福島医学雑誌
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症例報告
手術により診断し得た,卵巣腫大を伴わないライディッヒ細胞腫の一例
帆保 翼遠藤 雄大古川 茂宜加藤 麻美岡部 慈子磯上 弘貴加茂 矩士植田 牧子川名 聡小島 学添田 周渡邉 尚文橋本 優子藤森 敬也
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2023 年 73 巻 1 号 p. 1-6

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Abstract

要旨:患者は71歳女性,4妊3産。不正性器出血と子宮内膜肥厚を認めた。子宮内膜細胞診で疑陽性であり,子宮体癌を疑われたため,当科紹介となった。経腟超音波検査では子宮内膜は11.5mmと肥厚を認めたが,両側付属器の腫大を認めなかった。続く子宮内膜全面掻爬による組織診では悪性所見を認めなかった。骨盤部MRIでは9mmの子宮内膜肥厚を認めたが,両側卵巣の腫大を認めなかった。血清エストラジオール(E2)は55pg/mLと高値であったが,CA125,CA19-9,CEAの上昇を認めなかった。ホルモン産生卵巣腫瘍を疑い,腹腔鏡下子宮全摘術,両側付属器切除術を施行した。卵巣に肉眼的に明らかな腫瘍性病変を認めなかったが,病理組織学的に右卵巣に1.5×1.5mm大のライディッヒ細胞腫を認めた。術後に血清E2の低下を認めた。閉経後の不正出血,子宮内膜肥厚では,画像検索で卵巣腫瘍を認めない場合にも臨床症状によりライディッヒ細胞腫を鑑別に置くことが肝要である。

Translated Abstract

Abstract : A 71-year-old woman, gravida 4 para 3, presented with abnormal genital bleeding. Transvaginal ultrasonography showed a thickened endometrium of 11.5 mm, but no bilateral adnexal enlargement. Cervical cytology was negative for intraepithelial lesion or malignancy, and endometrial curettage was performed, and no malignant findings were found histologically. Pelvic MRI showed only 9 mm endometrial thickening and no ovarian tumor. Serum estradiol was elevated (55 pg/mL), and CA125, CA19-9, and CEA were not elevated. A hormone-producing ovarian tumor was suspected, and total laparoscopic hysterectomy and bilateral salpingo-oophorectomy were performed. Although no tumor was found macroscopically in the bilateral ovaries, histopathology revealed a 1.5 × 1.5 mm Leydig cell tumor in the right ovary. Serum E2 decreased after surgery. Thus, in cases with postmenopausal irregular bleeding and endometrial thickening, it is essential to consider Leydig cell tumor, even in the absence of ovarian tumors on imaging.

I. 緒言

エストロゲン産生腫瘍は月経不順,月経周期間の出血,閉経後の不正性器出血などの症状を41%に呈するとされ1),子宮内膜肥厚や不正性器出血が診断契機になる場合がある。通常,エストロゲン産生腫瘍は卵巣腫大を認め,それにホルモン随伴症状を伴うことから疑われることが多い2)。今回,画像検査では卵巣腫大を認めず,子宮内膜肥厚,症状からエストロゲン産生腫瘍を疑い,病理組織学的に微小なライディッヒ細胞腫(Leydig cell tumor ; LCT)を認めた一例を経験したため文献的考察を踏まえて報告する。

II. 症例

年 齢: 71歳

妊娠歴: 4妊3産 自然分娩3回,胞状奇胎1回 閉経50歳

既往歴: 虫垂炎(開腹手術)

現病歴: 子宮頸がん検診を2年ごとに受診していた。数週間前からの不正性器出血を認めたため,前医を受診した。子宮頸部細胞診はNILMであった。経腟超音波検査にて子宮内膜7.2mmと肥厚を認め,子宮内膜細胞診は疑陽性であった。子宮体癌を疑われ,精査加療目的に当科を紹介され受診した。

身長151cm,体重56.9kg,BMI24.9。腹部は平坦,軟。腫瘤を触知しなかった。全身の多毛,禿頭,音声低音化などの男性化兆候を認めなかった。内診にて,子宮は鶏卵大で可動性は良好であり,子宮付属器に腫瘤を触知しなかった。腟鏡診では子宮腟部に腫瘍性病変や出血を認めなかった。経腟超音波断層法(図1)にて子宮内膜肥厚(11.5mm)を認めた。両側付属器の腫大を認めなかった。前医での内膜細胞診が疑陽性であったことから,子宮内膜増殖症ないし子宮体癌の鑑別目的に,子宮内膜全面掻爬による内膜組織診を行った。

子宮内膜組織診(図2)では正常の増殖期内膜や間質を認めるのみで,核腫大や不整な腺管構造を認めなかったことから,子宮内膜増殖症や子宮体癌は否定的であった。

血液生化学検査(): エストラジオール(E2)の上昇(55pg/mL)を認めたが,FSH,LHは低値であった。CA125 : 6U/mL,CA19-9 : 5.5U/mL,CEA : 3.1ng/mLであり,腫瘍マーカーの上昇を認めなかった。

