1987 年 64 巻 1 号 p. 37-50
T. S. Eliotが、あらゆる意味で断絶している現代世界をリアルに描こうとすると、作品の連続した流れを故意に分離し、内容も形式も意識して断片的なものにしなければならなかった。断絶の裂け目をとびこえる飛躍感を計算に入れた作品づくりをめざしたといっても過言ではない。しかし、そうはいっても、彼にとって、きれぎれの挿話や語句、さらに古典からの引用文やそのパロディなどに関連をもたせながら、はたして有機的な統一作品を生みだせるかどうかというのが、The Waste Land (1922)の構想をたてたときからの、最大の問題であったと思われる。そこで、Eliotは、詩全体を結びつける一つの方法として、Tiresiasという予言者を登場させた。彼は詩の内容をすペてみるという意味で重要な人物である。そのため、Eliotは、Tiresiasの登場するタイピスト挿話に、細心の注意をはらっている。この挿話は、すペての挿話のなかで一番長く、とくに種々の技巧が凝らされており、形式上の工夫としては卓絶した場面といってもよい。本稿では、The Waste Land全体の言語表現に注目しながら、215行目から256行目にいたる部分(このテクストは本稿の最後に収録)に焦点をあてて、内容と形式の問題を考えてみることにする。