GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE REPORT OF ULCERATIVE COLITIS WITH AN INTERESTING ONSET AND COURSE
Kazuyuki NAKAZAWA Takao MAEKITAMaki BUNNONaoki SHINGAKIUki OOTAKaori HIROKAWA
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2017 Volume 59 Issue 8 Pages 1626-1631

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要旨

症例は64歳,女性.甲状腺癌と診断.PET検査で甲状腺癌と下行結腸に異常集積を認め,大腸内視鏡検査を施行.下行結腸に25mm大の有茎性腺腫を認め,粘膜切除術を施行.以後,腹部違和感が持続.4カ月後,血便を主訴に来院され,大腸内視鏡検査を施行.直腸に全周性の粘膜粗造とびらん,血管透見像の消失を認めた.生検病理組織検査では,炎症細胞浸潤とcryptitisを認め,直腸型潰瘍性大腸炎と診断した.本症例は,潰瘍性大腸炎の発症過程が観察された貴重な症例であり,報告する.

Ⅰ 緒  言

炎症性腸疾患は増加傾向にあり,今のところ原因不明とされているが,遺伝的素因,環境因子などにより発症すると考えられている 1.癌の罹患は,重要な環境因子(ストレス)と思われる.今回われわれは,甲状腺癌を罹患し,ほどなくして潰瘍性大腸炎を発症した高齢者潰瘍性大腸炎患者を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患 者:64歳,女性.

主 訴:腹部違和感.

家族歴:特記事項なし.

既往歴:64歳,甲状腺乳頭腺癌摘出術.

現病歴:2008年10月28日,甲状腺乳頭癌と診断・摘出術を施行された.術前のPET検査で,下行結腸に異常集積を認め,11月12日,当院消化器内科を紹介された.

現 症:身長162cm,体重46kg.意識清明.体温36.3℃.脈拍84/分,整.血圧140/80mmHg.眼瞼結膜に貧血なし.眼球結膜に黄染なし.表在リンパ節は触知せず,前頸部に手術瘢痕を認めた.胸部に異常所見は認めず,腹部平坦,軟で,肝,脾,腎は触知せず,下腿に浮腫は認めず.

初診時血液検査成績:白血球5,100/mm3,CRP 0mg/dl,貧血なく,栄養状態なども基準範囲内であった.

2008年10月,PET検査で,甲状腺癌に異常集積(SUVmax 16.76)と下行結腸に類円形の異常集積(SUVmax 8.93)を認めた(Figure 1).

Figure 1 

PET検査で,甲状腺癌に異常集積(SUVmax 16.76)と下行結腸に類円形の異常集積(SUVmax 8.93)を認めた.

2008年11月,大腸内視鏡検査を施行,盲腸部虫垂開口部に異常は認めず,大腸メラノーシスの所見のみであった(Figure 2-a).盲腸部に20mm大の腺腫,上行結腸に10mm大の腺腫,下行結腸に15mm大の腺腫と有茎性25mm大の腺腫(Figure 2-b)を認め,それぞれ粘膜切除術を施行した.直腸には大腸メラノーシスを認めた(Figure 2-c).PET検査での集積を認めた病変は,下行結腸の有茎性25mm大の腺腫と判断した.以後,腹部の違和感が持続するため,過敏性腸症候群と診断し,ポリカルボフィルカルシウムの処方で経過観察とした.

Figure 2

a:第1回目の大腸内視鏡検査では,盲腸部は大腸メラノーシスの所見のみで虫垂開口部に炎症所見はなかった.

b:下行結腸に有茎性25mm大腺腫を認めた.PET検査での集積を認めた病変と思われる.

c:直腸には大腸メラノーシスを認めた.

患者本人が便に血が付くのを自覚し,経過観察のため,2009年3月,大腸内視鏡検査を施行した.直腸に全周性の粘膜粗造とびらん,血管透見像の消失を認め(Figure 3-a),生検病理組織検査では,炎症細胞浸潤とcryptitisを認めた(Figure 3-b).非特異的直腸炎の診断で,保存的に経過観察とした.2009年6月,甲状腺癌の経過観察目的で,再度PET検査を施行され,直腸に異常集積(SUVmax 6.91)を認め(Figure 4),再度,当院消化器内科を紹介された.

Figure 3

a:第2回目(1回目から113日目)の大腸内視鏡検査では,直腸に全周性の粘膜粗造とびらん,血管透見像の消失を認めた.

b:生検病理組織検査では,炎症細胞浸潤とcryptitisを認めた(HE染色×100).

Figure 4 

PET検査では,直腸に異常集積(SUVmax 6.91)を認めた.

2009年7月,大腸内視鏡検査を施行,直腸に易出血性の粘膜粗造とびらん,血管透見像の消失を認め(Figure 5,Matts分類 2,Stage3),前回の内視鏡所見,病理検査結果と経過から,直腸型潰瘍性大腸炎と診断し,メサラジンの服用を開始した.腹部違和感は改善した.経過で再燃寛解を繰り返したが,5年後の大腸内視鏡検査(Figure 6-a,b)では,大腸メラノーシスは消失,潰瘍性大腸炎は寛解維持している.

Figure 5 

第3回目(1回目から232日目)大腸内視鏡検査を施行,直腸に易出血性の粘膜粗造とびらん,血管透見像の消失を認めた(Matts分類Stage3).

