The Journal of Engaged Pedagogy
Online ISSN : 2436-780X
Print ISSN : 1349-0206
A Study of Postural Assistance and Timing Relationships between Tasks for Target Children by Trainers in Dousahou
Toward the acquisition of a stable sitting posture on the floor by children with severe multiple disabilities
Ken Fujisawa
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2025 Volume 24 Issue 1 Pages 71-88

Details
Abstract

本研究では動作法による14回の学習を通して膝立ち位や立位において,支援者が重度重複障害児にどのような姿勢補助を動的に継続させ,姿勢を主とした動作改善につなげ,少ない補助での対象児の安定したあぐら座位獲得に繋げていったのかを支援者の視点で分析することを目的とした。その結果,立位や膝立ち位において支援者が尻や腰の補助のない姿勢補助ができるようになると,児童は両脚や両足裏で十分に踏みしめることが可能になり,あぐら座位では胸の屈がとれ,両尻で踏みしめることが可能になり,腰や上体,頭部にも抗重力方向の力が加わり,姿勢改善に繋がった。支援者の姿勢補助を移行させる知見から支援者の児童を支えることの習熟過程が明確になり,支援者の今後の技法向上の一助となった。

Translated Abstract

The purpose of this study was to analyze, from the trainer's perspective, how the trainer assisted the subject children in kneeling and standing postures through 14 “Dosaho” lessons, resulting in improved posture-centered movements with less assistance and acquisition of stable sitting and seiza postures. As a result, in the standing and kneeling posture, the patient was able to fully step on both legs and soles of both feet with the trainer's assistance without assistance to the hips and back, and in the upright sitting posture, the patient was able to flex the chest, step on both hips, and apply anti-gravity to the waist, upper body and head, which improved the posture. This led to improved posture. This led to improved posture. Knowing the transformation of postural support by the trainer clarified the process of learning to support the child by the trainer and helped the trainer to improve his/her skills in the future.

動作法における対象児への支援者の姿勢補助及び課題間の時期的関連性に関する研究

-重度重複障害児の安定したあぐら座位獲得を目指して-

A Study of Postural Assistance and Timing Relationships between Tasks for Target Children by Trainers in Dousa-hou:Toward the acquisition of a stable sitting posture on the floor by children with severe multiple disabilities

藤澤 憲(大阪成蹊大学:現所属)

(和歌山県立紀伊コスモス支援学校:研究時所属)

Ken Fujisawa

Current affiliation:Osaka Seikei University

Affiliation at the time of research:Wakayama Prefectural Kii Kosmos Special Support School

抄 録

本研究では動作法による14回の学習を通して膝立ち位や立位において,支援者が重度重複障害児にどのような姿勢補助を動的に継続させ,姿勢を主とした動作改善につなげ,少ない補助での対象児の安定したあぐら座位獲得に繋げていったのかを支援者の視点で分析することを目的とした。その結果,立位や膝立ち位において支援者が尻や腰の補助のない姿勢補助ができるようになると,児童は両脚や両足裏で十分に踏みしめることが可能になり,あぐら座位では胸の屈がとれ,両尻で踏みしめることが可能になり,腰や上体,頭部にも抗重力方向の力が加わり,姿勢改善に繋がった。支援者の姿勢補助を移行させる知見から支援者の児童を支えることの習熟過程が明確になり,支援者の今後の技法向上の一助となった。

キーワード:姿勢補助パターンの移行,動作法,あぐら座位の獲得,

課題間の時期的関連性,重度重複障害児

Abstract

The purpose of this study was to analyze, from the trainer's perspective, how the trainer assisted the subject children in kneeling and standing postures through 14 “Dosaho” lessons, resulting in improved posture-centered movements with less assistance and acquisition of stable sitting and seiza postures. As a result, in the standing and kneeling posture, the patient was able to fully step on both legs and soles of both feet with the trainer's assistance without assistance to the hips and back, and in the upright sitting posture, the patient was able to flex the chest, step on both hips, and apply anti-gravity to the waist, upper body and head, which improved the posture. This led to improved posture. This led to improved posture. Knowing the transformation of postural support by the trainer clarified the process of learning to support the child by the trainer and helped the trainer to improve his/her skills in the future.

Keywords : transition of postural assistance patterns,Dousa-hou

acquisition of the sitting cross-legged position,timing relationships between tasks,

children with severe multiple disabilities

Ⅰ.問題と目的

 動作法は,脳性まひ児を中心とした肢体不自由児の動作困難の改善を目指し,「動作」という心理学的概念を基礎として,成瀬(1973)が開発した理論及び技法である。成瀬(1986)は,脳性まひ児の動作困難はこの努力の仕方の不適切さに起因すると述べ,動作法は,「意図通りの身体運動を実現する努力過程である『動作』を通じて主体者に働きかけ,自体に自己操作を含む自己全体のより適切な活動を促そうとする援助活動」であると定義した。 動作法は,現在では肢体不自由児(者)をはじめ障害児(者)の発達援助だけでなく,精神病・神経症の治療,健常者や高齢者の健康法として教育・医療等の諸分野でその有用性が認められるようになっている。

 動作法は,生きた人間の意志や活動に働きかけていくところに基本的特徴があり(成瀬,1986),支援者と対象者が互いの身体に直接触れ,両者の動作を使って学習を行い,支援者と対象者の間に動作によるコミュニケーションが交わされることになる(山内,1992)。つまり,支援者が対象者の体に働きかけると同時に心にも働きかけており,この動作コミュニケーションを展開させるためには,支援者の働きかけに対象者が応答しているか,言い換えると,対象者が支援者に対して関わりをもとうとしているか,という支援者の視点が必要となると考えられる。

 これまで動作法における対象者の姿勢に着目した研究として,小柳津・森﨑(2015)は重度重複障害児を対象に1年間の主な動作課題と変化について述べている。具体的には,支援者に補助されての立位において,対象児が上体を起こすことができたことや,あぐら座位において,対象児が手の支えなしで背中を伸ばして安定したあぐら座位を保持できたことが報告されている。また,藤澤(2020)は,肢体不自由者の自力でのあぐら座位獲得を目指してあぐら座位・膝立ち位・立位との動作変容の関連性の重要性について示唆している。これらの先行研究では,一定期間における対象者の姿勢による主な動作変容は述べられているが,一つ一つの細かな学習経過において支援者がどのように対象者への支援(支える際の補助など)を継続し,動作改善に繋げていったのかまでは述べられていない。また,これまで支援者が対象者のからだを支える補助を動的に移行させて,他の動作課題との関連性まで分析した研究はあまり見当たらない。このような研究があまり見当たらない考えられる要因のひとつとして,例えば自力でのあぐら座位が困難な重度の対象者の場合,支援者は対象者を支えるより高度な技法が求められ,学習における課題性も高まることが考えられる。安好(1997)は,重度の対象者のからだを支えることの難しさに言及しており,対象者の発達上位姿勢である膝立ち位や立位では,からだを支えることに危険が生じることも予想される。このような状況を打破していくためにも,支援者が対象者のからだを支える補助を動的に移行させて,他の動作課題との関連性を分析することにより,支援者の補助の習熟過程や補助の工夫等が今よりも明確になり,動作法活用の一助になるのではないかと考えられる。

 そこで本研究では膝立ち位や立位において,支援者が対象児に対してどのように姿勢補助を変化させながら,主に姿勢への動作改善につなげ,少ない補助での対象者の安定したあぐら座位獲得に繋げていったのかを支援者の視点で分析することを目的とした。

Ⅱ.方 法

1.対象児と支援者

 対象児(以下,児童)はA県B特別支援学校小学部4年に在籍する10歳の重度の運動障害と知的障害のある重度重複障害児である。20XY年7月当初の児童の身体面の特徴として,あぐら座位では,躯幹及び肩が屈となって頭部が前屈する。また,左手が床につくと上体が左へ傾き,体重が左尻にのる。両肩を補助したあぐら座位では,体重が右尻にのり,顔を正面に向けて保持することが困難であり,補助を外すと,上体が前方に倒れてしまう。膝立ち位では,自力の保持は困難である。側方から両腕,尻,膝を補助した膝立ち位では,躯幹及び肩が屈となって頭部は前屈し,左腰が引け,体重が左脚にのり,尻の補助を外すと腰がストンと落ちてしまう。立位では,自力の保持は困難であり,児童の後方から両脇,腰,足首を補助した立位では,頭部がかなり前屈し,腰に力が入らず,両膝が屈がる。その際に児童の両足首は外転し,外反足になり体重が左脚にのり,腰の補助を外すとさらに膝が屈がり,腰が落ちてしまう。

生活面では,暑さに弱いため,体温調節がスムーズにいかず,特に夏場には水分補給を十分に行うように留意している。他者の声かけ等に「あい」と応えることがあり,何かをしてほしい時には,床をトントンと叩くことがある。絵本の読み聞かせや音楽を聴くことが好きである。遠城寺式・乳幼児分析的発達検査では,移動運動:7か月,手の運動:6か月,基本的生活習慣:8か月,対人関係:6か月,発語5か月,言語理解:7か月である(20XY年7月実施)。支援者は,動作法の実践経験のある筆者(特別支援学校での勤務経験23年で動作法実践経験が16年)であった。

2.学習期間・場所

20XY年7下旬に,A県B特別支援学校において,動作法による学習支援である「心理リハビリテイションキャンプ」における計14回の学習が実施された。毎回学習指導場面はセラピーマット(縦2.7m×2.7m)が設置された空間内で,前方と側方の二方向のビデオ録画により,資料が収集され,1回の実施時間は約60分であった。

3.動作法による学習支援

 支援者が児童の両肩を補助したあぐら座位では,児童の体重が右尻にのり,顔を正面に向けて保持することが困難であった。支援者が側方から児童の両腕,尻,膝を補助した膝立ち位では,児童の躯幹及び肩が屈となって頭部は前屈し,左腰が引け,体重が左脚にのり,尻の補助を外すと腰がストンと落ちてしまった。支援者が後方から児童の両脇,腰,足首を補助した立位では,児童の頭部がかなり前屈し,腰に力が入らず,両膝が屈がってしまう特徴があった。これら三つの姿勢では,両尻や両脚,両足裏で十分に踏みしめ,抗重力姿勢を保つことに課題があったため,主に文部科学省(2018)の自立活動の「身体の動き」の区分に視点を当てた「あぐら座位姿勢保持(図2参照)」,「膝立ち位姿勢保持(図3参照)」,「立位姿勢保持(図4参照)」の三課題を行い,各々の学習のねらいと手立てを表1に示した。なお,三課題のイメージ図を図1に示した。

 学習支援では,児童の姿勢の実態や,三課題の学習のねらい等に鑑み,最終的に児童があぐら座位において少ない支援(補助)で,抗重力姿勢を保つことを重要視した。そのため,まず児童が両脚や両足裏で十分に踏みしめることができるように,発達上位課題である「立位姿勢保持」,「膝立ち位姿勢保持」をそれぞれ複数回実施した。これら二つの課題において回を重ねるにつれて試行数が増加しているのは,学習のねらいが達成できずに繰り返し行ったためである。また,回を重ねるにつれて試行数が減少しているのは,学習のねらいが達成できるようになり,繰り返し試行する必要がなくなったためである。最後にあぐら座位姿勢保持において,少ない支援(補助)で,児童の抗重力姿勢が保たれているのか姿勢評定を実施した。

本研究では藤澤(2012)を参考にし,「あぐら座位姿勢保持」と「膝立ち位姿勢保持」と「立位姿勢保持」の三課題において補助部位をあらかじめ決めない「ステージ」を採用した。「ステージ」では各過程で補助の変化や補助の減少等が行われることにより支援者の動作法の技法や視点の変容を分析でき,姿勢補助パターン(支援者が対象児のどの身体部位を補助しているのかを示した型)を複数生じさせることができる。

4.分析の視点

 全14回の各学習場面におけるビデオ録画より,藤澤(2023)を参考にし,支援者の働きかけと児童の対応に視点をおき,課題開始から終了までの時間の経過に沿って記述した行動記録を基礎データとして作成した。分析の視点は以下の三点とした。

(1) 姿勢補助パターンの分類と移行

 膝立ち位姿勢保持及び立位姿勢保持における基礎データを取り出し,藤澤(2012)を参考にして,両姿勢ともステージ3において支援者が補助した児童の身体部位(頸,顎,脇,腕,背,胸,腹,腰,大腿,尻,膝,踵など)を記録した。これにより,学習1~14において補助部位の数及び差異によって出現した姿勢補助パターン(大文字の頭文字「P」)を分類した。但し,5秒以上姿勢保持できたものを姿勢補助パターンとし,例えば1試行内で複数個の姿勢補助パターンが出現することもあった。また,学習1~14毎に膝立ち位姿勢保持及び立位姿勢保持のステージ3において,支援者が1試行内でどのように姿勢補助パターンを移行させたかをみた。なお,姿勢補助パターンを移行させた際,特徴的な児童の姿勢の様子も結果に記した。

(2) あぐら座位姿勢保持の姿勢の歪みの変容

 あぐら座位姿勢保持の基礎データから,ステージ4において最も児童の歪みの少ない姿勢を安好(2000)による基本姿勢評定票(座位)の評定項目によりそれぞれ評定し,それが学習1~14までどう変容したかをみた。なお,児童の姿勢の歪みを支援者ともう1名本研究に対して中立性のあるスーパーバイザーの計2名で,全14回のビデオデータの録画終了時点において,映像や基礎データを見返し評定した。

(3) 上記(1)~(2)のそれぞれの結果から変容の時期を導き出し,時期的関連性を考察した。

5.倫理上の配慮

 本研究の実施にあたり,ヘルシンキ宣言に則って研究が計画され,その主旨や方法について児童及びその保護者によく説明を行い,保護者の同意書による承諾を得た。

Ⅲ.結果と考察

1.立位姿勢保持のステージ3における姿勢補助パターンの分類と移行

 各回の学習を通して,ステージ3で「姿勢補助パターン」は,支援者が補助した児童の身体部位の数及び差異により分類された。その結果,5個のパターンに分けられた。児童の学習でみられた「姿勢補助パターン」を図5に示す。

 立位姿勢保持における基礎データを取り出し,これを学習1~14毎に支援者が1試行内でどのように姿勢補助パターンを移行させたかを表したものが表2である。姿勢補助パターンの移行の変容は,学習1~14で,支援者がどのような補助で姿勢補助パターンを移行させたか,姿勢補助パターンの移行の有無の視点で三つの時期に分けられた。

一つ目の時期は学習1~6で,支援者の児童への両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)や

両肩周辺,両踵の補助(P2)などの姿勢補助パターンが1個のみで移行できずに終了している試行が多く,児童の上体が前後左右へ傾き安定しなかった時期である。学習1の2試行目では,支援者は,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から両肩周辺及び尻の補助を外し,

腰の補助に変更したP3で姿勢保持できたが,3試行目では,児童の腰がグラグラして両足裏及び両膝で踏みしめることが難しく,P1で終了している。5試行目以降,支援者が児童

の上体を補助しなくても,上体を倒さないで姿勢保持できる位置を探し,補助することが

できた。8試行目,児童は両肩周辺,両踵の補助(P2)から始まり,尻の補助がなくても両足裏及び両膝で踏みしめることができた。学習2では,姿勢補助パターンの移行回数が,

3~8回と多く,児童の上体の姿勢の歪みは生じるが,児童自身が,両足裏及び両膝で踏

みしめることができた。学習3では,1~3試行目まで両肩周辺,両踵の補助(P2)から始まっている。学習1,2では,尻を補助するP1から始まる試行が多かったが,ステージ2から尻の補助を外しても,児童は,両足裏及び両膝で踏みしめることができ始めた。支援者は,準備姿勢から児童の両膝を左手で補助し,ステージ2での上体の引き上げの際に,上体を少し前傾させ,前に体重をかけさせるように意識したため,児童は,両足裏及び両膝で踏みしめることができ,腰に抗重力が加わり,P2でも姿勢保持できたと考えられる。学習4では,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)のみで終了している試行が7試行中4試行あり,残りの3試行では,上体を補助しないP3やP4の姿勢補助パターンが多く出現した。学習1~4までは,両肩周辺を補助しているP1やP2から上体を補助しないP3への移行が出現したが,学習5の5試行目では,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から左肩周辺及び尻の補助を外し,腰の補助に変更した(P5)への移行が出現している。これはP1で,児童が上体のバランスを保とうとして左手を上下に動かすことが多く,児童の上体のねじれや上体の左右への傾きが生じたため,支援者が,P5による補助を行い,上体の歪みを修正することを試みたと考えられる。学習6の学習6の1,2試行目に,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から尻の補助を外したP2へ移行しても児童が両足裏で踏みしめられるようになってきた。

