GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
A CASE OF MULTIPLE METASTATIC RECURRENCE AFTER ENDOSCOPIC RESECTION IN A PATIENT WITH EARLY ESOPHAGEAL SQUAMOUS CELL CARCINOMA INVADING THE LAMINA PROPRIA MUCOSAE
Yoshiro ASAHINA Tomoyuki HAYASHIHirohumi OKAFUJITakeshi TERASHIMAHajime TAKATORIKazuya KITAMURATatsuya YAMASHITAEishiro MIZUKOSHIShuichi KANEKOHiroko IKEDA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 61 Issue 3 Pages 259-265

Details
要旨

症例は50歳代,男性.スクリーニング目的で施行された上部消化管内視鏡検査(EGD)で,胸部上部食道に20mm大0-Ⅱc型早期食道癌を指摘されESD施行.病理組織学的にはSCC(squamous cell carcinoma)で,壁深達度pT1a-LPM(lamina propria mucosae),脈管侵襲および垂直断端は陰性であったが,水平断端は判定困難とされ,厳重に経過観察の方針となった.しかし,その後通院自己中断され,ESDを施行した3年8カ月後に頸部リンパ節腫脹を主訴に再受診し,臨床経過から食道癌のESD後再発と診断した.本症例は壁深達度LPMの食道癌に対する内視鏡切除後に多発転移再発を認めた比較的稀な1例のため報告する.

Ⅰ 緒  言

食道癌の壁深達度EP(epithelium),LPM(lamina propria mucosae)病変は,リンパ節転移が極めて稀であるため内視鏡治療の絶対適応病変と考えられ,EMRおよびESDでの治療が第一選択として広く施行されている 1.しかし,深達度LPM症例で内視鏡治療により治癒切除がえられた後,リンパ節転移や遠隔転移をきたした症例はこれまで少数例ながらも報告されているため,治療後にも細心の注意が必要である.今回,われわれは深達度LPMの食道癌に対するESD施行後,多発転移再発をきたした症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:50歳代,男性.

主訴:嗄声,嚥下障害.

既往歴,家族歴:特記事項なし.

生活歴:喫煙は10本/日×30年間,飲酒は4合/日×30年間.

現病歴:40歳頃よりアルコール依存症で近医精神科にて入退院を繰り返していた.

2011年9月にスクリーニング目的で施行された上部消化管内視鏡検査(EGD)で,胸部上部食道に20mm大0-Ⅱc型早期食道癌を指摘され(Figure 1).精査加療目的に当院紹介受診となった.CTやFDG-PET/CT(Positron emission tomography with 2-deoxy-2-[fluorine-18]fluoro-D-glucose integrated with computed tomography)が施行され遠隔転移等を認めなかったため,2011年12月にESDを施行した.病理診断ではSCC(squamous cell carcinoma)で,深達度pT1a-LPM,脈管侵襲および垂直断端は陰性であったが,切除水平断端のごく近傍まで癌が進展しており,一部粘膜焼灼や挫滅の影響もあり,病理組織学的に水平断端は判定困難とされた(Figure 23).根治度Bとして厳重に経過観察の方針としたが,その後,通院自己中断されたため,2012年3月以降は精査が行われていなかった.

Figure 1 

上部消化管内視鏡画像.

a:白色光.

b:NBI像.

c:NBI弱拡大像.

上部胸部食道に20mm大0-Ⅱc型早期食道癌を認め,NBIではbrownish areaを呈し,血管形態の変化を認める.

Figure 2 

ESD病理組織学的所見(ミクロ).

組織学的にはSCCで,深達度pT1a-LPM,脈管侵襲および垂直断端は陰性であった.

Figure 3 

ESD病理組織学的所見(マクロ).

Type0-Ⅱc,20×13mm,squamous cell carcinoma,pT1a-LPM,ly(-),v(-),pHMX,pVM0.

赤線は癌の範囲を表す.水平断端では黄色矢印で示す部分において,癌が断端のごく近傍まで進展しており,癌と断端部間の非腫瘍性上皮の存在を確認することができず,病理組織学的に水平断端判定不能となった.

2014年11月頃より嗄声および嚥下障害を認めたため,近医耳鼻科を受診したが異常を指摘されず.その後も症状が改善しないため,2015年5月に当院紹介受診しCTで上縦隔,右鎖骨上窩,右臀部などに多発腫瘍を指摘された.

現症:身長166cm,体重56㎏.右頸部および右鎖骨上窩に指頭大~鶏卵大の弾性硬の腫瘤を触知する.

臨床検査成績:SCCは2.2ng/mlと軽度高値であった.

上部消化管内視鏡:切歯から20cmにESD後潰瘍瘢痕が認められるが,局所再発や異所性再発病変は認められなかった(Figure 4).

Figure 4 

上部消化管内視鏡画像.

a:白色光.

b:NBI.

ESD後潰瘍瘢痕を認めるが局所再発や異所性再発病変は認めず.

造影CT:上縦隔,食道右側に40mm大のリング状濃染を示す不整形腫瘤あり.食道および気管は左側に圧排されており,右反回神経を巻き込んでいる(Figure 5).右鎖骨上窩に10mm大,右側殿筋内にも20mm大の同様の造影効果を示す腫瘤を認める(Figure 6).

Figure 5 

造影CT①.

上縦隔,食道右側に40mm大のリング状濃染を示す不整形腫瘤あり.食道および気管は左側に圧排されており,右反回神経を巻き込んでいる(矢印).

Figure 6 

造影CT②.

右側殿筋内に20mm大のリング状の造影効果を示す腫瘤を認める(矢印).

FDG-PET/CT:縦隔および右鎖骨上窩リンパ節,右殿筋にFDGの集積亢進を認める.

超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA):切歯より20cmに食道を圧排するように40mm大の内部不均一な低エコー腫瘤を認める.EUS-FNAによる病理組織診断はSCCであった(Figure 7).

Figure 7 

上縦隔リンパ節EUS-FNAによる病理組織検体.

SCCを検出した.

右臀部針生検:経皮的針生検でpoorly differentiated squamous cell carcinomaを検出し,免疫染色でもp40(+),CK5/6(+),CK7(-),CK20(-)であり,横紋筋転移と考えられた.

診断と治療方針:食道や頭頸部,肺などに明らかな腫瘤性病変を認めなかったため,臨床経過より食道癌のESD後再発(Stage Ⅳb)と診断し,2015年5月より放射線化学療法を開始した.

治療後経過:右反回神経麻痺の進行を抑える目的で,上縦隔・右鎖骨上窩腫瘍に対して放射線照射2Gy×30回を行い,同時に化学療法CDDP 70mg/body day1+5-FU 700mg/body day1-4投与を計2サイクル施行したところ,目立った有害事象は認めず,治療後のCTでStable Disease(SD)と判断したため,続いて化学療法単独でCDDP 80mg/body+5-FU 800mg/body day1-5投与を1サイクル行った.しかし,その後のCTで腫瘍の増大を認めたためProgressive Disease(PD)と判断し,患者自身がそれ以上の積極的治療を希望しなかったため,Best Supportive Careとなり,2015年11月に死亡した.

Ⅲ 考  察

「食道癌診療ガイドライン 2017年版」には,リンパ節転移を認めない壁深達度EPおよびLPMの食道癌に対しては,内視鏡的切除が強いエビデンスをもって勧められている 1.しかし,深達度が同じ粘膜層(T1a)でもMM(muscularis mucosae)病変では10%程度のリンパ節転移のリスクがあるため,内視鏡治療の相対適応とされ,手術や放射線化学療法など他の治療法の選択についても考慮しなければならない.

実際に食道ESD後の再発は,切除後の壁深達度がpT1a-MM以深であった症例の他臓器およびリンパ節転移の報告や,pT1a-EPおよびLPM病変でも切除断端陽性による局所再発の報告例は散見されるが,本例のようなpT1a-LPM病変からの多発転移による再発の報告は稀である.食道癌のリンパ節転移は,ごく小さな病変から長い年月を経て増大し再発する症例が存在するため,本例に対しても後方視的にESD施行前のCTやPET-CTについてリンパ節腫脹の有無をつぶさに確認したが認めなかった.

Yamashinaらによると,深達度pT1a-EP/LPMの食道表在癌に対する内視鏡治療後の異時性遠隔転移の頻度は0.36%で,平均観察期間50カ月の全280例の内,pT1a-LPMの1例のみで再発を認め,ESDにより治癒切除がえられた12カ月後にリンパ節転移をきたしたと報告している 2.また,Zhouらの報告では,内視鏡的切除を行いLPMであった37例中1例(2.7%)でリンパ節転移を認めたとしている 3

本例については,壁深達度pT1a-LPMで,EVG染色およびD2-40染色でも脈管侵襲像は明らかでなく,最浸潤部の深切り像でも粘膜筋板以深への浸潤を認めず,垂直断端も陰性であった.ただし,切除水平断端の一部がESDによる粘膜焼灼や挫滅の影響で不明瞭となってしまったため,定義上は治癒切除症例には区分されない.しかし,そもそも管腔が大きくない食道におけるESDは,術後狭窄を予防するために,剥離面の周在がなるべく大きくならないように側方マージンぎりぎりを狙う切除の工夫を行うことも多く 4,Horizontal margin不明(HMX)のまま厳重に経過観察が行われることもしばしばあるものと考えられる.側方断端不明瞭の本例も局所再発の出現については十分に注意し内視鏡による経過観察は必須と考えていたが,結果的に多発転移で再発し,その後死に至った症例であった.

医学中央雑誌およびPUBMEDで「食道表在癌(superficial esophageal squamous cell carcinoma)」「リンパ節転移(lymph node metastasis)」をキーワードに検索したところ,内視鏡治療により治癒切除がえられたにも関わらず,その後リンパ節転移がみられた症例は3例のみであった 5)~7.深達度EPでの報告は認めなかったが,根治度Bの自験例もあわせていずれの4症例も深達度はpT1a-LPMであった.

また,再発までの期間は既出例はいずれも2年以内であったが,本症例は3年以上のさらに長い治療経過後に再発をきたした極めて稀な症例であった.

Ⅳ 結  語

内視鏡治療を行い治癒切除がえられたとしても,稀ながら遠隔転移による再発が起こりうることを認識し,その後も長期にわたって内視鏡だけでなくCTも含めた注意深い経過観察が必要であると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2019 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
feedback
Top