2018 Volume 60 Issue 1 Pages 34-41
症例は38歳男性.4年前から排便回数増加と血便を自覚していた.今回上腹部痛が出現し,改善しないため当院紹介入院となった.上下部内視鏡検査にて全大腸炎型の潰瘍性大腸炎(UC)と胃・十二指腸にUC類似の病変を認めた.同時に,画像診断にて膵腫大,膵管および胆管の狭窄像を認め,膵のEUS-FNAにてgranulocytic epithelial lesions(GEL)像を認め,2型自己免疫性膵炎(AIP)と診断した.プレドニゾロンと5-ASA製剤投与にてUCおよびAIPは寛解した.全大腸炎型UCに,UC類似の上部消化管病変および2型AIPを併発した症例の治療経過を報告する.
炎症性腸疾患に2型自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis;以下AIP)が合併することは知られており,欧米では比較的多く報告されているが,わが国での報告は少ない 1),2).また,潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis;以下UC)は特異的に大腸に限局する疾患とされているが,近年上部消化管病変の合併の報告もみられる 3)~6).
今回,上部消化管病変を伴うUCと2型AIPを合併した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
症例:38歳男性.
主訴:上腹部痛.
既往歴:特記すべきことなし.
生活歴:機会飲酒 喫煙 5本/日×15年.
現病歴:4年前より排便回数の増加および血便を認めていた.近医では過敏性腸症候群や痔核との診断にて対症療法がなされていた.当院入院2週間前より上腹部痛が出現,近医にてボノプラザン20mg/日,トロキシピド300mg/日の処方をうけるも改善みられないため,当院紹介受診となった.来院時,上腹部圧痛と膵酵素上昇があり,腹部CTにて膵のびまん性腫大を認め,急性膵炎疑いにて同日入院精査加療となった.
入院時現症:身長174cm,体重74kg,体温36.6℃,脈拍70回/分・整,血圧119/70mmHg,呼吸数15回/分,眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜黄疸なし,腹部は平坦で上腹部圧痛を認めるも筋性防御なし,腸雑音正常.
排便回数:4-5行/日,水様便~軟便,血便なし.
臨床検査成績(Table 1):各種膵酵素の上昇,可溶性IL2受容体の軽度上昇を認めた.血清IgG,IgG4は正常範囲であった.各種腫瘍マーカーは陰性であった.
臨床検査成績.
便培養:有意な病原菌の検出なし.
経過:入院時の単純および造影CT(Figure 1-a,b)では,膵全体のびまん性腫大を認め,膵実質相で造影され,後期相でwashoutする造影パターンを呈し,AIPに特異的なcapusle-like rimや遷延性濃染の所見は認めなかった.またMRIではT1強調画像では低信号を呈し,T2強調画像ではやや高信号を呈していた.拡散強調画像で膵全体に拡散能の低下を認め,dynamicMRIではCT同様の造影パターンを呈していた.
CTでは膵体部は2/3椎体,膵尾部では2/3椎体以上のびまん性腫大を呈していた.AIP特異的な遷延性濃染やcapusule like rimは認めていなかった.
a,b:造影CT膵実質相.
急性膵炎に準じて絶食,輸液,プロトンポンプ阻害薬,メシル酸ナファモスタットにて治療を開始した.
入院第3病日に下腹部痛とともに暗赤色の水溶性下痢が認められ,第4病日に下部消化管内視鏡検査(Colonoscopy;以下CS)を施行した(Figure 2).終末回腸には異常所見ないものの,全大腸にわたる連続性びまん性の発赤,びらんを認め(Mayo endoscopic score2点),病理組織的検査でびまん性の炎症細胞浸潤,陰窩膿瘍,杯細胞減少を認め,活動期の全大腸炎型UCを診断した.
下部消化管内視鏡検査.
全結腸にびまん性の発赤,びらんを認め,血管透見像の消失を認め,潰瘍性大腸炎の所見を呈していた.
引き続き上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy;以下EGD)および小腸カプセル内視鏡検査を施行した.EGD(Figure 3-a,b)では胃噴門部,体上部小彎側,前庭部および十二指腸球部~下行脚にUC類似の小びらんが散在する所見がみられ,病変を認めた胃体部および十二指腸下行脚より生検を行ったが,病理組織学的に胃体部ではごく軽度の炎症細胞浸潤と線維芽細胞を認めるが,basal plasmacytosisは認めなかった.十二指腸下行脚では,リンパ管の拡張を伴い,少数の形質細胞浸潤を伴う炎症細胞浸潤を認め,粘膜筋板と陰窩の乖離を認めた(Figure 4).入院前にボノプラザンが投与されており,入院後もオメプラゾールが投与されていたことより,抗潰瘍薬に抵抗性の病変であり,内視鏡的所見がUCに類似することより,UCの上部消化管病変と診断した.小腸カプセル内視鏡では空腸・回腸には異常所見を認めなかった.
上部消化管内視鏡検査.
a:前庭部.
b:十二指腸球部.
上部消化管内視鏡検査では前庭部と体上部,穹窿部,十二指腸を中心に小白苔・びらんを認めた.
十二指腸病理所見.
十二指腸下行脚では,リンパ管の拡張を伴い,少数の形質細胞浸潤を伴う炎症細胞浸潤を認め,粘膜筋板と陰窩の乖離を認めた.
UCが背景にあることが確認され,膵のびまん性腫大を伴うことより,通常の急性膵炎ではなく,2型AIPの合併を疑い,第6病日より膵臓の精査をすすめた.
AIPに特徴的な所見の有無を精査するため,ERCPを施行した.ERCP(Figure 5)時のファーター乳頭は発赤腫大していたが,同部の生検組織染色標本ではIgG4陽性形質細胞はごく少数であった.
ERCP.
膵管の頭体部移行部での狭窄を認めていた.尾側主膵管の拡張は軽度であった.
ERCPでは下部胆管の限局的狭窄および主膵管の頭体移行部に限局性狭窄を認め,尾側主膵管の拡張は軽度であった.なお,主膵管造影時に狭窄を超えて造影するため,膵頭部では圧がかかり,腺房造影となった.膵管および胆管のブラシ細胞診と吸引細胞診では明らかな異型細胞は確認されなかった.
膵体部より,Boston Scientific社製ExpectTM19Gを使用しEUS-FNAを施行した.病理学的所見(Figure 6)ではIgG4陽性形質細胞の浸潤は目立たなく,腺房細胞間,導管周囲に高度の好中球浸潤が認められ,一部好中球が導管を破壊するgranulocytic epithelial lesion(GEL)像を認めた.画像所見より腫瘍性病変を認めず,腫瘍マーカーおよび細胞診も陰性であり,外傷の既往もなく,背景にUCがあることより,2型AIPの病理所見として矛盾しないと考えられた.Gaシンチでは膵全体にびまん性集積を認める以外に異常集積は認めなかった.
EUS-FNA 病理組織学的所見.
膵体部より19Gを用いてEUS-FNA施行.
好中球が導管を破壊するgranulocytic epithelial lesions(GEL)を認める.
以上より2型AIPを合併した上部消化管病変を伴う全大腸炎型UCの診断とした.
治療経過は,第15病日に上腹部痛を示すAIPに対して2013年の本邦のAIPガイドライン 7)に準じて50mg/日(0.6mg/kg)のPSLの点滴静注を開始した.
また,UCはDisease Activity index score(DAIscore)で8点,臨床的重症度は中等症であり,PSLに加え,5-ASA(アサコール®)3,600mg/day内服をPSLと同時に開始した.
上部消化管病変に関しては,5ASAの粉砕投与を行うことで,今後UCの寛解維持のために十分な5ASAが大腸へ投与できなくなることを考え,PSLでの寛解導入を試み,寛解導入後,経過観察する方針とした.
治療開始4日目から上腹部痛の消失および血便の消失,排便回数の改善を認め,治療開始2週後のCTでは膵腫大の改善がみられた.そのため,PSL点滴静注を10mg/週ずつ漸減し,30mg/日になった時点で経口投与に切り替え,PSL開始8週間後に中止した.5-ASAは3,600mg/dayにて維持投与としている.
6カ月後のCSにてUCの粘膜治癒を確認し,EGDで上部消化管病変は改善,消失していた.
以後,外来にて5ASA3,600mgの投与を継続していたが,UC診断後12カ月後に排便回数の増加,血便が再出現し,CSにてUC再燃を認め,PSL30mg内服加療を追加し再度寛解導入まで至ることができた.寛解導入後はPSLを20mg,15mg,10mg,5mgの順に1週おきに漸減し中止している.この期間,上腹部痛の出現や膵酵素の上昇はなく経過している.また,UC再燃時のCTでも膵腫大の再発はなく,AIPは現在まで再燃なく経過している.また,上部消化管病変については上腹部症状が乏しいことと,PSLを投与することで大腸病変とともに改善する可能性が高いことを考え,今回は施行しなかった.
UCは回腸嚢炎などを除き,大腸に限局する疾患とされていたが,近年,併発病変として,上部消化管で4.7% 3)~8.2% 4),小腸で36.6%に認められ,いずれもUC病型の活動期全大腸炎型や大腸全摘術後例に多い 5)と報告されている.
上部消化管病変の内視鏡所見は大腸に類似し,びまん性,連続性の易出血性びらんや細顆粒状粘膜,多発アフタ,膿性粘液などの所見が認められている.
上部消化管病変の病理学的特徴はUC類似のびまん性炎症細胞浸潤,陰窩底部のbasal plasmacytosis,陰窩底部と粘膜筋板との乖離,陰窩密度の減少などがあるが,本症例のように比較的内視鏡所見が軽微であった症例などの組織学的所見のまとまった報告はなく,病理所見に関しては今後の更なる症例の集積が必要と考えられる.