 二つ目の時期は学習7~9で,支援者が児童の上体を安定させようと補助を工夫することを試みた時期である。学習7の1試行目で両肩周辺,両踵の補助(P2)から両肩周辺の補助を外し,両膝の補助に変更したP4への移行が出現している。また,2試行目で両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から両肩周辺及び尻の補助を外し,両膝の補助に変更したP4への移行が出現した。これは,児童の両膝が伸びず,両足裏で踏みしめることが困難になったからではないかと考えられる。学習1~5では,P3,P4で支援者は,両膝が少し屈がっても何とか腰が引けないで上体を支えることができたが,学習6以降では,腰が引けて上体が前方へ傾くため,P2でしか姿勢保持できなかった。学習8の1試行目は,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から両肩周辺及び尻の補助を外し,腰の補助に変更したP3への移行を試みたが,両足裏及び両膝で踏みしめることが困難で,腰がグラグラし,腰がストンと落ち,P1でしか姿勢保持できなかった。1試行目で,P1からP3への移行ができなかったため,2試行目では,支援者が腰や上体をしっかり補助することに重点をおき,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から尻の補助を外したP2への移行を行った。その結果,児童は両足裏及び両膝で踏みしめることができ,上体のねじれや左右への傾きに歪みが生じなかった。その後,両肩周辺,両踵の補助(P2)から尻の補助を増やしたP1へ移行が現れていることから,上体を補助しても,腰で上体を支えることが困難であった。学習9の1試行目に,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から左肩周辺及び尻の補助を外し,腰の補助へ変更したP5へ移行するが,児童の右肩が引け,上体が前傾したため,P5から左肩周辺の補助を増やしたP2へ再び移行した。その後,児童の腰や上体が安定したため,P2からP5へ移行し,P5から右肩周辺の補助を外したP3で姿勢保持できた。2試行目でP1からP3へ姿勢保持を試みようとした。まずは両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から左肩周辺及び尻の補助を外し,腰の補助へ変更したP5へ移行した。しかし,児童の腰がグラグラし,腰で上体を支えることができず,児童の上体が前傾したため,P5から左肩周辺の補助を増やしたP2への移行を行い,上体を支えることにより,上体の前傾を修正できた。3試行目では,腰や上体を安定させ,両足裏及び両膝で踏みしめさせることに重点をおき,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から尻の補助を外したP2へ移行したが,P2の姿勢保持の際に,児童の腰が引け,上体が前傾し,P2から次の姿勢補助パターンへ移行することができなかった。

 三つ目の時期は学習10~14で,支援者が児童の上体を安定させ,両足裏及び両膝で踏みしめるように補助できた時期である。学習10の3試行目は,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から腰の補助を外したP2への移行を行った。その結果,児童の上体はやや前傾するが,P2で児童は,両足裏及び両膝で踏みしめることができた。学習11の2試行目では,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から腰の補助を外したP2へ移行しても児童の頭部や上体が安定し,両足裏及び両膝で踏みしめることができた。学習12以降は,1試行内で姿勢補助パターンが1個のみの出現のものはなく,支援者は,上体を補助すると腰や上体を安定させ姿勢保持できた。

 学習1~5では,1回の学習における試行数が3~8回であるが,学習6~14では3~4回であり,試行数が減っている。P3が多く現れている学習1~5では,両肩周辺,両踵の補助(P2)から両肩周辺の補助を外し,腰の補助に変更するP3への移行,右肩周辺,腰,両踵の補助(P5)から右肩周辺の補助を外したP3への移行が多く出現し,支援者は,上体を補助して姿勢を安定させP3へ移行している。

2.膝立ち位姿勢保持のステージ3における姿勢補助パターンの分類と移行

 各回の学習を通して,ステージ3で「姿勢補助パターン」は,支援者が補助した児童の身体部位の数及び差異により分類された。その結果,5個のパターンに分けられた。児童の学習でみられた「姿勢補助パターン」を図5に示す。

膝立ち位姿勢保持における基礎データを取り出し,これを学習1~14毎に支援者が1試行内でどのように姿勢補助パターンを移行させたかを表したものが表3である。姿勢補助パターンの移行の変容は,学習14で,支援者がどのような補助で姿勢補助パターンを移行させたか,姿勢補助パターンの移行の有無の視点で三つの時期に分けられた。

 一つ目の時期は学習1~5で,頸,顎,尻,膝の補助(P1),両腕,尻,膝の補助(P3)の姿勢補助パターンが1個のみで終了している試行が多く,次の姿勢補助パターンへの移行が難しかった時期である。

学習1~14で,姿勢補助パターンが1個のみで終了している試行は27試行あり,そのうちP1は14試行,P3は10試行,頸,右腕,尻,膝の補助(P6)は3試行であった。ま

