GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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PREVENTION AND TREATMENT OF ADVERSE EVENTS OF ENDOSCOPIC ULTRASOUND-GUIDED PROCEDURES
Takeshi OGURA Kazuhide HIGUCHI
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2017 Volume 59 Issue 12 Pages 2693-2706

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要旨

超音波内視鏡ガイド下治療は,超音波内視鏡下穿刺吸引法のadvanced techniqueとして現在発展を遂げてきている.膵仮性嚢胞ドレナージ術や,胆管・膵管ドレナージ術など様々な報告がなされている.本手技の発展により,今まで治療困難であった病態に関しても治療可能となり,その有用性が期待される.手技成功率は,一般的に良好である報告が多いが,一方でその偶発症の頻度も高く報告されている.中には重篤で,時として致死的な偶発症も報告されている.本手技を施行するにあたっては,起こりうる偶発症の種類を熟知し,生じた場合の対処法を知っておくことが大切である.何より,偶発症を生じないよう,防止策を二重,三重に講じておくことが極めて重要である.

Ⅰ 緒  言

超音波内視鏡(Endoscopic ultrasound:EUS)は,胆膵疾患の診断に極めて重要な役割を担っている.特にEUS下穿刺吸引法(EUS-guided fine needle aspiration:EUS-FNA)は,各種腫瘍に対する組織採取法として,広く普及してきている.さらに近年では,本手技を応用した種々のEUSガイド下治療が発展し,その有用性が多数報告されている.一方で,偶発症の頻度は比較的高く,時として重篤であるものもあるため,手技の施行にあたっては起こりうる偶発症を熟知し,生じた場合にどのように対処するかを,常に念頭において手技を行うことが肝要である.当然,偶発症が生じないよう,その予防に努めることが最も重要であることは言うまでもない.

本稿では,紙面の都合上,特に本邦で比較的多くの施設で行われているであろう,①膵炎後の合併症,特にwalled-off necrosisに対するEUS下ドレナージ術(ネクロゼクトミーを含む),②EUS下胆道ドレナージ術,③EUS下膵管ドレナージ術を中心に,EUSガイド下治療における偶発症の予防と対処法と題し,文献的考察を中心に概説する.

Ⅱ 膵炎後合併症に対するEUSガイド下治療における偶発症への対処と予防法

膵炎後合併症に対する治療の絶対適応は,改訂Atlanta分類 1によると,膵炎発症後4週以降で,感染を来した膵仮性嚢胞(Pancreatic pseudocyst:PPC),被包化壊死(Walled-off necrosis:WON)とされている.本病態では,感染を伴った壊死物質が存在し,敗血症から多臓器不全に至り,致死率は50%にも及ぶとされる.そのため,抗生物質を主軸とした全身治療に加え,ドレナージによる局所治療が必要となる.現在では,EUS下ドレナージ術および内視鏡的ネクロゼクトミー(Endoscopic necrosectomy:EN)が広く普及し,外科的ドレナージ術よりも低侵襲で,まず考慮すべき治療法とされている 2)~4.近年では,金属ステントや,専用大口径メタルステントを用いたEUS下ドレナージ術が多数報告され,治療成績の向上が期待される.特に専用大口径メタルステント留置後は,後日瘻孔拡張を行うことなく,ENに移行することが可能なため,プラスチックステントに比し,短期間で治療でき,有用性が高いと考えられる 5)~10.なお,手技の詳細や,治療のタイミングなどについては本誌にて詳細に述べられているので参照されたい 11

PPCに対するEUS下ドレナージ術は,処置具の発展,手技の安定化により,比較的安全性が高く,偶発症の頻度は0~9%程度と報告されている 12),13.一方,感染性WONに対するEUS下ドレナージ術,特にそれに引き続くENの偶発症の頻度は比較的高く報告されている.本邦ではYasudaら 14が,多施設後ろ向き研究として,WONに対するENの成績を纏めて報告している.16施設,57症例の感染性WONの検討で,偶発症の頻度は33%で,内訳は出血が9例,穿孔3例,その他に空気塞栓,脾動脈瘤破裂などであった.また,死亡率は14%で,死亡理由は,多臓器不全2例で,その他空気塞栓,脾動脈瘤破裂,出血などであったとしている.また,米国からはGardnerら 15が,6施設,104症例の感染性WONの検討で,偶発症は14%に見られ,内訳は出血3例,後腹膜穿孔3例,腹膜炎3例,感染4例,空気塞栓1例で,死亡例は1.9%であったとしている 15.近年では,専用大口径メタルステントを用いたEUS下ドレナージ術が施行されているが(Figure 1-a 16)~20,先述したごとく,本手法は瘻孔拡張をすることなくENが施行可能で,内視鏡の出し入れが容易に繰り返し可能であるため(Figure 1-b),拡張操作に伴う出血や,処置時間の短縮から空気塞栓のリスクが低下することが期待される.

Figure 1

a:大口径メタルステントを用いた超音波内視鏡下嚢胞ドレナージ術.

b:本メタルステントは22mm径であるため,ステントを留置したまま,内視鏡の出し入れが容易に可能である.

c:ネクロゼクトミー中,血管が走行している場合があり,損傷しないように注意が必要である(矢印).

①出血への対応と予防法

最も頻度の高い偶発症は出血であるが,その予防と対処は,手技の完遂の観点からも極めて重要である.まず出血素因の有無を血液検査や,既往・内服歴で確認する.加えてドレナージ前に必ず造影CTを撮像し,嚢胞内の血管の有無,動脈瘤の有無を確認しておく.EUSガイド下治療全般に共通することであるが,穿刺時はスコープのアップアングルが強く掛かっている状態では,特に介在する消化管の静脈血管血流を拾いにくいため,アングルを緩めて介在血管の有無を確認することが重要である.瘻孔拡張時に出血した場合は,バルーンカテーテルや,メタルステント留置 21による圧迫止血が有用であることがある.EN施行中に血管が露出し,感染に伴う炎症波及から,仮性動脈瘤を形成してくることがあるため,1~2週に1回程度のCT評価を行っている施設が多い 10),22.動脈瘤が認められた場合は,コイル塞栓術を先行させるほうが安全である.EN中は,洗浄をこまめに行いながら十分な観察を行い,血管を損傷しないように留意することが重要である(Figure 1-c).損傷した場合は,クリップや,APCで止血を試みるが,動脈性で,視野確保が困難な場合を想定し,常にIVR医や外科医と連携を密にしておくことも重要である.

②空気塞栓への対応と予防法

空気塞栓は,稀であるものの,生じた場合は致死的となりうる偶発症である.その予防には,CO2送気で処置を行うことで,発症頻度を著明に低下させることが可能である.しかし,CO2を用いても致死的な塞栓を起こした症例も報告されているため 23,処置時間が超過しないよう,複数回に分けて行うことも重要であると考えられる.

③穿孔への対応と予防法

Varadarajuluら 24は,148例の検討において,2例の穿孔を報告している.外科的加療が行われたが,開腹所見では,胃と膵臓の癒着が認められず,ドレナージによる嚢胞縮小効果により,胃壁と嚢胞壁が離れたために,ステントが迷入し,結果として穿孔が生じたとしている.このように,ドレナージ前にCT等で消化管壁と嚢胞壁の癒着の有無を評価することが重要で,距離が長く,癒着していない症例ではその適応を慎重にすべきである.また,ガイドワイヤーと同軸でない通電針や,大口径のバルーンカテーテルによる穿孔も報告されており 25)~27,同軸の通電ダイレーターや,段階的に鈍的に拡張を行う方法が,より安全性が高いとされている 28.CO2を用いて処置を行うことで,穿孔が生じた場合でも,外瘻tubeを留置することで保存的に加療できることが多いが ,無論,外科との連携を常にとっておくことが重要である.

④ステント迷入への対応と予防法

経食道穿刺あるいは,Cardiaから穿刺した場合は,ステント留置の際,内視鏡上視野確保が困難なことが多く,両端Pig型プラスチックステントの迷入を来したと報告されている 24.また,メタルステント留置に関しては,確実に胃壁を介して留置させるため,Scope channel release technique 29を用いるか,十分長のステントを選択することが迷入防止に良いと思われる.近年では,迷入防止に適したlumen apposing typeのメタルステントの報告が多数なされているが,本ステントを用いても迷入する可能性もあるため,過信は禁物である 16)~20.留置時に嚢胞内に迷入した際は,ガイドワイヤーが留置されている場合,ガイドワイヤー越しにステントの追加留置や,回収が可能であることがあるため,ガイドワイヤーを最後まで抜去しないことが重要である 30.なお,メタルステントの長期間の留置は,肉芽組織が嚢胞側のアンカー部分に食い込むことより抜去困難 31となることがあるため,WON治療後は1-2カ月後に抜去するのが良いとされている 10

Ⅲ EUS下胆道ドレナージ術における偶発症への対処と予防法

EUS下胆道ドレナージ術(EUS-guided biliary drainage;EUS-BD)は,経胃ルート(EUS-guided hepaticogastrostomy;EUS-HGS)と,経十二指腸ルート(EUS-guided choledochoduodenostomy;EUS-CDS)に大別される.胃全摘後等により,小腸から穿刺する場合(EUS-guided hepaticojejunostomy;EUS-HJS)や,順行性に胆管にステント留置を行う場合(EUS-guided antegrade stenting;EUS-AS)もある.さらに胃,もしくは十二指腸から胆嚢ドレナージを行うEUS-guided gallbladder drainage(EUS-GBD),ランデブー法(EUS-guided rendezvous;EUS-RV)など,手技は多岐にわたり,各々に応じた偶発症に対する対処,予防法も若干異なるが,主にEUS-CDSおよびEUS-HGSの偶発症に対する対処,予防法を熟知しておくことで,応用が効くため,本項ではこれらを中心に概説する.なお,EUS-BD全体の偶発症として,比較的大きな臨床研究をまとめた報告では,3.4~38.6%と報告されている 32.また,Non-Expertが施行したEUS-CDSおよびEUS-HGSの偶発症の頻度 33は各々15.3%,29%であるのに対し,Expertが施行した場合 34は,各々13.3%,19.7%と報告されており,EUS-BDの偶発症発生率には術者因子も比較的多く占めているのも事実である.

①超音波内視鏡下胆管十二指腸吻合術(EUS-CDS)

十二指腸球部から肝外胆管を穿刺し,ステントを留置する.注意すべき偶発症は,十二指腸粘膜,あるいは筋層を織り込んでの穿刺,所謂double punctureである.その他,EUS-HGSとはことなり,胆管と消化管との間に介在する実質臓器がないため,胆汁瘻を来たしやすいことが挙げられる.

1)Double punctureへの対応と予防法

十二指腸球部での内視鏡の押し引き操作により,おのずと本偶発症は生じうる可能性がある.十二指腸粘膜を織り込んで穿刺した場合,通常よりも瘻孔拡張操作に難渋することが多い.十二指腸粘膜のみを織り込んで穿刺した場合は(Figure 2-a),出血程度で済むが 35,筋層を織り込んで穿刺した場合は,穿孔を生じる.実際,多量のfree airが生じたものの,メタルステントを留置したことで,保存的加療で軽快した報告もあるが 36,重篤な偶発症となりうる可能性が考えられる.本偶発症防止には,直視型コンベックスの使用が有用であると報告されている 37.しかし本内視鏡はどの施設にも常備されているものではなく,ガイドワイヤーを肝側に向けるために,穿刺角度のコツが必要なため,やや難易度が高い.本偶発症防止には,十二指腸粘膜を介在して穿刺しないことが重要である.穿刺前にEUS上に見られるdouble mucosal signがみられた場合は(Figure 2-b 38,生理食塩水の注入,あるいは内視鏡の送水機能を使用することで,十二指腸粘膜が伸展され,穿刺針と総胆管壁にスペースができる(Figure 2-c).さらに穿刺針のシースを長く出して総胆管壁に密着させてから穿刺を行うことで本偶発症は防止可能である.

Figure 2

a:十二指腸粘膜の二重穿刺.筋層を貫いた場合は,穿孔を生じる可能性がある.

b:Double mucosal sign(矢印).穿刺前に本signの有無を確認することが重要である.

c:水を注入することで,十二指腸粘膜と内視鏡との間にfree space(矢印)が出現し,二重穿刺を回避できる.

2)胆汁瘻への対応と予防法

先述した如く,総胆管と十二指腸との間には,肝臓などの実質臓器が介在しないため,穿刺孔と留置したステントの間隙から胆汁が漏出する可能性がある 35.本偶発症は,プラスチックステントを留置した際に顕著 39で,基本的にEUS-CDSでは,メタルステントを留置することが推奨されている.カバーなしメタルステントを留置し,胆汁瘻を来して死に至った症例が報告されており 40,カバー付きメタルステントが,偶発症の観点からも強く推奨される.

②超音波内視鏡下胆管胃吻合術(EUS-HGS)

胃内(術後再建腸管では,挙上空腸)から肝内胆管を穿刺し,ステントを留置する.Sharaihaら 41は,EUS-BDと,経皮経肝胆管ドレナージ術(PTCD)との比較したメタアナリシスを報告しており,Expertが施行すれば,PTCDに比し,臨床的有効率や,偶発症,Re-intervention率が低いと報告している.また,Khashabら 34は,術後再建腸管症例において,EUS-BDと,小腸内視鏡下ERCPを比較検討し,術者の技量や,患者背景などによるが,EUS-BDのほうが,手技時間が短く,臨床的有効率も高かったと報告している.このように,EUS-HGSもしくはEUS-HJSは,腫瘍による十二指腸狭窄あるいは術後再建腸管症例でも施行可能なため,手技が成功すればその恩恵は大きい.しかし,特にEUS-HGSの偶発症は時として重篤であるため,その対処,予防法を熟知し手技に望む必要がある.

1)胆汁性腹膜炎,胆汁瘻への対応と予防法

文献により定義が曖昧なため,正確な発生頻度は不明であるが,EUS-HGS後に腹痛,発熱があれば,胆汁性腹膜炎を疑う.胆汁瘻は,最近の症例数100以上での報告を纏めると,3.9%(17/432)程度である 33),34),42),43.これらの偶発症の防止には,まずデバイス交換回数を減らすことが挙げられる.瘻孔部にガイドワイヤーのみが留置されている場合は,瘻孔部より胆汁が腹腔内に漏出するためである.Parkら 44は,EUS-BD 32例のうち,先端3Frのデリバリーシステムを有する新規メタルステントを用い,瘻孔拡張操作なしでステント留置した群16例(うちEUS-HGSは9例)と,通常法と比較検討した結果,有意に手技時間が短かった(P=0.007)とし,胆汁性腹膜炎を中心とした偶発症低減に寄与する可能性を示唆している.

われわれも 45,先端3Frの新規バルーンカテーテルを用い,デバイス交換を1回とする前向き試験を行った結果,胆汁性腹膜炎が認められたのは20例中,1例のみであった.さらに,本偶発症防止のために,EUS-HGSに先行して順行性にステント留置(EUS-guided antegrade stenting:EUS-AGS)する試みも報告されている(Figure 3-a~c 46),47.また,プラスチックステントに比し,メタルステントを留置することで本偶発症を低減させる可能性が示唆されている 39),48.なお,胆汁瘻は,術後数日でも発症しうるため(Figure 3-d 49,定期的な腹部CTによる経過観察が望まれる.

Figure 3

a:中部胆管に狭窄が認められる.

b:細径デリバリーシステムからなるアンカバーメタルステントであれば,瘻孔拡張操作なく挿入できることが多い.

c:下部胆管から上部胆管にかけて順行性にメタルステントを留置.

d:胆汁瘻(矢印)は,遅発性に生じることもある.

2)出血への対応と予防法

最近のsystematic review 48によると,出血の頻度は4.03%(278/1,192)であり,もっとも頻度の高い偶発症の一つとされている.出血は,早期に生じる場合と,後期に生じる場合で対応が異なる.早期の場合は,ほとんどが穿刺時の血管損傷や,瘻孔拡張操作による影響が考えられる.そのため,出血部位が視認可能であれば,クリッピングを中心とした通常の止血術を施行し,不能な場合は,メタルステント留置による圧迫止血が有効であるとされる 10.後期に生じる場合は,血管損傷から生じた動・静脈瘤であることがあり,血管塞栓術が必要であった症例も報告されている.予防法に関しては,穿刺時にカラードップラーを使用し,介在血管を避けて穿刺すること,肝内胆管周囲の血管を損傷しないよう注意して穿刺針を進めることに尽きる.先述したごとく,メタルステントの使用は,偶発症頻度の低減に有効であるとされ,systematic review 48では,有意に偶発症の頻度が低かったとされている(17.52% vs 31.03%,P=0.013).また,瘻孔拡張操作に使用するデバイスにより,出血の頻度が異なる可能性が考えられる.同review 48において,Needle-knife,バルーンカテーテル,Cystotomeを用いてEUS-BDを行った場合の偶発症(出血以外も含む)の頻度は各々,20%(49/249),20.37%(44/216),38.4%(10/26)とされている.理論的には,通電法は周囲のburning effectによる血管損傷の可能性があるため,バルーンカテーテルによる鈍的拡張法が出血のリスクが少ない可能性が考えられるが 45,最近のガイドワイヤーと同軸であるCystotomeの安全性を報告する施設も多く,さらなる比較試験で検証する必要があると考えられる.

3)ガイドワイヤー損傷への対応と予防法

EUS-CDSとは異なり,肝内胆管は屈曲や,1周回転して総胆管に合流していくため,穿刺針にガイドワイヤーを挿入した後,種々の操作が必要となる.この際,穿刺針と,ガイドワイヤーが干渉し,抵抗がある状態で無理な操作を行うと,ガイドワイヤー断裂が生じうる(Figure 4-a,b 32),50.本偶発症の予防法は,まず適切な穿刺胆管の選択が重要である.EUS-HGS前にMRCPなどで胆管走行を確認し,EUS上でイメージしていた胆管走行と合致するかを確認する.ガイドワイヤーを肝門側に向けるため,EUS上で左上方から右下方へ向かう枝を選択すれば,概ねガイドワイヤーは肝門側へ向かう 51.それでも末梢側にガイドワイヤーが誘導されたり,引き操作により穿刺針と干渉した場合は,無理に操作せず,一旦ガイドワイヤーを押し込み,穿刺針を肝実質まで引くことで,穿刺針先端が肝実質でimpactionされるため,その後のガイドワイヤー操作が可能になる(Liver impaction technique)(Figure 4-c~e 52

Figure 4

EUS-HGS時のガイドワイヤー操作による断裂(a:レントゲン像,b:腹部単純CT).

c:ガイドワイヤーが末梢側に挿入されている.

d:穿刺針を肝実質まで引くことで,穿刺針先端が肝実質で圧迫されるため,ガイドワイヤー操作が可能となることが多い(矢印が穿刺針先端).

e:ガイドワイヤーの肝門側への挿入が可能であった.

4)ステント迷入への対応と予防法

Wangら 48は,1,192症例を纏めたsystematic reviewの中で,EUS-BD全体の偶発症の頻度は23.32%(278/1,192)であったとし,その中でステント迷入は2.68%に見られたと報告している.本偶発症は,EUS-BDの中でもっとも重篤であり,生じた場合は,外科的加療が必要となることが多く,時として致死的である 53)~55.よって,迷入が生じないよう最大限の予防策を講じて臨む必要がある.現在まで,種々の工夫が報告されている.Choら 56は,肝内胆管側がアンカバー部分で,腹腔・胃内側がカバー部分で構成され,かつ迷入防止用のプラップが付いたHybrid metal stnetを用いた使用成績を報告している.これによると,EUS-HGS 21例に本ステントを使用し,経過観察期間中(中央値148.5日)に迷入・逸脱は認めなかったと報告している.しかし本ステントは現時点で本邦では使用不能であるため,迷入を防止するには,ステント長の長いものを使用するのが良いと思われる.われわれは,8cm,10cm,12cm長のカバー付きステントを使用した症例を後ろ向きに検討し,胃内のステント長が,3cm以下の症例に比し,3cm以上である場合は,ステントの開存期間が良好で(52日 vs 195日,P<0.01),かつ迷入を含む偶発症が少ないという結果であった 57.Nakaiら 58も,10cmもしくは12cm長のステントを用いてEUS-HGSを行った33例を後ろ向きに検討し,迷入は1例も認めなかったと報告している.ただし,術前の腹部CTで肝実質と胃壁が離れている場合,ステント留置法を誤ると,ステント長の長いものを用いても,胃壁の伸展性のため,迷入を生じうる(Figure 5-a,b).胃壁を介さずにステント展開を行うと,腹腔内でステント展開が行われる.そうすると,肝臓と胃の距離が離れていき,腹腔内迷入が生じうる 59.肝臓と胃を圧着させながらステント展開を行うことで,肝と胃の距離が短くなるため,腹腔内迷入のリスクはかなり低減できると考えられる.そのためには,肝と胃を内視鏡のアップアングルで圧着させたまま,ステント展開を内視鏡内1~3cm程度まで行い,その後に内視鏡を少し引いて,ステントデリバリーを下方に押す.そうすることで内視鏡上,ステント展開の視認が可能になり,安全にステント留置ができる(Intra-scope channel release technique) 29.実際,術後CT上も肝臓と胃壁が圧着して留置されているのがわかる(Figure 5-c,d).最近では,片側(胃側)がPig tail構造で,迷入防止のため,4つのフラップが付いた8Frの新規のEUS-HGS用プラスチックステントが使用可能となった.Umedaら 60は,これを用い,23例のEUS-HGSを施行し,観察期間中央値5カ月でステントの迷入・逸脱は1例も認めなかったと報告している.特に管腔の狭いEUS-HJSではメタルステントよりもre-intervention時のこと等を鑑みると,有用であると考えられる.

Figure 5

肝実質と胃壁との距離が長い場合は,長いステント長のメタルステントを用いても胃壁の伸展性のため迷入する可能性がある(a:留置前,b:留置後).

Intra-scope channel techniqueを用いたEUS-HGSのCT(c:留置前,d:留置後).肝実質と胃壁が圧着して留置されているのがわかる.

以上のように,種々の工夫がなされているが,腹腔内にステント迷入が生じた場合は,先述したごとく,外科的加療が必要となることが多い.留置時のステント迷入の場合は,ガイドワイヤーが留置されていれば,ステントの追加留置によりre-interventionが可能であったとの報告 61や,EUS-AGSを施行していたおかげで,重篤な事態になることなく保存的に経過観察しえた報告 62もある(Figure 6-a~c).いずれにせよ,重篤な偶発症であることを肝に銘じ,迷入の可能性を常に念頭におき,手技にあたることが肝要である.

Figure 6

a:10cm長のステントを用いてEUS-HGSを施行した.デリバリーを引いて,食道内であることを確認して留置した.その後胃内に落とした際に完全に腹腔内に迷入した.

b:術直後のCT.EUS-AGSを施行していたため,胆管内が減圧され,腹腔内への胆汁漏出は認めなかった.

c:2週間後の腹部CT.胆汁漏出は認めず保存的に改善した.

Ⅳ EUS下膵管ドレナージ術における偶発症への対処と予防法

EUS下膵管ドレナージ術(EUS-guided pancreatic duct drainage:EUS-PD)には,膵管と消化管を吻合するdrainage法(Figure 7)と,ランデブー法(Figure 8)に大別される 63.手技の種類は多岐に渡るが,その頻度は5%~43%と報告されている 64)~67.Tybergら 68は,複数国の多施設共同研究として,EUS-PD 80例について後ろ向きに検討している.この報告によると,手技成功率は89%(71/80),臨床的有効率は81%(65/80)であったとし,偶発症は,早期偶発症が20%(16/80)に,後期偶発症が11%(9/80)に認められたと報告している.早期偶発症は,4例が中等度(腹痛3例,出血1例),12例が重症(膵炎6例,仮性嚢胞4例,膵液瘻1例,穿孔1例)であった.後期偶発症は,腹痛1例,穿孔1例,膵炎2例,膵液瘻1例,膵膿瘍4例であった.これらのうち,穿孔は外科的加療が必要で,その他は保存的に軽快したと報告している.

Figure 7

a:19G針で主膵管を穿刺.造影剤を注入し,膵管像を得る.ガイドワイヤーが末梢側に向く形での穿刺になる場合は,一旦十二指腸下行脚まで内視鏡を落としてから引き抜き走査で穿刺すると良い.

b:バルーンで瘻孔拡張を行う.

c:主膵管から胃内にかけてプラスチックステントを留置.

Figure 8

a:19Gで主膵管を穿刺.

b:ガイドワイヤーを十二指腸へ十分に留置する.

c:ガイドワイヤーのみを残したままEUSを抜去する.

d:ガイドワイヤーをスネア等で把持してもよいが,膵管口からガイドワイヤーがでるため,それに沿って挿管を行ってもよい.また,狭窄部をガイドワイヤーが通過するため,直線化し,狭窄突破が容易になることも多い.

e:膵管ステントを留置.

以上のように,本手技は,手技成功率,偶発症の頻度から,Expertにより施行されるべきであると思われる 69.本手技に伴う偶発症である膵炎は,ERCPと同様一定の頻度で生じうると考えられるが,回避すべきは膵液瘻で,膵液漏出が持続した場合は,重篤化することが予想されるためである.よって,一度主膵管を穿刺した場合は,ランデブー法にしろ,消化管吻合術にしろ,ドレナージをかならずおくことが重要である.Tybergら 68も,有意差はないものの,手技不成功例での偶発症の頻度が高く,手技を完遂させることの重要性を述べている.なお,膵液瘻に対し,ヒストアクリルを瘻孔内に注入し,加療しえた報告 70や,近年では,迷入防止のための新規プラスチックステントや,カバー付きメタルステントを使用した報告 71),72もあるが,少数例での検討であり,今後さらなる臨床研究が必要である.

Ⅴ 最後に

超音波内視鏡ガイド下治療における偶発症への対処と予防法について概説した.EUSガイド下治療における偶発症は,術者の技量による影響も少なからず存在する.偶発症は時として重篤であり,生じうる偶発症の種類を熟知し,生じない最善の方法を用いて行うこと,生じた場合を想定し,準備を万全にして手技に望むことが重要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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