2017 Volume 59 Issue 4 Pages 431-437
症例は63歳,男性.逆流性食道炎の経過観察目的の上部消化管内視鏡で胃体中部後壁に径5mm大の陥凹を伴う発赤調の平坦隆起性病変を認め,生検の結果,低分化型腺癌であった.診断目的にESDを施行する方針となったが術前のCTで右腎中下極に腫瘤を認めた.
胃のESD術後病理診断は腎細胞癌胃転移の疑いで,病変は粘膜層内に限局し切除断端は陰性であった.その後右腎摘出術を施行し,腎細胞癌(淡明細胞癌)と診断した.
腎細胞癌の胃転移は稀とされるが,本症例は同時性に発見され,転移病巣が粘膜層に限局することをESDで確認した非常に稀少な症例と考える.
腎細胞癌の転移臓器は主に,肺,肝,骨,脳といわれており,胃への転移は比較的稀であり,多くは異時性に発見される.また一般に転移性胃腫瘍は粘膜下腫瘍の形態をとり,病変の主座も粘膜下層以下であることが多い.今回われわれは,同時性に発見され,ESDにより粘膜層限局病変と診断された腎細胞癌胃転移の1例を経験したので報告する.
患者:63歳,男性.
主訴:胸焼け.
現病歴:逆流性食道炎のため当科外来に通院中であった.2011年2月に経過観察目的に上部消化管内視鏡を施行したところ,胃体中部後壁に径5mm大の陥凹を伴う発赤調の平坦隆起性病変を認めた(Figure 1-a).生検の結果はGroup5,低分化型腺癌であった.患者の同意のもと,更なる診断目的にESDを施行する方針となり2011年5月に当科入院となった.

上部消化管内視鏡所見.
胃体中部後壁に径5mm大の陥凹を伴う発赤調の平坦隆起性病変を認めた.
a:2011年2月(生検前).インジゴカルミン色素内視鏡.
b:同年4月(生検後).インジゴカルミン色素内視鏡.
c:bと同日.NBI併用拡大観察では発赤周囲に表面構造が保たれた軽度隆起を伴っており背景粘膜との境界は不明瞭であった.
既往歴:特記すべきことなし.
生活歴:喫煙歴,20本/日(20歳~).飲酒歴なし.
入院時現症:意識清明.血圧127/70mmHg.脈拍62/分,整.胸部聴診上異常なし.腹部は平坦,軟,圧痛なし.
臨床検査成績(Table 1):異常所見を認めなかった.

臨床検査成績.
胸腹部CT所見:右腎中下極に造影効果を伴う長径6cm大の腫瘤性病変を認めた.内部は不均一で一部壊死と考えられる低吸収域を伴っていた.
上部消化管内視鏡所見(Figure 1-b,c):胃体中部後壁に径5mm大の陥凹を伴う発赤調の平坦隆起性病変を認めた.発赤周囲に表面構造が保たれた軽度隆起を伴っており背景粘膜との境界は不明瞭であった.ESDを施行し29×29mmの検体で一括切除した.術後合併症はなかった.
病理組織学的所見(Figure 2):内視鏡での発赤部とほぼ一致して,類円形に腫大した核と淡明な胞体を有する異型細胞が管状から索状増殖を示す5×4mmの腫瘍組織を認めた.腫瘍の表層は生検部を除いて腺窩上皮に覆われていた.腫瘍は粘膜固有層内にとどまっており切除断端は陰性であった.免疫形質は,Vimentin(+),CD10(+),CAM5.2(+),AE1/3(-),CEA(-),CK7(-),CK20(-),CDX-2(-),34βE12(-),MUC5AC(-),MUC6(-),AFP(-)を示しており,胃癌としては非典型的で,腎細胞癌(淡明細胞癌)の胃転移が疑われた.

胃ESD検体の病理組織学的所見.
a:HE染色.類円形に腫大した核と淡明な胞体を有する異型細胞が管状から索状増殖を示す腫瘍組織を認めた.
b:HE染色.腫瘍の表層は生検部(黒矢印)を除いて腺窩上皮に覆われていた.腫瘍は粘膜固有層内にとどまっており切除断端は陰性であった.
c:マッピング.
d:Figure 1-bの回転像.bと対比させると(赤線A),腫瘍は内視鏡での発赤部とほぼ一致して認められた.
その後,泌尿器科で右腎摘出術が施行された.右腎に辺縁明瞭な黄色調充実性の6cm大の腫瘤性病変を認め,組織学的にESDで得られたものと同様の形態を有する異型細胞の増殖を認め,淡明細胞型腎細胞癌(G2,Grade2,v1,ly0,eg,fc0,im0,rc-inf1,rp-inf0,s-inf0,pT3a,pN0,pM1,StageⅣ)と診断された.免疫組織学的には,Vimentin(+),CD10(+),CAM5.2(+),AE1/3(-),CK7(-),CK20(-),34βE12(-)であり,胃のESD検体と類似のパターンを示していた.以上より胃の病変を腎細胞癌の転移巣と診断した.以後追加治療は行わず経過観察し,5年間無再発生存中である.
腎細胞癌は診断時または治療経過中に約半数の症例において転移を認めるという報告 1)や,剖検例では90%以上に転移巣が発見されるとの報告 2)があるが,転移先としては肺,肝,骨,脳などが多いとされており,消化管への転移は比較的稀といわれている.特に胃への転移の報告は非常に少なく,医学中央雑誌で「腎癌」と「胃転移」,PubMedで「renal cell carcinoma」と「gastric metastasis」をキーワードに1983年から2016年までで検索し得た範囲で,本邦報告例は自験例を含めて会議録を除くと26例 3)~26)のみであった(Table 2).

腎細胞癌胃転移の本邦報告例(会議録を除く).
腎細胞癌の転移再発の形式は血行性転移が多いといわれているが,一般的に血行性の転移性胃腫瘍の特徴として,転移部位は胃体部大彎側に多く粘膜下腫瘍様の形態をとることが多いとされている 27).腎細胞癌胃転移の本邦報告例26例(Table 2)を検討すると,部位はやはり胃体部大彎側に多かった.しかしながら肉眼形態に関しては,粘膜下腫瘍様の病変は5例のみと決して多くはなく,ポリープ様の隆起性病変や潰瘍性病変,早期胃癌,進行胃癌類似病変など様々な肉眼形態が報告されており,腎細胞癌胃転移の診断は内視鏡の肉眼所見のみでは困難と考える.さらに腎細胞癌胃転移は異型性が目立たないので生検診断は容易ではない.本症例ではESDにより全体像を把握することで腎細胞癌を推定することが可能となった.
また,本症例では転移巣の病変が粘膜層に限局していたが,6例の報告において同様に病変の局在が粘膜層であった(Table 2).転移性胃腫瘍のなかでも転移形式が血行性の遠隔転移例においては,組織学的に癌細胞の増殖は粘膜層あるいは粘膜下層を主座にするものが多いといわれていることから 2),転移の主座が粘膜層の場合でさらに早期に発見できた場合には本症例のように粘膜層に限局した病変を呈しうると考える.
胃転移の診断時期に関しては,腎細胞癌の胃転移は他の悪性腫瘍の胃転移に比べて胃転移診断までの期間が長いという報告 28)がある.今回検討した本邦報告例26例においても腎細胞癌診断から胃転移診断までの期間の中央値は5.5年(0~23年)と長かった.逆に,腎細胞癌診断と胃転移診断が同時の報告は非常に稀であり,本邦報告例では本症例を含めても2例のみであり(Table 2),国外の報告を併せても6例 4),29)~32)のみであった(Table 3).

同時性腎細胞癌胃転移の国内外報告例.
治療法については,一般に腎細胞癌の転移巣切除術は生存期間を延長することが報告されており,特に完全切除が予後良好な因子であることが示されている.腎癌診療ガイドライン 33)においても,performance statusが良好で転移巣がコントロールできる場合には転移巣の切除によって生存率の延長が期待されるとしている.しかし同ガイドラインを詳細に転移巣臓器別にみてみると,胃転移に関する言及はなく,治癒切除可能な肺転移や副腎転移が最も適した切除適応としている.さらに,原発巣摘除から転移出現までの期間について,2年以上の場合には転移巣切除後の生存率が延長した,という記述もある.
本症例は診断目的にESDを施行し,術後に粘膜層限局病変であることを確認した.腎癌診療ガイドラインに照らし合わせると,原発巣摘除からの期間は経過していないし,胃転移の治療方針はいまだ不明な点が多いという問題点があることになるが,その後追加治療はせずに5年間無再発で経過した.確実に切除断端が陰性になる術式を慎重に選択することはいうまでもないが,腎細胞癌胃転移の治療はESDも選択肢になる可能性がある.腎細胞癌胃転移の報告が少なく不明な点が多いこと,また最近の内視鏡診断能の向上が著しいことから,従来のガイドラインや予後予測因子に関わらず,内視鏡切除可能な腎細胞癌胃転移症例の治療は内視鏡治療も選択肢となると思われる.今後,治療法確立のため内視鏡切除後は長期間にわたり慎重な経過観察が必要であり,症例の蓄積が望まれる.
同時性に発見され,ESD後に粘膜層内限局病変であることを確認した稀少な腎細胞癌胃転移の症例を経験した.
なお,本稿の要旨は第84回日本消化器内視鏡学会総会にて発表した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし