抄録
心拍数, 呼吸数, 体温, 血圧などは動物の生理状態を表現する基本的な要素であるが, いわゆる小型の実験動物では適当な観察方法がなかったためにこれまで殆ど問題にされなかったし, 問題にされたとしても, その各々がそれぞれ実験研究の主な対象となっているのが常で, 動物の生理状態を表わす一般的な要素として観察されたのではなかった。
この一連の研究は動物実験において, いわゆる一般的な身体の状態という考え方に含まれる4要素の観察を, 小型の実験動物に拡張するために行なっているものである。しかし, これら要素のうち, 血圧測定のみが現在なお非観血的に行ないえないという実情にあるので, まずそのための手術をできるだけ動物に侵襲を加えない状態で行なう方法を考案しようとしているのである。
この報告は, 血圧測定の手術を行なうさいに, 従来すべての生理現象の観察に使用されてきた薬物による麻酔は前処置としての効果をあげうるが, 生理状態をまったく変化させるほど重大な影響を与えることを知っているので, これに代る方法として頭部通電による麻酔を使用しうるか否かを検討するために, その基礎になる観測を行なった成績について述ベたものである。ここに, その概要を記述すればつぎのとおりである。
1) 通電は手術時の背位保定において, マウスの頭部横軸方向に商用交流をスライダックで変圧して行なう。通電量は30V―3sec., 35V―2sec., もしくは40V―1sec.のいずれでも適当であるが, 30V―3sec.通電時の, 麻酔状態の発見が最も早いので, これを最適通電量とした。
2) CF#1マウスを使用して, 最適量通電後の生理状態の変化を観察したところ全経過を痙攣期, 昏睡期, 興奮期, 意識朦朧期, 回復期など5期に区分することができ, 通電の影響は通電後1時間以内に大体消失することがわかった。
3) このうち, 意識朦朧期は通電後15分頃から約30分間持続し, この時期に血圧測定のための手術を施すことができると考えられた。