GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ANALYSIS OF FACTORS AFFECTING THE PROLIFERATIVE ACTIVITY OF EARLY UNDIFFERENTIATED GASTRIC CANCER
Hiromi NAKAJIMA Takashi HIROOKAKiyoshi KAWANONobuyuki YORIOKARyouji KOSHIBAMiuki HISAMATSUYukinori MASHIMAYuu MASUOKAYoshinori UEDAMinori KAWAMURAOsami TAKEDAHajime HANNNOShigenori TAKAYANAGITomoomi HIROOKAMakiko TAGUCHIToshio DOZAIKU
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2017 Volume 59 Issue 10 Pages 2500-2507

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要旨

【背景・目的】早期未分化型胃癌の増殖能に対し,影響を与える因子について検討した.【方法】早期未分化型胃癌73症例74病変の内視鏡的,病理学的特徴について検討した.またKi67染色にて増殖能の評価を行い,増殖能に影響を与える因子を検討した.【結果】Helicobacter pyloriH.pylori)陽性例の早期未分化型胃癌は陰性例と比較し,有意に増殖能が高い結果であった.【結論】H.pylori感染が増殖能に影響を与えている可能性がある.

Ⅰ 緒  言

胃底腺粘膜領域の未分化型胃癌はLinitis plastica(LP)型胃癌や浸潤癌に進展することがあり,早期発見が特に重要である.しかしながら早期未分化型胃癌の中でも,短期間で進行癌になる症例もあれば,長期間形態変化せず粘膜内に留まっている症例も経験するが,その増殖能の違いに影響を与える要因はまだ十分解明されていない.そこでわれわれは,早期未分化型胃癌の増殖能に影響を与える因子について検討した.

Ⅱ 対象と方法

2009年1月1日から2015年12月31日の間に,当院でESDもしくは外科的切除を施行された早期胃癌は859病変であった.その中で分化型腺癌,内分泌癌成分を含まない早期の未分化型胃癌は73症例74病変であった.この中で確診前に当院での内視鏡検査歴があり,見落とし,誤診,認識困難などで経過観察したものが17病変あった.

H.pylori感染に関しては,原則的には血清抗体,尿素呼気試験,生検培養の中のいずれかで判定した.明らかに萎縮性胃炎がありH.pylori感染が疑われるが,これらの検査が未施行であり実施困難な症例7例や,上記の検査で陰性であった症例13例に関しては,すべて病理学的に萎縮,腸上皮化生,組織学的胃炎のいずれかがあり,H.pylori陽性と判断した.H.pylori陰性の定義は,①除菌歴なし,②血清抗体,尿素呼気試験,生検培養のうち,施行した検査がすべて陰性,③病理標本のHE染色・Giemsa染色にてH.pyloriを認めず,萎縮・腸上皮化生を認めない,④上部消化管内視鏡検査で萎縮がなく,胃体下部から胃角部小彎におけるregular arrangement of collecting venules(RAC)陽性,⑤ESDもしくは手術材料の切除標本に組織学的胃炎がないこと,すべてを満たすものとした.

粘膜内発育形式に関しては,藤崎らの報告 1),2に倣い,粘膜中層のみに癌が分布しているものを中層,粘膜中~表層に分布しているものを中~表層,粘膜中~下層に分布しているものを中~下層,粘膜全層に分布しているものを全層と分類した.組織型は,病理標本にてsig(signet-ring cell carcinoma)のみで構成された病変(sigのみ)と,sigとpor(poorly diffentiated adenocarcinoma)が混在する病変もしくはporのみで構成された病変(porが含まれるもの)の2つに分類した.肉眼型は0-Ⅱbと0-Ⅱb以外の2つに分類した.増殖能に関しては,Ki67染色を行いKi67 indexが2%以下の群(Ki67≦2%)と2%を超える群(Ki67>2%)の2つに分類した.

統計に関しては,データの解析にはSPSSを使用した.単変量解析においては,年齢,腫瘍径には正規性検定(Kolmogorov-Smirnov)を行い,正規性がある場合にはF検定を行い両群の分散が等しい場合にはt検定,等しくない場合にはWelch検定を用いた.正規性がない場合にはMann-Whitney U検定を行った.その他においては,Fisherの直接確率法を用いた.各検討において,p値が0.05未満のものを統計学的に有意差ありと判定した.多変量解析には二項ロジスティックモデルを用い,オッズ比により評価した.

なお,本研究は府中病院倫理委員会の承認を得て施行した.

Ⅲ 結  果

Ki67 indexと粘膜内発育形式・深達度の関係について検討した(Table 1).Ki67≦2%では,粘膜内発育形式はすべて粘膜中層もしくは中~表層に留まっていた.Ki67 indexが上昇するにつれ,粘膜内発育形式は全層となったり,深達度がSMとなったりする割合が高くなり,相関を認めた.

Table 1 

Ki67 indexと粘膜内発育形式・深達度の関係.

Ki67≦2%とKi67>2%の2群に分け,その特徴について検討した(Table 2).Ki67>2%は74例中58例で78.4%であった.Ki67>2%ではほとんどH.pylori陽性例であり,Ki67≦2%はH.pylori陰性例の割合が高かった.Ki67>2%はKi67≦2%と比較して,腫瘍径が大きいものが多く,深達度はSMである割合が高く,Mであっても粘膜内発育形式が全層の例が多かった.またporの割合が高く,腸上皮化生がある割合も高かった.病変部位はKi67>2%ではM領域が多かったが,Ki67≦2%ではL領域が多かった.肉眼型はKi67>2%は,ほとんど0-Ⅱb以外であるのに対し,Ki67≦2%ではほとんど0-Ⅱbであった.性別でみると,Ki67>2%は男女間に差はなかったが,Ki67≦2%は男性が多かった.

Table 2 

Ki67≦2%かKi67>2%かによる特徴.

Ki67≦2% Ki67 indexが2%以下の群;Ki67>2%(Ki67 indexが2%を超える群);NS not significant.

Table 2で検討した項目は交絡因子が多数含まれると考えられるため,多変量解析を行い,オッズ比を検討した(Table 3).病変数が少ないため,検討する項目は3~4個とした.モデル1ではKi67>2%に対するH.pylori陽性,年齢,男女比で検討したが,H.pylori陽性のオッズ比は121.5であり,H.pyloriが強く増殖能に影響していると考えられた.モデル2ではモデル1に含まれた項目以外に腸上皮化生を追加し検討したが,Ki67>2%に対するH.pylori陽性例のオッズ比は高く,腸上皮化生も高かった.モデル3ではモデル1に肉眼型を加え検討したが,H.pylori陽性と肉眼型が0-Ⅱb以外であることは増殖能に影響していることを示唆する結果であった.モデル4ではモデル1に病変部位を加え検討したが,やはりH.pylori感染は増殖能に影響しており,病変部位がL領域に対しM領域であることのオッズ比も高かった.

Table 3 

Ki67>2%に対する多変量補正後のオッズ比.

Ki67>2% Ki67 indexが2%を超える群.

当院にて経過観察した17病変のうち,H.pylori陰性症例は5病変であった.経過観察期間は9カ月,12カ月,17カ月,20カ月,31カ月間であったが,内視鏡像はすべての症例においてほとんど変化がなく,切除標本の深達度はすべてMであった.Figure 1H.pylori陰性であり,12カ月経過観察した例であるが,内視鏡像にほとんど変化はなかった.病理標本ではsigでM癌であり,Ki67染色では腫瘍細胞はほとんど染色されておらず,Ki67≦2%と診断した.

Figure 1 

【症例1】60代女性 H.pylori陰性 Ki67≦2%.

a:内視鏡像(初回).

前庭部大彎に褪色域を認めた.

b:内視鏡像(12カ月後).

初回の内視鏡像とあまり変化がみられなかった.

c:病理組織像(H.E.染色,×20).

粘膜中層に髄様に増殖した印環細胞癌を認めた.炎症細胞浸潤はほとんど認めない.ESDを施行した.腫瘍径は12mmであり,sig,pT1a,ly0,v0,pPM0,pDM0であった.

d:病理組織像(Ki67 免疫染色,×20).

腫瘍細胞はほとんど染色されていなかった.

Figure 2H.pylori陽性例である.胃角部大彎に発赤調の陥凹を認めた.21カ月前の初回内視鏡検査時では同部位に病変は指摘できなかった.病理標本ではporでM癌であり,Ki67>2%であった.Figure 3H.pylori陰性だが,Ki67>2%であった症例である.粘膜全層に炎症細胞と共にばらばらにsigとporの浸潤を認めた.

Figure 2 

【症例2】70代男性 H.pylori陽性 Ki67>2%.

a:内視鏡像(初回).

胃角部大彎に明らかな病変は指摘できなかった.

b:内視鏡像(21カ月後).

胃角部大彎に発赤調の陥凹を認めた.

c:病理組織像(H.E.染色,×4).

粘膜全層にporの浸潤を認めた.幽門側切除術を施行した.腫瘍径は9mmであり,por,pT1a,ly0,v0,pN0,pPM0,pDM0であった.

d:病理組織像(Ki67 免疫染色,×4).

Ki67 indexは26%であった.

Figure 3 

【症例3】60代男性 H.pylori陰性 Ki67>2%.

a:内視鏡像.

胃角上部小彎に発赤調の0-Ⅱcを認めた.

b:病理組織像(H.E.染色,×10).

粘膜全層に炎症細胞に混じり,ばらばらにsigとporの浸潤を認めた.幽門側胃切除術施行した.腫瘍径は15mmであり,sig>por,pT1a,ly0,v0,pN0,pPM0,pDM0であった.

c:病理組織像(Ki67 免疫染色,×10).

Ki67 indexは45%であった.

Ⅳ 考  察

中村は胃癌を分化型癌,未分化型癌の2つに分類し,分化型癌は腸上皮化生を背景として腺管形成を示す癌とし,未分化型癌は胃固有粘膜から発生する腺管形成のみられない癌として定義しており,未分化型癌の中にsig,porが含まれる 3.長屋らは,sigのみの病変の中には粘膜内重層構造をとり,増殖能が低いものがあるが,porが含まれる病変では粘膜内重層構造が認められないため,sigのみの病変とporが含まれる病変は分けて考える必要があると述べている 4.そこで今回の検討では組織型をsigのみとporが含まれるものの2群に分けた.

今回われわれは早期未分化型胃癌の増殖能に影響を与える因子について検討した.増殖能はKi67染色にて評価した.未分化型胃癌の増殖能を評価するためのKi67 indexの基準値は統一されたものがないため,神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor;NET)の2010年WHO分類に準じ,Ki67 indexが2%以下の群,2%を超える群の2つに分類し,多変量解析にて検討した.モデル1~4で検討したが,いずれの方法でもH.pylori感染が増殖能に有意に影響を与えていることを示唆する結果であった.また,背景粘膜に腸上皮化生があること,肉眼型が平坦病変でないこと,病変部位がL領域よりM領域であることも増殖能に影響を与えていると考えられた.

まず,H.pylori陽性,腸上皮化生があること,肉眼型が平坦病変でないことが増殖能に関連していることに関して考察する.Table 2では深達度,粘膜内発育形式,組織型も検討項目に入れていたが,いずれも0を含む項目があり,多変量解析の検討項目に入れることはできなかった.しかしながら,H.pylori陽性であることと,深達度がSMであること,またMであっても粘膜内発育形式が全層であること,組織型がporであること,腸上皮化生があること,肉眼型が平坦病変でないことは互いに強く関連していると考えられた.堀内らはH.pylori陽性例の早期未分化型胃癌はH.pylori陰性例と比較してKi67 indexが高値であると報告しており 5,今回の結果と一致していた.またH.pylori陽性例の胃癌は,除菌後の胃癌と比較しKi67 indexが有意に高かったとの報告 6),7もあり,H.pyloriは増殖能に影響していると考えられる.当院で経過観察となったH.pylori陰性5病変の内視鏡像に,ほとんど形態変化がなかったこともH.pylori陰性例の増殖能はそれほど高くないことと矛盾しない.

H.pylori感染が増殖能に影響する機序は不明であるが,堀内らはH.pylori陽性例ではH.pylori陰性例よりも背景粘膜の炎症細胞浸潤が強いことが多く,炎症細胞浸潤により増殖能が亢進し,DNA合成や細胞分裂が活発化するのではないかと述べている 5.今回の検討でも癌胞巣内への炎症細胞浸潤,すなわちリンパ球を主体とする単核球浸潤および間質の線維化などの間質反応がある症例は,癌細胞がばらばらに増殖し,Ki67 indexが高い傾向があった.反対に,癌胞巣内にほとんど炎症細胞浸潤がない症例は癌細胞が髄様に増殖し,Ki67染色ではほとんど染色されず,癌胞巣における炎症細胞浸潤と増殖能の関連が疑われた.Figure 3の症例はH.pylori陰性であったが,炎症細胞浸潤があり,Ki67>2%であった.病理標本では粘膜全層に炎症細胞に混じりsigとporを認めた.H.pylori陰性であっても時間経過と共に腫瘍容積が大きくなり,虚血となり陥凹し炎症細胞浸潤が起こると増殖能が高くなる可能性が考えられる.

病変部位がL領域よりもM領域であることも,増殖能に影響を与えていることを示唆する結果であった.Figure 2の症例はM領域で増殖能が高いと考えられる病変である.胃角部大彎に発赤調の陥凹を認めたが,21カ月前の初回内視鏡検査時には同部位に病変は指摘できず,手術標本にてKi67>2%であった.林らの報告でも遡及的検討で進展の速い胃癌はM領域の未分化型胃癌が多かったと述べており 8,今回の結果と一致している.L領域に対しU領域では有意差はでなかったが,U領域の病変数が少なかったことによる可能性もある.今後も症例を蓄積し,検討していきたい.

以前微小印環細胞胃癌4例について検討し 9,今回は未分化型胃癌の増殖能に影響を与える因子について考察した.今後はLP型胃癌や浸潤癌の原発部位,H.pylori感染の有無などを明らかにし,未分化型胃癌がどのように進展していくのかを検討していきたい.

Ⅴ 結  論

早期未分化型胃癌の増殖能に影響を与える因子について文献的考察を加えて報告した.H.pylori感染が早期未分化型胃癌の増殖能に影響を与えている可能性があり,今後の症例の蓄積,更なる検討が必要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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