2025 Volume 24 Issue 2 Pages 123-132
2024年度後期初年度大学フレッシュセミナー国際交流授業 異なる課題を対象とした受講意欲に影響を与える要因の分析:
順序ロジスティック回帰モデルを用いた検討
小野寺 妙子・中村 昌彦・元 笑予・林 釗(帝京平成大学)
1.研究背景
2021年から帝京平成大学では留学生のクラスに初年度35人強が入学して、日本語で大学の授業を受けはじめたが、コロナ禍であり、国際交流の機会も少なく中には入国できない人もいた。その頃の学生は2025年4月に卒業をするが、日本人学生との交流をする機会が乏しかった1)(元ら2023)とふりかえる。そこで翌2022年からはCovid-19もおさまりつつあり、日本人学生と留学生の交流授業を開始した。教員も学生も手さぐりの中で種々の方法を行いながら毎年国際交流授業を実施することができた。
2024年度は前期授業において2回交流授業を行った。本年前期授業までは、SDGsをテーマにして環境問題についてグループ(留学生と日本人学生)学修をして発表をした。意欲的に交流授業に参加する学生や消極的な学生が様々であることから、交流授業で得られた結果を基に、新たな試みとして後期授業では国際交流授業を学生がいかに意欲的に参加できるかを考察した。2023年の国際交流授業では、国際的に直面する課題SDGs2)(元ら2023)を行った。そのなかで身近な課題3)(元ら2024)を意識して「故郷のSDGs」を実施した。経営コースに相応しく1年から2年へ経営課題を織り込みながらテーマ(課題)をSDGsとした。本年度からスタートしたチューター制度においても日本人学生の今後の活躍も期待できるように、留学生と交流回数を増やしテーマを身近なものにして互いに意見を述べやすい雰囲気で国際交流授業を実施することを試みている。
2.研究目的
本研究は、本学の人文社会学部経営学科に在籍している1年生の日本人学生と留学生を対象に、フレッシュセミナー科目で実施されている国際交流授業において、学生が意欲的に交流授業に参加するため、どのような要因が考えられるのかを明らかにすることを目的としている。国際交流に対して不慣れな4)(中村ら2024)なかから言葉を発するには、テーマ(課題)に着目する。学生が交流するので、テーマ(課題)については、交流授業において相互に興味・関心を持ってコミュニケーションが促進されそうな内容を取り入れることが寛容で、学生自身が主体的に取り組めるテーマ設定と、「動機づけが課題」5)(坂本2013)であると述べるように「今後ももっと国際交流授業を受けたい」気持ちになるにはテーマ(課題)が重要であると述べる。本研究においても「授業をまた受けたい」と学生が感じる国際交流授業の促進の要因の一つは「課題」ではないだろうか、つまり興味がある課題によって国際交流に参加したいと思うのではないかと課題に着目して仮説をたてて検証する。
研究手法として具体的には、アンケート項目を分析するために順序ロジスティック回帰モデルを構築し、各変数が学生の授業意欲に与える影響を分析する。
学生が意欲的に国際交流授業参加することは、国際化する日本において重要な意義を持つ。日本人学生は学内で留学体験を得ることができ、留学生は日本人学生と接する中で日本の現在に触れることや友人を作ることができる。相互作用によって学生生活が豊かになることが期待される。
3.研究方法
(1)国際交流授業の概要と研究参加者
1年次のフレッシュセミナー科目の授業において、国際交授業を実施し、1回目は2024年10月24日に開催する。テーマは「カタカナ語について考えよう」である。事前にカタカナで表記される言葉を学生がそれぞれに抜き出して調べる。当日は留学生4,5名と日本人学生2名が1グループとなり、どのようなカタカナ語があるのかを話し合い、図1のように共同の用紙にカタカナの話し合われた言葉を書き、学内LMSにグループで投稿する。当日参加者は、留学生64名と日本人学生32名、合計96名。2回目は2024年11月21日でテーマは「食の共同性」である。生まれ育った地域の食べ物を紹介し、食事は大勢で食べるか個食であるかなどを話し合ってA3用紙1枚の枠組みにグループで1枚記入した。留学生は1回目と同じグループであるが、日本人学生は1回目と異なる人が入って1つのグループとした。当日参加者は、留学生59名 日本人学生35名、合計94名であった。
本研究では、1回目と2回目の差異は授業内容とテーマ(課題)と交流するメンバーである。筆者ら4人が行う授業であったが、1回目と2回目の授業では、メインとなる教員の授業進行や教員それぞれの役割は同様である。
本研究ではGoogleフォームを使い、1回目と2回目の授業直後にアンケート調査を実施した。アンケート調査に関しては、帝京平成大学人対象研究倫理委員会の倫理審査を経ており、利益相反や研究倫理に抵触する内容がないことが認められた(承認番号2022-0639)。
・1回目の授業参加者は合計96名のうち回答した学生は71名(回答率73.96%)。
・2回目の授業参加者は合計94名のうち回答した学生は71名(回答率75.53%)
アンケートには、学生の授業意欲に関連する9つの変数(表1)に対する評価が含まれている。
アンケートは、研究について十分に説明し、実施前に文書による同意を得て個人情報保護への配慮をした。対象者には研究結果を学会等で発表及び論文掲載をすることを説明した。アンケートは無記名であり、回答者が特定されることはない。留学生も日本人学生も差異のないアンケートを日本語で実施した。また、回答するかどうかは自由意志であり、回答しないことで成績など不利益を生じることはないことを明記した。
この質問項目は、2022年に経営コース1年生の留学生と日本人学生のフレッシュセミナーの国際交流授業を分析した論文のアンケートの質問項目6)(元ら2023)と同様である。
(3)分析手法
アンケート項目を分析するために、Python3.10を使用して、「順序ロジスティック回帰」で統計的な処理を行う。
今回アンケートの解析に使用する順序ロジスティック回帰モデルは、従属変数が順序カテゴリである場合に適用され、モデルは以下の通りである。
ここで、各記号の意味は次の通りである。
(P(Y ≤j | X)) は、従属変数 (Y) がカテゴリ (j)以下である確率
(θj)はカテゴリのカットポイント(閾値)
(β)は回帰係数 (X)は独立変数のベクトル
(4)手順
1. データのクレンジング:不完全なデータや欠損値のある回答を除外する。
2. 特徴量のスケーリング: ‘scikit-learn’ライブラリの ‘StandardScaler’関数を使用して特徴量を標準化する。
3. モデルの構築とフィッティング: ‘statsmodels’ライブラリの ‘OrderedModel’関数を使用して、順序ロジスティック回帰モデルを構築し、データをフィッティングする。
4. 有意性の検定: p値が0.05未満の場合、統計的に有意とみなす。
表1 アンケート質問(変数)5段階の尺度で選択した9項目
質問1 | 今回の合同セミナー授業について意欲的/積極的に取り組みましたか |
---|---|
質問2 | 他クラスの学生と交流したことは良かったと思いますか |
質問3 | グループ内で話し合う課題は興味/関心がある内容でしたか |
質問4 | 今回の合同セミナー授業で学ぶことは今後役に立つと思いましたか |
質問5 | 授業の内容は理解しやすいものでしたか |
質問6 | 教員の熱意や意欲を感じましたか |
質問7 | 総合的に評価して、あなたは今回の合同セミナー授業に満足しましたか |
質問8 | 今回の合同セミナーは全体を通して理解しやすいですか |
質問9 | 今回の合同セミナーを通して、自分が成長したと思いますか |
従属変数 | 今後ほかにこのような授業がある場合、受けたいと思いますか |
4.結果
本研究では、表1中の質問「今後ほかにこのような授業がある場合、受けたいと思いますか」を従属変数にし、質問1から質問9までの項目を独立変数として順序ロジスティック回帰を行った。主な結果を、以下にまとめる。
順序ロジスティック回帰分析の結果
図2.回帰分析出力結果1回目と2回目の授業後の変数事の係数比較(Coefficients)
次に順序ロジスティック回帰分析の係数、p値、および信頼区間等を日数毎に示す。
以下の表に、順序ロジスティック回帰分析で得られたカットポイント(閾値)を示す。これらの閾値は各カテゴリの境界を表すものである。
表2. 1回目授業後の係数等 n=71
p<.05* p<.01** p<.001***
表3. 1回目のカットポイント
p<.05* p<.01** p<.001***
表4. 2回目の授業後の解析 n=71
p<.05* p<.01** p<.001***
表5. 2回目の授業後のカットポイント n=71
p<.05* p<.01** p<.001***
続いて、1回目と2回目の分析結果を係数とp値で示して比較する。
表6. 1回目、2回目の授業の調査結果の係数とp値の比較 n=71
p<.05* p<.01** p<.001***
交流授業の1回目では、「課題に興味がある」および「教員の意欲を感じる」が「また受けたい」気持ちに対して有意差(5%)が示された。2回目の授業後の分析では、「交流することはよい」、「課題に興味がある」、「今後役に立つ」、「授業に満足した」が有意な差が示された。係数に着目すると、質問2(-11.7490)が負の値、質問3(-11.7224)も負の値である。これらの結果から、特定の要因が「またこのような授業を受けたい気持ちがある」ことに強い影響を与えていることが示唆された。
5.考察
経営コース1年次のフレッシュセミナーの後期の授業に関して、留学生2クラスと日本人学生2クラスの国際交流授業を2日間行った時期は、1回目は、10月、2回目は11月の授業後にアンケート調査を実施した。質問項目のうち「今後ほかにこのような授業がある場合、受けたいと思いますか」を「また受けたい」と従属変数にして順序ロジスティック回帰でモデルの構築をした。その結果を係数、p値からどの因子が受講の意欲に影響があるかを探った。特に「課題に興味がある」ことに着目したが、他の要因についても重要な因子と考えられる結果が抽出された。
第1回目の授業のあと、本研究の結果から、いくつかの要因が学生の受講意欲に対して有意な影響を与えることが明らかになった。
特に、「課題に興味がある (係数 = 2.0890, p値 = 0.043)」という要因は、学生の授業意欲に対して強い正の影響を持つことが示された。この結果は、学生が課題に対して興味を持つほど、授業に対する意欲も高まることを示唆している。また、この変数のp値が0.05未満であることから、この影響は統計的に有意であると判断される。したがって、教育プログラムの設計において、学生の興味を引くような課題7)(坂本2013)を提供することが重要であることが示唆される。 テーマ=課題が授業全体の雰囲気づくりにもなっていると筆者らは考える。
さらに、「教員の意欲を感じる (係数 = 2.1645, p値 = 0.010)」という要因も受講意欲に対して有意な正の影響を示した。これは、教員が授業に対して熱心であることが、学生の意欲を高める重要な要素であることを示している
次に第2回目の授業後のアンケート結果で得られた有意差のある項目を考察する。これらは正の影響と負の影響が混在しているため2つに分けて述べる。
1. 正の影響がある要因
「今後役に立つ (係数 = 15.0173, p値 = 0.023)」という要因は、学生の「また受けたい」気持ちに対して有意な正の影響を示した。これは、学生が今後の役立つ内容を見込んでいる授業に対して積極的に取り組むことがわかった。信頼区間は(2.052から27.983)を示した。
「授業に満足した (係数 = 14.4501, p値 = 0.039)」という要因も、参加したい気持ちに対して有意な正の影響を示した。これは、学生の満足度と授業に参加したいかどうかは強く関連していることを示している。信頼区間は(0.747から28.153)である。
国際交流授業を実施する際には、学生にとって今後役に立つと思うように留意をすると学生の興味をひいて今後も授業を受けたいと考えることが明らかになった。また、授業に満足したということは、授業全体に関しては満足できるように多々のしかけや工夫が必要になる。「工夫が必要」8)と述べた(元ら2023)データに追従する
2. 負の影響がある要因
順序ロジスティック回帰分析の結果から、「課題に興味がある」要因が第1回目の結果と異なる影響を示したことが明らかになった。第1回目のデータでは「課題に興味がある (係数 = 2.0890, p値 = 0.043)」が学生の授業参加意欲に対して有意な正の影響を示したが、第2回目のデータでは「課題に興味がある (係数 = -11.7224, p値 = 0.046)」有意な負の影響が示された。
課題に対して興味があればあるほど授業を受けたい気持ちが減少するとは、逆を返せば課題に対して興味がないけれども、授業を受けたい気持ちは増加することともとらえられる。学生は、「食の共同性」に興味はさほど無いけれども、授業には参加しなければならないからどうしたらいいだろうと考える過程である可能性もある。授業の課題内容が第1回目(カタカタ語)では、課題が学生にとって新鮮で興味を引くものであった可能性がある。一方、第2回目(食の共同性)では、課題の難易度や量が学生にとって過度な負担となっていたことがわかった。さらに、各回の調査対象の学生は変化がないため、課題は親しみやすさがあると思われるが、授業中に学生をピックアップして本を読むことや、共同で話し合う細分化されたテーマに難易度があった可能性があると思われる。また難しい課題か意外に簡単な課題であったことも影響している可能性もあるが、今後なぜ負の影響になるのか学生の書いた自由記述と照らし合わせることや、課題だけに起因するのか質的分析が必要である。
「交流することはよい (係数 = -11.7490, p値 = 0.038)」という要因も、授業意欲に対して有意な負の影響を示した。信頼区間は( -22.846から -0.652)である。この日の交流は2回目であり、若干の疲労感を感じていた可能性もある。交流中に話が進まないグループもあったので教員が交流を促した。コミュニケーションによる積極的関与9)(渡邉知釈ら 2020)を図ろうとしない場合もある。一定の必要な授業用の会話が終了したら、すぐに日本人だけ、留学生だけのグループに戻るグループも見受けられた。そのため学生は、コミュニケーションについて交流に難しさを感じた可能性があると分析する。学生はCovid-19が流行したときに中学2,3年生から高校1年であった。自国の人との交流に対しても少ない時代を過ごしたため「国際交流」に苦手意識があることも考えられる。国際交流授業では注意深く、学生の進捗を見守り、学習環境に細心の注意を払って観察することが求められる。
