継続に対する気持ちに変化はありましたか
非常に続けてみようと思う 35 42.7
まあまあ続けてみようと思う 39 47.6
気持ちに変化はない 2 2.4
ほとんど続けてみたいと思わない 0 0.0
全く続けてみようと思わない 0 0.0
無回答 6 7.3

表3 健診後アンケート:問診方法の評価 N=82 【問診方法の評価 5:良い,4:やや良い ,3:普通,2:やや悪い,1:悪い】
質問項目 度数(n) 統計量 p
1.電子機器所有の有無 –0.215*1 0.830*3
スマホまたはタブレットをお持ちですか
あり 52
なし 24
2.タブレット端末のサイズ 21.548*2 <0.001*4
タブレットの大きさはいかがでしたか
良い 65
やや良い 6
普通 8
やや悪い 1
3.タブレット端末の使用感 17.226*2 0.001*4
タブレットは使いやすかったですか
良い 60
やや良い 8
普通 11
やや悪い 1
4.問診アプリの簡便さ 31.487*2 <0.001*4
問診アプリの使い方はいかがでしたか
良い 50
やや良い 14
普通 14
やや悪い 2

無回答除く

*1 Z値 *2 H(K) *3 Mann-Whitney検定 *4 Kruskal-Wallis 検定

表4 問診方法の評価に対する独立危険因子【問診方法の評価 5:良い,4:やや良い ,3:普通,2:やや悪い,1:悪い】
有意項目 偏回帰係数(B) Wald オッズ比 95%信頼区間 有意確率p値*2
下限 上限
問診アプリの簡便さ*1
普通 –1.825 13.236 0.161 –2.808 –0.842 <0.001
やや良い –1.437 11.519 0.238 –2.267 –0.607 0.001
良い 0.000 1.000 (Reference)

*1:モデルカイ2乗値=42.082(p<0.001) *2:順序ロジスティック回帰分析

モデル適合情報のモデルカイ2乗値とp値から,作成されたモデル係数と回帰式の有意性が保証された.

表5 健診後アンケート:行動変容の程度 N=82 【行動変容の程度 5:非常に続けてみようと思う~1:全く続けてみようと思わない】
項目 度数(n) 統計量 p値*
1.フレイル健診レポートにおける総合的アドバイスの評価 16.628 <0.001
フレイル健診レポートは全体的にいかがでしたか
良い 53
やや良い 14
普通 5
やや悪い 3
2.栄養アドバイスの評価 8.147 0.017
栄養に関するアドバイスはいかがでしたか
良い 27
やや良い 20
普通 15
やや悪い 2
悪い 1
3.運動アドバイスの評価 13.903 0.001
運動に関するアドバイスはいかがでしたか
良い 30
やや良い 17
普通 17
やや悪い 2
4.生活機能アドバイスの評価 15.245 <0.001
生活機能に関するアドバイスはいかがでしたか
良い 33
やや良い 12
普通 19
やや悪い 2
5.フレイルに関する理解度 8.822 0.012
フレイルの言葉の意味を知っていますか
良く分かった 62
言葉は覚えたが,少し分からない 12
6.サルコペニアに関する理解度 9.744 0.008
サルコペニアの言葉の意味を知っていますか
良く分かった 43
言葉は覚えたが,少し分からない 29
7.ロコモに関する理解度 10.195 0.006
ロコモの言葉の意味を知っていますか
良く分かった 39
言葉は覚えたが,少し分からない 33
全くわからない 1

無回答除く * Kruskal-Wallis

表6 行動変容の程度に対する独立危険因子【行動変容の程度 5:非常に続けてみようと思う~1:全く続けてみようと思わない】
有意項目 偏回帰係数(B) Wald オッズ比 95%信頼区間 有意確率p値*2
下限 上限
フレイル健診レポートにおける総合的アドバイスの評価*1
やや良い –2.260 6.166 0.104 –4.044 –0.476 0.013
良い 0.000 1.000 (Reference)

*1:モデルカイ2乗値=37.127(p = 0.001) *2:順序ロジスティック回帰分析

モデル適合情報のモデルカイ2乗値とp値から,作成されたモデル係数と回帰式の有意性が保証された.

考察

本研究のフレイル健診の実証から,IoT/ICT活用システムの評価と入力・出力に関する知見が得られた.特に今回のIoT/ICTを活用したスクリーニングシステムは高齢者にも評価が高く,ITの利用に不慣れな可能性が想定された参加者にも受容性は良好であった.フレイル関連スクリーニングの問題点として,複合的に判定しなければならず,特に総合的アプローチとカテゴリー別アプローチを組み合わせてスクリーニングする手段が必要である2.そのため様々なツールが存在し,地域公衆衛生の現場では煩雑化による負担増大の問題点を抱えている6.フレイルとして介入すべき対象者の特定を目的とした総合的アプローチを行う介護予防事業と,二次的な精査を目的としたカテゴリー別アプローチを行う医療機関では,必要とするスクリーニング情報が異なっている.これらの問題点における入力と出力様式の多様性による複雑・煩雑さの課題解決のために,本システムでは入力に関する質問項目を整理・統合することで簡素化し,問診時間短縮の工夫を行った.さらに出力に関しても,参加者用・医療機関用・介護予防分野用のそれぞれで必要とするフォーマットに自動的に変換し再構成することで,二次的な各領域別精査を目的とした適正な医療機関につなぐことを可能にしている.また高齢者では血液検査を中心とした健診と比較し,問診や質問紙を用いた評価法がより健康寿命喪失を予測すると報告されている16.本システムには,採血等の医療行為が含まれておらず,通いの場等におけるスクリーニングにも適しており,さらに入出力でIoT/ICT活用のメリットが示され,地域住民や保健事業・介護予防担当者等にとっても有用な手段と考える.

今回のフレイル健診参加者へのアンケートから本システムの入力と出力それぞれに対する評価が得られた.入力に関して,IoT機器を利用した歩行速度等身体測定に関する評価およびタブレット端末を利用した問診に関する評価は良好であった.多数の地域高齢者をスクリーニングする場合,シンプルな評価票の利用が望ましく6,高齢者から簡便な入力方法と評価された本結果は,高齢者を対象にした場合でもIoT/ICTを活用する健診の有用性が示された.フレイルに関する研究は多数認めるものの,この分野では如何にして地域のシステムに組み込んでいくかという社会実装が重要である17.また,フレイル健診を自治体等で多人数の高齢者に対して迅速・効率的に施行しなければいけない状況では,医療従事者以外の多職種担当者でも簡便に診断・評価できるツールの開発が望まれている17.地域医療連携事業者に対する情報システムの実態調査からもICT利用の条件として情報入力の負担軽減を挙げる団体が多かったと報告されている18.簡便・迅速に入力できる本システムを用いることは,健診を受ける側の地域住民と施行する側の保健事業・介護予防担当者等双方の負担軽減に寄与すると考える.

出力された健診レポートに対する良好な評価として,カテゴリー別アドバイスより総合的アドバイスに対する評価が抽出されたことから,運動機能評価や栄養状態のアドバイス等領域別の情報だけではなく,総合的なフレイル対策情報が重要であることが示された.この理由として,高齢者では未だフレイルの認知度が低く,またフレイルはメタボリックシンドローム等と比較して疾患概念として捉えにくいためと考えられる19.また,高齢者ではメタボ対策からフレイル予防へのギアチェンジが必要であり20,フレイルの認知度を高めるための情報を盛り込んだ総合的な内容を,可視化されたレポートとして高齢者に提示することが重要と考えた.

本研究の限界として,まず第1に今回の参加者は,公募段階でIoT/ICTに興味・親和性のある集団に偏った可能性がある.IoT/ICTを活用した健診を行うという提示で募集したため,協力的な高齢者が多く参加した可能性また比較的健康意識の高い被験者が選択されたというサンプリングバイアスは否定できない.しかし,電子機器所有の有無に関わらず,タブレットでの問診入力も比較的短時間で,さらに問診アプリが高評価という結果から,IoT/ICTへの興味・親和性の有無に関わらず今回のフレイル健診の有用性が示された知見として意義があると考える.第2に今回の研究は短期間,少数例の限定的地域の高齢者を対象としており,一般化するためには今後,長期間のさらなる大きな集団を対象として検討する必要がある.今回の参加者は,フレイルの知識も豊富で健康や社会参加に関しても活動的な集団が対象となった可能性が高く,さらにフレイルの割合も従来の報告(7.4%)21と比較して約3%と低く,栄養状態や運動機能,認知機能の領域別判定結果からも健常な割合が多かった.そのため,フレイルの知識や健康・社会活動が豊富ではない集団や,フレイル率のより高い集団を対象とした検証が必要と考える.第3に今回の調査は参加者である高齢者からの評価であるため,医療機関および介護予防分野へ提供される情報に対する評価も,今後調査・検討する必要がある.

本研究では新型コロナウイルス感染症対策のため,実証規模の縮小を余儀無くされた.コロナ禍では高齢者自体も自粛生活長期化によるフレイルの進行が懸念され22,保健活動にも制約があるため3,フレイル対策にオンライン技術を活用した地域支援 ICT プラットフォームの創造を提唱する報告も認めている22.さらに,このテクノロジーの普及を担う鍵として,利用者の直感的な使いやすさ,すなわち,ユーザビリティの重要性がフレイル対策においても強調されており23,高齢者からも簡便と評価された今回のフレイル健診システムはこの点でも有用性が示された.

結論

本研究によって地域の通いの場におけるフレイル健診でIoT/ICTを活用した評価方法が,高齢者を対象としても有効である可能性が示された.フレイル健診の意義,必要性,継続性を高めるには,簡便・迅速なスクリーニングと高齢者への総合的アドバイスの提供によるフレイルの啓蒙が重要と推察された.

謝辞

本研究は,令和元年度経済産業省「健康寿命延伸産業創出推進事業」(事業名:人生100年健康こまち! 秋田発・フレイル健診)における実証事業の一環として実施した.本研究の遂行にあたってご支援をいただいた秋田フレイル健診コンソーシアムの関係各位に深謝します.

本論文の一部は,第36回日本臨床栄養代謝学会学術集会(2021年7月,神戸市)において報告した.

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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