2025 Volume 7 Issue 2 Pages 95-100
【目的】在宅医療の介護者負担の一つに,特殊な形態の食事調理がある.我々は物性等調整食や栄養素等調整食を自施設で調理,販売しておりその有用性や今後の展望について考察する.【方法】2019年2月~2024年6月の期間に,当院で販売する介護食「ラポール」を利用した患者を対象とし,栄養指導記録から患者背景,販売数,継続利用率,購入動機,利用後の感想を調査した.【結果】対象は45名で年齢の中央値[interquartile range(IQR)]は18歳未満が7名(14[13,15]歳,男児1名,女児6名),18歳以上が38名(86.5[80,91]歳,男性21名,女性17名)だった.販売数は470件で,2回以上の継続利用は18歳未満100%,18歳以上34.2%であった.購入動機は「嚥下調整食の調理負担」,「試験外泊時の食事提供のため」が挙げられ,「病院食と同様の食事が在宅で利用でき安心」などの好意的な意見があった.【結語】介護食「ラポール」は在宅医療における新たな食支援の形として有用な可能性がある.
介護保険制度における要介護,要支援の認定者は年々増加しており,その54.4%が在宅介護を実施されている1).在宅介護における介護者の主な負担としては,認知症状への対応,排泄ケア,入浴,食事準備,食介助などがあり,さらには近年の老老介護の増加2)や,働く世代の介護従事といった問題も複雑に関与している3).中でも食事準備には食材の選定,特殊な食事形態の調理などの工程が含まれ介護者の負担が特に大きく,実際に約4割の介護者が食事に対する悩みを抱えていると報告がある4).また不適切な食事提供は療養者の栄養状態悪化にも強く関連するため5),居宅療養者や介助者を支援する包括的な栄養施策の拡充が求められている6).こうした背景の中,我々は摂食嚥下機能が低下している患者の在宅療養時の食支援を目的とし,2019年より自施設内で調理,梱包された介護食「ラポール」の販売を開始した.その概要を解説するとともに,利用者の調査を行い,介護食販売の有用性や今後の展望について考察する.
調査対象は,2019年2月~2024年6月に,当院で販売する介護食「ラポール」を利用した患者とした.調査方法は,診療録上の栄養指導記録から年齢,性別,身長,体重,Body mass index(以下,BMIと略),ローレル指数・カウプ指数,要介護,要支援となった基礎疾患,要介護度,主介護者,介護食「ラポール」の紹介元,販売数,継続利用率,購入動機および利用後の感想を後方視的に調査した.なお継続利用は2回以上の購入があったものと定義した.
本調査は,竹田綜合病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2023-186E).
1. 介護食「ラポール」の概要開発部門ラポールは地域包括ケアシステムの一環で,食を通じて医療と在宅の架け橋となるような商品を開発,販売する部門として設立され,2019年に一般財団法人竹田健康財団を母体とした屋号を取得した.主な販売商品は硬さ,付着性,凝集性などに配慮した「物性等調整食」や,エネルギー量,蛋白質量,食塩相当量を調整した「栄養素等調整食」である.「物性等調整食」は摂食嚥下調整食分類20217)における摂食嚥下区分コード2-2(ピューレ・ペースト・ミキサー食)およびコード3(形はあるが,押しつぶしが容易)をラインナップとして揃え,「栄養素等調整食」には中鎖脂肪酸オイル(1品に対し主菜に16 g,副菜に12 g)やプロテイン(1品に対し主菜に8 g,副菜に6 g)を添加している.献立は主食,主菜,副菜で約300種類以上のバリエーションがあり,アレルギー除去食にも対応している.賞味期限は未開封の場合は冷凍保存で3カ月,開封後は冷凍保存で1カ月以内とし,10種類の商品の組み合わせを1セット(4~5食分)とし,2,000円~2,500円で販売している(図1,2).


実際の介護食「ラポール」購入のプロセスを図3に示す.対象は摂食嚥下障害を有する当院利用患者や関連施設利用者で,管理栄養士が患者の栄養状態評価に加え,多職種による摂食嚥下機能の評価を確認し,栄養指導時に個人の摂食嚥下機能に応じた食事を紹介する.その後,購入希望者は管理栄養士と相談の上,商品を選択する.病院調理師は注文の受注後から調理を開始し,梱包,冷凍保存した商品を払い出すという流れになっている.商品はいずれも完全調理済みであるため介護者は食事前に湯煎や電子レンジで温めるだけで良い.なお介護食「ラポール」の調理は全て当院の給食部門で行なっており,ニュークックチルのシステムを採用している8).また調理に使用する食材は,主に予定入院患者用の予備食を利用した.

