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Online ISSN : 2434-4966
CASE REPORT
Successful management of an ulcerated leg with copper deficiency using a commercial supplement including trace elements: A case report
Minoru YoshidaTomoka MiyagiKazue SumiYuko TanakaJunko SugawaraYuki HidakaDaichi YamadaMinami NaitoHiroshi ArakiToru Yoshida
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2025 Volume 7 Issue 2 Pages 75-81

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Abstract

【はじめに】銅欠乏は重度の場合,血球減少や不可逆的な神経障害を引き起こすが,本邦では銅の薬剤はなく,治療法も確立していないためピュアココアや栄養補助食品等を用いて各施設が試行錯誤している.市販の銅亜鉛含有粒状サプリメントを用いて順調に銅欠乏を補正できたので報告する.

【症例】高度慢性下肢虚血による皮膚潰瘍で入院となった維持透析施行中の80代女性.入院時の採血で血清銅22 μg/dLであり,ピュアココアが開始された.しかし,嗜好や飲水制限により十分量のココアの摂取ができず亜鉛内服も影響し退院直前には血清銅19 μg/dLまで低下した.退院後からネイチャーメイド®マルチミネラルを1日1粒開始し,血清銅は順調に上昇し130日で中止し,下腿潰瘍も改善した.

【結論】銅亜鉛含有粒状サプリメントにより,嗜好や水分制限の問題を回避し銅欠乏を補正可能であった.適応をもつ医療用医薬品がない現状において銅欠乏に対する有用な選択肢になり得る.

注意:本論文は特定の臨床状態での有用性を検討したものであり,ネイチャーメイド®マルチミネラル自体の有用性・無害性を示したものではない.本論文の内容に基づく使用に際しては,指示する医師の責任において行う必要がある.

 はじめに

銅欠乏は,血球減少,免疫不全,創傷治癒遅延を引き起こし,時に不可逆性の神経障害を引き起こすため注意が必要である.銅欠乏のリスクには,消化器外科術後や滲出液が生じる熱傷や創傷,低栄養を合併する透析患者,長期静脈栄養,亜鉛の摂取などがあり1,2),欧州臨床栄養代謝学会の「微量栄養素ガイドライン」は,銅欠乏のリスク患者には,定期的な銅の評価と必要に応じた補充を推奨している3).本邦でも「亜鉛欠乏症の治療指針」により,亜鉛の重要性が認知されたが,亜鉛投与による腸管での銅の吸収阻害による銅欠乏例が散見され,血清亜鉛と共に銅の評価も提案されている4)

しかし,本邦では銅欠乏時に使用できる薬剤は存在せず,経口摂取の場合,ピュアココア,栄養補助食品などを用い各施設が試行錯誤し銅欠乏を治療している1,57).実際に,患者の嗜好,水分制限,費用等の問題などから現場では銅の補充に難渋する例が少なくない.

今回,我々は銅亜鉛含有粒状サプリメントとしてネイチャーメイド®マルチミネラル(1錠あたり銅0.6 mg,亜鉛6 mg,鉄4.0 mg,セレン50 μg,クロム20 μg,カルシウム250 mg,マグネシウム125 mg含有,大塚製薬,栄養機能食品)を使用し,銅欠乏を難渋せずに補正した.この製品を用いた銅欠乏の治療は調べる限りなく,汎用性もあり有用な銅欠乏の治療選択肢となり得るため報告する.

 症例

1. 患者

80代女性.

2. 現病歴

入院3カ月前から左踵部に水疱が出現,入院2カ月前に当院に来院し,踵部の黒色壊死を認めた.慢性重症下肢虚血に対する血行再建と創部の処置を目的に入院となった.

3. 既往歴

慢性腎不全(Stage V),糖尿病,重症下肢虚血.

4. 入院時身体所見

身長 140 cm,体重 38.2 kg,Body Mass Index(以下,BMIと略)19.5 kg/m2

5. 四肢

左踵部に皮膚潰瘍を認めた.Fontaine IV,WIfI分類W3-I1-fI0,潰瘍サイズ3.6 cm × 3.4 cmであった.

6. 足関節上腕血圧比(入院2週間前)

右0.74/左0.79.

