抄録
予研獣疫部保持の遺伝的白内障マウス (cac/cac) を用いてこの水晶体異常について発生学的研究を行った。
実験材料並びに方法:
動物は予究獣疫部で維持している劣性白内障遺伝因子 (cac) についてホモにされたgpc系マウスおよび対照としては正常な9PC系マウスが用いられた。
材料採取時期は胎仔段階では受精後10, 13, 16, 18, 19日の各段階が, 生後段階では, 2, 4, 6, 8, 10, 12, 14日の各日令が採用された。胎仔はBouin氏液で固定, HarrisおよびEhrlichヘマトキシリン・エオジン染色が用いられ, 生後個体の眼球はCarnoy氏液で固定, Azur B. Bromide, HarrisおよびEhrlichヘマトキシリンエオジン, Himes & Moriber ('56) のtriple strain染色が用いられた。
成績結果:
胎仔期には形態学的変化はみとめられず, 生後約14日目に異常な水晶体線維が主に水晶体皮質末梢に見出される。これは膨潤, 顆粒化があり, 間隙あるいは破壊がみられ, 空処を生じる。この異常な線維は更に8日目位まで存続し, 水晶体の形はより不規則となり, より多くの空処があらわれる。白内障マウスにみられる第2の形態的変化は, 水晶体上皮から赤道面に向って分枝増殖している水晶体線維核のmigrating patternの変化である。生後約15日令の白内障マウスの水晶体核の大きさは増加している。
組織化学的検討結果は結論的なことは云えないが, 水晶体には大量の蛋白質が存在し, 水晶嚢は強度のPass陽性を示した。水晶体核は大量のムコ多糖類酸の含有を示唆し, 白内障マウスの水晶体皮質には正常なものに比べてRNAが減少している可能性が示唆される。