「教員の意欲を感じる (係数 = 0.1203, p値 = 0.901)」は、2回目の授業後のアンケートでは統計的に有意な影響を示さなかったため、学生の授業意欲に対する影響は限定的であると考えられる。
このように、特定の要因が学生の授業意欲に対してどのように影響を与えるかを理解することは、今後の教育プログラムの設計や改良において重要である。
後の教育プログラムの設計においては、学生の興味を引く課題を提供する一方で、その負担感や難易度にも配慮することが重要である。また、授業の進行状況や学生の特性に応じた適切な課題設計を検討することが求められる。
5.終わりに
本調査では、帝京平成大学に在籍する留学生と日本人学生の国際交流授業を行ってその後にアンケート調査を行い、「今後も国際交流授業に参加をしたいと思う気持ち」に影響する要因を調べた。特に、課題の適合性が高い場合には学生の興味を引き、国際交流授業への参加意欲が促進される。一方、課題に興味がない場合には、受講意欲が高まることが示されたが、解釈としては詳細に分析をする必要がある。このことから、教育プログラムを設計する際に課題の内容やテーマ選びを慎重に行う必要性を強調するものである。
本研究の結果から国際交流授業においては学生の特性や授業の進行状況に応じて適切な課題を提供することが重要であるという示唆が得られた。具体的には、課題の難易度や量を適切に調整し、学生の興味を持続させる工夫が求められる。
このように、課題の適合性が学生の授業意欲に及ぼす影響についての理解を深めることは、今後の教育プログラムの設計や改良において重要な指針となる。
また、一方で限定的ではあるが、「教員の熱心さ」「今後に役立つ内容である」ことや「授業の満足感」においても授業に意欲的に参加する要因となったので、ファシリテーターの役割、今後に役立つ内容であって満足感の得られる授業の設計を考えて実施することが大切である。
6.今後の課題
本研究の結果から、「授業の課題」が学生の「国際交流に参加したい気持ち」に大きな影響を与えることが明らかになったが、短期間のデータに基づいているため、長期的な観点からデータを取得することや、学生のコメントを分析した質的研究との課題の適合性が学生の「国際交流授業の参加」に与える影響を評価する必要がある。具体的には、複数の授業や学期を通じて行って得た長期的な傾向を解析することが求められる。
本研究ではフレッシュセミナー1年生の学生グループを対象としたため、異なる背景を持つ学生に対する普遍的な結論を引き出すためには、より多様で異なる学科や学年、他の大学、地域の方々との連携など幅を広げて考えることが望まれる。
また、課題の内容や形式が学生の意欲に与える具体的な影響を詳細に分析する必要がある。具体的には、異なる種類の課題(例:プロジェクト型、問題解決型、ディスカッション型)やその難易度、量が授業意欲にどのように影響するかを検証することが求められる。今回の2回だけでなく、過去に実施した国際交流授業も授業の意欲と課題の関係についてふりかえる必要がある。
一方、課題の内容や量・難易度だけでなく心理的要因(自己効力感、動機付け、ストレスなど)も影響を与える可能性がある。これらの要因を含めた包括的なモデルを構築し、より総合的に理解することが重要である。また、教員のフィードバックや授業のインタラクティブ性が学生の意欲にどのように影響を与えるかを検証することも必要である。
引用文献
1) ) 元・小野寺・中村・黄(2023)帝京平成大学人文社会学部留学生の学修と生活に関するアンケート調査2』 2023 帝京平成大学紀要.第34巻;87-100
2) 元・小野寺・中村(2023) 経営学科1年生日本人学生と留学生の合同授業におけるSDGsの取り組みーー事後アンケート調査を通して、関係性の教育学:22号;41-55
3) 元・小野寺・中村(2024)2023年度経営学科1年生日本人学生と留学生のSDGs合同研究―実体験による発表を通じた相互理解― 関係性の教育学:23号; 197-211
4) 中村昌彦・元笑予・小野寺妙子(2024): SDGs研究方法としての国際交流―経営学1年生の日本人学生と留学生の合同授業を通して―, 帝京平成大学紀要第35巻 : 131-146
5) 坂本利子(2013)異文化交流授業から国内学生は何を学んでいるかーー他文化共生力育成をめざして 立命館言語文化研究 24,3 143-1
6) 2) 元ら2023 同上
7) 5) 坂本2013 同上
8) 2) 元ら 2023 同上
9) 渡辺知釈・大和啓子(2020)大学教養課程における国際共修の試みと国内学生に対する効果:多文化間コンピテンス尺度に基づく検証群馬大学国際センター論集第2号1-19