 入院後経過

第2病日,左総腸骨動脈の狭窄に対してステント留置と右浅大腿動脈に薬剤コーティングバルーンで拡張を行い,足関節上腕血圧比 右0.96/左1.13と改善を認めたが(図1:下肢の治療経過),皮膚潰瘍は難治性と判断された(図2).第9病日からLDLアフェレーシス(レオカーナ®)を週2回計5回施行し,安定していたため近医外来で継続することになった.第7病日の採血結果(表1),血清銅値は22 μg/dL(基準値68–128 μg/dL),血清亜鉛値は67 μg/dL(基準値80〜130 μg/dL)と欠乏していたため,ピュアココア大さじ1杯/日(大さじ1杯:6 g 銅含有量0.2 mg),ポラプレジンク150 mg/日(亜鉛34 mg)の経口投与が開始された.食事からの摂取はそれぞれエネルギー700–1,200 kcal/日,蛋白質20–40 g/日,銅0.2–0.4 mg/日,亜鉛0.2–0.5 mg/日程度であった.本人の嗜好と水分制限もあり,それ以上ピュアココアの摂取量を増やせなかった.入院以降の血清銅と亜鉛値の推移と銅の補充について図3に示す.退院直前の第23病日の採血(表2)では,血清銅値は19 μg/dLとさらに低下,血清亜鉛値は100 μg/dLに上昇した.銅の補正が困難な状況で不可逆的な神経障害や血球減少のリスクが高く,微量元素チームに相談があった時点で退院日も決まっていたため,外来でフォローを行うことにした.

図1. 足関節上腕血圧比と治療経過

左踵部に皮膚潰瘍を認め,入院前の足関節上腕血圧比 右0.74/左0.79と低く,左総腸骨動脈,右浅大腿動脈に対して血管内治療での血行再建をおこなった.血行再建後,足関節上腕血圧比 右0.96/左1.13と改善を認めた.しかし,皮膚潰瘍は改善傾向を認めず,透析に合わせて週2回LDLアフェレーシスを行い,透析クリニックでも継続し計24回施行した.第50病日,骨髄炎が疑われ抗菌薬の投与と下腿の切断も考慮した.第92病日,皮膚潰瘍は改善傾向であり下腿切断は必要ないと判断した.第120病日,立位が可能,第183病日,感覚障害の改善と歩行が可能となり,第211病日,皮膚潰瘍は改善した.

図2. 黒色壊死除去後の皮膚潰瘍の写真(第15病日)
表1.第7病日の採血所見

血算 血液生化学
WBC 5,100/μL BUN 10.4 mg/dL
Neut 68% Cre 5.7 mg/dL
Lymph 20% UA 5.4 mg/dL
Baso 1% T-Cho 60 mg/dL
Eosino 8% TG 47 mg/dL
Mono 4% LDL 23 mg/dL
Hb 8.1 g/dL Na 134 mEq/L
Hct 27% K 4.1 mEq/L
Plt 13.4 × 104/μL Cl 99 mEq/L
血液生化学 Ca 8.3 mg/dL
TP 5.1 g/dL Mg 2.0 mg/dL
Alb 2.3 g/dL P 3.2 mg/dL
Pre-Alb 8.6 mg/dL CRP 0.6 mg/dL
T-Bil 0.1 mg/dL 22 μg/dL
AST 116 IU/L 亜鉛 67μg/dL
ALT 67 IU/L 29 μg/dL
CK 16 IU/L TIBC 127 μg/dL
LDH 218 IU/L フェリチン 613 ng/mL
γ-GTP 7 IU/L GA 26.8%

Cre;クレアチニン,GA;グルコアルブミン

図3. 主な血液検査値の推移と銅と亜鉛の補充経過

第7病日の採血結果は血清銅値22 μg/dL,血清亜鉛値67 μg/dLであり,ピュアココア大さじ1杯/日,ポラプレジンク150 mg/日の経口投与を開始した.本人の嗜好と水分制限もあり,ピュアココアを増量できなかった.退院直前の第23病日の採血で,血清銅値は19 μg/dLとさらに低下,血清亜鉛値は100 μg/dLに上昇し,他に補充の選択肢がなく合併症のリスクが高いと考え,銅亜鉛含有粒状サプリメントを退院後から1日1粒摂取を開始し,ポラプレジンクを中止した.退院2日目後から食事摂取は良好であり,サプリメントは1粒/日で摂取できていた.その後,順調に血清銅値は上昇し,第158病日,血清銅値は97 μg/dLまで上昇したため,銅亜鉛含有粒状サプリメントの投与を中止した.

表2.第23病日の採血所見

血算 血液生化学
WBC 5,300/μL UA 6.2 mg/dL
Hb 9.4 g/dL LDL 28.5 mg/dL
Hct 31% Na 136 mEq/L
Plt 12.6 × 104/μL K 3.6 mEq/L
血液生化学 Cl 104 mEq/L
TP 5.5 g/dL Ca 7.5 mg/dL
Alb 2.4 g/dL Mg 3.0 mg/dL
AST 10 IU/L P 3.0 mg/dL
ALT 10 IU/L CRP 0.4 mg/dL
BUN 35.9 mg/dL 19 μg/dL
Cre 5.2 mg/dL 亜鉛 100 μg/dL

Cre;クレアチニン

 退院後の経過

銅亜鉛含有粒状サプリメントを退院後から1日1粒(銅0.6 mg,亜鉛6 mg含有)摂取を開始し,ポラプレジンクを中止した.微量元素チームは電話で食事やサプリメントの摂取状況を確認し,外来受診に合わせて採血を行って経過観察した.退院2日目後から食事摂取は良好であり,エネルギー1,200–1,600 kcal/日程度,蛋白質40–50 g/日程度,サプリメント1粒/日を摂取できていた.退院時の体重は入院時から1.4 kg減少したが,退院後のドライウェイトは36.7–36.8 kgで経過中に変化はなかった.一方,食事摂取量の改善に伴い血清アルブミン値の上昇を認めた(図4).第50病日,MRI所見から骨髄炎が疑われたため(図5),抗菌薬が投与され(W3-I0-fl2 Clinical stage 4),さらに下腿の切断も検討された(図6).第78病日,血清銅値(85 μg/dL)は上昇し基準値範囲内になった.第92病日,皮膚潰瘍は改善傾向であり下腿切断を中止,第93病日,LDLアフェレーシスを計24回で終了した.第120病日,痛みがなくなり立位が可能となった.第158病日,血清銅値は97 μg/dLまで上昇したため,銅亜鉛含有粒状サプリメントの投与を中止した.なお,サプリメントには銅や亜鉛以外にもマグネシウムや鉄も含有しているが,経過中に,血清マグネシウム値の異常やフェリチン値の上昇はなかった(図4).第183病日,自覚症状として感覚障害の改善と歩行が可能となり(図7),第211病日,皮膚潰瘍は改善した.

図4. 血清アルブミン,フェリチン,マグネシウム値の推移

退院後から血清アルブミン値は上昇した.銅亜鉛含有粒状サプリメントの服用による副作用を評価したが,血清マグネシウム値の異常やフェリチン値の上昇はなかった.

図5. 踵部のMRI脂肪抑制画像(第40病日)

踵骨に高信号域を認める.

図6. 切断が検討された時の踵部の写真(第50病日)
図7. 改善傾向の踵部の写真(第183病日)

 考察

皮膚潰瘍と低栄養を合併する維持透析患者の銅欠乏症に対して,ピュアココアを投与したが十分量を摂取できず,銅欠乏が進行した.銅亜鉛含有粒状サプリメントの経口摂取を開始し,大きな問題はなく,血清銅値と皮膚潰瘍の改善を得た.

銅亜鉛含有粒状サプリメントにより嗜好や水分制限などの問題を回避でき,血清銅値は改善した.腸での銅の吸収不良がなければ銅の補充は経腸投与が第一選択となるが3),本邦では銅の内服薬はない.その際の選択肢はピュアココアが多く1,8,9),その他,銅含有が多い濃厚流動8)や経腸栄養剤6,7),栄養補助食品5,6),外国製サプリメント1),独自の硫酸銅1)などを用いて施設ごとに試行錯誤している(表3:主な銅の補充選択肢と銅と亜鉛の含有量).今回の銅亜鉛含有粒状サプリメントは,通常の薬と同様に経口摂取できるため,アドヒアランスを維持しやすいと考えられる.この銅亜鉛含有粒状サプリメントには銅 0.6 mg,亜鉛 6.0 mgが含まれており,ピュアココア大さじ約3杯分(18 g)に相当する.ピュアココアは経管栄養施行中の銅欠乏例で有効とされるが9),報告されている10–45 g/日のピュアココアを毎日経口摂取することは嗜好によっては難しい.本症例は,糖尿病を合併し維持透析中であり,砂糖を追加しにくく,水分制限も必要なため大さじ1杯に対して少なくとも100–150 mL程度の水分量が必要であるピュアココアの十分量の経口摂取が難しかった.栄養補助食品の選択肢もあるが,銅 0.6 mg程度を栄養補助食品で摂取した場合,各社公式のオンライン販売価格は130円/日以上のものが多く経済的な負担により継続が難しい場合も経験する.今回使用した銅亜鉛含有粒状サプリメントは1日1粒で23円/日(希望小売価格1,150円/50日分)であり10),継続しやすい価格である.外国製サプリメントと違い,ドラッグストア等で簡単に手に入る点も使いやすい.一方で,高齢者や慢性炎症,腎不全を有する症例では,銅以外の鉄,マグネシウム等も含まれており,投与の際は過剰症には注意が必要である.本症例では,採血での評価を行ったが血清フェリチン値の上昇や血清マグネシウム値の異常高値は見られなかった.また,他の薬剤と比べると大きく(18.9 mm × 8.4 mm)飲みにくい可能性がある10)

表3.銅の補充選択肢と亜鉛・銅の含有量

食品,経腸栄養剤 亜鉛(mg) 銅(mg) 亜鉛/銅
ネイチャーメイド®マルチミネラル 6.0 0.6 10.0
ピュアココア(大さじ1杯6 g) 0.4 0.2 2.0
一挙千菜ドリンク(125 mL) 11 0.7 15.7
エネーボ®配合経腸用液(250 mL) 4.5 0.5 9.0
エンシュア・リキット®(250 mL) 3.8 0.3 12.7
アルジネード®(125 mL) 10 1 10.0
テゾン®(125 mL) 4 0.3 13.3

本症例は,血清銅値の低下による重篤な合併症の予防と皮膚潰瘍の改善の観点から,銅を追加で補充する必要があると判断した.血清銅値の上昇と食事摂取量の増加後から,皮膚潰瘍の改善を認め,歩行も可能となった.栄養状態と銅欠乏の改善が結合組織の成熟や重篤な合併症の予防に影響していたかもしれない.銅は鉄代謝,結合組織の成熟,免疫,神経伝達物質に関与しており,欠乏すると免疫機能低下,創傷治癒遅延等が生じることがある2).重症な場合は,血球異常や不可逆性の神経障害をきたす11).銅欠乏による血球異常が出現した際の血清銅値の中央値は23 μg/dL12)や不可逆性の神経障害が生じた際の血清銅値は検出不能から45 μg/dLであったとする報告がある11).そのため,症状がない場合でも重症化する可能性があるため銅欠乏のリスクがある患者では定期的な銅の測定が推奨されている3).本症例の銅欠乏のリスクは,低栄養(Global Leadership Initiative on Malnutrition基準の低BMI 19.4 kg/m2,1週間以上の食事摂取不良,維持透析に該当)と皮膚潰瘍からの滲出液による喪失,亜鉛の内服が考えられた2,3).特に,維持透析患者では,血清亜鉛値と銅値は逆相関し,亜鉛投与時には銅欠乏に注意が必要であり,月ごとの両者の測定を提案する報告もある13)

 結論

銅を経口で補充する場合,嗜好や水分制限等を考慮する必要があるが,今回用いた銅亜鉛含有粒状サプリメントはこれらの点について問題となりにくく,銅欠乏を補正する選択肢になり得る.銅欠乏を合併する創傷治癒遅延例では,銅の補充が創傷治癒の改善にも寄与する可能性があるので,これにとどまらず銅欠乏に対して適応をもつ医療用医薬品が薬事承認・保険収載されることが望まれる.

注意:本論文は特定の臨床状態での有用性を検討したものであり,ネイチャーメイド®マルチミネラル自体の有用性・無害性を示したものではない.本論文の内容に基づく使用に際しては,指示する医師の責任において行う必要がある.

 

症例報告に関して,患者本人に書面での同意を得た.また,「症例報告を含む医学論文及び学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」を遵守している.

 

倫理的事項:本症例への対応時に横須賀市立うわまち病院には市販のサプリメントの服用指示に関して病院として必要な手続きや許可を行うシステムはなかった.同院倫理委員会への申請を考えたが,倫理委員会委員長から取り扱わない旨の見解を得た.この状況を補う目的で,栄養療法を専門とする多職種(医師,管理栄養士,薬剤師,看護師:全ての職種で最低一人は日本栄養治療学会認定医もしくはNST専門療法士を取得済み)で構成された院内微量元素チームのカンファレンスで患者が受診するたびに,本症例への銅亜鉛含有粒状サプリメントの投与と継続の必要性を議論・検討した.その内容を診療録に残した上で,服用を指示した.また,かかりつけの近医にも銅欠乏に対して,サプリメントの服用を指示している旨を情報提供した.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
© 2025 Japanese Society for Parenteral and Enteral Nutrition Therapy
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