GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF PRIMARY INTESTINAL TUBERCULOSIS CAUSING ILEUS AND AN ANALYSIS OF PREVIOUS REPORTS IN JAPAN
Tomoki SAKAKIDA Yusuke OKUYAMAYoshikazu NAKATSUGAWATakumi KAWAKAMIShinnya YAMADANaoya TOMATSURIHideki SATOHiroyuki KIMURANorimasa YOSHIDAYoji URATA
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2017 Volume 59 Issue 12 Pages 2725-2731

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要旨

53歳,女性.腸閉塞にて入院し,イレウス管による減圧術を施行した.下部消化管内視鏡検査では回腸末端部に不整潰瘍を認め,管腔は狭小化し,盲腸に輪状配列傾向のびらんを認めた.腸閉塞が遷延するため,狭窄部を含む回盲部切除術を施行した.切除組織の抗酸菌培養で結核菌を検出し原発性腸結核症と診断した.本邦における腸閉塞で発症した腸結核症例を文献的に検討し,結核菌の検出状況と治療法の選択について考察した.

Ⅰ 緒  言

本邦では,結核症の罹患率は年々減少しているが,近年,その減少率は鈍化している.2011年の結核罹患率は10万人あたり17.7人であり,先進国の中で最も高い.肺外結核症の中で,腸結核の新規発症患者は年間約300人といわれ,結核性腹膜炎とともに消化器内科医として忘れてはならない感染症の1つである.とくに小腸に狭窄性病変を伴い,腸閉塞を呈する症例ではクローン病との鑑別が必要であり,その後の治療法決定に際して,結核菌の同定が重要であるが,実際に結核菌の同定が可能な症例は多くはない.

Ⅱ 症  例

症例:53歳,女性.

主訴:腹痛.

既往歴:高血圧症,腹部手術歴なし,非ステロイド系消炎鎮痛剤の使用なし.

家族歴:結核既往者なし.

現病歴:2015年8月に腹痛,嘔吐が出現したため,当院救急外来を受診した.腹部CT検査では上行結腸,遠位回腸の壁肥厚と口側小腸の拡張を認め,腸閉塞の診断で精査加療目的に入院となった.

入院時現症:身長151.0cm,体重55.0kg,体温36.4℃,血圧124/67mmHg,脈拍78回/分,整,眼瞼結膜に貧血なし,表在リンパ節を触知せず.

胸部:異常所見なし.

腹部:軽度膨満,軟,腹部全体に圧痛あり,腸蠕動音減弱.

臨床検査成績(入院当日):CRP 4.69mg/dl,WBC 11,520/μlと炎症反応の上昇と脱水に伴う軽度の腎機能障害を認めた.腫瘍マーカーの上昇は認めなかった(Table 1).

Table 1 

入院時臨床検査成績.

胸腹部造影CT検査(入院当日):上行結腸と回腸末端に腸管浮腫および周囲の脂肪織濃度の上昇を認め,骨盤内回腸にも造影効果を伴う壁肥厚を認め,口側の小腸は拡張していた(Figure 1).

Figure 1 

骨盤内回腸に腸管浮腫および周囲の脂肪織濃度の上昇,造影効果の増強を伴う壁肥厚(矢印),口側小腸の拡張と液体貯留を認めた.

両側の肺野には浸潤影や石灰化など活動性,陳旧性肺結核を疑う所見は認めなかった.

下部消化管内視鏡検査(第11病日):回腸末端部に発赤を伴う浮腫状粘膜と不整形の潰瘍を認め,管腔は狭小化し,口側回腸への通過は困難であった.盲腸と上行結腸には輪状配列傾向のびらんを認めた(Figure 2-a,b).横行結腸にも同様の病変が散在していた.

Figure 2

a:回腸末端部に発赤を伴う浮腫状粘膜と不整形の潰瘍を認め,管腔は狭小化し内視鏡の通過は困難であった.

b:上行結腸に発赤,浮腫状のびらんを認めた.

内視鏡下消化管造影検査(第11病日):下部消化管内視鏡検査施行時に回盲弁から深部に内視鏡を挿入し,同部位にてガストログラフィンによる造影を行ったところ,回腸末端部に比較的短い距離の狭窄像を認めた(Figure 3).

Figure 3 

内視鏡下のガストログラフィンによる造影検査では,回腸末端に比較的短い不整な狭窄を認めた(矢印).

病理組織検査:回腸末端の不整潰瘍,盲腸の輪状配列傾向を伴うびらん,横行結腸の小びらんはいずれの生検組織像においても,粘膜深部から粘膜下層にかけて明瞭な非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を検出した.腸結核,クローン病やサルコイドーシスなどが鑑別にあげられたが,抗酸菌染色(Ziehl-Neelsen染色)では抗酸菌の存在を確認することはできなかった.

結核菌関連検査:第12病日に施行したインターフェロンγ遊離試験(IGRA:Interferon-Gamma Release Assay)は陽性,ツベルクリン反応も硬結,二重発赤あり,発赤径40mm×25mmと強陽性であり,結核菌の感染が示唆された.しかし,複数回施行した便培養,胃液培養,腸病変の粘膜生検組織の粘膜培養,抗酸菌塗抹染色,結核菌DNA-PCR検査では,いずれも結核菌を証明することはできなかった.

臨床経過:イレウス管による減圧と腸管安静により,回腸末端部の不整潰瘍近傍の浮腫性変化が軽減すれば狭窄症状が改善する可能性を考え,経過観察を行った.第20病日に施行した経肛門的小腸内視鏡検査において,回腸末端の狭窄部は,内視鏡の通過が困難であり腸閉塞の症状は遷延した.第27病日に診断的治療として回盲部切除術を施行した.術中所見では,腹膜に多発する小結節を認め,腸間膜にも同様の結節が散在していた.

摘出標本肉眼所見:回腸末端に小潰瘍と襞集中を伴う瘢痕像を認め,管腔は狭小化していた(Figure 4).

Figure 4 

摘出標本では小潰瘍と襞集中を伴う瘢痕を認め,管腔は狭小化をきたしていた.

切除組織病理学的所見:切除した小腸にはUl-Ⅱまでの小潰瘍とリンパ球を主体とする炎症細胞浸潤を認めた.また腸管壁全層性に類上皮細胞肉芽腫が点在し,腹膜,小腸間膜リンパ節にも類上皮細胞肉芽腫を認めた(Figure 5)が乾酪性壊死は確認できず,新鮮標本の結核菌DNA-PCR法,病理標本の抗酸菌染色でも結核菌を証明することはできなかった.

Figure 5 

Ul-Ⅱの潰瘍とリンパ球を主体とする炎症細胞浸潤を認めた.小腸壁全層性に類上皮細胞肉芽腫を認めたが,乾酪壊死を確認できなかった.

術後臨床経過:新鮮標本での抗酸菌培養を施行しつつ,臨床診断としては活動性腸結核症と診断し,術後8日目よりイソニアチド,リファンピシン,エタンブトール,ピラジナミドの4剤による抗結核療法を開始した.抗酸菌培養を開始し2週間後,切除した小腸組織の抗酸菌培養(MGIT:Mycobacteria Growth Indicator Tube法) 1によりMycobacterium tuberculosisを検出し,原発性活動性腸結核症と最終診断した.抗結核療法の継続により再燃なく経過し,4カ月後の内視鏡検査において,小腸切除後の吻合部に異常を認めず,大腸のびらんもすべて瘢痕化した.

Ⅲ 考  察

腸結核はMycobacterium tuberculosisの感染による肺外結核症の一つである.経口的に侵入した同菌が直接的に腸に病巣を形成し発症するものを原発性腸結核とよび,他臓器の結核病巣から二次的に腸に病巣を形成するものを続発性腸結核という.腸結核の発症機序であるが,腸管に移行した結核菌がまずPeyer板や孤立リンパ小節を介して粘膜下のリンパ組織に侵入し,結核結節を形成する.その後,結核結節中心部が乾酪壊死に陥り,壊死物質が粘膜に排出され潰瘍が形成される.潰瘍は互いに癒合しリンパ行性に腸管の短軸方向に進展するため,典型的な腸結核病変は肉眼的に輪状の狭窄や潰瘍,びらんを形成する 2.好発部位は,リンパ組織の発達した回盲部であり,回腸72%,回盲部66%,上行結腸31%,空腸24%,下行結腸23%,横行結腸20%,直腸12%に結核病変がみられたと報告されている 3.腸結核の臨床症状は,腹痛,発熱,下痢,下血などがあげられるものの,無症状の場合や便潜血検査陽性を契機として診断された報告例もみられる 4