上部消化管病変の治療はプロトンポンプ阻害薬などの抗潰瘍薬は無効で,ステロイドやメサラジンなどのUCに準じた治療が有効であるとされ,メサラジンでは通常十二指腸以降で作用するため粉砕投与が行われている 6).
本症例では2型AIPとUCの診断後,PSLと5-ASA(アサコール®)を開始した.上部消化管病変に関しては,5ASAの粉砕投与を行うことで,今後UCの寛解維持のために十分な5ASAが大腸へ投与できなくなることを考え,PSLでの寛解導入を試み,寛解導入後,経過観察する方針とした.PSL漸減中止後,アサコール®のみの維持療法下で下部消化管病変とともに,上部消化管病変およびAIPの改善,寛解を確認できた.
UC患者に出現する膵炎は多くが,2型AIPの希少さのため,精査されず,5ASAやアザチオプリンなどの薬剤性膵炎と判断されている可能性がある.そのため,IBDのキードラッグである,5ASAやアザチオプリンなどの使用が控えられ,有用な薬剤が薬剤性膵炎と判断されたために使われなくなっている可能性がある.
つまり,UC患者に合併する膵炎についてAIPの存在を疑う重要性は高いと考えられる.
自己免疫性膵炎は国際コンセンサス診断基準(International consensus diagnostic criteria:ICDC) 8)にて1型(type1)と2型(type2)に分類されている.
1型は1995年にYoshidaら 9)により提唱され,高IgG4血症との関連が報告され 10),わが国を中心に確立された疾患である.IgG4関連疾患の膵病変が示唆されており,高齢男性に多く,高γグロブリン血症,高IgG血症,高IgG4血症,抗核抗体やリウマチ因子などの自己抗体が陽性になることが多い.
一方,2型はNotoharaら 11)によりidiopathic duct-centric chronic pancreatitis(以下,IDCP)の概念が,またZamboniら 12)によりAIPwithGELの概念が提唱され,欧米で確立された疾患である.比較的若年者に多く,性差はなく,炎症性腸疾患,特に潰瘍性大腸炎に合併することが多く,本邦では稀とされる.
1型,2型ともステロイド治療が有効で,膵画像所見は類似するなど,共通点が多い.しかし,ステロイド治療後の再燃率は1型で35.8%であり,2型の15.3%より高率で 1),本邦の2013年AIPガイドラインにおいて,1型ではPSL 5mg/day以上の維持療法が推奨される一方,2型では再燃率が低いため,ステロイドを中止できるケースが多い.すなわち,ステロイド維持療法の適応を決める上で1型か2型の鑑別が必要となる.
両者の鑑別には病理学的所見が重要であり,1型では著明なリンパ球やIgG4陽性形質細胞の浸潤,花筵状線維化,閉塞性静脈炎を特徴とするlymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(以下,LPSP)を呈し,2型では好中球浸潤による膵管上皮破壊像(GEL)を特徴とするIDCPを呈する.
また,病理標本を得るためにはEUS-FNAが有用とされる.その診断能については,22G針での生検標本ではICDCにおける病理基準で判断することは難しい 13)との報告もあり,コア生検 14)や19G針 15)での生検が推奨されている.本症例でもBoston Scientific社製のExpectTM19Gを使用することで,導管を破壊するGEL所見を確認し,IgG4陽性形質細胞はほとんどみられず,2型AIPの診断に至る有効な手段となり,PSLを漸減中止後に,維持投与を必要とせず,再燃なく経過している.
UCに合併するAIPでは大腸上皮細胞と膵細胞に細胞骨格形成蛋白が共通抗原として発現している可能性が指摘され 16),AIPの病状がUC自体の活動性と同様に推移し,UCの寛解に伴いステロイド維持療法を中止できる理由の一つに挙げられている.
1964年から2015年の間でPubMedを用いて「autoimmune pancreatitis」「ulcerative colitis」「gastritis」「duodenitis」で検索し,1979年から2015年の間で医学中央雑誌を用いて「上部消化管病変」「潰瘍性大腸炎」「自己免疫性膵炎」で検索(会議録を含む)した中では,UCの上部消化管病変と2型AIPの合併したUCの報告はなく希少な症例である.ただし,AIPではなく,「膵炎」「潰瘍性大腸炎」と医学中央雑誌(1977年から2015年)で検索(会議録を含む)すると上部消化管病変を合併したUCと膵炎の報告が5報(うち3報は会議録のみ)(Table 2) 17)~21)ある.なお,「pancreatitis」「ulcerative colitis」でPubMedでの検索では報告はみられない.医学中央雑誌の5報の中で1例はCTにて膵腫大を認め,自己免疫性膵炎が疑われている.しかし,いずれも病理学的な所見はなく,病理学的に2型AIPを診断しているケースは本症例のみであった.本症例はUCとその合併する病態を検討する上で貴重な症例と考えられた.
UCの上部消化管病変と膵炎の合併例.
2型AIPを合併した上部消化管病変を伴うUCを経験した.UCの多彩な合併症を考える上で貴重な症例と考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし