GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ACUTE COLITIS MIMICKING ULCERATIVE COLITIS DURING NIVOLUMAB INFUSION THERAPY FOR ADVANCED MELANOMA
Masaki TAKAYAMA Yushiro OHARAKan-yun HATADaisuke KINOSHITAHideyuki OKUDAToshihiko KAWASAKIShigeto MIZUNOTomoko WAKASAYoshio OTAMasatoshi KUDO
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2017 Volume 59 Issue 4 Pages 450-455

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要旨

症例は89歳,男性.2015年3月より悪性黒色腫に対しニボルマブ投与が開始され,今回8回目の投与目的で入院となった.投与後より腹痛・下痢・下血を認め,当科に紹介された.下部消化管内視鏡検査にて潰瘍性大腸炎類似の所見を認めたため,ニボルマブによる免疫有害事象と判断し,ステロイド治療を開始した.その後臨床症状,内視鏡所見は著明に改善した.ニボルマブによる免疫有害事象による腸炎は,注目すべき病態と考える.

Ⅰ 緒  言

近年新しい免疫療法薬の開発が盛んに行われ成果を上げている.なかでも抗PD-1抗体ニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬の登場による治療効果と予後の改善はめざましいものがある.一方免疫有害事象として下痢,腸炎,肝機能障害,皮膚障害,内分泌異常,間質性肺炎,重症筋無力症,糖尿病などが知られているが,まだ本邦での報告例は少ない.今回悪性黒色腫に対しニボルマブ投与中に潰瘍性大腸炎類似の大腸炎を認めた1例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

症例:89歳,男性.

主訴:腹痛・下痢・下血.

既往歴:糖尿病,潰瘍性大腸炎の既往はない.

現病歴:2011年3月右第3趾に黒色色素斑を認め,皮膚生検にて悪性黒色腫と診断し,右第3趾切断術を施行した.StageⅡbでありインターフェロンによる維持療法を施行した.2015年3月に鼠径部にリンパ節転移を認めたため,同年5月よりニボルマブ投薬が開始された.4回目投薬後のPET検査での治療効果判定はSDであった.その後もニボルマブを継続し今回8回目の投与目的で10月6日に入院となったが,投与後より腹痛・下痢・下血を認めたため,当科に紹介された.

入院時現症:身長158.5cm,体重52.8kg,体温37.0℃,血圧102/50mmHg,脈拍68回/分.

排便回数:4~5回/日.便の性状:血液混じりの下痢.眼瞼結膜に軽度貧血を認め,眼球結膜に黄染なし.表在リンパ節を触知せず.

腹部:平坦で下腹部に自発痛を認めるが,筋性防御や反跳痛はなし.

臨床検査成績(Table 1):CRPの軽度上昇,貧血,低アルブミン血症を認めた.便培養では腸管内常在菌叢のみで,腸管病原菌やClostridium difficileは認めなかった.

Table 1 

臨床検査成績.

臨床経過:ニボルマブ8回目投与後7日目(ニボルマブ投与開始後144日目)より腹痛・下痢・下血を認め,1週間経過を見ていたが改善しないため10月14日に下部消化管内視鏡検査を施行した.全大腸に浮腫状粘膜,血管透見不良,膿性粘液の付着を認め,潰瘍性大腸炎類似の所見を認めた(Figure 1-a~c).1日に4回以上の下痢・下血を認めていたことから,同日よりプレドニン60mg/日の経静脈投与を開始した.その後判明した病理結果でも著明な炎症細胞浸潤,陰窩膿瘍を多数認め潰瘍性大腸炎に矛盾しない所見であった(Figure 2)ことから潰瘍性大腸炎を併発したものと判断し10月20日よりメサラジン2,400mg/日を開始した.プレドニン投与開始後1週間で臨床症状は著明に改善し,粘膜評価目的で10月21日に下部消化管内視鏡検査を施行した.下行結腸から直腸にかけて一部炎症性変化を認めたが,粘膜面の著明な改善を認めた(Figure 3-a~c).その後臨床症状の増悪を認めなかったため,プレドニンを漸減した.11月6日の採血にてAST 273IU/l ALT 532IU/lと肝機能障害を認め,メサラジンによる肝機能障害が疑われたため,同日よりメサラジンを中止した.その後肝機能は速やかに改善した.プレドニン漸減中に臨床症状の増悪は認めなかったことから,プレドニン20mg/日内服に漸減し11月20日一旦退院となった(Figure 4).その後外来にてプレドニン10mg/日内服に漸減し,下痢症状などは認めていなかったため,ニボルマブ投与再開を検討していたが,12月2日より発熱,呼吸状態の増悪を認めた.CTにて間質性肺炎が疑われたため加療目的で再入院となった.じん肺症や過敏性肺炎,膠原病は否定的であり,薬剤についてはニボルマブ以外に新たな薬剤は使用していないことから,ニボルマブによる間質性肺炎が疑われた.入院後ステロイドパルス療法などが行われたが,徐々に呼吸状態は悪化し12月17日に呼吸不全のため永眠となった.

Figure 1 

下部消化管内視鏡検査(入院時).全大腸に浮腫状粘膜,血管透見不良,膿性粘液の付着を認めた.

a:盲腸.

b:横行結腸.

c:S状結腸.

Figure 2 

生検病理組織像.間質には形質細胞を主体とした炎症細胞浸潤が著しく,陰窩膿瘍を多数認めた.

Figure 3 

下部消化管内視鏡検査(プレドニン投与1週間後).下行結腸から直腸にかけて一部炎症性変化を認めるが,粘膜面の著明な改善を認めた.

a:盲腸.

b:横行結腸.

c:S状結腸.

Figure 4 

経過図.

Ⅲ 考  察

ニボルマブとはヒトPD-1に対するヒトIgG4モノクローナル抗体であり,PD-1とそのリガンドであるPD-L1およびPD-L2との結合を阻害し,癌抗原特異的なT細胞の増殖と活性化および細胞傷害活性の増強等により,腫瘍増殖を抑制する薬剤である.

現在日本では悪性黒色腫,非小細胞肺がんに対して保険承認されている.Pub Medにて「nivolumab」「melanoma」のキーワードで検索したところ,これまで悪性黒色腫に対する海外での大規模な臨床試験の結果が2つ報告されている.まず107例のニボルマブ投与症例において,全gradeの有害事象で最も多いのが倦怠感(32%),次いで皮疹(23%),下痢(18%)であり,大腸炎は2%であった 1.また悪性黒色腫を対象とした第Ⅲ相臨床試験でニボルマブ治療を受けた206例においては,全gradeの有害事象で最も多いのが倦怠感(20%),次いで掻痒(17%),下痢(16%),皮疹(15%)であった 2.いずれの大規模試験においても下痢・大腸炎症例における内視鏡像の詳細な検討はなされていなかった.本邦においては2014年7月に悪性黒色腫に対して保険承認されたばかりであることからまだ症例数が少なく,Table 2に示すようにオプジーボ®市販直後調査の結果報告にて自験例のような大腸炎・下痢を来した症例は5例であった 3.年齢は40歳代~80歳代であり4例は男性,1例は女性であった.また自験例では投与開始144日目に有害事象を認めたが,報告例での発現時期は90日前後であり,1例を除いては自験例と同様に薬剤中止,ステロイド等投与にて軽快している.内視鏡像については本例のような潰瘍性大腸炎類似所見を呈した症例は2例であった.その他の症例については詳細な検討はなされていなかった.今回のような潰瘍性大腸炎類似の腸炎を来す機序として,PD-1は活性化リンパ球に発現するレセプターで,生体防御と自己免疫疾患の両方に必須なTリンパ球の過剰な活性化を抑制することが知られており 4)~7,PD-1欠損マウスではTリンパ球から過剰なサイトカインが産生され,自己免疫発症をおこすと報告されている 8.またマウスやヒトのPD-1不全は全身性エリテマトーデス,Ⅰ型糖尿病,リウマチ,多発性硬化症といった難治性自己免疫疾患の遺伝的危険因子であるとも報告されている 9)~12

Table 2 

悪性黒色腫に対しニボルマブ国内市販後発現例 3

このように抗PD-1抗体により免疫反応が誘導・増強され,大腸炎・下痢を来すと考えられる.ニボルマブの胃腸関連有害事象の対処法としては,オプジーボ®適正使用ガイド 3にも示されているように,過剰な免疫反応を抑えるためにステロイド治療が中心となる.しかし自験例の場合,内視鏡所見・病理結果より潰瘍性大腸炎が併発したものと判断し,ステロイド治療を開始後,メサラジンを追加投与したことから薬剤性の肝機能障害を生じた.本例はニボルマブ8回目投与後早期に下痢症状を認め,入院前の内視鏡検査では潰瘍性大腸炎の所見を認めていなかったが,今回の内視鏡検査にて潰瘍性大腸炎類似の所見を認めたことから,感染性腸炎は否定的であり,ニボルマブ投与による有害事象であったと思われる.このことからメサラジンは不要であったと思われる.ニボルマブは腎細胞癌,頭頸部癌,大腸癌,膵臓癌,肝細胞癌,食道癌,胃癌,ホジキンリンパ腫等でも有効性が期待されており,非常に多岐に渡る癌種で抗PD-1抗体による免疫療法を導入できる可能性がある.そのため今後はさらに自験例のような有害事象をおこす症例は増加すると思われ,過度の免疫反応に起因する副作用には十分な注意と適正な治療が必要であると思われる.今までニボルマブ起因性大腸炎の報告例はあるが,内視鏡像を詳細に検討した症例はほとんど認めていない.ニボルマブ起因性大腸炎と潰瘍性大腸炎はどちらも免疫能の賦活化によるものとされているので,内視鏡像も組織像も類似したものとなると予測され,今回の症例はその仮説が正しいことを示唆している.今後症例を重ねることでこの仮説が正しいことが証明されることが期待される.またニボルマブ投与による大腸炎の場合にはステロイド治療が中心となるため,下痢症状を認めた場合には必ずしも本例のような潰瘍性大腸炎類似の所見を得られない場合も考えられるが,感染性腸炎などを除外する目的にて積極的に大腸内視鏡検査を行う必要があると思われる.

Ⅳ 結  語

ニボルマブのような免疫チェックポイント機構に作用する薬剤を使用した場合には,自験例のような免疫有害事象を常に念頭に置きながら,注意深く経過を見ていくことが重要であると思われる.

本論文の要旨は「日本消化器内視鏡学会近畿支部第96回支部例会Fresh Endoscopist Session」で発表し,学会会長賞として選ばれた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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