対象は45名(男22名,女23名)で18歳未満(以下,小児)が7名,18歳以上(以下,成人)38名だった.年齢の中央値(interquartile range[以下,IQRと略])は小児で14[13,15]歳,成人で86.5[80,91]歳であり,小児3名,成人1名の計4名(8.8%)にアレルギー食対応が必要であった.主なアレルギー内容は成人で青魚,小児で卵,バナナ,ソバ,ナッツ,エビ,イカであった.小児患者の基礎疾患は脳性麻痺が3名(42.9%),神経筋疾患2名(28.6%)と多く,全員が重症心身障害児かつ医療的ケア児であった.また小児患者の5名(71.4%)がローレル指数 < 115またはカウプ指数 < 15の「やせすぎ」または「やせぎみ」に該当していた(表1).成人患者の基礎疾患は認知症,脳血管疾患がそれぞれ11名(28.9%)と多く,次いで神経変性疾患5名(13.2%)であり,27名(71.1%)が要介護3以上の認定を受けていた.BMIの中央値[IQR]は18.6[16.5,20.8]kg/m2であり,16名(42.1%)の患者がBMI 18.5 kg/m2未満の「低体重」であった.成人患者では主介護者は子が22名(57.9%)と最も多く,次いで配偶者が14名(36.8%)であった(表2).
| 18歳未満 n = 7 |
|
|---|---|
| 年齢,中央値[IQR] | 14[13,15] |
| 性別,n(%) | |
| 男児 | 1(14.3) |
| 女児 | 6(85.7) |
| 身長(cm),中央値[IQR] | 138.0[129.5,140.5] |
| 体重(kg),中央値[IQR] | 20.5[19.4,26.8] |
| ローレル指数(kg/m3),中央値[IQR],n(人) | 94.3[75.5,113] |
| カウプ指数(kg/m2),n(人) | 10.4(1) |
| 食物アレルギー | 3(42.9) |
| 疾患,n(%) | |
| 脳性麻痺 | 3(42.9) |
| 神経筋疾患 | 2(28.6) |
| てんかん | 1(14.3) |
| 染色体異常症候群 | 1(14.3) |
| 主介護者,n(%) | |
| 親 | 7(100) |
| 紹介元 | |
| 病院 | ― |
| 栄養ケアステーション | 7(100) |
| 18歳以上 n = 38 |
|
|---|---|
| 年齢,中央値[IQR] | 86.5[80,91] |
| 性別,n(%) | |
| 男性 | 21(55.3) |
| 女性 | 17(44.7) |
| 身長(cm),中央値[IQR] | 154[144,160] |
| 体重(kg),中央値[IQR] | 41.5[36.3,51.1] |
| BMI(kg/m2),中央値[IQR] | 18.6[16.5,20.8] |
| 食物アレルギー | 1(2.6) |
| 疾患,n(%) | |
| 認知症 | 11(28.9) |
| 脳血管疾患 | 11(28.9) |
| 神経変性疾患 | 5(13.2) |
| 脳腫瘍 | 4(10.5) |
| 精神疾患 | 2(5.3) |
| 脳性麻痺 | 1(2.6) |
| 筋疾患 | 1(2.6) |
| その他 | 3(7.9) |
| 要介護度,n(%) | |
| 自立 | 3(7.9) |
| 要介護1 | 2(5.3) |
| 要介護2 | 5(13.2) |
| 要介護3 | 6(15.8) |
| 要介護4 | 12(31.6) |
| 要介護5 | 9(23.7) |
| 未申請 | 1(2.6) |
| 主介護者,n(%) | |
| 子 | 22(57.9) |
| 配偶者 | 14(36.8) |
| 親 | 1(2.6) |
| 孫 | 1(2.6) |
| 紹介元 | |
| 病院 | 32(84.2) |
| 栄養ケアステーション | 6(15.8) |
調査期間中の介護食「ラポール」販売数は470件(小児:252件,成人218件)で,物性等調整食の販売数が小児,成人ともに多かった.中鎖脂肪酸オイルやプロテインパウダーを添加した栄養素等調整食の販売は37件であったが,その内35件(94.6%)が小児患者で利用されていた.主食粥,粥ゼリーは成人患者にのみ販売されていた.継続利用者は20名(44.4%)で,特に小児患者では全員(100%)が介護食「ラポール」を複数回利用し,利用回数も9[4.5,22.5]回と多かった(表3).
| 18歳未満 n = 7 |
18歳以上 n = 38 |
|
|---|---|---|
| 販売件数 | 252 | 218 |
| 販売内訳 | ||
| 物性等調整食 | 217 | 204 |
| 栄養素等調整食 | 35 | 2 |
| 主食粥のみ | ― | 2 |
| 主食粥ゼリーのみ | ― | 10 |
| 継続利用者,n(%) | 7(100) | 13(34.2) |
| 継続利用回数,median[IQR] | 9[4.5,22.5] | 4[1.0,6.0] |
介護食「ラポール」の利用動機は「普段慣れない嚥下調整食や粥ゼリー調理に対する不安や調理負担の軽減」,「在宅療養を見据えた試験外泊時の食事提供の練習」,「市販品より安価」などで,介護食「ラポール」利用後の感想は「一食分が小分けに梱包され利便性が良い」や「入院,通院先の病院食と同様の食事を在宅で利用でき安心感がある」などの好意的な意見がみられた(表4).
| 〈ラポールの利用動機〉 |
| ・嚥下調整食や粥ゼリーの調理に対する不安や調理負担の軽減 |
| ・少量でも効率よく栄養価の高いものを与えたい |
| ・食物アレルギーなど個人に合わせて対応してもらえる |
| ・市販品よりも安価で購入しやすい |
| ・在宅療養時を見据えた試験外泊時の食事提供の練習 |
| 〈ラポール利用後の感想〉 |
| ・小分けに梱包されており利便性が良い |
| ・実際に試食をすることで「硬さ」「付着性」「凝集性」を確認でき以降自分で調理する際の参考になった |
| ・病院食と同様の食事を在宅で利用でき安心感がある |
| ・ラポールを利用することで時間に余裕ができ介護の負担が軽減された |
| ・ニンニク風味の強い食事は,食後の口臭が少し気になる |
本研究では,当院で実施している在宅療養患者に対する介護食販売の実態を調査し,その有用性を検討した.摂食嚥下機能が低下した患者に対し,病院内で調理した物性等調整食や栄養素等調整食を販売することは,介護負担の軽減や介護者の安心感に寄与していた.また小児患者では継続利用率が100%で,在宅で複数の医療的ケアを要する患児に対し介護食「ラポール」を用いた食支援を行うことは,満足度が高いことが伺われた.
介護食「ラポール」の購入動機では不慣れな介護食調理の難しさや調理負担を理由とする意見が多く,介護食特有の「硬さ」,「付着性」,「凝集性」に配慮した食事準備が問題になっていた.これは過去の全国調査3,9)でも同様で,介護者は「食事準備」や「食事形態」の悩みを抱え,また嚥下障害に関する悩みも非常に多いと報告がある.一方で介護食「ラポール」は専門の病院調理師により患者個々の摂食嚥下機能に配慮した食事がすでに調理,小分けに梱包されており,介護者は退院日や外来受診の予定に合わせて商品を受け取り,提供前に再加熱するだけで食事準備が完了するため個別性と利便性に優れている.また過去の調査では市販のレトルト食品を利用した介護食一食分の費用は600~1,000円 + 主食代と非常に高価だが,介護食「ラポール」は一食あたり400円程度である10).市販品と比較し比較的低価格で購入できることも,在宅医療における経済的負担を減じ,介護食「ラポール」を購入しやすい理由の一つであると推測される.
次に介護食「ラポール」の継続利用率は小児患者が100%で継続回数も9[4.5,22.5]回と多かった.実際に重症心身障害児や医療的ケア児に必要な介護内容は多岐にわたり,介護者がある程度,在宅医療に習熟した後も栄養管理に関しては,患児の病態の複雑性ゆえに難渋することが多い11).そのため介護食「ラポール」が個々の患児の栄養状態や摂食嚥下機能に配慮し,かつ通院先の管理栄養士,調理師によって監修,調理されたオーダーメイドの食事であるという点は,大きな安心感を生み小児患者における高い継続利用率につながったと考える.なお成人の継続利用率は34.2%と小児と比較し低かったが,これは対象者の年齢[IQR]が86.5[80,91]歳と高齢であることからも,基礎疾患の増悪による経口摂取困難,他施設への入所,死亡などが要因の一部として考えられた.
最後に介護食「ラポール」の販売数であるが,年間約90件程度の販売がある.外来栄養指導を実施している在宅療養患者の数を考慮すると,現状の販売数はさほど多くないが,介護食「ラポール」は作り置きをせず注文を受けて調理を開始するため商品が廃棄とならず,また現在までの一日当たりの注文数は多くなく,病院に確保されている予備の食材を調理に利用できたため,食材追加購入の必要がなかった.これは近年のSustainable Development Goals(SDGs)の概念にも通じ12),フードロスの削減にもつながった.またラポールの活動は営利目的ではないが,年間約10万円程度の収益があり,病院経営にもわずかであるが貢献を果たしている.現時点ではラポールの利用可能者は当院の患者に限定しているが,今後は他の医療機関や施設にも情報提供を行い,より多くの患者に介護食「ラポール」を用いた食支援ができる体制を確立していきたい.
我々独自の取り組みである介護食「ラポール」販売の有用性を考察した.在宅介護における食支援の重要性は大きく,介護食「ラポール」は介護負担を軽減するとともに介護者の食に対する安心感に貢献していた.今後も在宅介護における栄養サポート体制を充実させ,地域の医療に貢献していきたい.
本研究に関連し,遠藤美織および丸山聖子は,介護食「ラポール」を提供する竹田綜合病院に所属し,本研究で検討した介護食の製造・販売に関与している.また,産本陽平は現在,筑波大学附属病院に所属し,本研究に対して学術的助言を行った.本研究は独立した学術的検討として実施され,特定の企業や団体からの資金提供は受けていない.