北海道西南部グリーンタフ地域に位置する大江鉱山から産出する黄鉄鉱,閃亜鉛鉱,方鉛鉱及び重晶石の硫黄同位体組成並びに菱マンガン鉱と方解石の炭素及び酸素同位体比を測定し,鉱石生成に関与した硫黄及び炭素の起源について検討した。硫化鉱物のδ34S値は5.0~10.0‰の比較的狭い範囲を示し,本邦の黒鉱鉱石の値に類似する。一方,菱マンガン鉱のδ13C及びδ18Oの値は各々-6.4~-9.4‰, 2.9~9.9‰である。 Logfo2-pH図上で,全硫黄及び全炭素の同位体比は各々,およそ22‰及び-10‰と推定される。前者は新第三紀の海成硫酸塩の値に相当し,海水硫酸塩が硫化鉱物の鉱化作用に深く関係したことを表しているが,後者及び酸素同位体データは炭酸塩鉱化作用に対する天水の関与を暗示している。故に,西南北海道で観察されるMn-Pb-Zn型鉱脈鉱床の鉱化作用に対しては天水が海成硫酸塩を溶脱する様な機構を考慮に入れる必要がある。