GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ENDOSCOPIC DIAGNOSIS OF GASTRIC INTESTINAL METAPLASIA USING LINKED COLOR IMAGING
Shoko ONO Mototsugu KATO
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2017 Volume 59 Issue 4 Pages 465-474

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要旨

新規画像強調観察法であるLinked Color Imaging(LCI)では,粘膜の赤色調の濃淡を強調することで,赤いものはより赤く,褪色病変はより白っぽく観察される.白色光観察では,灰白色扁平隆起として観察される特異型の腸上皮化生が典型的な腸上皮化生の所見であるが,白色光では検出できない腸上皮化生や斑状発赤を呈する腸上皮化生もLCIでは特徴的なラベンダー色として観察され,より簡便に客観的に胃癌リスクを評価しうる.

Ⅰ 緒  言

腸上皮化生とは胃固有腺と腺窩上皮が腸の形質をもつ上皮に変化する現象である.腸上皮化生は組織障害の再生過程や慢性刺激によっても誘発されるが,主な発生経路としてはHelicobacter pyloriH. pylori)感染を背景とした慢性胃炎,萎縮粘膜の進行過程でみられ,分化型胃癌のハイリスク状態と考えられている 1),2).萎縮や腸上皮化生の診断は組織診断がゴールドスタンダードであり,組織学的な萎縮,腸上皮化生の拡がりや程度と胃癌のリスクは相関することが示されている 3),4.一方で,萎縮や腸上皮化生の内視鏡診断は客観性に乏しく,特に内視鏡で認識できる腸上皮化生は限定的である.近年,内視鏡でH. pylori感染と胃炎を診断し,更に胃癌リスクを評価する胃炎の京都分類が提唱された 5.組織診断と比し,内視鏡では広く面として萎縮や腸上皮化生を診断できるため,より実際的なリスク評価が可能となる.近年,画像強調観察Image-enhanced endoscopy(IEE)が腸上皮化生の内視鏡診断を大きく変化させつつある.本稿ではIEEのなかでもとくに新規のレーザー内視鏡を用いた診断法について,われわれの臨床経験をもとに解説する.

Ⅱ 白色光観察による腸上皮化生の診断

白色光観察White light imaging(WLI)で視認できる腸上皮化生は,前庭部に好発する灰白色の半隆起で,いわゆる特異型の腸上皮化生である 6Figure 1).この所見はカイロミクロンの輸送異常を反映したものだが,本所見は特異度が高い一方,感度は体部小彎で6%,前庭部大彎で13%と非常に低いことが多施設共同研究で示されている 7.多くの非特異型の腸上皮化生は通常WLIでは認識できないか,他の発赤病変などと鑑別できないと考えられてきた.

Figure 1 

特異型腸上皮化生(WLI).

灰白色の扁平隆起が前庭部に多発している.白色光で容易に腸上皮化生の存在診断は可能であるが,感度が低い.

Fukutaらは高解像度内視鏡で観察した絨毛様所見や粘膜粗造などの所見を腸上皮化生であると内視鏡診断すると,WLIでも腸上皮化生の診断能が良好であることを報告した 8.また,H. pylori除菌後にはさまざまな大きさ,形態の発赤陥凹が明瞭化する(Figure 2).このような地図状発赤や前庭部の斑状発赤には組織学的な腸上皮化生が混在していることも明らかになっている 9.このようにWLIでの腸上皮化生診断にも新たな知見がもたらされてきている.

Figure 2 

地図状発赤(WLI).

除菌後に明瞭化する発赤陥凹.地図状や斑状など多彩な発赤陥凹を呈する.

Ⅲ IEEによる腸上皮化生の診断

腸上皮化生の診断には,古くから色素法であるメチレンブルーが使用されてきた 10.メチレンブルーを胃内に散布すると,腸上皮化生部は青く染色されるため,広い胃内でも客観的に腸上皮化生の存在と拡がりを認識できる.感度,特異度が高く信頼性が高い診断法である一方で,手技の煩雑さとメチレンブルーによるDNA障害の可能性により,現在まで普及していない 11

狭帯域光画像Narrow band imaging(NBI)では青白色の上皮の表層を縁取る青白い細い線と定義されるLight blue crest(LBC)が腸上皮化生の診断に有用な所見である 12.UedoらはLBCによる腸上皮化生の診断能は感度89%,特異度93%と極めて良好であることを報告し,腸上皮化生の内視鏡診断は飛躍的に前進した.LBCは拡大内視鏡観察による所見であるが,非拡大NBI観察でも腸上皮化生は青白色調の斑状領域として認識され,化生部と非化生部には色調差を生じる.LBCに加え,脂肪が沈着した白色不透明物質(White opaque substance:WOS)や腺窩辺縁上皮の白色化(Marginal turbid band:MTB)が青白色斑を形成すると考えられる 13),14.最近のメタ解析では,非拡大NBIでの腸上皮化生診断能は感度69%,特異度91%で,拡大観察を併用することで感度を84%まで上昇させうる15

Ⅳ Linked Color Imagingとは

LASEREO®(FUJIFILM Co., Tokyo, Japan)はレーザー光を光源とした内視鏡システムで,白色光用のレーザーと狭帯域光用の2種類のレーザーを照射している(Figure 3).狭帯域光観察はBlue Laser Imaging(BLI)モードとそれよりやや明るい画像が得られるBLI brightモードでの観察が可能である.Linked Color Imaging(LCI)はBLI brightモードと同じ波長の照射で得られた画像を色変換処理している(Figure 4).これらの観察モードの切り替えは手元のボタンで瞬時に可能である.LCIでは白色光用のレーザーによる明るさと赤色領域以外の色味が保たれていることが利点である.非拡大観察が基本で,拡大観察の技術を要しないことは簡便で一般臨床医にも受け入れやすい.また,経鼻内視鏡でも十分にLCIの利点は生かされ,検診領域でも受容される.粘膜病変の発見はわずかな発赤や褪色所見が診断契機となるため,粘膜色調のとくに赤色の濃淡を強調して観察できるLCIはルーチン検査での病変の拾い上げに有用である 16),17.当院での使用機器と設定詳細を示す(Table 1).モニター上には,右上にズームバー,シャッタースピード,測光モード,観察モード(BLI,LCI)が表示され,画面下部インフォメーションバーには構造強調(Aモード/Bモード),色調(C1,C2,C3)が表示される(Figure 5).

Figure 3 

LASEREOレーザー光源の波長特性.

Figure 4 

LCIの処理と効果.

Table 1 

当院で使用しているLASEREO内視鏡システムと推奨設定.

Figure 5 

LASEREOモニター上のパラメータ表示.

LASEREO®システムは光源がレーザー光であるため,特徴的な明るさを有する一方で,近接で正面視した場合にハレーションが起きやすい.ハレーションが強い場合には,少し距離をとるかスコープ先端の角度を変える.また,胃粘膜表面に付着した粘液や胃内の泡はWLI同様に観察の妨げとなるため,きれいに洗浄するよう心掛ける.

Ⅴ LCIによるH. pylori胃炎診断

内視鏡的に胃炎を診断する目的で作成された胃炎の京都分類では,日常遭遇する19の内視鏡所見が定義され,H. pylori感染状態(未感染,現感染,既感染)との関連性が示された 5H. pylori未感染の胃粘膜は,光沢があり,腫大のない直線的な襞が観察され,RAC(regular arrangement of collecting venules)は幽門輪近くまで規則的に観察される 18.一方,H. pylori感染粘膜では,種々の程度のびまん性発赤を呈し,点状発赤や粘液,襞壁腫大が特徴的である.内視鏡でH. pylori感染を診断するうえで,診断能が最も高いのはびまん性発赤であるが,その有無をWLIのみで診断することは必ずしも容易ではない 19.LCIでは前述のようにわずかな赤の色調の違いがより強調されるため,びまん性発赤の診断に有用である.未感染や除菌後でびまん性発赤がない場合は黄白色から杏子色(white apricot),現感染粘膜は発赤が強く,唐紅色(crimson)という特徴的な赤色を呈することが多い 20Figure 6).Dohiらの検討では,LCIによるH. pylori感染の診断精度は感度93.3%,特異度78.3%であり,WLIの感度81.7%,特異度66.7%に比べ優位に診断能は高かった.現在,H. pylori感染診断および除菌治療を行う上では内視鏡でH. pylori感染診断を行う必要があり,びまん性発赤を容易にかつ客観的に診断できるLCIは臨床で有用なツールとなりうる.

Figure 6 

H. pylori感染状態別体部画像.

上段:WLI, 下段:LCI.

a, d:H. pylori未感染粘膜.

b, e:H. pylori現感染粘膜.

c, f:H. pylori除菌後粘膜.

Ⅵ LCIでの腸上皮化生の見え方

われわれは,LCIをルーチン検査で使用するなかで,腸上皮化生が特徴的なラベンダー色に観察されることに着目し,報告した 21.実際の症例を提示する.

症例1 H. pylori 除菌後17年目,前庭部小彎(Figure 7

Figure 7 

腸上皮化生症例1(除菌後17年,前庭部小彎).

a:WLI:不均一な発赤粘膜がモザイク状に広がる.

b:LCI:WLIでの発赤部はラベンダー色を呈し,背景粘膜と明瞭に区別される.

c:ラベンダー色からの生検組織:杯細胞をもった腸上皮化生粘膜(HE染色).

d:ラベンダー周囲の生検組織: 腸上皮化生を認めない(HE染色).

WLIでは橙色と淡い赤色の粘膜がモザイク状に観察されるが,WLIからは腸上皮化生と診断できない.手元のボタンでLCIに切り替えると,赤色部分はラベンダー色となり,周囲粘膜と明瞭に色分けされる.ラベンダー色の部位の生検組織像は杯細胞をもった腸上皮化生粘膜であり,非ラベンダーの部位には腸上皮化生は認めなかった.

症例2 H. pylori 除菌後7年目,前庭部小彎(Figure 8

Figure 8 

腸上皮化生症例2(除菌後7年,前庭部小彎).

a:WLI:淡い半透明の隆起が不明瞭に観察される.

b:LCI:上記はラベンダー色として明瞭になる.

c:ラベンダー色からの生検組織:杯細胞をもった腸上皮化生粘膜(HE染色).

d:ラベンダー周囲の生検組織:腸上皮化生のない幽門腺粘膜(HE染色).

LASEREO®のWLIではわずかな狭帯域光が同時に照射されているため,WLIでも半透明の扁平隆起として腸上皮化生が不明瞭に観察されることがある.LCIでは同部位はラベンダー色としてより明瞭に描出される.ラベンダー色からの生検は不完全型の腸上皮化生であった.

LCIで腸上皮化生がラベンダー色に観察されるのは,NBIやBLIで青白色斑として観察されるのと同様の現象と考えている.ラベンダーを呈する胃粘膜をLCIで拡大観察すると,腺窩辺縁上皮は淡紫色に観察される.十二指腸の絨毛辺縁上皮も同色を呈することから,腸上皮に対する光学的な特性を反映した所見と考えるが,詳細な機序は現在まで不明である(Figure 9).

Figure 9 

腸上皮化生粘膜と十二指腸絨毛のLCI拡大観察.

a:化生部と非化生部の境界非拡大像.

b:境界部の拡大観察.ラベンダーに観察される部位では,腺窩辺縁上皮がラベンダー色に観察される.

c:十二指腸絨毛の強拡大像.絨毛辺縁上皮は同色に観察される.

また,腸管蠕動抑制薬であるミンクリア®を前庭部に散布すると白色に変化することをしばしば経験する.これは,製剤に添加物として含まれる脂肪酸が腸上皮化生粘膜(吸収上皮)に吸収されるためと考えられる.このような症例ではミンクリア®散布後にLCIで観察すると,さらにラベンダー色がより強調され明瞭に観察される(Figure 10).

Figure 10 

ミンクリア®散布による腸上皮化生の明瞭化.

a:ミンクリア®散布前.

b:ミンクリア®散布後.散布前のラベンダー色がより強調され明瞭となる.

Ⅶ 腸上皮化生のWLIとLCIでの色差

内視鏡で観察した粘膜の色調を客観的に評価することは難しい.L*a*b*表色系はXYZ表色系に基礎をおく表色系で,CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した,知覚的にほぼ均等な歩度をもつ色空間(均等色空間)の一つで,色差(色と色との差)を表すのに最も多く用いられている手法である 22.色空間内の2点間の距離が大きいほど,人の目には色が違って見える.この評価法を用いて,腸上皮化生と背景の非化生粘膜の色差を白色光とLCIで実際の画像で比較した(Figure 11).ラベンダー色(腸上皮化生)と非ラベンダー色(非腸上皮化生)の各5点について,矩形領域のRGB値の平均値を取得し,変換式からL*a*b*値へ変換した.WLIでは化生部と非化生部の色が近く,区別しにくいのに対し,LCIでは色差が大きくなり,別な色として認識できる.このことはWLIと比較しLCIではラベンダー色を呈する腸上皮化生部位が背景と比較し視認しやすくなることを表している.

Figure 11 

腸上皮化生部と背景粘膜のL*a*b*表色系による色度測定.

a:LCI画像上でラベンダー色(腸上皮化生)とその周囲(非化生)各5点ずつをプロットし色度を算出(●:腸上皮化生,▲:非化生).

b:WLIでLCI画像と一致する部位を同様に5点ずつプロットし色度算出(○:腸上皮化生,△:非化生).

c:座標軸に算出した色度をそれぞれプロットしたもの.LCIの腸上皮化生部(●)はb*値が低く,背景(▲)との距離がWLIの両者(○と△)に比較して大きいためLCIでは色の違いが明瞭に描出されていることがわかる.

d:LCIでの腸上皮化生部(●)は点線で囲まれたカラースペース上に位置する(ラベンダー色).

Ⅷ 内視鏡での胃癌リスク評価

胃炎の京都分類で提唱された胃癌リスクの内視鏡所見スコアは,胃癌リスクが高いと報告されている萎縮,腸上皮化生,皺襞腫大,鳥肌,びまん性発赤の5項目についてスコア化したものである 5.これらの所見の中でも,萎縮,腸上皮化生,びまん性発赤は客観的な内視鏡評価が難しい.腸上皮化生については,LBCやWOSなどのIEEで特異的な所見が明らかになっているため,IEEでの評価を括弧内に記載できるが合計スコアには反映されない.LCIでは腸上皮化生はラベンダー色,びまん性発赤は唐紅色を呈し,萎縮粘膜はより白色調の粘膜となるため,WLIに比較してリスク所見評価は遥かに容易で客観的となり,初学者にも理解しやすい.胃全体を面として評価できる内視鏡での胃癌リスク評価は,生検よりも胃癌リスクを正確に反映する可能性があり,今後の検討が待たれる.

Ⅸ おわりに

LCIでの腸上皮化生の内視鏡診断について解説した.WLIで胃炎や腸上皮化生の存在を正確に診断することは,初学者のみならず,習熟者にとっても必ずしも容易ではない.LCIは簡便に客観的にこれらを評価することで,内視鏡による胃癌リスク評価を実現可能にする.今後,LCIの有用性に関する多くの臨床研究結果が待たれる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:加藤元嗣(武田薬品工業,エーザイ(株),大塚製薬,第一三共(株),アストラゼネカ(株),アボットジャパン,アステラス製薬)

文 献
 
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