Figure 6

a:第1回目の検査から約5年後の大腸内視鏡検査では,盲腸部は,大腸メラノーシスの所見は消失,虫垂開口部に炎症所見はなかった.

b:直腸では,大腸メラノーシスの所見は消失,潰瘍性大腸炎は寛解維持している.

Ⅲ 考  察

潰瘍性大腸炎の高齢発症の定義としては,2011年,三浦ら 3は,高齢発症を60歳とし,高齢者潰瘍性大腸炎患者を65歳以上としている.本症例では,64歳で発症していた.Kaplan 4は発症要因として,若年者は遺伝子要因が,高齢者は環境因子が影響を及ぼしていると推測している.喫煙は重要な環境因子であり 5,ニコチンは,マクロファージのニコチンアセチルコリン受容体α7サブユニットに作用して炎症を抑制したり,サイトカインの産生を抑制するなどして潰瘍性大腸炎の発症リスクを軽減することが報告されている 6),7.動物性脂肪の摂取は潰瘍性大腸炎発症を増加させる環境因子の1つであり 8,また,ストレスも重要な環境因子の1つである 9.癌罹患も強烈なストレス環境因子と思われる.潰瘍性大腸炎と大腸癌が合併することは広く知られている 10.ほかの癌種として,悪性リンパ腫 11が報告され,潰瘍性大腸炎自体に関係する免疫異常や免疫抑制剤使用などの関連を推測しているが,詳細は明らかでない.堅田ら 12は乳癌の化学療法後に潰瘍性大腸炎を発症した症例を報告し,トラスツズマブが免疫異常を惹起させた可能性を推測している.胆管癌は,原発性硬化性胆管炎を併発した潰瘍性大腸炎に合併することは知られているが 13,坂牧ら 14は,腸管上皮細胞と胆管上皮細胞を標的に共通の自己免疫反応が起っている可能性を報告している.瀬上ら 15は喘息発作治療中に発症した潰瘍性大腸炎の1例を経験しており,誘因としては,ステロイドの斬減の可能性もあるとしている.本症例は甲状腺癌罹患とPET検査の結果のストレスが誘因の可能性を考えた.大藤 1は,発生リスク因子としてある程度の報告数が蓄積し,ほぼ一貫した結論が得られてるものは,家族歴,虫垂切除歴,喫煙習慣であるとしている.

本症例の診断について,服薬歴としてセンナ系の緩下剤のみで,非ステロイド系消炎鎮痛薬,抗生物質,抗がん剤の服薬などなく,薬剤性腸炎は否定的であった.便培養検査では有意菌の検出はなく,感染性腸炎も否定的であった.村野ら 16は77例の潰瘍性大腸炎の初期病変を報告しており,その中で潰瘍性大腸炎と当初診断されなかったのは,77例中20例(26%)であったが,厳重な経過観察で最終潰瘍性大腸炎と診断したとしている.またその病型としては,従来の直腸連続性病変,非連続性病変,虫垂開口部病変の併存した症例があり,頻度的に多いのは,直腸連続性病変と虫垂開口部病変の併存病変が42.9%で,直腸連続性病変のみの症例は,27.3%であり,本症例は,虫垂開口部病変はなく直腸病変のみであった.小林ら 17は,8例の潰瘍性大腸炎の初期病変を報告しており,生検病理検査の結果として,炎症細胞浸潤は全例認めるが,cryptitisは3例(38%)で,crypt abscessは認めなかったと報告している.本症例でも,炎症細胞浸潤とcryptitisのみで,crypt abscessは認めなかったが,潰瘍性大腸炎と診断できず,過敏性腸症候群と非特異性直腸炎の診断で,ポリカルボフィルカルシウムの処方を継続処方したことは反省するところであるが,経過観察で潰瘍性大腸炎と診断できた.

PET検査は消化器病変のスクリーニングは困難な場合が多い.消化管にはPETで生理的集積を認めることが多いためである 16.Sekiguchiら 19は20mmを超える高度異型腺腫は陽性率が高かったとしている.また,PET検査は,FDG(Fluorodeoxyglucose)の集積が潰瘍性大腸炎の診断には有用ではないが,炎症の程度や範囲を反映することから,低侵襲での活動性や罹患範囲の同定が可能であることが報告されている 20),21.本症例では,一番大きな有茎性25mm大の腺腫はFDGの集積を認めたが,20mm以下の腺腫への集積は認めなかった.また,潰瘍性大腸炎の活動期の直腸にはFDGの集積を認めた.

本症例の治療としては,臨床的重症度は,顕血便はあったものの軽症であったので,当時はメサラジンの座薬はなく,服薬アドヒアランスを考慮して,注腸ではなくて,メサラジンの服用を開始した.また,大腸メラノーシスは,センナ系の緩下剤から,酸化マグネシウム,大建中湯に変更後,約2年半後には消失していた.今回,われわれは,約8カ月の間で大腸内視鏡検査を3回施行し,発症過程を観察し得たが,潰瘍性大腸炎は近年患者が増加してきており,同様な発症過程を観察した症例の蓄積がリスク因子の解明には重要であると考えられる.

Ⅳ 結  語

発症過程を観察し得た潰瘍性大腸炎患者の1例を経験した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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