FUKUSHIMA MEDICAL JOURNAL
Online ISSN : 2436-7826
Print ISSN : 0016-2582
Preoperative immune status and nutritional status are associated with prognosis and pathologic factors in patients with colorectal cancer
Toru FutamiTakao TsuchiyaDaisuke KusamaYosuke OgayamaTakahiro SaitoRyo OkadaSatoshi OtaniFujio Ito
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Keywords: colorectal cancer, NLR, mGPS
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2023 Volume 73 Issue 3 Pages 73-78

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Abstract

要旨:周術期の炎症,免疫状態や栄養状態は大腸癌の予後をはじめ感染合併症の発症率や化学療法の治療効果との関連性が報告されている。大腸癌患者における術前の好中球数 / リンパ球数比(neutrophil / lymphocyte ratio:NLR)とmodified Glasgow prognostic score (mGPS)は全身の炎症,免疫状態の指標として知られており,これらの指標が予後に与える影響および臨床病理学的因子との関連について当院での手術施行例において検討を行った。2019年3月から2020年4月までに当院で施行された大腸癌手術症例50例を対象に後方視的に追跡し予後と臨床病理学的因子を比較検討した。またStageII以上の41症例を対象に免疫・栄養指標と術後4~8週間の期間内の化学療法導入の可否との関連についても検討した。NLRとmGPSは術前一か月以内に採取された血液検査の結果から算出し,NLRは本研究の対象の中央値である2.54をカットオフ値とし,mGPSは過去の報告をもとに2を高値群とし,CEAは当院の基準値である5.0 ng/mlをcut off値としてそれぞれ高値群,低値群に分類した。50例中NLR高値例は26例,mGPS高値例は18例であり,観察期間内に死亡した例は5例,新たに再発をきたした例は4例であった。NLR高値例は観察期間内における全生存率が有意に不良であった。mGPS高値例は右側結腸癌,T3以深,CEA高値,stent留置が有意に多く,同様に観察期間内における全生存率が有意に不良であった。NLR高値とmGPS高値は互いに相関していた。化学療法導入の可否との関連については有意な結果は得られなかった。大腸癌患者において術前のNLRとmGPSはいずれも予後予測因子として有用な指標であるだけでなく,mGPSは腫瘍の活動性との関連を示唆された。術前の免疫・栄養状態で術後の予後をある程度予想することは,個々の患者にとってより適切な治療方針を組み立てる上でも重要であり,NLRおよびmGPSは臨床的に有用な指標であると思われる。

Translated Abstract

Abstract:In the perioperative period, it has been reported that inflammation status and immune status, nutritional status are associated with the prognosis of colorectal cancer and the incidence of infectious complications, the efficacy of chemotherapy. We investigated the prognostic impact of preoperative neutrophil/lymphocyte ratio (NLR) and modified Glasgow prognostic score (mGPS) in patients with colorectal cancer and their association with clinicopathologic factors. The subjects were 50 patients undergone surgery for colorectal cancer at our hospital between March 2019 and April 2020. NLR and mGPS were calculated from the results of blood tests taken within one month before surgery. 2.54, the median value in this study, was used as the cut off value for NLR, and 2 was classified as high for mGPS, and CEA was classified into high and low groups with a cutoff value of 5.0 ng/ml, which is the standard value at our hospital. Of the 50 patients, 26 had high NLR and 18 had high mGPS, and 5 died and 4 had cancer recurrence during the observation period. The patients with high NLR had a poor prognosis. The patients with high mGPS had a significantly higher incidence of right-sided colon cancer, deeper than T3, high CEA and stent implantation and had a poor prognosis. High mGPS correlated with high NLR. NLR and mGPS were not associated with the chemotherapy induction. Both preoperative NLR and mGPS are useful prognostic indicators in patients with colorectal cancer. We suggested that high samGPS associated with tumor activity.

緒言

周術期の炎症,免疫状態や栄養状態は大腸癌の予後に関連するとされ1-3),様々な因子の有用性が報告されている。好中球数/リンパ球数比(Neutrophil Lymphocyte Rate, 以下NLR)は好中球による腫瘍促進環境とリンパ球による抗腫瘍免疫状態のバランスを反映する全身状態の指標であり,予後因子や感染合併症発症の予測因子,化学療法の治療効果の予測因子としての有用性が報告されている4-11)。またmodified Glasgow prognostic score (mGPS)は血中アルブミン値とCRP値を用いて評価する全身性炎症の指標とされ,大腸癌患者のハイリスク例抽出の際や予後予測因子,合併症発症予測因子としての有用性,腫瘍のサイズやTNM分類における進行度との関連性などが報告されている10,12-15)

今回我々は大腸癌患者におけるNLRとmGPSが予後に与える影響および臨床病理学的因子との関連について検討した。

対象と方法

2019年3月1日から2020年3月31日の期間に当院で初回切除を施行された大腸癌全50症例を対象とした。術前1か月以内に採取された血液検査からNLRとmGPSを栄養・免疫指標として算出し,2021(令和3)年10月31日まで後方視的に追跡し,術前の免疫・栄養指標と予後および臨床病理学的因子,術前CEA, stent留置の有無との関連を検討した。NLRは本研究の対象の中央値である2.54を,CEAは当院の基準値である5.0 ng/mlをcut off値としてそれぞれ高値群,低値群に分類した。術前stent留置例においてはstent留置前後のNLRとmGPSを算出したところ,stent留置前に血中アルブミン値の測定がなかった1例を除き,stent留置前後でNLR, mGPSともに高値群,低値群の分類が変わった症例はなかった。また,stent留置前に血中アルブミン値の測定がなかった1例においてもNLRについてはstent留置前後の採血でいずれも高値群に分類された。上記よりNLRとmGPSはstent留置後2週間以上経過した術前待機中に採取した血液検査の結果から算出した。また深達度はT3以深を深部浸潤,簇出(budding, 以下BD)は2以上を,mGPSは2を高値例として分類した12,16,17)。リンパ節転移や遠隔転移,脈管侵襲,神経侵襲については所見の有無で分類した。またStageII以上の41症例を対象として大腸癌治療ガイドライン2022年版に則り,免疫・栄養指標と術後4~8週間の期間内の化学療法導入の可否との関連についても検討した。統計学的解析にはlogrank testとχ二乗検定を,全生存率はKaplan-Meier法を用いて算出し,p<0.05を有意とした。

結果

対象とした50症例全例が術前1か月以内に血液検査を施行され,CEA, NLRおよびmGPSの算出が可能であった。年齢は45~87歳(平均70.1歳)で男性30例(60%),女性20例(40%)であった。腫瘍占拠部位は脾彎曲を境界として右側と左側に分類し右側結腸癌18例(36%),左側結腸癌32例(64%)であり術前ステント留置は9例(18%)であった。術前から遠隔転移を認めていた症例は12例あり,肝転移は9例,腹膜播種が1例,肺転移が4例であり,そのうち2例は肝転移と肺転移を同時に認めていた。術後観察期間内に死亡した症例は5例であり,新たに再発を認めた症例は4例であった。NLR高値例は26例(52%),mGPS高値例は18例(36%)であった。(Table1

表1. 患者背景

対象とした50症例全例が術前1か月以内に血液検査を施行され,CEA, NLR, mGPSの算出が可能であった.

1. 栄養・免疫指標と各種病理学的因子および術前CEA,stent留置の有無との関連

NLRの程度と大腸癌取扱い規約第9版に挙げられる各種病理学的因子との関係について検討するとmGPS高値例においてNLR高値であった症例がNLR低値であった症例よりも有意に高率に認められた(Table 2)。一方mGPSについて同様に各種病理学的因子との関係を検討すると右側結腸癌,深部浸潤,CEA高値,NLR高値,stent留置においてmGPS高値であった症例がmGPS低値の症例よりも有意に高率に認められた。他の臨床病理学的因子についてはそれぞれNLR, mGPSの程度と有意な関連を認めなかった(Table 3)。

表2. NLRと臨床病理学的因子との関連

mGPS高値例においてNLR高値例が有意に高率に認められた

表3. mGPSと臨床病理学的因子との関連

右側結腸癌,深部浸潤例,CEA高値,NLR高値,stent留置例においてmGPS高値例が有意に高率に認められた.

2. 栄養・免疫指標と予後との関連

対象とした50例のうち術後新たに再発を認めた4例(8%)を再発部位別にみると肺2例(4%),肝臓1例(2%),吻合部近傍1例(2%)であった。また死亡は5例(10%)であり,いずれも癌死であった。全生存率はNLR高値,mGPS高値はそれぞれNLR低値,mGPS低値と比較し有意に不良であった(Fig.1a, Fig.1b)。死亡例はStageIII以上のみでありStageIII, StageIVにおいてそれぞれNLR値,mGPS値の高低による全生存率の比較も行ったが,いずれのStageにおいてもNLRやmGPSの程度と全生存率とに有意な関連は認めなかった。

図1a. NLR高値における全生存率

LR高値例は全生存率が有意に不良であった.

図1b. mGPS高値における全生存率

mGPS高値例は全生存率が有意に不良であった.

3. 免疫・栄養指標と術後4~8週間の期間内の化学療法導入の可否との関連

対象とした41例のうち術後4~8週間の期間内に化学療法の導入が可能であったのは16例(39%)であった。術後8週間以降に化学療法を導入したのは3例(7%)であり,化学療法が導入されなかったのは22例(64%)であった。内訳として,患者や家族が年齢や認知機能障害,経済的理由などにより希望されなかったのは22例中11例(32%)であった。残りの11例(32%)は主治医の判断で導入されなかった。その理由として高齢であることが2例,腎機能障害や全身性エリテマトーデスをはじめとした併存疾患への影響が懸念されたのが9例であった。術後8週間以内の化学療法導入の可否とmGPSおよびNLRの程度には関連を認めなかった(Table 4)。

表4. 術後4~8週間以内の化学療法導入の可否と免疫・栄養指標との関連

化学療法導入の可否とNLR, mGPSの程度には有意な関連を認めなかった.

考察

大腸癌の予後に関連を有すると思われる因子には癌の量を表す因子,癌の質を表す因子に加え18),栄養・免疫状態を含む宿主環境を表す因子が挙げられ,NLRやmGPSをはじめとした様々な免疫・栄養指標と予後や病理学的因子との関連性が報告されている4-11)

NLRはmGPSと有意に相関していたことから,本検討においても大腸癌患者における免疫状態が栄養状態と密接に関連していることが確認された7,8,11,19)。また本検討では観察期間が2年と短いものの,これまでの報告同様予後と関連することが示された4-7,9,20,21)。本検討では有意な関連性は示されなかったが,これまでにもNLRが腫瘍のサイズやTNM分類における進行度などの様々な因子と関連することが報告されており22,23),安価に測定できることからも臨床的に有用となる可能性は高いと思われる。しかしながらcut off値については報告毎に異なっており5,9,10,20,21,24),今後はさらに検討を進め適切なcut off値を追求していく必要があると思われる。

mGPSはこれまでの報告にあるようなT因子や予後との関連だけでなく,本検討において右側結腸癌やCEA高値,stent留置との関連についても示された。右側結腸癌は左側結腸癌と比較し高齢者に多く,診断が遅れ進行例が多くなる傾向にあることが知られており,便潜血検査での感度,特異度が低いといった背景からも,発見が遅れ食欲低下などにより栄養状態が悪くなりやすいことがmGPS高値との関連として表れたと考察される25)。また炎症反応は遺伝子の変異や不安定性に影響し26),活動性の高い腫瘍はIL-6などのサイトカイン産生を亢進させ肝細胞からのアルブミン産生の低下やCRPの上昇を引き起こすことから27-30),腫瘍の活動性のマーカーであるCEAと炎症反応のマーカーであるmGPSが関連していたと思われた。閉塞性大腸癌と予後や栄養状態との関連については過去にも報告があり16,17),本検討においてもstent留置例にmGPS高値例が有意に多かったことから,stent留置が必要となるような閉塞性大腸癌においては腫瘍そのものによる炎症反応も高値となることが示唆された。

また本検討においてNLRやmGPSと全生存率に有意な関連を認めたことから,その背景として術後の化学療法施行の有無とが関連している可能性を考慮し栄養・免疫状態と化学療法が適切な時期に導入できたか否かとの関連についても検討したが,本検討では有意な関連を認めなかった,化学療法導入ができなかった背景には患者の治療希望がない場合や経済的事情,年齢,併存疾患など様々であり,栄養・免疫状態に限らない複数の要素が早期の化学療法導入に関与していると思われた。

大腸癌患者の10~20%は早期から全身性炎症反応状態と低栄養,癌悪液質を呈する31,32)。術前の免疫・栄養状態で術後の予後をある程度予想することは,個々の患者にとってより適切な治療方針を組み立てる上でも重要であり,NLRおよびmGPSは臨床的に有用な指標であると思われる33)

結語

大腸癌術前のNLR高値例は肺転移が多く予後不良であり,mGPS高値例は右側結腸癌,T3以深,CEA高値,stent留置が多く予後不良であった。NLR高値とmGPS高値は互いに有意に相関していた。術前の免疫・栄養学的評価は患者の予後を予測する上で有用である。

文献
 
© 2023 Fukushima Society of Medical Science
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