骨盤部単純MRI検査(図3): 子宮内膜9mmと肥厚を認めた。右付属器に右傍卵巣腫瘍を疑うT2強調画像で高信号,T1 強調画像で低信号の嚢胞を認めたが両側卵巣に明らかな腫瘍性病変を認めなかった。骨盤リンパ節の腫大や,他臓器病変を疑う所見を認めなかった。

以上の画像検索,病理学的所見,血液生化学検査からエストロゲン産生腫瘍を強く疑った。子宮内膜増殖症や子宮体癌は否定的であったが,子宮内膜の肥厚と不正性器出血を認めていたため,エストロゲン産生卵巣腫瘍の診断目的に,腹腔鏡下両側付属器切除術を施行した。また,術前の組織診において子宮内膜の病変は否定的であったが,不正出血改善による生活の質の向上と,子宮頸癌・体癌リスクの低減などの子宮摘出の利益と,手術の侵襲や合併症などといった危険性についてそれぞれ患者に情報提供し相談の上,子宮全摘術も同時に施行した。術中所見では,子宮は鶏卵大で,子宮に明らかな腫瘍性病変を認めなかった(図4)。また,右傍卵巣腫瘍を認めたが,両側卵巣に腫瘍性病変を認めなかった。腹水や明らかな他臓器病変を認めなかった。術後の摘出標本では肉眼的にも両側卵巣に腫瘍性病変を認めなかった(図4)。手術時間は1時間28分,出血5mL,摘出標本は75g(子宮,両側付属器)であった。

病理組織学的に右卵巣実質内に1.5×1.5mmの分葉状の充実性の腫瘍を認め,強拡大にて豊富な淡好酸性胞体を有する細胞が増殖しており,一部の細胞質内にラインケ結晶を認めた。強拡大50視野中に核分裂像を36個認めた。免疫組織化学染色で,Calretinin,inhibinαがびまん性に陽性,エストロゲン受容体が部分的に陽性,Ki-67indexが部分的に10-20%と高値であった。これらの所見からLCTと診断された(図5)。子宮は内膜肥厚を認めるも,核腫大や不整な腺管構造を認めず,腫瘍からのエストロゲン分泌による影響と考えられた。左卵巣に腫瘍性病変を認めなかった。術後5日目の採血にて血中E2値の低下を認めた()。以上からLCTによるエストロゲン産生により不正性器出血,子宮内膜肥厚をきたしていたと考えられた。術後経過は良好であり,術後7日目に退院となった。術後6ヶ月時点で再発なく経過している。

病理組織学的に右卵巣実質内に1.5×1.5mmの分葉状の充実性の腫瘍を認め,強拡大にて豊富な淡好酸性胞体を有する細胞が増殖しており,一部の細胞質内にラインケ結晶を認めた。強拡大50視野中に核分裂像を36個認めた。免疫組織化学染色で,Calretinin,inhibinαがびまん性に陽性,エストロゲン受容体が部分的に陽性,Ki-67indexが部分的に10-20%と高値であった。これらの所見からLCTと診断された(図5)。子宮は内膜肥厚を認めるも,核腫大や不整な腺管構造を認めず,腫瘍からのエストロゲン分泌による影響と考えられた。左卵巣に腫瘍性病変を認めなかった。術後5日目の採血にて血中E2値の低下を認めた()。以上からLCTによるエストロゲン産生により不正性器出血,子宮内膜肥厚をきたしていたと考えられた。術後経過は良好であり,術後7日目に退院となった。術後6ヶ月時点で再発なく経過している。

図1. 経腟超音波断層法

子宮内膜は11.5mmと肥厚を認めた。

図2. 子宮内膜組織診(子宮内膜全面搔爬) (a)HE染色(×100) (b)HE染色(×400)

子宮内膜腺や内膜間質を認めたが,核腫大や不整な腺管構造を認めなかった。

表 術前,術後5 日目の血液生化学検査所見
図3. 骨盤部単純MRI (a)T2強調画像矢状断 (b)T2強調画像水平断 (c)T1強調画像水平断

(a)子宮内膜の肥厚を認めた(矢印)。(b),(c)右付属器に右傍卵巣腫瘍を疑う嚢胞性病変を認めた(矢頭)が両側卵巣に明らかな腫瘍性病変を認めなかった。

図4. 術中所見及び摘出標本 (a)左付属器 (b)右付属器 (c)摘出標本

右傍卵巣腫瘍も認められたが,両側卵巣に肉眼的に明らかな腫瘍性病変を認めなかった。

図5. 摘出標本のHE染色及び免疫組織化学染色 (a)HE染色(×40) (b)HE染色(×400) (c) Calretinin(×100) 

(d)inhibin α(×100) (e)エストロゲン受容体(×100)

(a) 右卵巣に1.5×1.5mmの分葉状の充実性の腫瘍を認めた。(矢頭)

(b) 豊富な淡好酸性胞体が増殖しており,細胞質内にラインケ結晶を認めた。(矢印)

(c),(d),(e) Calretinin,inhibinαはびまん性に陽性,エストロゲン受容体は部分的に陽性であった。

III. 考察

LCTは全卵巣腫瘍のうち0.1%以下と非常に稀な腫瘍であり,閉経後に発生することが多く,95%が片側性である3,4)。また,通常,アンドロゲン産生腫瘍でありテストステロンを産生することでアンドロゲン過多症,男性化兆候を呈することが多いとされている5)。一方,LCTの10-20%では子宮内膜増殖症のようなエストロゲンによる変化をきたすとする報告がみられる6)。報告によっては,LCTの10%にエストロゲン産生性を示すというものもある7)

本症例では術前の画像診断で卵巣の腫大を認めなかったが,不正性器出血,子宮内膜肥厚から,エストロゲン産生卵巣腫瘍を疑い,実際にE2の上昇を認めた。右卵巣にLCTを認め,摘出後にE2の低下を認めたこと,子宮内膜,頸部に悪性所見を認めなかったことから,LCTから産生されたエストロゲンにより不正性器出血,子宮内膜肥厚を認めていたと考えられた。また,テストステロンの検索がなされていないため腫瘍のアンドロゲン産生については完全に否定はできないが,男性化兆候などの理学的所見に乏しいことから,腫瘍内でアンドロゲンからエストロゲンに変換された可能性も低いと考えられる。

一般に,閉経後の出血を伴う女性の1-14%は子宮内膜癌であると報告され8),子宮内膜癌などの悪性疾患を疑う必要があり,子宮頸部や内膜の細胞診及び組織診が行われる。一方,エストロゲン産生腫瘍は不正性器出血を呈する疾患であり,子宮内膜過形成の4-10%,子宮内膜癌の5-35%に関連するとされる1,2,9,10)。そのため,不正性器出血に加えて子宮内膜肥厚を認める際には,悪性疾患だけでなく,エストロゲン産生腫瘍も鑑別に挙げるべきである。

本症例は子宮内膜肥厚を認めたが,子宮内膜組織診にて悪性所見を認めなかった。血液生化学検査を施行したところ,E2は高値であったが,FSH,LHが低値であり,エストロゲン産生腫瘍を疑った。腹腔鏡下手術を施行し,病理組織学的にエストロゲン産生を伴うLCTの診断に至った。LCTの鑑別としてステロイド細胞腫瘍が挙げられる。LCTは原則として全例良性腫瘍であるのに対してステロイド細胞腫瘍は悪性の場合があるため,両者の鑑別は重要である。鑑別にはラインケ結晶の有無が重要で,その他に卵巣門部発生と判断可能な腫瘍の局在,無髄神経線維の付随,腫瘍細胞が無細胞域を介して血管周囲に集蔟する像,周囲での門細胞の過形成,血管壁のフィブリノイド変性といった所見を認める場合にもLCTが考慮される11)。本症例ではこれらLCTの特徴的所見の多くを欠く点や,核分裂像を多数認めKi-67indexが部分的に10-20%と高値であり良性腫瘍としては非典型的と思われる点で,ステロイド細胞腫瘍との鑑別が難しい。しかし,少量ながらラインケ結晶を認めたことを重視してLCTと診断した。

LCTはMRIにてT1強調画像にて低信号,T2強調画像では多様な信号を示すとされる3,12)。しかし,LCTは割面の直径で平均2.4cmと小さい腫瘍とされており13),画像検索にて診断に至らない可能性がある。また,LCTの多くはアンドロゲン産生性を示す7)とされる中で,本症例ではエストロゲン産生性を示した。また,卵巣間質におけるライディッヒ細胞の化生が,子宮体癌の発症に関与するという報告14)もみられる。これらの報告などを考慮すると,画像上卵巣腫瘍の診断に至らない場合にも,本症例のように閉経後の不正性器出血とエストロゲン高値を伴う症例においては,画像に反映されないLCTの可能性について考慮しつつ,手術による診断的治療を検討することが望ましいと考えられる。

CTやMRIなどの画像検索にて腫瘍の局在を明確に特定できない場合に卵巣静脈を選択的にホルモンサンプリングすることがホルモン産生腫瘍の診断に有用とする報告も見られる6)。しかし,副腎静脈と卵巣静脈からのサンプリングにより腫瘍の部位を特定した割合はわずか27~45%であり,卵巣静脈の破裂といった重篤な合併症も報告されており6,15,-17),適応は限定的と考えられる17)。また,ホルモン産生腫瘍の局在診断に至ったとしてもその組織型は多彩であり,本症例のように手術療法により,病理組織学的診断を行うことが必要である。

IV. 結語

今回,画像上卵巣腫瘍を認めなかったが,臨床症状・所見から術前にエストロゲン産生卵巣腫瘍を疑い,手術を行いLCTの診断に至った一例を経験した。本症例のように病変が微小で明らかな卵巣腫大を伴わない場合にも,不正性器出血,子宮内膜肥厚を認める場合には,卵巣腫大の有無に関わらず,LCTを鑑別の一つとして挙げることが肝要である。

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