腸結核の診断基準としてPaustianらは粘膜層以外の腸壁,または腸間膜あるいは所属リンパ節組織の動物接種か培養による結核菌の証明,病変部の病理学的検索による結核菌の証明,病変部の組織から乾酪壊死を伴った類上皮細胞肉芽腫の証明,腸間膜リンパ節の検索で結核の証拠と手術所見で典型的肉眼所見の記載がされていることの4項目のうち少なくとも1項目が満たされることが必要であると述べており 3,確定診断における結核菌の証明は必要不可欠である.しかし,実際の臨床においてはその証明が困難なことも多く,糞便における結核菌培養陽性率は22.6%,生検標本の結核菌培養陽性率は6.4%,生検標本における乾酪性類上皮細胞肉芽腫の証明率は12.5%といずれも低率と報告されている 4.特に腸閉塞症状を伴う症例では,症状改善のための外科的治療を優先するあまり,十分な術前診断が不十分なことも多い.医学中央雑誌にて“腸閉塞”ד腸結核”をキーワードにして1995年から2015年の期間に報告された症例を検索した結果,27症例を確認した.Table 2に報告例の一覧を示す 5)~31.患者の平均年齢は55.2歳で,性差はみられなかった.肺結核の現感染や既往のない原発性腸結核と考えられる症例は自験例を含む28例中5例(17.9%)であった.病変部位は回腸及び盲腸,上行結腸がほとんどで,初診から外科的治療までの期間は,記載の明確な症例に関する集計では平均41.5日であった.外科的治療前に腸結核の確定診断がついた症例は3例(10.7%)のみで,その内訳は便抗酸菌培養により結核菌が同定されたのが2例,粘膜生検組織の結核菌培養で同定されたのが1例であった.28例中,狭窄部に対する外科的切除を施行したのは24例,抗結核薬の投与で軽快した症例は4例であった.手術を施行した24例のうち,切除標本の病理学的検索で乾酪壊死を認め確定診断がついたのは13例であった.また,乾酪壊死を認めなかった11例においても,そのうち7例で粘膜培養,抗酸菌染色,結核菌DNA-PCR法で結核菌が同定され,手術を施行し十分量の検体を得ることで高率に確定診断を得られることを確認した.一方で,肺結核に対する治療中に生じた腸閉塞ではあるが,造影検査や内視鏡検査,病理検体,抗酸菌培養などで明確に腸結核症と診断するには疑問が残る症例も28例中6例にみうけられた.自験例においては,繰り返し施行した便検査や生検組織での抗酸菌染色(Ziehl-Neelsen染色),生検粘膜の抗酸菌培養,PCR法ではいずれも陰性であり,術前に原発性活動性腸結核の最終診断をすることは困難であった.外科的切除により十分量の検体を用いた抗酸菌培養によって結核菌の同定が可能となったと推察する.腸閉塞を呈した腸結核症に対する治療法については,外科的に狭窄部切除を先行させ,術後に抗結核薬を投与する方法と,抗結核薬の投与を先行し,病変局所の変化を確認するとともに,狭窄症状の増悪が見られる場合には外科的切除,内視鏡的バルーン拡張術などを追加する方法が考えられる.前者は,周術期における合併症のリスクはあるものの,速やかな症状の緩和と,切除標本を用いて十分な検体に基づく培養検査によって,効率よく結核菌の同定が可能となる.後者は,過度な侵襲をさけ,必要時に局所的治療を選択することができるが,最終的に結核菌の証明は困難なことが多い.狭窄を呈する腸結核症に対する内視鏡的バルーン拡張術の報告例は散見されるが 32,低侵襲である一方,活動性潰瘍病変や腸管癒着を伴う症例では完遂が困難なこともあり適応症例が限定される.腸結核に対して抗結核薬を診断的治療として投与すれば,例外なく活動性潰瘍性病変を瘢痕化させるかというと,そのような確証はない 33.また過去の報告例の中には,抗結核薬を投与中,腸結核病変の治癒が進んだ結果,腸管狭窄をきたし腸閉塞に至った症例も報告されている 6),11),19),22.活動性潰瘍を伴う狭窄病変を有したまま,診断的治療を行うことは不確実な要素を多く抱えた治療であることは否めない.さらに,結核菌の同定なしに公費治療として3剤~4剤の抗結核薬を6カ月ないしは9カ月にわたり継続内服することの是非,抗結核薬服用に伴う副作用出現の可能性,また副作用を危惧するあまり抗結核薬の投与量や期間が不十分となり,薬剤耐性菌が出現する可能性など看過できない問題点が残る.また,本例のごとく腸閉塞症状を伴う腸結核症例において嘔気や嘔吐など狭窄症状が遷延する場合には,イソニアチド,リファンピシン,エタンブトール,ピラジナミド等,経口投与の抗結核薬の服用遵守が可能かどうかが重要であり,困難な場合には結核症再発のリスクが高まると報じられている 30.腸閉塞症状の確実な狭窄解除を目指した外科的切除を先行し,十分な切除検体を抗酸菌培養やDNA-PCR法で検討し,可能な限り結核菌の証明に努め,確実な抗結核薬の服用を勧めることも治療方針の一つとして挙げられる.

Table 2 

腸閉塞を発症した腸結核症の本邦報告例.

Ⅳ 結  論

腸閉塞にて発症した原発性腸結核症の一例を経験した.腸結核症における便,粘膜組織を用いた抗酸菌培養,PCR法での結核菌の同定は困難なことが多い.狭窄症状が遷延する場合には,狭窄部を含む外科的切除を先行し,十分な切除検体を用いて結核菌の同定に努めることが迅速な確定診断,治療開始への近道となる場合がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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