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Online ISSN : 2434-4966
Retrospective assessment of 73 cases treated with percutaneous transesophageal gastrotubing (PTEG) and comparison of complication rate with percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG)
Kazumi ShimamotoYorihiro NishiyamaFumiyasu NakamuraJunko FuseNaoko NishimuraSayuri TakadaYoko NakajimaToru ImagamiMasaya Sasaki
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2022 Volume 4 Issue 2 Pages 90-95

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Abstract

要旨:2016年6月から2021年6月までに施行した経皮経食道胃管挿入術(Percutaneous trans-esophageal gastro-tubing;以下,PTEGと略)73件を対象に,発生した合併症に関しての検討を行った.事故抜去 4例,瘻孔部の不良肉芽 3例,自己抜去 2例,左反回神経麻痺 1例であり,重篤なものは無かった.PTEGによる経管栄養や消化管減圧は比較的安全で安定した管理が可能であり,在宅療養のためにも更なる普及が望まれる.

Translated Abstract

A review of complications was performed in 73 cases treated with percutaneous transesophageal gastrotubing (PTEG) from June 2016 to June 2021. There were 4 cases of accidental removal, 3 of defective granulation at the fistula, 2 of self-removal, and 1 of left recurrent nerve palsy. None of these cases were serious. Tube feeding and decompression of the gastrointestinal tract using PTEG can be managed relatively safely and stably, and further use of this approach is anticipated in home care.

緒言

経管栄養や消化管減圧において,選択される経路やカテーテル先端の留置位置は病状によって様々である.各施設の経験数や社会的背景により,選択される経路は経鼻アクセス(経鼻胃アクセス,経鼻十二指腸・空腸アクセス)および消化管瘻アクセス(胃瘻,経胃瘻的空腸瘻)が一般的であるが,それぞれに長所や短所があり,時として合併症を経験する.1994年に大石らによって報告された非破裂型バルーン(Rapture free balloon;以下,RFBと略)を使用した経皮経食道胃管挿入術(Percutaneous trans-esophageal gastro tubing;以下,PTEGと略)は12,2011年4月から保険診療として認可されているが,施行や管理を出来る施設は限られており,普及しているとは言い難い.この理由として,PTEG施術時や長期管理中の合併症への懸念が挙げられる.そこで今回,当院での施行例を対象に合併症の分析を行った.

目的

PTEGの造設時合併症や消化管カテーテルの管理における合併症の実態を把握するために,当院でのPTEG導入から現在までに生じた合併症を集計し,その頻度と重症度を分析した.分析にあたっては,同時期のPercutaneous Endoscopic Gastrostomy(以下,PEGと略)で生じた合併症と比較した.

対象および方法

対象は2016年6月1日から2021年6月30日までに当院でPTEGを施行した73件(71例)とし,診療録を分析した(表1).内訳は男性45人,女性26人で平均年齢は66.6歳(±16.0歳)であった.71例のうち2例でそれぞれ2度のPTEGを行っていた.同じく,2016年6月1日から2021年6月30日までに当院でPEGを施行した146件(146例)を対象として診療録を分析した.内訳は男性73人,女性73人で平均年齢は78.8歳(±10.5歳)であった.両群を構成するPTEG症例とPEG症例は無作為に選別されたわけではなく,消化管瘻の第一選択としてPEGを検討し実施された146例と,一方でPEG造設は困難と判断して代替案としてPTEGを選択した71例が対象である.合併症発生の検討は患者のリスクを含めて背景が統一された客観的な比較ではなく,臨床的な診療状況の比較となった.

表1 当院のPTEG件数
目的
減圧 栄養
2016 9 3 12 (6月に1例目施行)
2017 9 2 11
2018 10 4 14
2019 11 8 19 (1件留置不成功)
2020 7 4 11
2021 1 5 6
47 26 73

PTEGは,73件すべてについてPTEGキット(SBカワスミ株式会社,住友ベークライト株式会社)を用い,RFBの穿刺には超音波画像診断装置LOGIQ S8に穿刺用プローブ(C2-6b-Dプローブ®,GEヘルスケア・ジャパン,2013年11月発売)を用いた.一方のPEGは146例中,9例がBD社製ポンスキーN.B.Rを用いたPULL法で,137例はOlympus社製イディアルボタンまたはBostonScientific社製EndoViveTM Button IIを用いたイントロデューサー変法であった(表2).PULL法とイントロデューサー変法を併せた全PEG症例で経鼻内視鏡を用いて施術した.

表2 当院のPEG件数
目的 PULL法 イントロデューサー変法
減圧 栄養
2016 1 10 11 1 10
2017 1 41 42 6 36
2018 1 24 25 1 24
2019 0 25 25 1 24
2020 0 22 22 0 22
2021 0 21 21 0 21
0 0 146 9 137

調査項目は,それぞれの基礎疾患,目的,合併症の有無と内容,生命予後であるが,PTEGが選択された症例については,基本的にPEGが造設できないことが前提となっているため,その理由についても調査した.PTEGの71例中1例はカテーテルの留置ができなかったため,中長期合併症と予後調査の対象にはならなかった.2群間の比較はPearsonのχ二乗検定で行い,p<0.05で統計学的に有意差ありと判定した.

なお,本研究は当院倫理審査委員会の審査・承認を得て行われた(承認番号11 2021-0030).

結果

PTEGを実施した73件について,その選択理由は,胃切除既往,がん性腹膜炎,腹膜偽粘液腫,胃前面の介在臓器(腸管)が多かった(表3).不成功に終わった1例は,高度な頸椎変形を有する超高齢患者で気道の真裏に食道が存在していた.穿刺目標までの距離が遠く,かろうじてバルーンへの穿刺は出来たがカテーテルの留置には至らなかった.PTEG合併症の頻度としては事故抜去・自己抜去が最も多く,事故抜去後に瘻孔狭小化をきたしたために再穿刺を要した1例を経験した.不良肉芽は3例に発生したが,浸出液や出血を生じた症例はなく,増大傾向が強かった炎症性肉芽の1例にのみ硝酸銀による焼灼を行った.PTEG施行約2週後に嗄声で発症した左反回神経麻痺を1例経験したが,数週後に自然治癒した.PEG後に4.8%の症例で後出血を生じたが,PTEGでは発症しなかった.難治性の消化液漏出・びらん等の皮膚障害はPTEG症例にはみられなかった(表4).PTEG留置に成功した70名の患者の術前血清アルブミンの平均値は2.6±0.6g/dL,総蛋白6.3±0.9g/dL,総コレステロール132.7±37.4mg/dL,総リンパ球数1165.3±470.0,小野寺のprognostic nutrition index(O-PNI)32.0±7.5だった.

表3 PEGではなくPTEGを選択した理由
症例数
胃切除術後 23
がん性腹膜炎(腹水合併含む) 13
腹膜偽粘液腫 10
胃の前面に腸管 9
他臓器がんの胃壁浸潤 4
腹膜透析 2
腹水 3
切除不能胃がん 2
食道裂孔ヘルニア 2
難治性の低アルブミン血症 1
糖尿病+プレドニン中等量投与中 1
イレウス管留置目的 1
71

表4 PTEG,PEG合併症 2016年6月~2021年6月
合併症の種類 発生時期 PEG PTEG p value
横行結腸誤穿刺 造設時 1
気道や動脈の誤穿刺 造設時 0
左反回神経麻痺 造設直後 0 1
後出血 造設直後 7 0 0.057
皮下膿瘍 術後管理中,中長期管理中 2 0 0.32
カテーテルの事故抜去・自己抜去 術後管理中,中長期管理中 5 6 0.13
瘻孔部の不良肉芽 術後管理中,中長期管理中 23 3 0.012
難治性の消化液漏出・びらん等の皮膚障害 術後管理中,中長期管理中 4 0 0.15
嘔吐 術後管理中,中長期管理中 3 0 0.22
合計 45 10
施行数に対する割合(%) 30.8% 13.7%

PTEGを行った症例で生存期間が確定した58例のうち,減圧目的47例の平均生存期間は98.0日(平均年齢58.2歳),栄養目的11例の平均生存期間は261.3日(平均年齢79.9歳)であった(終末期がん患者2例を除く).

一方,PEGを行った症例で生存期間が確定した69例のうち,減圧目的2例の平均生存期間は21.0日(平均年齢70.0歳),栄養目的67例の平均生存期間は301.0日(平均年齢79.0歳)であった.

糖尿病と中等量のステロイド内服という創傷治癒の阻害要因が多い患者に対し,PEGでの胃腹壁離開や瘻孔感染等の危険性を懸念しPTEGを選択したケースがあったが,2年を経過して合併症をきたしていない.治療抵抗性の低アルブミン血症(血清アルブミン値1.6g/dL)を有する90歳台女性に対しても同様にPTEGを施行したが,術後1年経過して瘻孔感染などの合併症はきたしておらず,直近の血清アルブミン値は2.3g/dLだった.70歳台女性の腹膜透析患者は血清アルブミン値1.3g/dLと著しく低値だったが,PTEGから半年経過して合併症はなく直近の血清アルブミン値は1.6g/dLだった.

考察

当院で同時期に実施したPTEGとPEGの合併症を比較検討した.PTEGの適応として,PEGを行えない症例を対象としているため,今回の検討は背景をそろえた客観的な比較研究ではなく,臨床経験の後ろ向き比較検討となった.

PEGで横行結腸誤穿刺を1例経験した.全身状態への影響は無かったものの,PEGでは注意すべき合併症である.PTEGでは穿刺と同側の反回神経麻痺を発症する可能性があるので,穿刺と対側の反回神経麻痺が既に存在している場合のPTEGは禁忌とされている.今回の検討でも穿刺側の反回神経麻痺がPTEG1例で発症しており,上記に対する注意は必須だが,幸い自然治癒した.PEGとPTEGで有意差は認めなかったが,手技の違いからも後出血はPTEGの方が少ないと考えている.PEGの際は皮膚,皮下組織,腹壁,腹腔,胃壁を経由する2–4cm程度の距離を,3点固定であれば胃壁固定に2回×3で計6回の穿刺,さらに仮穿刺,本穿刺を行うので計8回の穿刺と8mm径までのダイレーションを要するが,PTEGでは皮膚から食道内バルーンまでの穿刺距離は0.5–2cm程度と短く3,1回の穿刺と6mm径のダイレーションのみで,手技の際にはリアルタイムに超音波画像で視認しながら穿刺するために誤穿刺や出血といった合併症をきたしにくい.当院で用いた超音波プローブの特徴として,コンベックスプローブの途中まで切れ込みがあり,超音波画像の視野範囲内から穿刺針が出てくる仕組みになっているために,穿刺針先端を皮膚刺入部から目的地点までリアルタイムに視認しながら進めることが出来る.これにより誤穿刺のリスクが少なく安心して手技を行うことが出来た(図1)(図2).

図1.当院で使用している穿刺用プローブ
図2.RFB(Rapture free balloon)拡張中のエコー像

経管栄養ルートのアプローチとしては,経鼻胃管が選択されることが多いが,短期的にも長期的にも合併症が多いため4留置期間により選択には注意が必要である.長期に亘ることが予想される場合にはPEGや,さらにはPTEGも視野に入れた治療計画の立案が求められる.

また,減圧目的の場合にはPTEGがPEGより有利と考えられる要素が多い5.消化管の通過障害により胃の内圧が高まりやすい状態の患者では PEG後に瘻孔から胃液の漏出をきたしやすく,一旦生じると治療に難渋する.PTEGは部の皮膚-食道に瘻孔を形成し,食道内圧が比較的上昇しにくいことや,漏れた場合にも胃酸のような強酸ではないことから,皮膚傷害を起こしにくいと考えられる.難治性消化管閉塞に対するPEGで嘔気や嘔吐が軽減しない例では,胃瘻カテーテルの先端が体の前面側に位置することで穹窿部の減圧が不十分で,PTEGに比較して効果が弱いと考えられた.また,PTEGではカテーテル長が30cmから300cmのイレウス管タイプまで存在することも有利である(表56.長期的に消化管のドレナージを要する患者が対象である場合は,PTEGを施行して経鼻胃管の苦痛や管理上の負担を減らし,病院外で過ごす時間を提供できるため,その意義は大きい.

表5 経鼻胃管,PEG ,PTEGの比較
経鼻胃管 PEG PTEG
瘻孔 なし 食道
瘻孔部消化管のpH 酸性 弱酸性から中性
穿刺距離 2–4cm程
(5cm以上は相対的禁忌)
0.5–2cm程
穿刺針の視認 基本的に出来ない 全例視認
カテーテル径 主に8–12Fr. 主に20–24Fr. 主に14–16Fr.
留置されるカテーテル長 40–60cm 2–5cm ボタン型 30,45,70,90cm
チューブ型 40–50cm
イレウス管型 300cm
減圧効果 高い 不十分なことあり 高い
交換時期 2週間が目安
*4週間以上の留置は勧めない
ボタン型4–6カ月
バルーン型1–2カ月
1–6カ月

一方,胃瘻カテーテルに比べてPTEGカテーテルは,内部バンパーがないことや,腹帯やつなぎ服などで直接触れないようにすることが難しいことから事故抜去や自己抜去が起きやすい可能性があり,本研究でもそれを裏付ける結果となった.

以上,PTEGによる経管栄養や消化管減圧は,比較的安全で安定した管理が可能であり,病院外の生活を目指すために有用であるため7,さらなる普及が望まれる.

PTEGでは難治性漏出による瘻孔形成不全や腹膜炎をきたす懸念が小さく,免疫抑制剤を使用中の患者やPEG適応外と判断された低アルブミン血症患者等に対しても有用な可能性があるが,客観性のある比較評価が困難なため,本研究の限界といえる.

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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