見まねは様々な運動学習で広く行われる行動である。見まね運動学習を行うには、学習者はまず自分と他者の身体の対応問題を解き、その上で観察した運動を再現するための、適切な運動指令を生成する必要がある。人はこの計算論的に難しいと考えられる処理を、なんらかの方法で効果的に行っていると考えられるが、そのメカニズムにはまだ分かっていないことが多い。本研究で我々は、学習者を身体転移錯覚下におくことによって、運指運動の見まね学習が促進されるという現象を見出した。コンピュータグラフィクス(CG)により手先の動きのアニメーションを教師として表示し、CGで表示した物体と振動モータによる視覚と触覚の刺激を使って錯覚を起こした。視覚と触覚の刺激が時間的に同期した条件と同期しない条件によって錯覚の強度をコントロールし、学習が同期条件で有意に促進されることが分かった。得られた結果は身体所有感覚の知覚と見まね学習の両方に共有されるメカニズムの存在を示唆するものである。