た,学習1~5で,P1のみの試行は12試行,P3のみの試行は6試行であった。特に,頸,顎,尻,膝の補助(P1)や両腕,尻,膝の補助(P3)から尻の補助を外すことができずに

試行が終了していることが多かった。学習1では,1,2試行目に両腕,尻,膝の補助(P3)

から尻の補助を外したP4への移行はできたが,3,4試行目は児童の頭部が前屈したため,頭部を安定させようと頸,顎,尻,膝の補助(P1)から試行を開始した。P1で姿勢保

持させる際に,支援者がしっかりと頸,顎の補助ができなかったため,児童の右肩が引け,上体が大きく右へ傾き,P1から次の姿勢補助パターンへ移行できなかった。5試行目には,支援者が上体を安定させようと,両腕,尻を補助したP3から試行を開始し,P3から尻の補助を外したP4へ移行しても両腕で上体を補助して姿勢保持できた。学習2では,1試行目に頸,顎,尻,膝の補助(P1)から尻の補助を外すP2への移行ができた。P1から試行を開始し,十分に頸,顎の補助ができたが,P1から尻の補助を外したP2の姿勢保持の際に,支援者が児童の顎,頸を補助している両手に力を入れすぎたため,児童の上体に緊張が入り,右肩が引け,上体が大きく右へ傾いた。その結果,P2から次の姿勢補助パターンへ移行できなかった。2,3試行目では,頸,顎,尻,膝の補助(P1)で,支援者が腰のせり上げの際に,尻の補助している位置が,準備姿勢の際の補助している位置とずれて,しっかりと尻の補助ができなかったため,上体がグラグラしてP1から次の姿勢補助パターンへ移行できなかった。6,7試行目には,P1から次の姿勢補助パターンへ移行できなかった。これは,支援者が児童の顎,頸を補助している両手に力を入れすぎたために上体に緊張が入り,上体が右へ傾き,腰がグラグラし,右股関節が引けた状態になったからではないかと考えられる。学習3の3試行目では,P3で児童の腰は少しグラグラするが,上体は安定し,P3から尻の補助を外したP4でも腰が引けずに姿勢保持できた。5,6試行目でも,両腕,尻を補助したP3から尻を外したP4への移行ができた。7試行目では,5,6試行目で両腕を補助したP4で児童の上体が安定したため,頸,顎,尻,膝の補助(P1)から尻の補助を外したP2への移行を試みた。その結果,P1で児童の腰や上体が安定し,P1からP2へ移行すると,腰はややグラグラするが腰で上体を支えることができた。学習4の3試行目では,支援者が両腕の補助で上体を修正しながら,上体のねじれを生じさせないように姿勢保持したため,児童の上体は安定し,P3から尻の補助を外したP4でも姿勢保持することができた。学習5の1,2試行目は,頸,顎,尻,膝の補助(P1)から試行を開始するが,姿勢保持の際に児童の右肩が引け,上体が右へ傾き,それを支援者が修正できなかったため,次の姿勢補助パターンへ移行できなかった。3試行目に,両腕を補助するP3で姿勢保持させ,P3から尻の補助を外したP4への移行,次にP4から尻の補助を戻したP3への移行,さらにP3から左腕の補助を外したP5へ移行しても児童は腰で上体を支えることができた。6,8試行目では,両腕,尻,膝の補助(P3)の際に児童の頭部が挙がり,P3から尻の補助を外したP4へ移行しても児童の上体は安定した。

 二つ目の時期は学習6~10で,姿勢補助パターンが1個のみで終了している試行が4試行と少なくなり,1試行内で姿勢補助パターンが複数生じる試行が多くなった時期である。姿勢補助パターンが1個のみで終了している4試行のうち,頸,顎,尻,膝の補助(P1)が1試行,両腕,尻,膝の補助(P3)が3試行であった。学習1~5と比較すると,頭部を補助するP1から次の姿勢補助パターンへスムーズに移行できるようになった。これは,支援者が,児童の頸や顎をガッチリと補助するのではなく,添えるように補助することや,尻の補助である支援者の左膝を適切な位置で補助できるようになったからではないかと考えられる。学習6の2試行目で,頸,顎,尻,膝の補助(P1)から尻の補助を外すことができなかった。P1では,支援者が頸や顎,尻を補助したが,児童の両脚で踏みしめやすい位置を探すことができなかったため,腰や上体が安定せず,尻の補助を外すことができなかったと推察される。支援者はまず,児童の頸を安定させてから腰や上体を安定させようと,3試行目で頸,右腕,尻,膝の補助(P6)を行っている。1,3~5試行目では,全て補助が多い姿勢補助パターンから補助が少ない姿勢補助パターンへの移行である。学習7~10における姿勢補助パターンの移行に着目すると,学習7の2試行目,学習9の2試行目,学習10の2試行目以外の試行は全て補助が多い姿勢補助パターンから補助が少ない姿勢補助パターンへの移行である。この時期,支援者ができるだけ少ない補助で児童を姿勢保持させようと試み,頸,顎,尻,膝の補助(P1)から尻の補助を外したP2への移行が現れている。支援者がP1で顎や頸を適切に補助することにより,まず児童の頭部が安定し,次に腰も安定し,十分に両脚で踏みしめることができた。しかし,尻の補助を外すと児童の重心の位置が左のりになり,上体が右へ傾くことが多く,腰や上体は安定しなかった。また,支援者が頸や尻を補助することに重点をおき,頸や尻を補助するP1やP6から試行を始めている。P1やP6の次の姿勢補助パターンの移行として,頸,顎,尻,膝の補助(P1)から顎の補助を外すP7への移行,P1から顎の補助を外し,右腕の補助に変更するP6への移行,P1から尻の補助を外すP2への移行,頸,右腕,尻,膝の補助(P6)から顎の補助を外したP5への移行,P6から尻の補助を外したP8への移行等が現れ,姿勢保持できた。両腕,尻,膝の補助(P3)から尻の補助を外したP4への移行は毎回1,2回の試行が出現しているが,P4の際に支援者が,児童の両脚で踏みしめやすい位置を探すことができず,左肩が引け,重心の位置が左へのることが多かった。また,学習開始当初に比べて,児童の腰や躯幹に直の力が入り,頭部が前屈することは少なくなった。

 三つ目の時期は学習11~14で,1試行内に複数の姿勢補助パターンが出現している試行が多く,支援者が児童の応答に補助の仕方を工夫できるようになった時期である。学習13,14では特に試行数が多い。学習6~10では,児童の頭部が前屈することが多かったことを反省し,支援者が児童に両脚で踏みしめやすい位置を探すため,両腕,尻を補助するP3から姿勢保持を開始している。学習11では,頸,右腕,尻,膝の補助(P6)で児童の頸や腰,上体も安定したため,P6から尻の補助を外したP8へ移行した。その結果,児童は両脚で踏みしめられるようになってきた。また,学習12以降では,頸,右腕,尻,膝の補助(P6)から頸の補助を外し,左腕に変更したP3,さらに尻の補助を外したP4への移行が現れている。これらの移行の際,支援者は尻の補助を外しても,児童が両脚で踏みしめ,姿勢保持できる位置を予測することが可能になったと考えられる。学習13,14では,頸,右腕,尻,膝の補助(P6)から開始している試行が多く現れている。P6から尻の補助を外したP8への移行,P6から頸の補助を外し左腕に変更したP3への移行,P6から顎の補助を外したP5への移行,P6から右腕,尻の補助を外し,腰の補助へ変更したP9への移行等が現れた。また,学習13,14では,頸,右腕,膝の補助(P8)において児童の腰が引けて落ちることはなくなった。頸,右腕を補助するP6,P8から頸の補助を外して両腕の補助に変更するP3やP4への移行の際,児童の腰が不安定になっても,P6,P8の次に腰を補助するP9を行うことにより,児童の腰や上体を直に保つことができ,さらに姿勢が安定した。

3.あぐら座位姿勢保持のステージ4における姿勢の歪みの変容

 児童の姿勢の歪みを評定する際に毎回の学習を通して,ステージ4で支援者が補助した児童の身体部位の数及び差異により「姿勢補助パターン」を分類すると,図7にみられる3個のパターンがあった。最も姿勢の歪みが少ない姿勢補助パターンにおける児童の姿勢の歪みは,代表値として採用された。

 安好(2000)が作成した基本姿勢評定票(座位)による評定項目より,児童の姿勢の歪みを評定した。この評定から児童にみられる特徴的な姿勢の歪みとして,基本姿勢評定票(座位)の評定項目から「胸の屈・反」,「上体の左右への傾き」,「重心の位置」の三つを

選択した。これらの項目について,あぐら座位姿勢保持のステージ4において最も姿勢の歪みが少ない姿勢補助パターンにおける児童の姿勢の歪みの変容を表4に表した。なお,図中のP1~P3は,姿勢の歪みを評定した際の姿勢補助パターンである。

 学習1,8,10~13は両顎,頸の補助(P2)の際の姿勢の歪みを,学習2は,両上腕部の補助(P1)の際の姿勢の歪みを,学習3~7,9,14は,両肩の補助(P3)の際の姿勢の歪みをそれぞれ採用している。

 姿勢の歪みの変容は,学習1~14で,最も姿勢の歪みが少ない姿勢補助パターンにおける児童の姿勢の歪みがどのように変容したかの視点で三つの時期に分けられた。

 一つ目の時期は学習1~7で,「胸の屈・反」,「上体の左右への傾き」,「重心の位置」の全てに歪みが多く,姿勢が安定しなかった時期である。児童は右にのる傾向があり,姿勢が安定しやすいのも右のりの場合であった。学習1では,両顎,頸の補助(P2)で,胸がかなり屈になり,重心の位置が右へのった。また,児童の頸や躯幹に緊張が入り,支援者は,重心の位置を修正できなかった。学習2では,両上腕部の補助(P1)で胸がかなり屈になり,児童の上体が右へ傾き,重心の位置もかなり右へのり,児童の歪みを修正することができなかった。学習3では,両肩の補助(P3)で,胸が少し屈になるが,上体の左右への傾きはなく,重心の位置も安定した。この時期,児童の上体は反る方向へ力が入ることが多く,支援者はこの力を止め,反らせないように注意しながら姿勢保持させたため,児童の胸が屈になることが多かった。学習4~7では,両肩の補助(P3)で重心の位置が左のりになっている。これは,児童が右にのる傾向があり,支援者がP3の補助で児童が左尻でも十分に踏みしめることができるように上体を左へ傾ける補助を意識しすぎたため,

児童の重心の位置が左のりになったのではないかと考えられる。

 二つ目の時期は学習8~11で,支援者が両顎,頸の補助(P2)を行い,胸の屈や上体の左右への傾きが少なくなり,重心の位置が安定してきた時期である。学習8では,両顎,頸の補助(P2)をすることで,胸が少し屈になるが,上体の左右への傾き及び重心の位置は安定した。学習9では,両肩の補助(P3)で胸を直に保つことができたが,重心の位置は右へのるようになった。学習開始当初,児童の体重が右のりだったが,左へも体重をのせることができ,重心の位置が中央にのった。

三つ目の時期は学習12~14で,支援者が両顎,頸の補助(P2)を行い,胸の屈や上体の左右への傾きがなくなり,重心の位置が中央にのり,安定した時期である。この時期,胸の屈がとれている。これは,児童の重心の位置が安定し,両尻で踏みしめることが可能になったことにより,腰,上体,頭部にも抗重力の力が加わり,姿勢改善に繋がったと考えられる。

Ⅳ.総合考察

 本研究では,児童の動作変容という視点から14回の学習を節目で分けると,「あぐら座位姿勢保における姿勢の歪みの変容」,「膝立ち位姿勢保持における姿勢補助パターンの分類と移行」,「立位姿勢保持における姿勢補助パターンの分類」の全分析課題において二つの節目が見出され,三つの時期に分けられた。分析課題毎に,その節目を整理して並べたものが表5である。

注)①-①はⅠ期,②-②はⅡ期,③-③はⅢ期をそれぞれ表す。

 表5で分けられた時期を分析課題別に児童の動作変容という視点から14回の学習の節目で分けると,「あぐら座位姿勢保における姿勢の歪みの変容」は,一つ目の節目が学習7,8の間にあり,二つ目の節目が学習11,12の間にあった。「膝立ち位姿勢保持における姿勢補助パターンの分類と移行」は,一つ目の節目が学習7,8の間にあり,二つ目の節目が学習11,12の間にあり,「立位姿勢保持における姿勢補助パターンの分類」は,一つ目の節目が学習7,8の間にあり,二つ目の節目が学習11,12の間にあった。つまり,変容の節目は早い順に,「膝立ち位姿勢保持(学習5と6の間)」→「立位姿勢保持(学習6と7の間)」→「あぐら座位姿勢保持(学習7と8の間)」→「立位姿勢保持(学習9と10の間)」→「膝立ち位姿勢保持(学習10と11の間)」→「あぐら座位姿勢保持(学習11と12の間)」であり,大きく六つの節目があった。

学習1~5の「膝立ち位姿勢保持」では,頸,顎,尻,膝の補助(P1)や両腕,尻,膝の補助(P3)の姿勢補助パターンが1個のみで終了している試行が多い。また,両腕,尻,膝の補助(P3)から尻の補助を外したP4への移行が多く出現しているが,児童の上体が左右へ傾き,重心の位置が中央にのらず,安定しないことが多かった。さらに,ほぼ同時期の学習1~6の「立位姿勢保持」でも,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)の姿勢補助パターンが1個のみで終了している試行が多く,P1から腰周辺,両踵の補助(P3)への移行や,

両肩周辺,両踵の補助(P2)からP3への移行などの出現頻度も多い。これらは,支援者が尻や腰の補助を外して姿勢保持させようとしたが,児童の腰が引け,上体が右前方へ傾き,重心の位置が中央で安定しなかったため,支援者が尻や腰のある補助(P1,P3)を行い,児童の姿勢を安定させようと試みたと考えられる。この時期,「膝立ち位姿勢保持」と「立位姿勢保持」の支援者の補助に関する共通点は,尻や腰の補助を外すと,児童の腰が引け,上体の歪みが生じることであった。

 六つの変容の節目をみていくと,一つ目の変容の節目である「膝立ち位姿勢保持」では,学習6~10において頸,右腕,尻,膝の補助(P6)から尻の補助を外したP8への移行や,両腕,尻,膝の補助(P3)から尻の補助を外したP4への移行が出現し,児童の腰や上体の歪みが改善され,頭部が前屈することは少なくなった。一つ目の後の「立位姿勢保持」の二つ目の変容の節目では,学習7~9において頸,顎,尻,膝の補助(P1)から尻の補助を外すP2への移行が多く出現し,児童は両足裏及び両膝で踏みしめることができ始め,上体のねじれや左右への傾きに改善がみられた。二つ目の後から少し遅れた「あぐら座位姿勢保持」の三つ目の変容の節目では,学習8~11において主に両顎,頸の補助(P2)を行い,児童の胸の屈や上体の左右への傾きが少なくなり,重心の位置が中央で安定している。これら三つの変容に着目すると,「膝立ち位姿勢保持」や「立位姿勢保持」において,支援者が尻や腰の補助なしで児童を支えることができ始めたことにより,児童が両脚や両足裏で踏みしめ,抗重力の獲得に繋がり,その結果,「あぐら座位姿勢保持」でも中央で重心の位置が安定したのではないかと考えられる。三つ目の後の「立位姿勢保持」の四つ目の変容の節目では,学習10~14において両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から腰の補助を外したP2へ移行しても児童の頭部や上体が安定し,両足裏及び両膝で十分に踏みしめることができ,1試行内で姿勢補助パターンが1個のみの出現はなかった。四つ目の後の「膝立ち位姿勢保持」の五つ目の変容の節目では,学習11~14において1試行内に複数の姿勢補助パターンが出現している試行が多い。これは,支援者が児童の両脚で踏みしめやすい位置を探り,補助の仕方を工夫しながら対応できるようになったからだと考えられる。その結果,尻や腰の補助がない両腕,膝の補助(P4)や頸,右腕,膝の補助(P8)でも児童の腰が引けずに上体を直に保つことができ,さらに姿勢が安定したのではなかと推察される。五つ目の後の「あぐら座位姿勢保持」の六つ目の変容の節目では,学習12~14において両顎,頸の補助(P2)を行い,児童の胸の屈や上体の左右への傾きがなくなり,重心の位置が中央にのり,安定している。四つ目から六つ目の変容の節目に着目すると,一つ目から三つ目の変容の節目と同様に,児童の発達上位課題である「立位姿勢保持」や「膝立ち位姿勢保持」から変容がみられ,「あぐら座位姿勢保持」の変容に至ったことがうかがえる。「立位姿勢保持」において,両肩周辺,尻,両踵の補助(P1)から腰の補助を外したP2へ移行しても児童の姿勢の歪みはなくなり,両足裏及び両膝で十分に踏みしめることができ,ほぼ同時期の「膝立ち位姿勢保持」においても両腕,膝の補助(P4)で児童の姿勢の歪みはなくなり,両脚で踏みしめることができている。これは,先述した一つ目から三つ目の変容の節目において,児童が抗重力方向の力を獲得し,徐々に姿勢改善に繋げていったことも少なからず影響していると推察される。また,児童の姿勢改善がはかられたことにより,支援者がどのように補助すれば,児童が両脚や両足裏で踏みしめ,姿勢を安定させることができるのかより明確になった。さらに,山内(1992)が支援者と対象者の間に動作によるコミュニケーションが交わされると述べているように,支援者が姿勢補助パターンを移行させることにより,児童と支援者のコミュニケーションがより密度の濃いものになり,児童の支援者への結びつきや関心が高まったのではないかと考えられる。その結果,「立位姿勢保持」や「膝立ち位姿勢保持」において尻や腰の補助なしでも,児童は自分のからだに注意が向き,両脚や両足裏で十分に踏みしめることが可能になり,より抗重力方向の力の獲得に繋がったと推察される。また,児童の抗重力方向の力の獲得により,あぐら座位姿勢保持でも胸の屈がとれ,両尻で踏みしめることが可能になり,腰や上体,頭部にも抗重力方向の力が加わり,姿勢改善に繋がったのではないかと考えられる。

以上これら六つの節目を振り返ると,最初に上体を補助した「膝立ち位姿勢保持」や「立位姿勢保持」では児童の腰が引けず,姿勢保持できたことにより,「あぐら座位姿勢保持」では児童の上体の姿勢改善に繋がり,重心の位置が中央で安定するきっかけになった。その後,「立位姿勢保持」や「膝立ち位姿勢保持」では,児童の上体の歪みがより改善され,「あぐら座位姿勢保持」では児童の姿勢の歪みが現れず,重心の位置が中央で安定した経過を辿ったことがうかがえる。

 本研究を通して藤澤(2020)の知見と比較すると,本研究では姿勢補助パターンの移行の知見から支援者の児童を支えることの習熟過程が明確になり,支援者の今後の技法向上の一助となった。具体的には,学習当初において支援者が対象児の頭部や上体の姿勢の歪みに対応する補助を心掛けていれば,もう少し早い段階において少ない補助でのあぐら座位姿勢保持ができたのではないかと反省が残る。また,立位や膝立ち位における動的な姿勢補助パターンの移行による支援者の補助部位や児童の特徴的な姿勢の変容の時期的関連性を捉えることにより,どのように少ない補助で安定したあぐら座位の獲得に繋げていったのか明確になった。

 今後の課題として,姿勢補助パターンの移行前後の対象者の詳細な姿勢変容を分析していくことにより,効果的な支援者の補助パターンや補助の工夫等が期待できるのではないかと省察される。また,本研究では,主に動作法における支援者の技法面に焦点を当てたが,技法面のみならず,対象者と支援者の関係性やコミュニケーション等の側面も加味した分析を行うことにより,関わりの様子や,やりとりの経過等がさらに明確になるのではないかと考えられる。

謝 辞

本研究をまとめるにあたり,ご理解とご協力をいただいた児童のCさんと保護者の皆様,A県B特別支援学校の校長先生,児童の姿勢評定においてご示唆をいただいた心理リハビリテイション・スーパーバイザーのD先生に深く感謝いたします。

引用文献

藤澤 憲(2012)自閉症児の手指動作に及ぼす動作法の効果.和歌山大学教育学部教育実践総合センター紀要, 22,167-176.

藤澤 憲(2020)臨床動作法による肢体不自由者の自力でのあぐら座位獲得を目指した実証的研究 -あぐら座位・膝立ち位・立位との動作変容の関連性に着目して-.発育発達研究,(86),21-31.

藤澤 憲(2023)臨床動作法におけるビデオ録画を活用した数量化データ分析の一手法 -教育支援協働を目指した質的データと量的データの必要性に着目して-.教育支援協働学研究,5,14-23.

文部科学省(2018)特別支援学校教育要領・学習指導要領解説自立活動編(幼稚部・小学部・中学部).

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山内隆久(1992)動作法におけるコミュニケーション-コミュニケーションの視点から動作法を考える-.成瀬悟策編,現代のエスプリ別冊臨床動作法の理論と治療①,至文堂,53-61.

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安好博光(2000)「動作法」研究における動作分析方法論(1)基本姿勢評定票と課題姿勢評定票の作成.鳴門教育大学研究紀要(教育科学編),15,89-97.

 
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